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デジタル化で地域通貨に再び注目が集まっています

お金の地産地消!?「デジタル地域通貨」は地域経済活性化の有効打になるか

2000年代前半にブームとなった「地域通貨」に再び注目が集まっています。背景にあるのは紙幣からデジタルへの変化。飛騨高山で使われている「さるぼぼコイン」など、デジタルのよさを生かした活用方法で存在感を示す地域通貨が登場しているようです。

観光地として名高い飛騨高山エリアでは、独自の電子地域通貨「さるぼぼコイン」が流通しています

最初の地域通貨は「世界大恐慌」対策だった!?

そもそも地域通貨とは何でしょうか? 簡単に言うと「地域の活性化を目的とし、限定したエリア内で流通したり、決済手段として利用されたりする通貨」を指します。その起源は諸説あるようですが、下記の「ヴェルグルの奇跡」のように、地域経済のピンチを救った逸話も残っています。

▼ヴェルグルの奇跡
ヴェルグルとはオーストリアの小さな町のこと。1932年、世界大恐慌にみまわれていた町は、失業者が多く大変な状況に。そこで当時の町長がある策を提案。町内のみで通用する証書を印刷し、町民に“紙幣”として配布することに。ただしこの証書は月が変わるたびに額面の1%相当の価値を失う仕組みだった。これにより町中の人が証書を使い、町内の経済が回り出し、結果、ヴェルグルの経済が復活したそう。

では、日本の地域通貨の現状はどうなっているのか? 地域通貨の研究を重ね、論文も執筆している神戸大学大学院准教授の保田隆明さんにお話をうかがいました。
※本取材は2020年4月3日にweb会議で実施したものです。

ダミー

保田隆明(ほうだたかあき)さん。神戸大学大学院経営学研究科 准教授、スタンフォード大学客員研究員。1974年生まれ。コーポレートファイナンス、ベンチャービジネス、ふるさと納税やクラウドファンディングを専門分野とする。複数社の社外取締役も務める。

地域通貨は、地域経済活性化の一手段

――本日は地域通貨が注目されている背景についてお聞きます。地域通貨というと、最近は飛騨高山の「さるぼぼコイン」の名前がよくあがります。どのような地域通貨ですか?(ライター佐野、以下同)

(保田さん、以下同)さるぼぼコインは地域通貨の成功例と言えると思います。じつは、日本の地域通貨の歴史は「多産多死」なんです。これまで全国に大小含めて800以上もの地域通貨が生まれたと言われており、その多くは実質的に消滅しています。安定的に利用者を増やしているさるぼぼコインは稀有な例と言えます(編集部注:2020年時点で利用者は約1万1,000人)。

さるぼぼコインが成功している要因はいくつか考えられます。そのひとつが、チャージするごとに付く1%のプレミアムポイントです。今でこそポイント還元などで「お得さ」を打ち出す電子マネーはさほど珍しくありませんが、さるぼぼコインがスタートした2017年当時は画期的な仕組みで、「使ってみよう」という動機になったわけです。また、当時は今以上にキャッシュレス決済が珍しい存在だったと思いますが、実際にさるぼぼコインで買い物してみると「キャッシュレスは意外に簡単で便利」という好意的な受け取られ方をしたことも、普及にひと役買ったようです。

▼さるぼぼコイン
岐阜県高山市、飛騨市、白川村で使える電子地域通貨。発行主体は「ひだしん」(飛騨信用組合)。「さるぼぼ」とは飛騨弁で“猿の赤ちゃん”という意味。1コイン=1円相当で加盟店で利用が可能。ひだしんなどの窓口や、専用チャージ機、セブン銀行ATMでチャージでき、チャージの際には1%分のプレミアムポイント(コインと同価)が付与される仕組み。2017年12月からサービスがスタートし、加盟店数は約1,200店。なお、さるぼぼコインは最後に使った日から1年後に価値がなくなる仕組み。

――地域通貨は、1999年に政府から配られた「地域振興券」などがきっかけで2000年代前半に各地に誕生したそうですね。

地域振興券の考え方の延長線上に地域通貨がたくさん発行されたのは事実でしょう。その背景に、東京への一極集中があったと考えられます。行政や経済が首都へこれほど集中している国は海外にはあまり見られません。加えて、日本ほど切実な人口減少問題に直面している国もありません。地域の経済を維持するのは喫緊の課題と言えます。地域経済の5〜6割は個人消費が占めていると言いますが、活力を維持するために「地域から外に流出するお金を減らす」「地域外から入ってくるお金を増やす」ことが重要です。その手段として地域通貨が注目されたわけです。

▼地域振興券
1999(平成11)年、子育て支援や高齢者の経済的負担軽減を通じて消費をうながす目的で発行された商品券。全国の市町村で発行され、15歳以下の児童のいる世帯主と、65歳以上の高齢者の一部に配布された。

――さきほど、地域通貨は「多産多死」とおっしゃいましたが、なぜでしょうか?

そもそも通貨というのは、使える場所が増え、使う人が増えるなど、より多くの通貨が流通することで利便性が高まります。「日本円」なら日本国内のどこでも使え、皆さんもその価値を信用して取り引きをしますよね。

地域通貨はそもそも「その地域で使ってほしい通貨」です。それが特徴であるものの、「流通性」や「流動性」の面でどうしても弱さがあります。スタート当初は物珍しさも手伝って使われるかもしれませんが、新鮮味が薄れるにつれて使う人が減り、通貨の価値が下がる傾向にありました。

――たしかに、地域振興のためという目的は理解していても、使える場所が少ないのは不便ですものね……。利用者がだんだんと減ってしまうのはなんとなく想像ができます。

もうひとつの理由は発行母体の「体力」の問題です。地域通貨には第3セクターなどさまざま発行母体が存在します。地域通貨を流通させるにはコストがかかります。紙幣がメインだった時代にはその印刷などのコストがかかりますし、その後、加盟店を増やすための交渉なども必要です。さるぼぼコインの場合は「ひだしん」(飛騨信用組合)が発行母体で、地域貢献を目的としてコストを負担していますが、発行母体によってはコストを賄いきれなくなるケースも。そうなれば通貨自体をストップせざるをえません。先日、QRコード決済サービスの「Origami Pay」が今年6月でのサービス終了を発表しましたが、あれと同じで「〇月〇日をもって、〇〇通貨は利用できなくなります」と告知される流れになります。

地域経済活性化を目的として発行された地域振興券。地域通貨もその一脈と言えそうです(画像はイメージです)

活路としての「デジタル化」と新たな課題

――最近はデジタル化された「電子地域通貨」がメインです。これは地域通貨にもよい影響を与えているのでしょうか?

電子地域通貨なら、初期コストを下げることができますし、流通性の面でもメリットがあります。たとえば、実際に現地に行かなくても、インターネット経由で遠く離れた人が電子地域通貨を入手することも可能になります(編集部注:実際、前出のさるぼぼコインは2020年3月30日より、セブン銀行ATMでのチャージに対応を開始)。「地域外から入ってくるお金を増やす」という目的を果たしやすくなったと言えます。これらの要因で、今、地域通貨の機運が盛り上がっていると言える状況です。また、「時間が経つと価値が減る」ことで消費をうながすなど、デジタルならではの仕組みも可能になります。

――今後に向けて期待ができそうですね。

ただし、新たな課題も出てきています。さるぼぼコインが登場したのは、まだキャッシュレス決済の黎明期でしたので、QRコードで決済ができること自体が画期的で、その利便性を前面に押し出すことができました。しかし今はどうでしょうか? QRコードを使ったキャッシュレス決済が珍しくないですよね。「PayPay」や「LINE Pay」など大手のキャッシュレス決済サービスが地方でも普及し始めています。加盟店数の多さやお得なキャンペーンなどの魅力もあります。今後の地域通貨は「デジタル化」や「キャッシュレスの利便性」だけをウリにするのは難しいでしょう。また、事業者の側に立ってみると、使われる通貨は地域通貨でなくてもいいわけです。その通貨の導入コストや手間、決済の手数料なども含めての競争も発生します。

――今後、地域通貨が普及する鍵は何でしょうか?

単に「お得さ」を打ち出すなら、プレミアムやポイント還元を付ければいいわけですが、この方向では発行母体が潤沢な資本のある会社に勝てません。それ以外の「その地域通貨だけの価値」を生み出す必要があります。

――さるぼぼコインの例だと「さるぼぼコインでしか注文できない裏メニュー」などもあるようですね。

その地域通貨の所有者でしか買えない商品やサービス、体験などはアドバンテージになると思いますし、その地域ごとに魅力的な商品やコンテンツを開発できる可能性があると思います。たとえば、地域通貨を貯めた人だけに「無人島で1組限定でキャンプできます」などといったレアな体験の提供には人気が出そうです。沖縄や北海道のような都心部から離れたエリアならその価値も高まるはずですし、北海道コイン、沖縄コインを発行して、プレミアムな商品、体験をコンテンツとして提供できそうです。

デジタル化は地域通貨にもメリット。いっぽうで、ほかのキャッシュレス決済との競争という新たな課題も

入手方法で特徴を出す地域通貨も

――さるぼぼコイン以外で注目すべき地域通貨はありますか?

ボランティアの方への報酬として付与される地域通貨などがあります。その一例が、香川県高松市の地域通貨である「めぐりんマイル」です。この地域通貨は、チャージして換金するのではなく、購買活動や社会貢献などで貯まっていくシステムです。

▼めぐりんマイル
香川県高松市で使われている電子地域通貨。誕生したのは2009年1月。単位は「マイル」で、1マイル=1円相当で買い物などに使用が可能。現金をマイルにチャージするのではなく、基本的には加盟店での100円の買い物に対して1マイルが付与される仕組み。このほか、健康増進活動やボランティアなどによってもマイルが貯まる。イオングループのWAONカードのインフラを利用。

――「使い方」ではなく「入手方法」で特徴を出しているんですね。

このほか、千葉県木更津市の地域通貨である「アクアコイン」も、ボランティアでポイント(らづポイント)が付与され、お店で使える仕組みを取り入れています。ボランティアの方にお金そのものを渡すのは、生々しさもあって抵抗のある人もいるでしょう。しかし、ポイント付与という形であればその抵抗感も薄れると思います。ボランティアをする側にとっても、受ける側にとってもメリットのある仕組みと言えます。また、人々を地域の活動にまきこむいいツールにもなると思います。

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▼アクアコイン
君津信用組合・木更津市・木更津商工会議所が実施する電子地域通貨。2018年10月から開始。発行母体は君津信用組合。アプリにチャージして使う。木更津市内の加盟店で食事や商品、サービスに対して、店内に設置されたQRコードを読み取って決済が可能。また地域活性化の試みとして、木更津市が定めたボランティア活動、まちづくりの活動などへの参加に対して配付される「らづポイント」もアクアコイン加盟店で使える。

――地域通貨をふるさと納税に活用する動きもあるようですね。ふるさと納税サイトの「ふるさとチョイス」では、返礼品に「電子感謝券」を選べる自治体があります。

ユニークな取り組みだと思います。「深谷ネギ」で有名な埼玉県深谷市の「negi」(ネギー)という電子地域通貨も電子感謝券として受け取れるようです。返礼品に名産のネギなどの農産物をもらうのももちろん嬉しいことですが、収穫期以外には提供できないデメリットがありますよね。その点、電子地域通貨なら季節は問いません。実際に深谷市に行かなくても、ふるさと納税することで地域通貨がウォレットに入ってきて、それがきっかけで深谷に行ってみようかという動機付けにもなるかもしれません。地域と域外の人々との関係性を中長期に築くための面白い試みだと思います。

▼negi(ネギー)
埼玉県深谷市の地域通貨。2019年5月に本格的な「地域通貨」導入に向けた実証実験として販売された「電子プレミアム商品券」に活用されたり、ふるさと納税の返礼品の「電子感謝券」(発行地域限定で使用できる電子化された感謝券)としても活用されたりしている。1negi=1円相当で、深谷市内の加盟店舗で買い物や食事に利用可能。

まとめ:地域通貨は”お金の地産地消”(ライター佐野)

地元で発行して、地元で使う。さながら「お金の地産地消」とでも言いたくなる地域通貨。地域の経済活動を支える手段としてなかなか面白い存在と言えるのではないでしょうか? デジタル化により、地域外の人でも手に入れやすくなっています。まずは、ご自身の興味のある地域の「地域通貨」をチェックされてみてはいかがでしょうか?

※本記事は、執筆者および取材者の見解です。

佐野裕

佐野裕

フリーランスのライター。マネー誌、ビジネス誌などで一般ビジネスパーソンから著名人までを多数取材。ビジネス、自己啓発、副業、歴史など幅広いジャンルで記事を執筆している。「活字で活力を与えたい」と日夜奮闘中。

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