クレジットカード大手が、プラスチック製のカードを使わない「カードレス決済」の取り組みを始めています。すでにサービスを開始しているのが、セゾンカードなどを発行するクレディセゾンです。
同社は2020年11月24日、オンラインで申し込み、最短5分で公式アプリ上にデジタルカードを発行するサービスを始めました。発行後すぐに、ネットショッピングに使えるのはもちろん、スマートフォン決済にひも付ければ、リアル店舗での決済も可能になります。さらに、後日届くプラスチック製のカードはセキュリティに配慮し、国内初の完全ナンバーレス。クレジットカードに従来あったカード番号、有効期限、セキュリティコードは、券面に一切記載されていません。クレディセゾンのこの新サービス「SAISON CARD Digital」について、サービス説明会での内容や、筆者が実際に申し込んだ感想を基に紹介します。
クレディセゾンは、スマホ完結型の決済サービス「SAISON CARD Digital」をリリースしました
「スマホで完結するような、新たなクレジットカードスタイルを提供したい」。
説明会でクレディセゾンの開発担当者は、「SAISON CARD Digital」の狙いについてこう話しました。
「SAISON CARD Digital」はまったく新しいカードをリリースしたのではなく、基本的には従来の「セゾンカードインターナショナル」(年会費無料、基本還元率0.5%)と、「セゾンパール・アメリカン・エキスプレス・カード」(年会費1,100円=年1円以上の利用で翌年無料=、基本還元率0.5%)にデジタル機能を搭載させたものです。ユーザーは従来のカードを選ぶことも、デジタルカードタイプを選ぶこともできます。年会費や還元率、付帯サービスといった基本機能は同じですが、従来のカードと異なる2つの大きな特徴があります。
ひとつ目は発行のスピード。
クレジットカードは通常、申し込みからカードが手元に届くまで1週間程度かかります。クレディセゾンを含めいくつかのカード会社は「即日発行」に対応していますが、Webサイトで申込後、店頭で(クレディセゾンの場合は商業施設内にあるセゾンカウンター)受け取る必要があります。
「SAISON CARD Digital」の場合、Webサイトで申込後、審査を経て最短5分で、クレディセゾンの公式アプリ「セゾンPortal」上でデジタルカードが発行されます。デジタルカード発行後には、「カード番号」「セキュリティコード」「有効期限」が確認でき、オンラインショッピングでカード決済が可能となります。さらに、iPhoneの場合、Apple Payに登録し、電子マネー「QUICPay」などにひも付ければ、コンビニなどの実店舗で利用することもできます(Google Payへの登録は2021年1月対応予定)。なお、発行までの時間は大幅に短縮されますが、審査基準は従来のカードと変わりありません。
もうひとつの大きな特徴は、申し込んだ後、最短3営業日で送られてくるプラスチック製のカード。
通常のクレジットカードには、表面に「カード番号」「有効期限」、裏面に「セキュリティコード」が記載されています。ネットショッピングの際に必要なこれらの情報が何らかの形で漏れてしまうと、不正利用される可能性も出てきます。実際に今年(2020年)6月には、スーパーマーケットの従業員がお客さんのカードを盗み見るなどして、不正利用した事件も報道されました。
こうしたリスクを少しでも低くしようと、今年初めごろから、カード番号などを裏面に集約する会社も出てきました。しかし、クレディセゾンは「他社がやっていないことをやりたい」(開発担当者)と、券面には決済に必要な情報を一切記載しないカードをリリースすることに。カード番号やセキュリティコード、有効期限は公式アプリ「セゾンPortal」上のみで確認できます。券面にカード番号を記載しないカードとして、海外ではアップルの「Apple Card」(日本では未発行)が知られていますが、日本国内で流通するカードとしては初めてとなります。
説明会で、このナンバーレスのカードを見てきました。表面には、名前(アルファベット)、会社名、ICチップ、国際ブランドのロゴのみ、裏面にはお客様問い合わせID(問い合わせの際の本人確認のために使用)と発行日、署名欄などがあるのみです。確かにこれなら、万が一、カードを盗み見されたとしても、悪用されるリスクはなさそうです。もちろん、プラスチック製のカードは通常どおりの方法で、加盟店で利用することができます。
クレディセゾンの完全ナンバーレスのカードの表面と裏面。カード番号などは記載されていません
「SAISON CARD Digital」には、このほかにもセキュリティ面で対策が施されています。「セゾンPortal」をダウンロード後、初めてログインする際は2段階認証を行う必要があります。また、アプリ上でカード番号を確認する際もその都度、自分で設定した4ケタのパスコードの入力が必要です。
さらに、決済にカードを利用すると、その直後には利用金額などが表示される仕組みになっています。こちらは、自分でいくら使ったのかを簡単に確認できるほか、万が一不正利用された際、被害にいち早く気付くのに役立ちそうです。カードを紛失してしまったときなどに備え、アプリ上でカードの利用を一時的に停止できる機能も搭載しています。
アプリ上でカードの利用を停止できる機能も搭載(左)。アプリ上に表示される券面も選ぶことができます
最短5分で発行できるという「SAISON CARD Digital」。実際に発行までどのくらいかかるのか、サービス開始の11月24日に筆者も申し込んでみました。主な手順は以下のとおり。
(1)運転免許証と顔写真を撮影・アップロードし、本人確認を行う
※本人確認は銀行口座の登録でも可能です
(2)住所や年収、勤務先などの情報を入力
(3)口座情報を登録
(4)アプリ「セゾンPortal」をダウンロード
(5)最初のログイン時に必要な生年月日を入力して本人確認すると、「SAISON CARD Digital」が「セゾンPortal」上に発行
運転免許証や顔写真を撮影、アップロードし本人確認を行います
筆者の場合、(1)〜(3)の手続きを10分程度で終え、申込受付のメールが届いたのは15時17分。その2分後に審査完了メールが届き、(4)(5)の手続きを終えて15時30分には「セゾンPortal」上にデジタルカードが発行されました。「申込完了から5分後」とはいきませんでしたが、約10分後には利用可能な状態にこぎつけることができました。クレジットカードの発行というと、即日発行のカードでも数時間は待たなければならないイメージがあったので、申込完了後10分程度で使えるようになるのは新鮮な驚きでした。
申込受付のメール(左)が届いた2分後に、審査完了のメールが到着
続いて、実際にカードを買い物に使ってみることにしました。まずは、ネットショッピングから。
カード番号やセキュリティコードの情報が必要ですが、「セゾンPortal」のトップ画面に表示されておらず、少し探してみると、「カード番号表示」のボタンがあったのでそこをタップ。するとセキュリティ対策の一環として、最初に設定した4ケタのパスコードの入力を求められました。入力後に、カード番号、有効期限、セキュリティコード、カード名義が表示されます。ちょっとうれしかったのは、カード番号とカード名義については、コピーボタンが付いているので、ECサイトへいちいち入力する手間が省けたこと。スムーズにネットでの買い物を完了できました。
「セゾンPortal」のトップ画面(左)と、カード番号が記載されたページ
続いては、実店舗での買い物ですが、まだプラスチック製のカードが届いていないので、何らかのスマートフォン決済にひも付ける必要があります。スマートフォンがiPhoneなら、Apple Payに登録し、Apple Payに対応する電子マネー「QUICPay」にひも付けて利用することが可能ですが、残念ながら、筆者のスマホはAndroid(AndroidのGoogle Payは2021年1月対応予定)。そこで、QRコード決済のPayPayにカード番号などを入力してひも付け、近所のコンビニで使ってみると、無事決済することができました。
申込後約10分で(筆者の場合)、クレジットカードが自分のスマホ上で発行され、ネットショッピングや、(スマホ決済にひも付ければ)実店舗で利用できるのは、利便性が高いサービスと感じました。ただし、筆者も運転免許証や自分の顔写真撮影を何度かやり直したり、アプリの登録に時間がかかったりしましたが、スマホの操作に慣れていないと手間取るシーンもあるかもしれません。
近所のコンビニとAmazonで無事、決済に利用することができました
なお、クレディセゾンでは、新規入会者を対象の2つのキャンペーンを行っています。
ひとつ目のキャンペーンは、「SAISON CARD Digital」(「セゾンカードインターナショナル」と「セゾンパール・アメリカン・エキスプレス・カード」のデジタルカードが対象)の新規入会者を対象にしたキャッシュバックです。2021年1月5日までに入会した人を対象に以下の内容で実施します。
(1)月30,000円以上ショッピング利用した場合、3か月間2,000円をキャッシュバック(合計6,000円)
(2)(1)の条件をクリアしたうえで、発行月の5か月以内に携帯電話や電気料金などの支払いに登録すると、2か月間2,000円をキャッシュバック(合計4,000円)
2つ目はポイント還元で、「セゾンパール・アメリカン・エキスプレス・カード」の通常カードおよびデジタルカードが対象になります。こちらは、通常時でもQUICPayの利用で1,000円で6P(30円相当)と3%還元。QUICPay利用時の高い還元率が特徴となっていますが、さらに2021年1月5日までに申し込むと、発行月の翌月まで1,000円で10P(50円相当)と5%還元にアップするキャンペーンを実施しています。QUICPayをよく使う方にはメリットが大きいキャンペーンです。
ここまではクレディセゾンの「カードレス」のサービスについて紹介してきましたが、ジェーシービーも、JCBブランドのバーチャルカードをアプリ上で即時発行できる決済アプリ、「JCB Mobile Wallet」(仮称)の開発を進めています。
このアプリは、キャッシュレス決済や送金機能のほか、優待店のマップ検索など、モバイルならではの特徴を持つ多機能ウォレットアプリです。また、在留外国人の利用を見すえ、24時間いつでも22の通貨に両替できる機能も搭載される予定です。現在、アプリの実証実験を行っており、2021年中にサービスを開始する予定です。
以上、クレディセゾンが始めた「カードレス決済」と、プラスチック製カードの「ナンバーレス」の取り組みを紹介しました。
「カードレス決済」に関しては、新型コロナウイルスの影響でネットショッピングの利用が増え、QUICPayなどのスマホ決済の加盟店も増えている現状を考えると、「カードレス決済」のニーズは高く、今後広がっていくサービスだと感じました。クレディセゾンの担当者も「今はプラスチック製のカードは申し込んだ人全員に送っているが、今後のユーザーのニーズ次第で選択制にして、『デジタルカードのみ発行』ということも検討したい」と話していました。
いっぽうの、プラスチック製カードの「ナンバーレス」。日常生活で、カード番号を必要とするのはネットショッピング利用時が大半ではないでしょうか。常に携帯しているスマホで確認できるのであれば、カードにそれらの情報を記載する必然性は薄いと感じました。ただ、気をつけてほしいのは、「ナンバーレス」により盗み見られることによる不正利用のリスクは低減しますが、カード情報は自分のパソコンやアクセスしたサイトから漏えいする可能性もあります。「ナンバーレス」のカードを使っていたとしても、定期的に明細をチェックするなどの取り組みは必要でしょう。
取材を通して、「カードレス決済」「ナンバーレス」という選択肢が増えたのはユーザーにとってメリットになるとともに、プラスチック製カードを通じてサービスを提供してきたクレジットカード会社が「カードレス」を進め、券面に当たり前のようにあった番号が一切ないカードが登場するというのは、クレジットカード業界にとってひとつの転機になる出来事だと感じました。
投資・資産運用・保険・クレジットカード・ローン・節約に至るまで、マネーに関する情報を毎日収集。「知らないで損するなんてもったいない」をモットーに、読者のためになる記事を制作します!