新型コロナウイルスによって、私たちの生活様式は大きく変わりました。その中で存在感を増したのが「キャッシュレス決済」です。「現金を直接触りたくない」「実店舗よりもインターネット店舗で買う」といった意識や行動の変化から、キャッシュレス決済は急速に市民権を得ています。2021年もすでに後半に入り、株式相場では「アフターコロナ」を見据えた動きが活発化。今後ますます利用されるであろうキャッシュレス決済に関連した銘柄にも成長が見込まれます。そこでマネックス証券 マーケットアナリストの益嶋裕さんに、注目しておきたいキャッシュレス決済関連銘柄を7つ選んでいただきました。
利用シーンが急拡大しているキャッシュレス決済。本記事ではキャッシュレス決済に関連する企業の株価に注目します
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2019年末頃から新型コロナウイルスが世界中で感染拡大した結果、2020年2月から3月にかけて株式市場が暴落したのは記憶に新しいところ。日経平均株価も2020年3月19日の終値で16,552円まで下落しました。しかし、それ以降は各国が大規模な経済政策を講じるなどし、株式市場は急速に回復。2021年2月19日には日経平均株価が3万円の大台を突破しています。
「株価が盛り返していく過程で目立ったのが、コロナ禍が業績の追い風になった企業です。在宅勤務やインターネット店舗での消費など、コロナ禍で新たなニーズが生まれ、それに関連する銘柄が値上がりしていきました。そんな動きの中で、キャッシュレス決済関連銘柄の注目度も上がりました」(益嶋さん。以下、カッコ内同)
解説:益嶋 裕(ますしまゆたか)さん。マネックス証券 マーケット・アナリスト兼インベストメント・アドバイザー。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。2008年にマネックス証券に入社。2013年からアナリスト業務に従事。現在は「日本株銘柄フォーカス」レポートや日々の国内市況の執筆、各種ウェブコンテンツ作成に携わりながら、オンラインセミナーにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員
日本のキャッシュレス決済比率は、2020年の統計データで約29%となっています。毎年伸びてはいるものの、世界のキャッシュレス化からは遅れを取っている状況です。そこで国は、2025年6月までにキャッシュレス決済比率を40%にすることを目指し、将来的には80%に引き上げる目標を掲げています。
「2013年頃から始まったアベノミクスでインバウンド施策を推し進めた結果、コロナ前の日本は外国人観光客が年間約2,000万人訪れ、年間5兆円を消費する国へと成長。それにともなって、関連する銘柄も値を上げました。このように、国が力を入れる政策と関連が強い『国策銘柄』は、株価が上昇しやすいのが特徴です。キャッシュレス決済も国が力を入れる分野のひとつですから、追い風が吹いているテーマと言えます」
普及の面で世界から後れを取っている分、今後の成長が期待できる日本のキャッシュレス決済。関連する企業の動向にも注目したいところです。そこで、益嶋さんが注目するキャッシュレス決済関連銘柄を7つピックアップしていただきます。
まずは、ソフトバンクグループの持株会社、Zホールディングスです。傘下にYahoo! JAPANやYahoo!ショッピング、Yahoo!トラベルなどヤフーブランドサービスを数多く抱えています。さらに2021年3月には、LINEとの経営統合も果たしました。
「ZホールディングスはQRコード決済の『PayPay』を擁しています。MMD研究所の『2021年1月スマートフォン決済(QRコード)利用動向調査』によると、QRコード決済サービスの中で、もっとも大きなシェアを占めたのがPayPay(43.1%)でした。次点の『d払い』(18.2%)以下を大きく引き離しており、PayPayの1位が揺るぎないことがうかがえます。さらにZホールディングスの強みは、ヤフオク!やYahoo!ショッピング、ZOZOTOWNなど、グループ内のモールサイトで消費者が決済する点です。PayPay・LINE Payの決済事業とサービス経済圏を組み合わせ、ユーザーを囲い込めるのが彼らの強みになります」
同社の決算発表資料によると、PayPayの登録者数は3,803万人、加盟店数は316万か所、決済回数は6億1,559万回となっており、前年比1.4〜1.6倍で成長しているといいます。今後はさらに「シナリオ金融の本格展開」も計画されており、各種ECサービスにおける保険サービスの提供開始や、PayPay経由の個人ローン拡大が推進される見込みです。
Zホールディングスの株価チャート(2020年1月〜2021年6月)。2021年7月26日時点の株価は581円。最低購入額は58,100円
「コロナショック時は、Zホールディングスの株価も300円台まで大きく下落したものの、半年で一時800円近くまで上昇。その後はやや過剰ぎみだった期待が落ち着き、航空、鉄道、ホテル業界などの『アフターコロナ銘柄』に資金が流入していることもあって、直近の株価は落ち付いています。
しかしすでに多くのユーザーを獲得し、ある意味で『インフラ化』している点や、囲い込んだユーザーに自グループ内のサービスで決済してもらえるという構造的な強さから、今後も株価の堅調な動きが期待できるでしょう。PayPayは2021年10月1日以降、加盟店側の決済システム利用料の有料化を発表しています。これにより株価が上下する可能性はありますが、有料化自体はすでに株価に織り込まれている可能性が高く、そこまで大きな影響はないと見ています」
続いては、フリマアプリでおなじみのメルカリです。キャッシュレス決済の関連銘柄としてはやや意外な印象を受けますが……。
「メルカリのスマホ決済サービスであるメルペイに注目しています。さきほどの『2021年1月スマートフォン決済(QRコード)利用動向調査 』によると、メルペイの利用率自体は3.6%とそこまで高くなく、一般的な決済インフラになる可能性はおそらく低いでしょう。ではメルペイをどう生かしていくのか? メルカリは、自社サービスの中でメルペイを利用してもらい、収益を上げていくことを狙っている印象を受けます」
以前からメルカリの経営陣は決算発表会などで、「メルカリで不要品を売ったときにお金が浮く。そのお金を自社内サービスで使ってもらう仕組みを作りたい」と発言しており、それが印象に残っていると益嶋さんは話します。実際メルカリは、メルペイ残高を出資して資産運用できる「ふえるお財布」(編集部注:2020年、2021年の2度出資者を募集。現在は募集していません)など、金融サービスにも動き出しており、メルカリのサービス内でユーザーを囲い込み、メルカリ内に収益が落ちるような仕組みを模索しているようです。
メルカリの株価チャート(2020年1月〜2021年6月)。2021年7月26日時点の株価は5,670円。最低購入額は567,000円
「メルカリは海外、特にアメリカで成功したいと考えている会社で、日本で稼いだキャッシュをアメリカの事業に投資してきました。そのため株価は長く停滞していたのですが、コロナ禍で国内利用が急激に増加し、業績も四半期決算で黒字化。それを受けて株価も1,500円近くから5,000円〜6,000円台まで伸びてきました。今後同社がさらに伸びる鍵はアメリカでうまくいかどうかという点と前出のメルペイです。メルペイにおいては与信の部分でユーザーに対して便利なサービスが提供できるかどうかが注目だと思います」
3つめに紹介いただくのが東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)。こちらもキャッシュレス決済関連銘柄としては少し意外性のある銘柄です。
「JR東日本の業績の大部分は、鉄道事業、一部ホテル事業や駅ナカ事業で構成されているのは皆さんご存知のとおりです。また、電子マネーの『Suica』を持っている点も無視できません。現在Suicaは、鉄道運賃や加盟店での支払いなどに使えるわけですが、個人的には、電子マネーとしてのポテンシャルが十分に発揮されていないと感じています。もし今後Suicaに残高の送金機能や資金管理機能などが加わると、非常に存在感のあるキャッシュレス決済サービスとして、グンと注目度が増してくるのではないかと考えています」
JR東日本の株価チャート(2020年1月〜2021年6月)。2021年7月26日時点の株価は7,515円。最低購入額は751,500円
輸送サービスでの収益に頼れない中、同社の経営ビジョン「変革 2027」では、これまでの「交通の拠点」という駅の役割を「暮らしのプラットフォーム」へと転換することが掲げられるなど、新たな収益源を模索する動きが見られます。その中でSuicaがどう活用されるのか、要注目と言えそうです。
「JR東日本の株価は、コロナショックで大きく暴落したあとに一時は回復。しかし緊急事態宣言が長引き、これまでの生活には簡単に戻らないことが認識され始め、加えて同社の業績悪化が伝わるなどした結果、コロナショック以上に株価が下落しました。ただし、足元ではアフターコロナを見据えて株価は7,000〜8,000円台に戻りつつあります」
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ここからは、決済手段の裏側の仕組みを提供する企業を紹介します。まずはGMOペイメントゲートウェイ。国内トップのオンライン決済代行サービスを提供しています。
「GMOペイメントゲートウェイの『PGマルチペイメントサービス』を企業が導入すると、クレジットカード決済やコンビニ決済、PayPayや楽天Payなど、数多くの決済サービスが利用可能になります。キャッシュレス決済のニーズが高まる中で、こうした決済手段の導入を考える企業が増えているわけですが、GMOペイメントゲートウェイはこの部分で圧倒的なシェアを取っています。その結果、同社は圧巻の成長を見せており、2007年には20億円程度だった売上が、2021年の本決算では400億円にもなる見込みです。キャッシュレス決済の裏側で関わる企業の中でかなりの存在感があります」
GMOペイメントゲートウェイの株価チャート(2020年1月〜2021年6月)。2021年7月26日時点の株価は14,420円。最低購入額は1,442,000円
株式分析で「会社の成長性」を示す数値に「PER(株価収益率)」(会社の純利益を発行済み株数で割った数字に対して、現在の1株あたりの価格が何倍かを表す指標。株価が割高か、割安かを判断する際に用いられます)があります。PERは通常高くても15〜20倍程度ですが、GMOペイメントゲートウェイのPERはなんと120倍(!)にも達します。
「これだけ高くても買われているわけですから、『この会社の成長は将来ものすごいことになる』と投資家から期待されている表れと言えるでしょう。本記事の最後でも触れますが、こうした、『市場の期待がやや過熱している株』に投資する際は慎重な判断が必要です。株価はコロナショックでいったん6,000円台まで下落したものの、ウィズコロナ銘柄として注目され始めてから一気に16,000円台まで上昇。現在はやや下がってきていますが、それでも13,000円〜14,000円台で推移しています」
ビリングシステムも、決済支援サービス会社のひとつです。収納代行やリアルタイム入金確認(クイック入金)、公共料金の支払代行、スマホマルチ決済サービスなどを提供しています。
「ビリングシステムが提供する決済システムの強みは『WeChatPay』や『Alipay』に対応している点です。どちらも中国からの旅行者のユーザーが多い決算手段ですよね。その意味で、今年は難しいとしても、来年、再来年などにふたたびインバウンド需要が回復するということになれば、同社の強みが大きく注目されるはずです」
ビリングシステムの株価チャート(2020年1月〜2021年6月)。2021年7月26日時点の株価は1,066円。最低購入額は106,600円
ビリングシステムの株価もコロナショックで大きく下げ、その後急上昇して500円台だった株価が2,000円近くまで伸びました。現在は1,100円台で推移しています。
「同社の売上は33億円程度。前出のGMOペイメントゲートウェイのようにすでにマーケットから大きな期待が集まっている企業と比べると、株価的にはまだ割安感があります。キャッシュレス決済の裏側を支える企業として、こうした規模の会社を選ぶのも投資判断としてはありえるでしょう」
スマレジは小売店や飲食店に向けて、クラウドPOSレジシステム「スマレジ」を提供している企業です。
「スマレジは従来のPOSレジシステムよりも低価格かつ高性能と言われており、かつ、キャッシュレス決済にも対応しています。その利便性の高さが評価され、業績が比較的ハイペースで伸びている企業です。利益が減少している時期もありますが、この規模の会社は投資にお金を使って成長する一面があるので、あまり気にする必要はないでしょう。株価はコロナショックで2,500円近くに下落したところから上昇を続けています」
スマレジの株価チャート(2020年1月〜2021年6月)。2021年7月26日時点の株価は7,450円。最低購入額は745,000円
スマレジはサブスクリプションモデルを採用しており、簡単な機能なら無料で導入が可能。機能や利用店舗を増やす場合には有料モデルに転換する必要があります。この、無料利用店舗が、直近の2021年4月期では10万店舗近くまで伸び、有料利用に転換する店舗の割合も20.3%に達しているといいます。
「サブスクモデルの場合、1回ユーザーをつかめば、一定期間売上が見込めます。同社の場合、有料プランに変更する割合もじわじわと伸びており、機能面でも顧客の評価を得ていると判断できます。サブスクモデルであり、かつ有料プランが伸びているということで、将来に向けてさらに売り上げ増が期待され、市場の評価にもつながっていると考えられます」
最後に紹介いただくのは電算システムホールディングス(※)です。同ホールディングスの中核となる電算システムは1967年創業、本社が岐阜にあり、さまざまな決済システムを提供する会社です。
※2021年7月に電算システム(3630)からの単独株式移転により完全親会社として電産システムホールディングス(4072)が設立されました。それにともない電算システムは2021年6月29日に上場廃止となり、電算システムホールディングスが東証1部に上場。電算システムの株主優待等は電算システムホールディングスに引き継がれています。
「電算システムは民間企業で初めて口座振替サービスやコンビニ決済サービスを始めた、決済サービス系のパイオニアともいえる会社です。現在もコンビニ収納代行やクレジットカード決済、ペーパーレス決済、モバイル決済など、さまざまな決済サービスを提供しています。知名度的には地味な存在ですが、ほぼずっと増収増益を続けており、堅実にビジネスを拡大させています。業績の伸びが素晴らしい企業のひとつです」
電算システム(3630)の株価チャート(2020年1月〜2021年6月29日上場廃止)。2021年7月26日時点の電産システムホールディングス(4072)の株価は3,015円。最低購入額は301,500円
株価はコロナショックで一時1,750円を割ったものの、その後は一時4,750円超まで上昇。電産システムホールディングスとして上場後の現在は3,000円台で推移しています。
「同社は増収増益を続けている優良企業ながら、知名度が低いせいかマーケットからの評価に過熱感がなく、PERは15倍程度です。同社の決算資料によると決済サービスについては年間2億3,000万件を突破するなど順調な伸びを見せているようです。投資初心者の方であれば、こうした堅実に業績を伸ばしている企業の銘柄から投資に挑戦してみるのもひとつの手でしょう」
最後に益嶋さんより、投資時の注意点も教えていただきました。
「注目が集まっている銘柄ほど期待が過熱気味になり、過度に値上がりしていることがあります。こうした銘柄は、決算内容が少しでも悪かった場合や期待以上の結果ではなかった場合に、株価が落ちるリスクが比較的高いものです。たとえば、記事で紹介したGMOペイメントゲートウェイのように、市場からの期待がパンパンにふくらんでいるような会社に投資する際は慎重な判断が必要です。その意味で、記事にも出てきましたが、銘柄のPERにも目を配り、その株が割安なのか、割高なのかも判断材料に加えるようにしてください」
国の注力を背景に注目度を上げてきたキャッシュレス関連銘柄は、コロナ禍での社会変容を受けてさらに注目される存在になったと言えそうです。今回の記事を参考に、今後も関連銘柄の動向をチェックしてみてください!
フリーのライター・編集。新卒で大手信託銀行に入社、住宅ローンや資産運用の営業、本社での企画業務等を担当。不動産や証券での勤務を経て2017年12月〜現職。個人事業主生活を満喫中。