備える

iDeCo加入後に避けたい2つの行動と、受け取り方で後悔しないために必要な準備とは?

公的年金に上乗せする形で、自分の年金を自身で育てる「iDeCo」(イデコ、正式名称:個人型確定拠出年金)。「積立時の掛金が全額所得控除」「運用期間中の利益が非課税」「受け取り時にも控除適用」という税に関連した3つのメリットを備えた年金制度です。これまで「NPO確定拠出年金教育協会」の理事も務める筆者が2回にわたって、
(1)iDeCoの基礎知識:https://kakakumag.com/money/?id=17706
(2)iDeCoを始める時の3つのポイントhttps://kakakumag.com/money/?id=17891
を解説してきましたが、最終回となる今回はiDeCo加入後、「避けたい2つのこと」と、「受け取り可能となる60歳を前に準備しておきたいこと」についてお話したいと思います。

iDeCoとの付き合いは長期にわたります

iDeCoとの付き合いは長期にわたります

iDeCo加入中の避けたい行動1:積み立ての中断

iDeCoに加入しているみなさんは、すでにみずからの老後生活を豊かにするための準備を始めていることになります。加入後に大切なのは、その「歩みを止めない」ことだと筆者は考えています。「歩みを止める」とは、具体的に言えば「積み立ての中断」やマーケット暴落時に「投資信託による資産運用」を止めてしまうことをさします。

積み立ての中断はダブルでマイナス。所得控除を受けられなくなるうえ、口座管理料の負担は継続

iDeCo加入後の積み立ては、必要があればいつでも「休止」し、また「再開」することができます。ただ、積み立てを休止してしまうと、老後資金を大きく育てる活動をストップさせることになります。

また、積み立てを行っていないわけですから、掛金全額が課税所得から控除され所得税や住民税が軽減されるという大きなメリットも捨てることになります。たとえば、課税所得300万円の方が月10,000円積み立てて、所得税と住民税で年間約24,000円の税負担軽減を受けていたとすれば、休止することで、このメリットを享受できなくなります。加えて、口座管理料は残高がある間は負担が継続します。積み立てをしている時に比べれば安くはなりますが、少なくとも年間792円、契約先によっては毎年数千円が差し引かれます。

「休止」ではなく、最低積立額の月額5,000円でも「継続」の検討を

iDeCoで積み立て、運用しているお金は原則60歳になるまで引き出しできません。60歳より前に大きな資金が必要なライフイベントが発生し、手元資金だけでは足りなくてiDeCoの積立額さえも資金に充てなければならない状況が出てくるかもしれません。それでも、休止は可能なかぎり避け、最低金額にあたる月額5,000円でも続けていただけたらと思います。ペースはゆっくりになるものの老後資産が増えていくことになりますし、口座管理料を上回る税負担の軽減も受け続けることができます。

マラソンでいったん止まってしまったら再び走り始めるのが困難であるのと同じように、積み立ても1度でも止めてしまうと再び始めるのがおっくうになってなかなかできないものです。老後資金としてまとまった額にするためには、積み立てを止めないことが有効だと考えます。積立額は年1回、千円単位で変更できますから、無理のない金額で継続しましょう。

iDeCo加入中の避けたい行動2:暴落時の投げ売り

過去の歴史を見ても、株価の暴落は一定のサイクルで起きています

過去の歴史を見ても、株価の暴落は一定のサイクルで起きています

もうひとつは「マーケット暴落時」の対応です。「マーケット暴落」といえば、2020年3月の「コロナショック」が記憶に新しいかと思いますが、2008年9月には「リーマンショック」という世界規模の金融危機が起こりました。いずれも連日メディアで、「株価暴落」に関するニュースが報じられ、そのたびにマーケットはこのまま奈落の底に落ちていき自分の年金資産も限りなく目減りしてしまうのではないかと、不安な気持ちになった方も少なくないでしょう。当時、iDeCoの運用商品として投資信託、なかでも株式型の投資信託を選んでいた方々の残高は大きく目減りして、中には元本割れを経験した方もいるでしょう。

売却すると損失が確定する

人間は「損」が嫌いでとても気になるものです。時価評価額で元本割れしているというのは、その時点での評価額が積立元本より減っている状態です。しかし、評価額はマーケット次第で変わるので、マーケットが上昇に転じ上がってくれば「損失」もなくなります。ところが、それがいつになるのかはわかりませんから、不安でたまりません。そこで、加入者の中には目の前からこの「損失」という事実を消してしまいたいという衝動に駆られて、保有している投資信託を大幅に目減りしたまますべて売却し(「損失」を確定し)、元本が保証されている定期預金に預け替えるという方が出てきます。マーケットが将来、どう動くかはその時点ではわかりませんが、その後にマーケットが回復、値上がりした場合、結果としてその恩恵を受けることはできなくなります。

いっぽう、リーマンショックの暴落以降の数年間、株式市場はずっと低迷していましたが、その時期、運用商品の変更を一切せず、従来どおりの運用と積立を継続し、結果、5%以上の利回りになっているという方も多くいらっしゃいます。大幅なプラスですね。リーマンショックのケースで言うと、暴落時に投げ売りしなかった資産がマーケットの回復とともに値上がりしたことに加えて、マーケットが低迷していた数年間、安い単価で購入し続けることによって、平均購入単価を下げることにつながり、これが功を奏したわけです。

コロナショックの時は、3月の暴落から数か月後には元の水準に戻り、あまり安い単価で買えた時期は長くありませんでしたが、それでも、暴落時に株式型投資信託を売らなかった方は、それまでの残高がその後のNYダウの最高値更新や、日経平均の31年ぶりの3万円回復といった高値を付ける中で大きく値上がりした恩恵を受けることができたでしょう。

暴落時の投げ売りを避けるには? マーケットに居続けられる資産配分にしよう

iDeCoを続けていくには、適切な資産配分が大事に

iDeCoを続けていくには、適切な資産配分が大事に

資産運用において、マーケットに居続けることはとても大切だということはおわかりいただけたと思います。では、暴落の恐怖に打ち勝ってどうしたら売らずに乗り切れるのでしょうか。そのためには備えが必要です。防災と同じで最悪の事態を想定し、適切な資産配分をしておくということに尽きます。

暴落がやってくることを前提に、一時的にどの程度の資産の目減りなら許容できるかを確認しよう

具体的には、まずリーマンショック級の暴落を想定し(※)、自身の残高が一時的にどの程度まで目減りする可能性があるのか、試算してみることです。そして、その損失額を目にして心の平穏を乱し仕事に支障が出るレベルであれば、リスクを取り過ぎていることを意味していますから、我慢できそうな範囲の金額に抑えるように、価格変動の大きな株式投資信託の保有を減らしたほうがよいでしょう。損失が許容できる範囲内で、価格変動の大きなリスク資産を持つようにしましょう(iDeCoでは、掛金を100%元本確保型の預金に配分することも可能です)。

(※)編集部注:リーマンショックでは直前ピーク時の2008年6月6日に14,489円だった日経平均株価(終値)は、ショック後の2009年3月10日には、バブル崩壊後の最安値となる7,055円を記録

自分のリスク許容度に応じた資産配分を見つけよう

たとえば、国内でも海外でも株式市場は年間で3割ぐらい上げることもあれば、3割ぐらい下げることもよくあります。自分が保有している株式投資信託の額から暴落時にどれぐらい目減りしそうか概算してみるとよいでしょう。また、このあたりを簡単に試算してくれるシミュレーションやロボアドバイザーというサービスを多くの運営管理機関が加入者向けに提供していますからそれを活用して試算するのがおすすめです。試算ですから、「元本確保型の預金:○%、株式型の投資信託:△%」などといろんなパターンを試して、自分が許容できる下振れリスクに合わせた資産配分を見つけてください。そしてその配分に合わせてiDeCoの資産配分を見直しておくことこそが暴落への備えになります。

資産配分のシミュレーションやロボアドは、主に過去のデータに基づいて試算されます。ベースになるデータが定期的に変わり、それによって結果も変わりますので、1回で終わりではなく、1年に1度くらいは資産をしてみるとよいと思います。この下げの局面での許容度である「リスク許容度」は一般に「年齢」やiDeCo以外の「保有資産額」によって変わるとされていますが、私の経験では元本割れが気になるタイプかどうかといった「性格」によるところが大きいように思います。気持ちの面が実は大切なのです。

また、下記のようなことが起きた時には、取れるリスクも変わってきます。そういったこともあるので、契約した金融機関から年1回、iDeCoの運用状況を知らせる通知が届いたタイミングで、自分の資産配分が現状のままでよいのか確認することをおすすめします。

※編集部作成

※編集部作成

老後資金は無理せずじっくり育てよう

誰でも「できるだけたくさん」、「できるだけ早く」、「できるだけ安全に」もうけたいと思うものです。しかし、マーケットはこちらの気持ちなどとは無関係で上下するので、私たちの欲望と不安を駆り立てます。暴落時には不安を通り越し恐怖さえ覚えるかもしれません。しかし、筆者が30年以上相場を見てきて、その経験から思うのは、ずっと下げる相場もなければ、ずっと上がる相場もないということです。ですから、自分のリスク許容度に合った形で投資対象を分散し、市場に居続けることができれば、一定の利益が期待でき、長い時間をかけて自分の年金をしっかり育てていくことができると思います。

iDeCo加入中のポイントは「無理のない積立額」と「放置せず」

「無理のない積立額」で「放置しないマイペースの資産運用」。これこそがiDeCo運用の肝になります。このiDeCoを通じて得た資産運用のスキルは、資産全体の管理にも活用できますから、iDeCoの資産とともに今後の人生をきっと支えてくれると思います。みなさんにはサポートツールとして、加入者専用のWebサイトやコールセンター、加入時にもらったテキスト、加入後のフォローセミナーなどもあります。ぜひ、積極的にこれらを活用して、自分にとっての適切な資産配分を見つけて、老後資産づくりの歩みを自分のペースで続けていってほしいと思います。

iDeCoで積み立てたお金の賢い受け取り方法は?

iDeCoでは、受け取り方も大事なポイントになります

iDeCoでは、受け取り方も大事なポイントになります

最後に、少し先の話になると思うのですが、iDeCoで積み立て、運用してきたお金の受け取り方についてお話しておきたいと思います。iDeCoは60歳以降の暮らしに充てるためのものなので、その時点でのライフプランの実現に用立てることが最優先です。ただ、受け取り方によって税金や手数料といった負担する額が異なるので、60歳前に比較検討してから受け取り方法を決めていただいたほうが後悔しないで済むのでおすすめです。

iDeCoの受け取り方法は「一時金」と「年金」、両者を組み合わせた「併給」の3種類

iDeCoの受け取り方法には下記の3種類に分けられます。
一時金:iDeCo口座の残高を現金化(投資信託などを売却)して、一括で受け取り
年金:残高の一部をその都度売却することで、資産を分割して受け取る方法
※10年間で年6回受け取りを選択したら、資産を60回に分けて都度時価で売却するような受け取り方が一般的
併給:「一時金」と「年金」の組み合わせ
(たとえば、iDeCo資産の50%は「一時金」で、残りの50%を5年分割の「年金」といったやり方)

一時金で受給:退職一時金の金額が大きいケースは要注意

一時金で受け取る場合、「退職所得」の扱いになり「退職所得控除」が適用されますが、これの計算式は「退職所得=(収入金額−退職所得控除額)×1/2」となり、年金での受給と比べて税負担が軽くなるケースがあります。このほか、iDeCoの給付にあたってはその都度手数料(440円の金融機関が多い)が発生しますが、一時金の場合、この費用は1回分で済みます。

いっぽうで、注意点もあります。iDeCo以外に勤務先からの退職金などがあればその額と一緒に退職所得控除額の枠を使うことになります。定年退職時の退職一時金の金額が大きい公務員の方などはiDeCoも一時金で受け取ると、退職所得控除額を大きくはみ出してしまい、課税対象となる額がふくらむ可能性が高くなります。こうしたケースでは、iDeCoは一時金ではなく年金で受け取るという選択肢が考えられます。

定年退職にかぎらず、iDeCoの一時金を受け取った前年からさかのぼって、19年前までに受け取った退職金は課税対象になるので、40歳以降に高額な退職金をもらっている方は同様の点に注意です。また、高額でなくても40歳以降に受け取った退職金は一時金受け取りの際に「退職所得の源泉徴収票」が必要となりますから大切に保管しておくようにしましょう。

〈退職所得控除額の計算方法〉
勤続年数が20年以下:40万円×勤続年数
勤続年数が20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)
〈勤続年数15年の場合〉
退職所得控除額:40万円×15年=600万円
〈勤続年数35年の場合〉
退職所得控除額:800万円+70万円×(35年−20年)=1850万円
※編集部作成

年金で受給:公的年金などの雑所得が多く見込まれる場合は要注意

年金払いで受け取る場合、受け取り完了まで非課税で運用を続けることができますし、生活費の一部に充てることを考えると管理がしやすいというメリットがあります。その半面、口座管理料をiDeCo口座の残高がなくなるまで負担する必要があり、給付手数料も受け取りのたびに発生します。税法上は「雑所得」として扱われ、「公的年金等控除」の対象になります。公的年金を受け取り始めてから、iDeCoも年金として受け取ると、公的年金等控除の金額を上回ってすべてが課税対象となる可能性もあります。そのため、公的年金やそのほかの雑所得が多く見込まれる方は、一時金で受け取る、あるいは、公的年金の受給が始まる65歳前に受け取る、という方法を検討してもよいかもしれません。

「一時金」か「年金」か、どちらが税負担を抑えられるのかを判断するためには、公的年金や会社の退職金・年金の情報を把握しよう

このように、「一時金」「年金」いずれの場合も、税金がかからない枠(控除の枠)の中に納まるように受け取り方法やタイミングを工夫すると、税負担が軽くなる、場合によってはなくすことができます。

その方法を見つけるためには、60歳になる前に老後のお金をすべて見える化して、受け取り計画を立てることが大切です。60歳が近づいて、60歳以降の働き方を含めたライフデザインを考える際に、iDeCoだけでなく、国からの公的年金や退職一時金、企業年金の支給開始時期や支給額、手元の資産で老後の暮らしに充てられる金額はいくらぐらいになりそうかなど、老後資産に関わる情報を把握してみましょう。老後のお金として用意できている額で定年後の暮らしにそれほど不安がなければ、定年後は経済的な理由ではなく、よりやりたいことにチャレンジできることになると思います。そして金額だけでなく受け取り方についても、年齢ごとにどこからいくらもらえるかを整理してみてください。そうすることで、iDeCoを受け取った方がいい時期、税金がかからない枠を使えそうな時期が見えてきて、必要な時に税負担が軽い受け取り方を見つけることができるはずです。

まとめ

今回はiDeCo加入後の心構え(避けたい行動)と、受け取り前に準備するべきことについて解説してきました。
繰り返しになりますが、iDeCoを始めたら、筆者は、積み立てや投資信託などによる資産運用を「続ける」ことが大事になると考えています。iDeCoとの付き合いは基本的に何十年にも及びますので、その間に「マーケットの暴落」は複数回発生する可能性があります。そうした状況の中でも、iDeCoを「続ける」ためには、自身にあったリスク許容度、つまり資産配分を見つけることが欠かせません。そして、そのリスク許容度は固定されたものではなく、自身の状況などによって変わってくるので、年に1回程度は見直すようにしましょう。

積み立てたお金の受け取りも、iDeCoにおいて非常に大事なポイントです。「一括」か、「年金」という形で分割か、あるいはこれらを組み合わせた「併給」か。どれが税制上メリットがあるのかは、公的年金や退職金の支給額などとも照らし合わせて判断する必要があります。これは、iDeCoの受給が可能となる60歳以前から検討しておくとよいでしょう。

ぜひ、iDeCoを使ってゆっくりと老後に使えるお金を育てて、みなさまの60歳以降の暮らしを輝かせるためにiDeCoをお役立ていただけたら幸いです。

※本記事は執筆者個人の見解です

大江 加代

大江 加代

大手証券会社にて22年間勤務、一貫して「サラリーマンの資産形成ビジネス」に携わる。退職後も確定拠出年金の専門家として活動し、「『サラリーマン女子』、定年後に備える。」などの著書も

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