積立投資をしながらポイントも獲得――。
クレジットカードを使って、投資信託や株式の積立投資を行う「クレカ積立」のサービスが広がりを見せています。クレカ積立は2018年に始まった比較的新しいサービスですが、ここ数年で参入する企業が一気に増加。2021年にはSBI証券が「三井住友カード」と提携して、2022年3月にはauカブコム証券が「au PAYカード」と提携したサービスを開始。マネックス証券も2022年2月に参入しました。
ユーザーから見て、クレカ積立の大きな魅力は、積立額に応じてカードのポイントを獲得できることです。金融商品を毎月一定額、継続的に購入する積立投資はとりわけ20〜30代を中心に注目を集めている投資の方法で、「身近なクレジットカードで投資を始めたい」という方にとっては有力な選択肢になるでしょう。そこで、ここではクレカ積立の仕組みやメリットについて解説するとともに、主要な7つのサービス内容を比較していきます。
クレジットカードを使った積立投資のサービスが人気を集めています
クレジットカードを投資の決済に利用するクレカ積立。基本的に、株式などの有価証券の買い付けにクレジットカードを使うことはできませんが、以下の条件を満たした場合にかぎり、カード決済による購入が認められています。
・毎月一定額を継続的に購入する積み立て
・信用供与額が10万円以下
・翌月の一括払い
2018年8月に、最初にクレカ積立のサービスを始めたのは丸井グループです。tsumiki証券を設立し、グループ会社が発行する「エポスカード」を使って投資信託の積み立てを可能にしました。そして、同年10月に楽天証券が追随。2020年以降は、SBI証券(三井住友カード、東急カードなどと提携)やauカブコム証券、マネックス証券も次々と参入し、クレカ積立のすそ野が広がってきています。
2019年に話題になった「老後2000万円問題」以降、若い世代を中心に資産形成に対する関心が高まっています。こうした状況の中、クレカ積立のサービスに各社が参入しているのは、身近なクレジットカードを「入り口」にして、将来の有力な顧客につながる若年層を囲い込もうという狙いがあると見られています。対応している証券会社では、つみたてNISA口座での積み立ても可能です。
では、クレジットカードを使った積立投資は、どのような手順で始めればよいのでしょうか。
サービスによって微妙に異なりますが、基本的なステップは以下のとおり。対象のクレジットカードとマイナンバーを確認できる書類を準備しておけば、さほど手間をかけずに始められます。
(1)証券口座開設の申し込み
(2)利用するクレジットカードを登録し、積み立てる商品(投資信託など)と積立金額を決めて申し込む
(3)積立開始
(4)所定の日に、ほかのショッピング代金と一緒に積立金額がカード口座から引き落とし
「証券口座の開設」と聞くと、少し面倒に感じるかもしれません。そこで、セゾンカードを使ったクレカ積立のサービス「セゾンポケット」で口座開設を試してみました。
下記の画像のとおり、「投資経験や資産などに対する質問に回答」→「氏名や住所などの入力」→「つみたてNISA申し込みの有無」→「身分証明書(マイナンバーカード)のアップロード」という4つのステップを踏んで10分程度で完了。特に、氏名や住所などについては、セゾンカードに登録されている情報があらかじめ記入されていたので、入力の手間が省けました。後日、セゾンポケットにログインすると、「口座開設完了」となっており、積立投資を始める準備が整いました。
「セゾンポケット」で証券口座の開設を申し込み
セゾンカードに登録されている氏名や住所などの情報が、あらかじめ入力されていました(写真右)
最後にマイナンバーカードの画像情報をアップロードすれば申込完了(写真右)
口座開設が終わってしまえば、あとは、投資信託や株式を選んで申し込めば、毎月決まった日に積み立てられ、翌月ショッピング代金と一緒に口座から引き落とされます。なお、積立額は毎月変えることができます。積立日などはサービスによって異なりますが、セゾンカードの場合、以下のとおりとなっています。
※カッコ内は4月に申し込んだ場合
・毎月28日(4月28日):この日までに投資する商品と積立額を申し込み
・翌月8日(5月8日):選んだ投資信託、株式を注文
・翌々月4日(6月4日):カードの指定口座から、ほかのショッピング代金とともに、積立代金が引き落とし
サービスによっては、NISA口座やつみたてNISA口座でクレカ積立が可能
クレカ積立の7つのサービスについて、積立額に対するポイント還元率や積立額の範囲、選べる金融商品などについて見ていきましょう。
SBI証券は三井住友カードと連携し、2021年6月から同カードを使った投資信託の積立購入ができるサービスを開始。券種によっては、積立額の最大5%(月に最大2,500ポイント)のVポイントが還元されるため話題を集めています。毎月100円から50,000円の範囲で積み立てることができ、対象商品はSBI証券が扱う2,600本の投資信託です。
このサービスでは、積み立てに使うカードのグレードごとに還元率に差を付けているのが特徴的。たとえば、年会費無料の「三井住友カード(NL)」で積み立てると0.5%還元(200円積立ごとに1P=1円相当=)、同5,500円の「三井住友カード ゴールド(NL)」では1%還元(100円積立ごとに1P)、同33,000円の「三井住友カード プラチナプリファード」では5%還元(100円積立ごとに5P)となります。
「三井住友カード(NL)」での0.5%還元は目立ったものではありませんが、「ゴールド(NL)」の1%還元は高水準と言える数字。そして、「プラチナプリファード」では毎月50,000円積み立てれば、月に2,500P、年間だと30,000P貯まり、ほぼ年会費のもとが取れる計算になります。
また、SBI証券では、クレカによる積み立てのほかにも、投資信託の保有残高に応じたVポイントの還元も行っています。投資信託の月間平均保有金額が1000万円未満で年率0.1%、1000万円以上で年率0.2%のVポイントが付与されます。
クレカ積立のサービスで、安定して人気があるのが楽天証券。毎月100円から50,000円の範囲内で積立可能で、約2,600本の投資信託から選ぶことができます。
楽天証券のクレカ積立では従来、1%分の楽天ポイントの還元を受けられていましたが、2022年9月積立分からは、主要な低コストの投資信託(同社が受け取る手数料が年率0.4%未満の投信)については「0.2%」に引き下げました。
ところが、昨年引き下げた投資信託についても2023年6月買付分(4月13日以降の積み立て分)から、年会費無料の「楽天カード」は0.5%還元、同5,500円の「楽天ゴールドカード」は0.75%還元、同10,000円の「楽天プレミアムカード」は1%還元に引き上げることを発表。毎月50,000円を積み立てると、年会費無料の「楽天カード」でも年間3,000P貯まることになり、従来よりかなり改善された印象です。
楽天証券では、楽天グループの電子マネー「楽天キャッシュ」も毎月最大5万円の積立が可能です。「楽天カード」と「楽天キャッシュ」の積み立てを併用すれば、毎月最大10万円をキャッシュレスで積み立てることができ、これは同社の積み立ての大きな特徴と言えそうです。
※画像は楽天証券公式サイトより
auカブコム証券は、2022年3月28日から「au PAYカード」を使ったクレカ積立のサービスを開始しました。毎月100円から50,000円の範囲内で積立可能で、1,600本以上の投資信託から選ぶことができます。
毎月の積立額に対して1%分のPontaポイントが還元されます。対象となるのは年会費無料の「au PAY カード」と、同11,000円の「au PAY ゴールドカード」。年会費無料カードでも1%還元となるのは魅力的と言えるでしょう。
auカブコム証券では、カード決済とは別に、投資信託の月間の保有残高に応じて毎月Pontaポイントが還元される特典も用意。こちらのポイント還元率は、保有残高が100万円未満の場合は0.05%(平均50万円保有で年間250P)、100万円以上3,000万円未満の場合は0.12%(平均100万円保有で年間1,200P)、3000万円以上の場合は0.24%(平均3000万円保有で年間72,000P)となります。
マネックス証券も2022年2月にクレカ積立のサービスに参入。クレジットカード「マネックスカード」を使って積立投資ができるようになりました。毎月1,000円から50,000円の範囲内で積み立てが可能で、対象となる投資信託は約1,200本となっています。
マネックス証券のクレカ積立では、積立額の最大1.1%分のマネックスポイントが還元されます(「100円につき1P」+「1,000円につき1P」)。キャンペーンなどを除き、一般カードを使った他サービスの基本還元率の最大値が1%となる中、わずかではありますが、頭ひとつ抜け出しています。
マネックスカードの年会費は550円で、初年度は無料。2年目以降も、年1回以上のカード利用で次年度の年会費が無料となります。投資信託の購入もカード利用と判断されるため、積み立てを行う方は年会費を気にする必要がありません。また、積み立て以外のカード利用時の基本還元率も1%と高水準です。
貯まったマネックスポイントはAmazonギフトカード(1P→ギフト券1円分)やdポイント(1P→dポイント1P)に交換することができるほか、投資信託の買い付けや株式手数料に充当することもできます。
SBI証券は2022年4月からクレジットカードの「東急カード」による投資信託の積立サービスを開始しました。毎月100円から50,000円の範囲で積み立て可能で、対象となる投資信託は約2,600本です。
東急カードによる投資信託の積み立てでは、基本のポイント還元率は0.25%。「TOKYU CARD ClubQ JMBゴールド」(年会費6,600円)などの東急カードのゴールドカードを使うと「+0.75%」、東急カード年間利用額200万円以上で「+0.25%」などとなります。このほか、東急グループのサービスの利用状況によっても還元率が上乗せされ、最大3%還元まで上げることができます。
参考HP:東急カード「つみたて倍率シミュレーター」
このほか、対象投資信託の月間平均保有金額が1000万円未満で年率0.1%、1000万円以上で年率0.2%のTOKYU POINTが付与されます。
クレカ積立では、ポイントを貯められるのが魅力
tsumiki証券(ファッションビル大手の丸井グループの子会社)は2018年8月、「エポスカード」を使った積立投資のサービスを開始。顧客の多くが投資初心者というtsumiki証券の最大の特徴と言えるのが、厳選された商品ラインアップです。
tsumiki証券で購入できるのは、「セゾン・グローバルバランスファンド」「セゾン資産形成の達人ファンド」「コモンズ30ファンド」「ひふみプラス」「まるごとひふみ15」の5本の投資信託のみ。「まるごとひふみ15」を除いた4本は、長期投資に適しているかどうかで金融庁が定めた基準をクリアした「つみたてNISA」の対象商品です。
国内で購入できる投資信託は約6,000本あり、選択肢の多さは投資経験が豊富な人にとってはメリットになるいっぽうで、初心者にとっては「どういった基準でどれを選べばよいの」と負担になることも。そうした意味で、対象商品を5本の投資信託に絞り込んでいるのは、投資初心者には使いやすいサービスと言えそうです。
「tsumiki証券×エポスカード」のサービスでは、毎月100円から50,000円の範囲で積み立てることができます。年間の積立金額に応じてエポスポイント(1P=1円相当)が貯まり、1年目は年間購入額の0.1%、2年目は0.2%と0.1%ずつ増えていき、5年目に上限の0.5%になります(6年目以降は0.5%)。たとえば、毎月50,000円を積み立てた場合の獲得ポイント数は以下のとおりです。
〈1年目〉 積立額に対する還元率:0.1% 年間の獲得ポイント数:600P
〈2年目〉 積立額に対する還元率:0.2% 年間の獲得ポイント数:1,200P
〈3年目〉 積立額に対する還元率:0.3% 年間の獲得ポイント数:1,800P
〈4年目〉 積立額に対する還元率:0.4% 年間の獲得ポイント数:2,400P
〈5年目〉 積立額に対する還元率:0.5% 年間の獲得ポイント数:3,000P
エポスポイントは「1P=1円」のレートで、マルイでの買い物やプリペイドカードのチャージに使うことができます。
スマホ証券のスマートプラスがクレディセゾンと提携して、2019年11月に始めたのが「セゾンポケット」というクレカ積立のサービスです。こちらは対象の投資信託を2本に絞っているのに加え、なじみのある国内企業の株式も選べるのが特徴となっています。
セゾンポケットで選べる投資信託は、クレディセゾンのグループ会社であるセゾン投信が運用する「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」「セゾン資産形成の達人ファンド」のみで、いずれも「つみたてNISA」の対象商品です。これに加え、東証プライム市場(一部、東証スタンダード)の銘柄の中から、キリンホールディングスやイオン、吉野家ホールディングスなど、株価が積み立てしやすい水準の約130の株式と、10本のETF(上場投資信託)も購入可能です。
投資信託については毎月1,000円から50,000円、株式は毎月5,000円から50,000円の範囲内で積立可能です。貯まるのは永久不滅ポイント。還元率は0.1%〜0.5%で、月間の平均積立額に応じて下記のとおり変化します。
6か月間の月間の平均積立額が
2万円未満(6か月で計12万円未満):0.1%還元
2万円以上(6か月で計12万円以上):0.2%還元
3万円以上(6か月で計18万円以上):0.3%還元
4万円以上(6か月で計24万円以上):0.4%還元
5万円以上(6か月で計30万円以上):0.5%還元
となっています。たとえば、毎月5万円を6か月間にわたって積み立てた場合(計30万円)、永久不滅ポイントが300P(1,500円相当)貯まる計算になります。
参考HP:セゾンポケット「ポイント付与の詳細」
永久不滅ポイントはAmazonギフト券(200P→ギフト券1,000円分)などに交換できるほか、積立投資の購入代金に、100Pを450円分として充当することもできます。
以上、7つの「クレカ積立」のサービスについて紹介してきました。これまで見てきたとおり、クレジットカード決済で、投資信託などへの積立投資ができる「クレカ積立」のサービスはポイント還元に加え、少額から始められ、使い方によっては利便性の高いサービスと言えそうです。
このサービスを選ぶ際には、「対象となる投資商品」「自分のライフスタイルにあったクレジットカードはどれか」「積立時の還元率」「貯まるポイントは(自分にとっての)使いやすいかどうか」という4つの視点で選ぶのがよいでしょう。
ただ、冒頭で説明したとおり、クレジットカードでは基本的に、有価証券の購入ができません。キャッシング代わりに繰り返し使うと、債務がふくれあがる恐れがあるためです。一定の条件のもとに認められている「クレカ積立」ですが、この場合も余裕を持った金額設定にするべきでしょう。所定の期日までに申し込めば、積立額を減らしたり、一時的に停止したりすることもできます。なお、クレカ積立では1回払いのみで、分割払いやリボ払いは認められていないことも覚えておきたいポイントになります。
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