会社員の人は、6月の給与から「住民税」が引かれ始めます。こう聞くと、「新年度は4月なのになんで6月から引かれるの?」や、「引かれるタイミングが所得税と違うのはなぜ?」などと感じる人もいるかもしれません。個人の収入に対してかかる税金は、所得税と住民税の2つ。どちらも仕組みは似ていますが、納税タイミングや節税方法など、いくつかの違いがあります。今回の記事では、住民税に対して主に会社員の人が抱きがちな8つの疑問を基に、元国税専門官の筆者が解説します。
「住民税が6月から引かれる理由」など(Q2で解説)、意外と知らない住民税の仕組みを解説します
※参考記事
自動車税、固定資産税などの「キャッシュレス納税」が便利! 対応自治体も増加中(価格.comマガジン)
https://kakakumag.com/money/?id=15468
税金は大きく分けて、国に納める「国税」と、地方自治体に納める「地方税」に分かれています。国税は国の収入(歳入)となり、社会保障費や公共事業、教育費などの国の行政サービスに使われています。地方税の使い道は地方自治体により差はありますが、警察や消防、教育、公園の管理といった地方住民の日常生活に密接した費用に充てられています。
以下のグラフは、全国の地方自治体の地方税の使い道を集計したものです(総務省公式サイトより)。割合として目立つのは「民生費」と「教育費」です。民生費とは高齢者福祉や児童福祉などに充てられている費用を指します。公立学校などの運営に使われているのが教育費です。
画像は総務省公式サイト「地方税の意義と役割」より
今回の記事のテーマである住民税(個人住民税)は、給料や年金など、個人の収入に対してかかる地方税です。同じく個人の収入にかかる国税として所得税(復興特別所得税を含む、以下同じ)があるので、「個人の収入に対して、所得税と住民税の2つがかかる」と知っておきましょう。
地方税の種類
・住民税
・固定資産税
・自動車税
・事業税
・地方消費税
など
所得税と住民税は、どちらも個人収入にかかる税金なのですが、納税のタイミングがずれることに注意が必要です。給与をもらっている会社員や、公的年金受給者・個人事業主など、収入のタイプによって納付方法が異なります。本記事では会社員の人を想定して説明を進めていきます。
会社員の場合、会社から給料が支払われ、ここから所得税と住民税が天引きされます。専門用語で言うと、所得税の天引きが「源泉徴収」、住民税の天引きが「特別徴収」です。
住民税が6月から天引きされるのには、れっきとした理由があります
所得税の源泉徴収は、給料が払われる都度、その収入に応じて仮計算した税額が差し引かれます。そして、会社は天引きした所得税を、本人に代わって税務署に納税します。源泉徴収された所得税はあくまで仮計算なので、年末調整または確定申告によって最終税額を計算し、精算する流れです。このように所得税は「前払い方式」となっています。
いっぽう住民税の特別徴収が始まるのは、「収入を得た年の翌年6月から」です。年末調整または確定申告が終わり、1年間の課税所得金額が確定した後に、特別徴収が始まります。つまり住民税は「後払い方式」なのです。
このように所得税と住民税の納税時期をずらす目的は、税金の手続きを簡素化させることにあります。まずは税務署が申告内容のチェックや相談対応などを行って所得金額を確定させる。そのうえで、地方自治体は税務署から情報を引き継いで住民税を計算する。こうすることで、地方自治体はチェックなどの業務が減りますし、私たちは税務署と地方自治体の両方で手続きをする必要がなくなるのです。
それでは、今年2022年の1年間を通じて給与収入のあった会社員にかかる、所得税と住民税を比較してみましょう。
所得税は、「2022年1月から12月の給料や賞与から源泉徴収」されます。そして住民税は、税額が12分割され「2023年6月から2024年5月の毎月の給料から特別徴収」されます。
所得税と住民税は天引きされるタイミングが異なります。画像は筆者が作成
住民税を納付するタイミングは、収入が発生した時点と離れていることに注意が必要です。そのため、新入社員の場合、採用されてしばらくは住民税の特別徴収は行われません。採用されて2年目に特別徴収がスタートするので、昇給の状況によっては、就職1年目よりも2年目のほうが、手取り収入が少なくなる可能性があるので注意しましょう。
住民税を計算するときは、所得に応じて計算する「所得割」と、定額の「均等割」を合算します。所得にかかわらず負担を求める均等割は、所得税にはない特徴です。
「均等割」「所得割」にはどんな意味が?
税金には経済力に応じた課税をなすべきという「応能性の原則」という考え方があります。収入や資産が多い人ほど、税負担が大きくなるのはこの考えによるものです。所得税や住民税の所得割は、この考えに基づいています。
いっぽうで、同じ行政サービスを受けるのであれば、税負担を同じくすべきという「応益性の原則」という考え方もあります。この原則を反映し、住民税には「地域社会の会費」として均等割が設けられています。同じく、収入によらず同じ税率が適用されている消費税も、応益性の原則を反映していると言えます。
応能性と応益性のいずれも重要なのですが、どちらかに偏ってしまうのは問題です。たとえば、応能性を重視して世の中の税金が所得税だけになったと想像してみてください。収入を得ている現役世代の負担が重たくなり、収入のない人は納税せずに済みます。逆に応益性に偏ると、収入のない人の生活が苦しくなるでしょう。
住民税は、税率10%(※)の所得割と、年間5,000円の均等割を合計して計算するのが原則です。住民税の課税所得金額に10%をかけ、5,000円を足すというイメージを頭に置いておきましょう。
※筆者注:10%の内訳は、政令指定都市の場合は市区町村民税8%、都道府県民税2%。そのほかの場合は市区町村民税6%、都道府県民税4%
日本のほとんどの地方自治体が、このように「10%+5,000円」で住民税を計算していますが、わずかながら例外があります。そのため、住民税の税負担が、住んでいる場所によって変わる可能性があるのです。
住民税が高めの自治体は?
住民税が高い地方自治体のひとつが、神奈川県横浜市です。所得割の税率が10.025%(市民税8%、県民税2.025%)、均等割が年額6,200円(市民税4,400円、県民税1,800円)となっています。横浜市の住民税が高いのは、神奈川県で「水源環境保全税」が、横浜市で「横浜みどり税」がそれぞれ実施されており、自然環境保護の財源とされているからです。
逆に、住民税が安い自治体もあります。たとえば、愛知県名古屋市は所得割の税率が9.7%(市民税7.7%、県民税2%)であり、通常よりも税率が低くなっています。(均等割は年額5,300円)。これは、名古屋市の現・河村市長の選挙公約に基づき標準税率よりも少なくなっているためです。ただし、均等割については防災施策の財源確保のために引き上げられています。
このように地方自治体によって住民税に違いはあるものの、負担の差についての感じ方は人それぞれでしょう。たとえば課税所得金額が300万円の人のケースで横浜市と名古屋市を比べると年間10,650円の差額になります。これをもってわざわざ住民税の低いところに引っ越す、というのはあまり現実的ではないように思います。
前出のとおり住民税は行政サービスの財源ですから、住民税が高い分、行政サービスが充実している可能性もあります。単純に税負担の額で比べるのではなく、それがどういった目的で使われているかもふまえて、どこに住むかを考えたほうがいいでしょう。
ひとつの会社に勤め続けるのであれば、住民税の納税に困ることはないと思います。特別徴収で給与から天引きされているので、そもそも住民税を支払っている感覚が薄い人も多いのではないでしょうか。
しかし、これから退職を控えているのであれば、住民税の納税方法には注意が必要です。前出のとおり住民税は後払い方式なので、退職して収入が減った後に、退職前の収入に対する住民税を納めることになるからです。
退職する場合は、住民税の支払い方にも注意が必要
退職した後の住民税は、退職時期によって納付方法が変わります。まずは1月1日から5月31日までに退職した場合、未納の住民税が最後の給料や退職金から一括で天引きされます。ここで住民税を払いきれない場合、地方自治体から交付される納付書を使って住民税を納めなければいけません。
次に、6月1日から12月31日に退職した場合は、次の3つの方法から納付方法を選べます。
(1)会社を退職する際に、最後の給与や退職金から一括で残りの住民税を天引きしてもらう。
(2)退職後に、市区町村から住民税の納付書を受け取り、本人が支払う。
(3)次の会社で特別徴収を継続してもらう。
ちなみに、私は国税職員を辞めてフリーランスのライターになったのですが、上記(1)の方法で住民税を納税しました。そのため退職金の手取りが想定よりも少なくなったことを覚えています。特に、会社員から独立を考えている人にとって、退職金は当面の生活を支えるものですから、あらかじめ住民税の負担を想定しておきたいところです。
退職を予定している人は、毎年6月に交付される「住民税決定通知書」(勤務先より配布)を保管しておくことをおすすめします。この通知書には住民税の金額や特別徴収のスケジュールが記載されています。すでに特別徴収されている税額がいくらで、今後いくらの納税が必要になるのかを確認しておくといいでしょう。
「103万円の壁」という言葉があります。これは、所得税がかかるボーダーラインとして用いられる言葉です。
給与収入のある人には、少なくとも55万円の給与所得控除があります。また、誰でも適用される基礎控除48万円もあり、これを合計すると103万円。つまり給料が年間103万円を超えるまでは、課税所得金額がゼロになるので所得税は発生しません。
しかし、年収103万円以内に納めても、住民税はかかるおそれがあります。なぜなら、住民税を計算する場合の基礎控除は48万円ではなく、43万円だからです。
住民税の基礎控除43万円と給与所得控除55万円を足すと98万円ですから、98万円を超えると住民税がかかる可能性が生じます。つまり、住民税の場合は「98万円の壁」と言ったほうが正しいのです。
※住民税に関わる収入の基準は自治体などによって異なります。「98万円」は目安としてお考え下さい。
最後に、住民税を節税する方法について説明します。前出のとおり所得税と住民税は連動しているため、所得税の節税を行うと住民税も下がります。
したがって、会社員の人は、まずは年末調整で申請できる控除を漏れなく申請することが大切です。扶養親族の情報や支払っている保険料などを年末調整の書面に記載すると節税できるので、記載漏れに注意してください。
年末調整で申請できる控除
・基礎控除
・配偶者控除または配偶者特別控除
・扶養控除
・生命保険料控除
・地震保険料控除
・社会保険料控除
・障害者控除
・ひとり親控除・寡婦控除
・勤労学生控除
・小規模企業共済等掛金控除
iDeCoの掛金など、年末調整で漏れなく申告することで住民税の節税になります
このうち、特に節税効果の高いのが、iDeCo(※)に加入して「小規模企業共済等掛金控除」を増やす方法です。iDeCoの掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除になります。
たとえば、勤務先で企業年金や企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している会社員の場合、最大で月23,000円までiDeCoの掛金を拠出できます。住民税の所得割が税率10%とすると、1年あたりの住民税の節税効果は、23,000円×12か月×10%=27,600円になります(概算での計算となり実際の税額と異なる場合があります)。
※iDeCo(個人型確定拠出年金)
「個人で自分の年金を積み立てる」年金制度の一種です。もともと、60歳未満の個人事業主やフリーランス、企業年金がない会社員を対象にした制度でしたが、現在は、企業年金制度のある企業の従業員(会社が認めた場合のみ。2022年10月より加入は自由に)や、専業主婦、公務員、私学共済加入者でも加入することができるようになっています。掛金の拠出、運用期間中、受け取るときにそれぞれ節税になります。
節税に役立つ控除の中には、年末調整では申請できないものがあります。そのような控除を受けるには、確定申告をしなくてはなりません。
確定申告が必要な控除例
・雑損控除
・医療費控除
・寄附金控除
・配当控除
・外国税額控除
・住宅借入金等特別控除(注)
(注)1年目は確定申告を行い、2年目以降は年末調整で手続きが可能
確定申告でこれらの控除を申請すると、所得税と住民税のいずれもが減るのが普通です。しかし、住宅ローン控除と、寄附金控除は特殊な仕組みになっています。
住宅ローン控除は、所得から控除されるのではなく、納めるべき税金から直接控除される「税額控除」の仕組みです。まず所得税から差し引き、引き切れなければ一定額を限度に住民税から差し引かれます。したがって、所得税で住宅ローン控除を使い切った場合、住民税の節税にはつながりません。
「住宅ローン控除を申請したのに、住民税が減らない」と思った人は、源泉徴収票の摘要欄をチェックしてみましょう。ここに住宅ローンで差し引ける最大の金額が「住宅借入金等特別控除可能額」として書かれています(下記画像の左下の赤枠)。もしこの金額が、源泉徴収票の「住宅借入金等特別控除」の欄(下記画像の右上の赤枠)の額と同じであれば、所得税の減税で住宅ローン控除を使い切っているということを意味します。
国税庁の様式に筆者が赤枠を加筆
次に寄附金控除ですが、国や地方自治体、認定NPOなどに寄附をした場合、所得税と住民税が下がる仕組みになっています。寄附金控除を受けるには、寄附金の受領証を添えて確定申告を行うのが原則です。
ただし、地方自治体に寄附をする、いわゆる「ふるさと納税」の場合、ワンストップ特例を使って確定申告を省略できます。ワンストップ特例とは、確定申告の手続きをせずに、ふるさと納税を済ませられる便利な方法です。寄附先の自治体にワンストップ特例の申請書を出すだけで、寄附をした人の住民税が減額されます。
総務省「ふるさと納税ポータルサイト」より
ワンストップ特例を使うと、寄附金控除による節税効果は所得税に反映されません。その代わり、まとめて住民税が減額されます。たとえば2022年にふるさと納税を行い、ワンストップ特例を利用したのであれば、その節税効果を得るには2023年6月以降まで待つ必要があります。
なお、給与収入の金額などによってはワンストップ特例を利用できません。以下のフローチャートからご自身が該当するかどうか確認することをおすすめします。
国税庁公式サイト「寄附金控除(ふるさと納税など)を受けられる方へ」より
会社員の人にとって、住民税は給与から自動的に天引きされることもあり、日ごろあまり意識しない税金かもしれません。しかし、収入を得る限り住民税はかかってきますし、退職した後も公的年金に対して住民税がかかります。なにより、住民税は、日ごろ受けている住民サービスを維持するための重要な役割を担っており、私たちにとって身近な税金のひとつと言えます。本記事をきっかけに、住民税への理解を深めていただければと思います。
※参考記事
自動車税、固定資産税などの「キャッシュレス納税」が便利! 対応自治体も増加中(価格.comマガジン)
https://kakakumag.com/money/?id=15468
元国税専門官、フリーライター。2004年より東京国税局で相続税調査や確定申告対応等に従事。17年独立。著書に「すみません、金利ってなんですか?」「すみません、2DKってなんですか?」(サンマーク出版)等