筆者はヒット商品のニュースなどに触れた時、「この会社の株を買ってみたらおもしろそう」と考えることがあります。商品のヒットで業績が上がり、株価がさらに上がるんじゃないか?―――そんなシナリオを思い描くわけですが、皆さんにも経験はないでしょうか? ただ、筆者の場合、株価をチェックした段階でそのシナリオが早々に崩れてしまうことが少なくありません。
興味を持った会社の株価をチェックしてみると……(画像はイメージです)
たとえば「任天堂(7974)」。「Nintendo Switch」の品薄騒動や、「あつまれ どうぶつの森」のヒットなども記憶に新しいところですが、2020年以来の巣ごもり需要の恩恵を受け株価は高値が続いています。2022年8月の記事執筆時点では1株あたり57,000円程度で推移しており、もし買うとなると「57,000円×100株」(株は原則100株単位で売買するので)、つまり「570万円」程度が必要です。「おもしろそう」という理由だけで簡単に出せる金額ではありません(※)。
※任天堂は2022年10月に「1対10」の株式分割を予定しています。
国内有名企業の1株あたりの株価例
ファーストリテイリング(9983)……80,760円
キーエンス(6861)……51,730円
ダイキン工業(6367)……24,085円
オリエンタルランド(4661)……20,435円
※株価は2022年9月1日の終値
もちろんこれはやや極端な例で、任天堂ほど株価が高い企業は限られます。しかし、東証プライム市場(旧東証一部)に上場している企業の株価の単純平均は「2,500円」程度なので、日本の有名企業の株を買う目安として「25万円程度」はかかることになります(2022年8月時点)。
「株は高い」。そんなイメージを持っている人にぜひ知ってもらいたいのが、本記事で紹介する「単元未満株投資」です。100株単位のことを投資の世界では「単元」と呼びますが、証券会社によっては「100株未満」、つまり「単元未満」である1株単位などから投資することもできるのです。
すべての証券会社が対応しているわけではないものの、この投資方法なら、有名企業の株でも比較的手の届きやすい価格で購入することができます。ただし、よい面ばかりではなく、取引上の制限などあらかじめ知っておくべき注意点もあります。
この記事では、投資初心者向け情報を書籍やWEBサイトで発信している個人投資家でFP(ファイナンシャルプランナー)の資格を持つ竹内弘樹さんへの取材をもとに、単元未満株投資のメリット、デメリットを解説します。また、記事後半では実際に「単元未満株投資」ができる証券会社も紹介します。
取材協力・解説 竹内弘樹さん
ライフパートナーズ株式会社代表。大手食品メーカーでの研究開発職を経て独立。個人投資家としての活動と並行し、サイトや書籍で証券会社比較などの情報を発信。主な著書に「はじめての株1年生〜新・儲かるしくみ損する理由がわかる本〜」、「儲かる株・成長する株を自分で見つけられるようになる本」、「はじめての積立て投資1年生」(いずれも明日香出版社)などがある。
▼本記事の「後編」では、実際に「単元未満株投資」を実践している、会社員投資家にその魅力をインタビューしています。
40代会社員投資家が単元未満株で組んだポートフォリオを公開。いろいろな株が買えるのが楽しい!(価格.comマガジン)
https://kakakumag.com/money/?id=18754
現在、東京証券取引所(東証)をはじめ全国の証券取引所では、個別銘柄の最低売買単位を「100株」に統一しています。たとえば、1株100円の銘柄なら、「100円×100株=1万円」が最低投資額になります(手数料は考慮せず)。
「かつては『2,000株、1,000株、500株、200株、100株、50株、10株、1株』など、企業によって異なる売買単位が混在していた時代もありました。しかし、わかりづらさなどの理由から、証券取引所が2007年に『最終的に売買単位を100株に集約する方針』を発表。まず、上場企業の単元株数を『1,000株または100株』に統一し、あわせて、望ましい投資単位として『5〜50万円未満』という水準が示されました。この結果、2018年10月に現行の『100株』に統一されました」(竹内さん。以下同)
上記のように最低売買単位が変遷するいっぽう、「少額から投資したい」というニーズに応えるため、証券会社各社は「単元未満株投資」のサービスを実施しています。
「『単元未満株投資』に力を入れているのは、ネット証券各社や新興のスマホ証券各社です。主に、これから資産を形成していきたい層を対象とし、“投資の入り口”としてアピールしている印象です。最近は買付時の手数料を撤廃するなど、以前と比べて投資家に有利な証券会社も出てきています。証券会社としては、『単元未満株投資』をきっかけに、収益性の高いその他の商品の取引につなげたい狙いもありそうです」
「単元未満株投資」のサービス名称や手数料などのルールは証券会社によって異なります。これについては、記事の後半でご紹介します。
「単元未満株投資」にはどんなメリット、デメリットがあるのでしょうか? 竹内さんにそれぞれ3つずつあげてもらいました(以下、本章および次章のメリット、デメリットは竹内さんの解説です)。
「単元未満株投資」には配当金などの魅力もあります
単元未満株の最大のメリットは、資金が少なくても株式投資ができることにあります。仮に株価1,000円の銘柄だと通常なら10万円の資金が必要ですが、単元未満株なら1株1,000円から買えるわけです(手数料などは考慮せず)。これなら、興味を持った企業の株を「買ってみてもいいかも」と感じる人も多いと思います。
購入数が少なくて済むということは、仮に株価が上がっても、得られる利益は限られるかもしれません。しかし、たとえ小さくとも、成功体験を積むことによって、投資をより深く知ろうというモチベーションにもつながる可能性があります。
また逆に、株価が下がってしまった場合でも、被るダメージを最小限に抑えることができます。株価が100円下がってしまった場合、単元株(100株)だと1万円の損失になりますが、1株なら100円の損失で済みます。比較的挑戦しやすいと言えるでしょう。
メリット1とも重なりますが、「実際にお金を使って投資をする」という経験を積めるのは、とても重要なことだと考えます。最近はポイントを投資に使えるサービスなども増えてきましたが、実際の投資とは「真剣味」や「学びの多さ」の面で違いがあると感じるからです。
たとえば、たとえ1株でも実際に株を買うと、その企業のことが気になって情報を主体的に集めるようになるなど、自身の行動の変化を実感するかもしれません。
あるいは、持っている株の値段が下がってしまった場合、「あわてて売る」「一定の損失を基準に損切りができる」「なんとなく持ち続けてしまう」など、自分がどんな行動を取りがちかを、あらかじめ知ることもできます。
小さく無理のない範囲で、失敗を含めてあらゆる投資経験を積める点も、「単元未満株投資」のメリットと言えるでしょう。
株主の権利のひとつとして、その企業の業績に応じて利益の一部を株主に還元する「配当」という仕組みがあります。単元未満株を保有している株主にもこの権利があり、保有する株数に応じて配当金が受け取れます。
たとえば、「高配当銘柄」として知られる海運大手「商船三井(9104)」の場合、1株あたりの株価「3,655円」(2022年8月31日終値)につき、中間配当(9月)として「300円」がもらえます。さらに株を持ち続けると、期末配当(3月)として「200円」ももらえます(いずれも2022年8月時点の予想配当。配当にかかる税は考慮せず)。
このように、株を持っているともらえる「配当金」のような存在は、自分が株主になることの醍醐味のひとつ。それを、「単元未満株投資」によって、少ない投資資金で体感できるのはメリットです。
同じく「株を持っているともらえるもの」としては、配当金のほかに株主優待もあります。すべての企業が行っているわけでもなく、また、基本的に100株以上保有している人が対象となりますが(数は少ないものの、単元未満株でも株主優待がもらえる銘柄もあります)、単元未満でコツコツと株を買い進めることで、優待を受け取る権利が手に入ります。「単元未満株投資」にはこうした楽しみ方もあります。
続いて「単元未満株投資」のデメリットもチェックしておきましょう。
「単元未満株投資」には約定タイミングなど、単元株投資とは異なる点もあります
株の注文方法には、買いたい株価を指定して注文を出す「指値注文(さしねちゅうもん)」と、その時の株価で購入する「成行注文(なりゆきちゅうもん)」があります。しかし、単元未満株は「成行注文」しかできません。
また、約定(注文が成立すること)のタイミングが限られ、注文から約定までにタイムラグが生じます(注文受付時間や約定タイミングは証券会社によって異なる)。この点は、単元株投資との大きな違いになりますので注意しましょう。
上記の理由から、「単元未満株投資」では注文時と約定時で価格が変動している可能性が高まるため、短期での売買には向いておらず、必然的に中長期の取引を前提にすべきでしょう。
※ただし、「LINE証券」など、一部のスマホ証券ではリアルタイムで約定するものもあります(後述)。
株主になることは、その企業の経営参加の権利を持つことを意味します。具体的には、株主は、株主総会において決議に参加して票を投じる権利=議決権を持っているわけです。
しかし、単元未満株しか保有していない株主には、この議決権はありません。株主総会に参加して議決権を行使したい場合は、100株以上の株を保有する必要があります。
最近は、単元未満株を扱う証券会社の手数料争いが激しく、顧客獲得を目的に単元未満株の買付手数料を無料にする証券会社でも出てきました。たとえばマネックス証券の「ワン株」やSBI証券の「S株(えすかぶ)」は買付手数料が無料(売却手数料は約定代金の0.55%)です。
ただし、マネックス証券には「52円」、SBI証券には「55円」の、「売却時の最低手数料」が設定されているので気を付けましょう。たとえば、1,000円の株を売却したとします。両社とも売却手数料は約定代金の0.55%なので「5.5円」の手数料かと思いきや、いずれも上記の最低手数料がかかります。仮に単元未満株で利益が出ていても、約定金額によっては手数料負けしてしまう場合があるので注意が必要です。
なお、単元未満株を扱うスマホ証券には特徴のある手数料設定をしている会社があります。たとえば、「SBIネオモバイル証券」は、1取引ごとではなく、月間の約定代金の合計額で手数料が決まる仕組みです。これが50万円以下の場合、220円におさまります。
このように、手数料のルールは証券会社によって千差万別です。次章の情報を参考に、手数料がなるべく安く、かつ取引スタイルに合った証券会社を選ぶようにしましょう。
本章では、「単元未満株投資」のサービスを提供している証券会社の中から、竹内さんに手数料などの面で使いやすい証券会社を紹介してもらいました。前半はネット証券各社を、後半はスマホ証券各社を紹介します。
画像はマネックス証券公式サイトより
マネックス証券の単元未満株のサービスは「ワン株」という名称で提供されています。主要ネット証券で初めて、2021年7月より買付手数料を無料化し、「単元未満株投資」に使いやすい証券会社となりました。なお、売却手数料は約定代金の0.55%です(ただし、最低売却手数料として52円かかります)。
当日分の注文は11時30分まで受け付けており、約定タイミングは1日1回となります。ワン株での取引者数をもとに作成された「ワン株取引ランキング」など、投資家向けの情報提供にも積極的です。
画像はSBI証券公式サイトより
SBI証券の単元未満株サービスが「S株(えすかぶ)」です。かつては、買付手数料を後からキャッシュバックする「実質無料」をウリとしていましたが、マネックス証券に続く形で2022年7月4日より「完全無料」に変更しています。売却手数料はマネックス証券と同じく0.55%で、売却の最低手数料は55円となっています。
単元未満株の注文は24時間受け付けていますが、約定タイミングは、9時、12時30分、15時の1日3回となっています。
画像はauカブコム証券の公式サイトより
auカブコム証券の単元未満株サービスが「プチ株」です。売買にはいずれも、約定代金の0.55%の手数料がかかります(売買ともに最低手数料は52円)。ただし、単元未満株を積み立てで買い付ける場合は(同社では「プレミアム積立」名でサービスを提供)、買付手数料が無料になります。注文は24時間可能ですが、約定タイミングは1日2回となっています。
「プチ株」では、au系共通ポイントの「Pontaポイント」を購入代金に充てることも可能なので、「au PAYカード」や「au PAY」などを使っているau経済圏ユーザーと相性がよさそうです。
野村證券も「まめ株」名義で、単元未満株投資のサービスを提供しています。しかし、手数料が、売買ともに約定代金の1.100%と高めで、最低手数料も550円に設定されています。前出のネット証券の手数料と比較すると、「単元未満株投資」にはあまりおすすめできない取引条件となっています。
主なネット証券などの「単元未満株投資」サービスの比較表
画像はSBIネオモバイル証券のスマホ版公式サイトより
SBI証券と、「Tポイント」を手がける「CCCマーケティング」の合弁会社であるSBIネオモバイル証券。SBI証券とは別会社となりますが、SBI証券と同じ名称の「S株」で単元未満株を取り扱っています。
売買手数料はユニークな仕組みになっており、月間の国内約定代金が50万円までなら、月220円で取引し放題となっています(以降、300万円までなら1,100円、500万円までなら3,300円など、約定金額に応じて手数料が上がる仕組み)。同社では株の売買に「Tポイント」も使えますが、220円以上の売買手数料を払っているユーザーには、毎月Tポイントが200ポイント付与されます(同社限定ポイント)。月50万円までの取引をする場合はなかなかおトクな証券会社と言っていいでしょう。
なお、注文は24時間可能で約定タイミングは1日3回です。
画像はLINE証券のスマホ版公式サイトより
LINE証券の単元未満株サービスは「いちかぶ」です。同社は、市場から株を仕入れ、それを投資家に販売する「相対取引」となります。そのため、取り扱い銘柄は有名企業を中心とした1,500社程度となっており、リアルタイムでの約定が可能です。一部の銘柄を除いて夜間にも約定されます。
手数料はスプレッド方式を採用しており、購入時は市場価格より少し高い価格、売却時は少し安い価格を提示し、その差額(スプレッド)が実質的な手数料となります。日中は売買とも0.35%(往復0.7%)。夜間など一部時間帯は1.0%(往復2%)となります。
画像はCONNECTのスマホ版公式サイトより
CONNECT(コネクト)は大和証券系のスマホ証券です。同社の単元未満株サービスが「ひな株」。手数料は、LINE証券の「いちかぶ」と同じく、売買ともに0.5%のスプレッド方式です(往復1%)。夜間などを除き、約定はリアルタイムで行われます。なお、投資対象は国内380の企業となります。
CONNECTと「dアカウント」を連係させると、共通ポイントの「dポイント」を「1ポイント=1円」で投資に使うことも可能です。また、約定金額の0.1%相当の「dポイント」も貯まるので、CONNECTを利用する人は、「dアカウント」との併用がおすすめです。
紹介したスマホ証券の「単元未満株投資」サービスの比較表
まとまった資金を持っていない人や、リスクを抑えて取引したい人など、株式投資の初心者でも始めやすい「単元未満投資」。最後に、竹内さんに、「単元未満株投資」の次のステップについてうかがいました。
「『単元未満株投資』で取引に慣れた後は、徐々に保有株数を増やして単元株まで買い足し、株主優待を楽しんだり、株主総会の議決権を得たりと、個別株投資をより深めてみてもいいと思います。あるいは、『株価の動きに気を取られて落ち着かない』という経験をされた人は、個別株ではなく、価格変動が比較的穏やかな投資信託を選ぶなど、投資対象を考え直してもいいかもしれません。投資と自分の相性を確かめるにも、『単元未満株投資』を投資のファーストステップとして活用してみてはいかがでしょうか?」
本記事の後編では、実際に単元未満株投資を行っている個人投資家へのインタビューを通じて、「どんな銘柄を買っているのか」「実際やってみてどんな楽しみがあったか」など、単元未満株投資のリアルな情報をご紹介しています。ぜひあわせてお読みください。
執筆協力:大正谷成晴
▼本記事の「後編」はこちら。
40代会社員投資家が単元未満株で組んだポートフォリオを公開。いろいろな株が買えるのが楽しい!(価格.comマガジン)
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