クレジットカード、電子マネー、QRコード決済……。めまぐるしく変化するキャッシュレス決済の動向をコンパクトに伝える連載「おトクの真相! 月刊キャッシュレス展望」。最近のキャッシュレス関連のニュースから、マネー編集部員やマネー担当ライターが気になったニュースをピックアップしてお届けします。記事内や記事の最後には、記事公開時点で参加可能なキャンペーン情報も掲載していますので、こちらもぜひチェックを。
今回は、NTTドコモが三菱UFJ銀行と共同で始めた「dスマートバンク」や、JR東日本が楽天銀行のインフラを利用して来春より開始予定の「JRE BANK」など、非金融企業が手がけるデジタル金融サービスの話題を中心にご紹介します。
ドコモと三菱UFJ銀行が共同で始めたデジタル口座サービスの「dスマートバンク」(上写真)。仮想の「貯金箱」機能や、ドコモ系列の共通ポイント「dポイント」が貯まる仕組みなどのユニークな特徴を持っています。このほか、JR東日本が2024年春に始める予定のデジタル金融サービスの話題や、最新のキャッシュレス決済の利用状況調査の結果などをお伝えします
※本記事内では、「デジタル口座サービス」、「デジタル金融サービス」の用語が混在していますが、いずれも、サービス提供企業側の発表資料の表記にならったものです。記事タイトルには、より広義な意味合いを持たせる目的で「デジタル金融サービス」を使っています。
NTTドコモ(以下、ドコモ)は2022年12月より、三菱UFJ銀行と共同でデジタル口座サービスの「dスマートバンク」の提供を開始しました。両社は2021年5月にデジタル金融分野での業務提携を結んでおり、「dスマートバンク」はその提携に基づいて登場したサービスです。本サービスでは、ドコモ側がユーザー向けの専用アプリを提供。いっぽうの三菱UFJ銀行側が、銀行機能を提供する「BaaS基盤」(※)を開発し、専用アプリを通じての口座開設機能や、インターネットバンキング機能などを提供しています。
※Banking as a Serviceの略称。銀行が持つ決済・預金・融資・保険などの金融機能をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)を介して機能単位で事業者に提供する仕組み。
「dスマートバンク」のキャッチコピーは、“お金が「じょうず」になるデジタル口座サービス”。画像は「dスマートバンク」の公式サイトより
「dスマートバンク」の専用アプリ上では、三菱UFJ銀行の新規口座開設や、預金口座残高・入出金明細の確認などができるほか、アプリ内に仮想の「貯金箱」を15個まで作ることができます。これは預金を目的別に仕分けする機能で、それぞれの「貯金箱」には「貯蓄」「旅行用」「家電購入費」など自由に名称を付けることができます。また、「貯金箱」のひとつとして、ドコモが提供する投資一任サービス(ロボアド)の「THEO+ docomo」と連動した「はたらく貯金箱」も用意されており、「運用」という目的に預金を回すこともできるようになっています。
三菱UFJ銀行の口座を持っている筆者もさっそくこの「貯金箱」機能を試してみましたが(「dスマートバンク」の利用開始方法は、本章の最後で触れています)、ひとつの銀行口座を用途別に整理し、目に見える形で管理できるのはなかなか便利だと感じます。自分で決めた金額を定期的に預金から「貯金箱」に移す機能もあるので、計画的にお金を貯めたいシーンで役立ちそうな印象を受けました。
試しに「家族旅行」と「パソコン買い替え」の2つの「貯金箱」を作成。前者には毎月10,000円、後者には毎月5,000円、といった具合に、預金から定期的に自動でお金を振り分ける設定もできます
そのほか、「dスマートバンク」の大きな特徴としてあげられるのが、口座の利用で「dポイント」が貯まる点です。携帯料金やドコモのクレジットカード「dカード」など、ドコモに関する利用料金の引落しで月に50ポイント(ただし登録後3年目以降は月25ポイント)、給与や年金の受け取り(いずれも1回10万円以上)で月5ポイントが貯まります。理論上は年に660ポイントが貯まる計算です(登録3年目以降は360ポイント)。
「dスマートバンク」では利用状況に応じて「dポイント」が貯まります。画像はドコモのプレスリリースより
ただし、現状、「dスマートバンク」アプリ上には振込機能はなく、振り込みたい場合は、アプリから三菱UFJ銀行のインターネットバンキングである「三菱UFJダイレクト」に遷移する仕様になっているなど、金融アプリとしてはやや“道半ば”との印象も受けます。そこで気になるのが、今後このサービスがどのように成長していくのかという点です。
発表されている資料などによると、ドコモは「dスマートバンク」をドコモが提供する各種金融サービスの中核と位置付け、将来的に各サービスへの誘導強化につなげる考えのようです。ドコモには、決済サービスの「d払い」、クレジットカードの「dカード」、スマホを使った融資サービスの「dスマホローン」など、金融サービスが複数存在しています。現状は、前出の「THEO+ docomo」をのぞき、これらのサービスと「dスマートバンク」は別個に存在しているわけですが、いずれは、「口座の利用状況に応じて各種金融サービスがタイミングよくユーザーにお勧めされる」など、ドコモの金融サービスの入口としての機能が強化されていくことが予想されます。
いっぽう、三菱UFJ銀行側のメリットとしては、9,000万人超のdアカウントユーザーと接点が持てることや、「dスマートバンク」をきっかけとして、今後、ほかの事業者へのBaaS提供を広げ、収益化していきたい狙いがあるようです。
「dスマートバンク」は、三菱UFJ銀行の口座を持っていない新規ユーザーの場合、アプリ上から口座開設の申し込みができ、最短で当日中に口座を開くことができます。なお、申し込みの際はdアカウントが必要になります(ドコモ回線の契約者以外でもアカウント開設が可能)。
また、筆者のようにすでに三菱UFJ銀行の口座を持っているユーザーの場合、「dスマートバンク」アプリを通じて、口座とdアカウントとの紐づけが可能です。ひとつ注意したいのは、現在、三菱UFJ銀行が採用している「Pontaポイント」が貯まる優遇サービスと、「dスマートバンク」の「dポイント」が貯まるサービスの併用ができない点です(「dスマートバンク」に登録すると自動的に「Pontaポイント」との連携が切れてしまう仕組み)。したがって、「Pontaポイント」を意識的に貯めている人は、どちらのポイントで貯めたほうがトクか比較したほうがいいかもしれません。三菱UFJ銀行での「Pontaポイント」が貯まる優遇サービスについては、下記の記事でも解説しているので、参考にしてもらえればと思います。
2つめの話題も非金融企業によるデジタル金融サービス参入の動きです。2022年12月、JR東日本は、デジタル金融サービスの「JRE BANK(ジェイアールイーバンク)」を2024年春にスタートさせることを発表しました。「JRE BANK」は、楽天銀行が持つ金融サービス向けのインフラを活用。運営主体はJR東日本の金融子会社である「ビューカード」が担います。
「JRE BANK」のコンセプトイメージ。画像はJR東日本のプレスリリースより
「JRE BANK」は、専用のアプリやWEBサイトから口座が開設可能で、デビット機能付きのキャッシュカードが発行されます。首都圏の駅構内に設置されている同社ATM「VIEW ALTTE(ビューアルッテ)」では、回数制限なしに手数料無料で現金を引き出せるようになる予定で、通勤・通学の経路などに同ATMがある人にとっては便利な存在になりそうです。このほか、詳細は未定ながら、預金や住宅ローンなど口座の利用に対して、同社系列の「JRE POINT」の付与や、新幹線などでの優待などの特典が予定されているようです。
ただし、「JRE BANK」は楽天銀行のインフラを活用するものの、楽天IDとの連携はなく、楽天ポイントが貯まる機能はないようです。
前出の「dスマートバンク」と同じく、「JRE BANK」もBaaSの仕組みが活用されています。ユーザー向けのインターフェイスとしてJR東日本のブランドやアプリを活用しつつ、裏側の銀行機能を楽天銀行が担うという構図です。
BaaSは銀行の預金・融資といった金融業務をAPI経由で機能ごとに他社に提供する仕組みのことですが、これを活用することで、非金融企業であっても自社サービスに金融機能を導入しやすくなるメリットがあります。本来、非金融企業が銀行業に参入するには銀行免許を取得したうえでシステムなどの整備をする必要がありますが、これには莫大なコストがかかり、かつ免許取得も容易でありません。BaaSはこうしたハードルを下げるのに便利な仕組みとなっており、国内では、住信SBIネット銀行が、ヤマダデンキやJALなどに対してBaaSを提供していることが知られています。
国内のBaaS活用例(カッコ内はBaaS提供企業)
・ヤマダホールディングスのヤマダNEOBANK(住信SBIネット銀行)
・JALのJAL NEOBANK(住信SBIネット銀行)
・CCCのT NEOBANK(住信SBIネット銀行)
・高島屋の高島屋NEOBANK(住信SBIネット銀行)
・オープンハウスの、おうちバンク(住信SBIネット銀行)
・pixivの、みんなの銀行ピクシブ支店(みんなの銀行)
・パーソルテンプスタッフの、みんなの銀行テンプスタッフ支店(みんなの銀行)
など
※編集部調べ
JR東日本では、加速する少子高齢化や、コロナ禍による生活スタイルの変化などによる輸送サービス事業の停滞が喫緊の課題として指摘されています。これを受け、同社は経営ビジョン「変革2027」などにおいて、輸送サービス以外の分野(同社は「JRE POINT生活圏」と呼称)を収益源として拡大していく意向を示しています。今回のデジタル金融サービスの導入にも、輸送サービス以外のユーザーの生活により深く入り込みたい同社の狙いが表れており、スピーディーに金融サービス導入を実現するBaaSがその助けになっていることは間違いないでしょう。
現在、多様なキャッシュレス決済手段が使われていますが、株式会社インフキュリオンが2022年12月末に発表した「決済動向2022年12月調査」によれば、「QRコード決済アプリ」(以下、「コード決済」)の人気ぶりが明らかになっています。
キャッシュレス決済手段別の利用率の推移。出典「決済動向2022年12月調査」(株式会社インフキュリオン)
同調査によると「コード決済」の利用率は62%と、前回調査(2022年4月)に比べると5ポイント増加。これで、前回調査に続いて、「FeliCa型電子マネー」(以下、「電子マネー」)を上回る結果となり、「コード決済」が、「クレジットカード」(78%)に次ぐキャッシュレス決済手段として定着しつつあることがうかがえます。
1年前と比較した利用増減について。出典「決済動向2022年12月調査」(株式会社インフキュリオン)
1年前と比較した利用増減においても、「コード決済」は、「かなり増えた」「増えた」の合計が59%となっており、「電子マネー」(35%)、「クレジットカード」(33%)と比べて、決済シーンでの浸透具合が上がっていることがわかります。
また、若年層を中心に利用が広がっている「BNPL」(後払い決済)の利用率は11%と、前回調査と横ばいの結果でしたが、1年前よりサービスの利用が増えたと回答した人は40%に達しており、繰り返し使っている人が多いことがわかります。
「過去1年以内に現金利用したシーン」および「現金利用したが、できればキャッシュレスで支払いたいシーン」。出典「決済動向2022年12月調査」(株式会社インフキュリオン)
同調査では「現金を利用したが、キャッスレスで支払いたい決済」についてもリサーチしており、その結果もっとも多かった回答が「医療機関」(63%)、次いで「鉄道やバスの運賃」(62%)、「タクシー」(54%)の順番でした。
いっぽう、「お小遣いやお祝い金」については「キャッシュレスにしたい」と答えた人が17%に留まっており、キャッシュレス化になじまない用途も根強く残っていることがうかがえます。
本記事トップでも触れた「dスマートバンク」の開始にともない、現在「dポイント」がもらえる3つのキャンペーンが実施されています。いずれも、実施期間は2023年3月末日までとなっています。
1 「dスマートバンク」からの三菱UFJ銀行口座新規開設特典
期間中、キャンペーンにエントリーのうえ、「dスマートバンク」アプリから三菱UFJ銀行口座を新規開設すると、「dポイント」が1,000ポイント付与されます。
2 「d払い」の残高チャージ用口座の設定特典
期間中、キャンペーンにエントリーのうえ、「d払い」残高のチャージ方法として、「dスマートバンク」登録口座を設定・維持すると、「dポイント」が200ポイント付与されます。
3 「dカード」利用代金の引落し口座の設定特典
期間中、キャンペーンにエントリーのうえ、「dカード」の利用代金の引落し口座を「dスマートバンク」登録口座に設定し、500円以上の引落しが1回以上あると、抽選で50人に「dポイント」が1万ポイント、同5,000人に100ポイント付与されます。
上記1~3共通
期間:実施中〜2023年3月31日
https://dsmartbank.docomo.ne.jp/campaign/
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