今年2023年4月から、子どもが生まれたときに支給される「出産育児一時金」が増額されました。また、将来的に、出産費用への健康保険適用が検討されているという話も聞きます。政府の「異次元の少子化対策」というワードもニュースなどでよく流れてくるので、なんとなく「出産や子どもに関するお金の支援が増えてきている」と感じている人も多いでしょう。特に、これから出産を控えている家庭にとっては気になる話題だと思います。
そこで今回は、昨年(2022年)第一子が生まれ、「お金の支援が意外と多くて助かっている」と話す当記事編集担当のN氏(40代男性)の経験をふまえながら、「出産前後のお金の支援」を時系列で整理してみました。
事前に知っておくことでお金の不安もやわらぐはず
私の不勉強もあって、妻の出産前には「いったいいくらかかるだろう」という漠然とした不安を感じていたのですが、「出産育児一時金」の存在を知って安心した記憶があります。これが「42万円→50万円」に増えたのは、出産を控える家庭にとって心強いですね。
「出産育児一時金」は出産費用の経済的負担の軽減を目的とする代表的な給付金です。近年は全国的に病院での出産費用が上がっていて、令和2年(2020年)度の出産費用は全国平均で46.7万円でした。つまり、「出産育児一時金」だけではまかなえないケースが増えていたので、理にかなった増額だと思います。
(以下、本文は筆者の解説です)
もともと、子どもを妊娠してから出産までの間に通う「妊婦健診」や出産には、原則として公的な健康保険が効きません。重度の「つわり」や切迫早産で入院をしたときや、帝王切開で出産したときなどは保険の対象になり、医療費の自己負担は3割で済みますが、経過が順調なら病院でかかる費用は10割負担となります。
出産時には分娩費用として数十万円単位の費用がかかりますし、ほとんどのケースでは入院もするので、入院費用や差額ベッド代も別にかかります。そのため、負担軽減策として「出産育児一時金」という、「ひとりあたり42万円」もらえる国の補助制度があったのです。
前出のとおり、2023年4月に「出産育児一時金」が子どもひとりあたり42万円から50万円に引き上げられました。補助が増額されたことで出産のお金の負担はいくぶんか軽減されたと言えますね。
「出産育児一時金」を含め、出産前後のお金の支援にはいろいろなものがありますが、私自身は、「どのタイミングで、どんな制度があるのか」がわからなくて苦労した覚えがあります。
出産や子育てに関連するお金の支援策はひんぱんに変更されるので、完全に頭に入れておくのはなかなか難しいと思います。ひとまず、現在の制度を「妊娠から出産後までの時系列」で整理しておいて、いざ利用するタイミングで詳細をあらためてチェックするといいかもしれません。
「出産前後のお金の支援」の主だったもの(2023年5月時点)
妊娠が判明したら、住んでいる地域に妊娠届を提出して「母子健康手帳」を受け取り、定期的に「妊婦健診」を受診します。地域によってはお祝いとして補助やプレゼントがもらえるところも。また、妊娠中にはそれまでとは違った体調の変化が生じることもあり、医療費や休業への補助を受けられることもあります。
「妊婦健診」には公的な保険が適用されないため、健診費用は原則として全額が自己負担で、金額も病院によってまちまちです。そのため、「妊婦健診」については全国すべての市町村が補助制度を設けていて、全国平均で妊婦さんひとりあたり107,792円が補助されています。
「妊婦健診」は出産までの間に14回前後受けるのが一般的ですが、すべての市区町村で、14回以上の「妊婦健診」への補助を行っています。一部の検査や出生前診断などを除けば、補助を差し引いた自己負担は1回あたりゼロか、数千円程度で済むようになっています。
また、里帰り出産のために、住んでいる地域以外で「妊婦健診」を受けたときには、その場では全額を支払うことになりますが、里帰り出産のための「妊婦健診」の費用補助をしている地域もあります。妊娠中にリスクが高くなりがちな虫歯や歯周病に備えて、妊婦さん向けの歯科健診の費用を補助する地域もあります。
参考
妊婦健康診査の公費負担の状況について(令和4年4月1日現在)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000552443.pdf
妊娠届を提出した地域の自治体では、「出産・子育て応援ギフト」(「出産・子育て応援給付金」などとも。名称は各自治体によって異なる)として、妊娠届出時に5万円相当、出生届時に5万円相当の合計10万円相当の支援が受けられます。
内容は、ベビー用品や子育てサービスに使えるクーポンの発行だったり現金だったりと、各自治体用によって異なります。自治体によっては、上記金額に独自の支援金を上乗せして給付しているところもあるようです。一度、住んでいる自治体のサイトなどをチェックしてみるといいでしょう。
わが家もこの制度の対象で(2022年4月以降に出生の家庭が対象)、住んでいる自治体から10万円が振り込まれて大変助かりました。この制度は「子育て世帯の伴奏型相談支援」が本来の目的。給付金を受けるには自治体の面談などを受けることが必須のようです。
妊娠中でも、風邪など保険の効く治療は、通常と同じように3割負担です。また、1か月の医療費の自己負担が重くなった場合は「高額療養費」といって、所定の自己負担限度額を超えた部分は健康保険から戻ってきます。所定の金額は収入によって異なり、たとえば、給与などの平均を区分した額である「標準報酬月額」が26万円以下の場合には、月5万7,600円を超えた分の自己負担が還付されます。
仕事をしている人は、出産予定日から6週間前(双子以上なら14週間)になると「産前休業」を取れるようになりますが、その前の時期に体調が悪くなって長期間休んだ場合には、「傷病手当金」を受け取れることがあります。受け取れるのは仕事を4日以上連続で休んだ場合で、4日目以降に支給されます。標準報酬月額を日割りし、その3分の2が、休んだ日数分受け取れます。
参考
出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf
妊娠期から乳幼児期までの健康に関する重要な情報がすべて記載される「母子健康手帳」
出産を迎えるときには、前出のように出産費用を補うための「出産育児一時金」を受け取れます。また、働いていて産休を取るときには「出産手当金」があります。このほか、「受け取れるお金」ではありませんが、社会保険料など「免除されるお金」もあります。
前出のとおり、国から子どもひとりあたり50万円の「出産育児一時金」が支給されます。双子なら2人分です。入院時に手続きをしておけば、退院時には出産費用から50万円を差し引いてから請求してもらえる産院もあります(直接支払制度あるいは受取代理制度)。手続きなどの詳細は、利用する産院にあらかじめ確認するといいでしょう。
働いている人で、出産予定日から6週間前(双子以上なら14週間)から「産前休業」、産後8週間まで「産後休業」を取得して給与が出なかった人には、加入している健康保険から「出産手当金」が出ます。標準報酬月額の平均額を日割りし、その3分の2が、休んだ日数分受け取れます。
参考
出産で会社を休んだとき(全国健康保険協会)
https://www. kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat315/sb3090/r148/
産前産後の所定の期間は、社会保険料の納付が免除されます。
会社員や公務員の場合は、産前産後休業を取得している間、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料(40歳以上)が免除されます。働いている間はこれらの保険料が給料から天引きされますが、産休中は給料が支給されているかどうかにかかわらず全額免除されます(従業員だけでなく企業側の負担分も免除)
自営業やフリーランスで国民年金に加入している人は、出産予定日・または出産日の前月から4か月間(多胎の場合は出産予定日・または出産日の3か月前から6か月間)の国民年金保険料が免除されます。令和5(2023)年度の国民年金保険料は月16,520円ですから、約6万6,000円の負担が軽減されます。
私は当初「受け取れるお金」ばかりに目が行きがちだったのですが、家計のことを考えたときには「社会保険料の免除」のように「支払わなくてもいいお金」に目を向けることも大切だと感じます。
参考
従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が産前産後休業を取得したときの手続き(日本年金機構)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/sankyu-menjo/20140509-02.html
国民年金保険料の産前産後期間の免除制度(日本年金機構)
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20180810.html
出産前後の産休・育休中は、社会保険料の支払いが免除されます
産後に仕事を休むときには、妻、夫それぞれが給付金を受けられます。また、子育て支援として「児童手当」の支給も始まります。
産後8週間まで、妻は前出の「産後休業」を取得することができるのですが、同じ期間に夫も休業を取得することができます。2022年10月に始まった「産後パパ育休」という制度で、後述する「育児休業」とは別に取得できます。
休んだ日に給料が出なかったり減額されたりした場合には、「出生時育児休業給付金」が受け取れます。休業を開始したときの賃金日額の67%が、休業日数分支給されます(一部給料が支給されている場合には、給付金額が調整されます)。
参考
育児休業給付の内容と支給申請手続(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000986158.pdf
子どもが生まれてから原則1歳(最長2歳)になるまで、働いている人が仕事を休むときには「育児休業給付金(いわゆる育休手当)」が支給されます。休業を開始してから180日までは休業前の賃金日額の67%、181日目以降は50%が、休業日数分支給されます(一部給料が支給されている場合には、給付金額が調整されます)。共働きの場合には、夫婦それぞれ2回まで育休を分割して取得でき、給付を受けられます。
参考
育児休業給付の内容と支給申請手続(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000986158.pdf
3歳未満の子どもがいて育児休業を取得している期間中は、健康保険と厚生年金保険の保険料が免除されます。昨年(2022年)10月から要件が緩和されて、1か月に育児休業を14日以上取得した月は、月の途中で復帰した場合などでもその月の保険料が免除されます。
参考
令和4年10月から育児休業等期間中の社会保険料免除要件が見直されます(厚生労働省)
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2022/0729.files/ikukyu-chirashi.pdf
私も3週間育休を取得しましたが、「育休手当」と「社会保険料の免除」で家計への影響はほぼ感じませんでした。ただし、「育休手当」の支給は2か月に1回で、初回の支給も育休開始から2か月前後かかるのが一般的のようです(私の場合も育休終了後に振り込まれました)。長期の休みを取る人は支給のタイミングと家計との兼ね合いに要注意です。
子どもが生まれたら、子育てを応援するギフトやベビー用品費用の補助などを受けられる自治体もあります。ベビー服やミルク、離乳食などの現物支給や、ベビーカーやチャイルドシートのレンタルや購入費用の補助、家事代行サービスやベビーシッター代の費用補助など、サービスの幅は地域により多様です。
子どもには、国の「児童手当」が支給されます。3歳未満は月に15,000円、3歳以上は小学校修了前まで月10,000円(第3子以降は15,000円)、中学生は一律月10,000円です。
子どもが生まれた後、申請した月の翌月分の手当から支給されます。出生日が月末に近い場合にはその翌日から15日以内に申請すれば、申請日が翌月になっても申請月分から支給されます。ただし、申請が遅れると、原則として遅れた月分の手当を受けられなくなるので、早めに手続きをすることが重要です。子どもの出生届を提出するときに、児童手当の手続きも案内してもらえる役所も多いのであらかじめ確認しておきましょう。
ひとつ注意したいのは所得制限です。子ども2人と専業主婦がいる会社員の家庭の場合は目安年収960万円、子どもが3人なら年収1,002万円を超えると、受給額がカットされ、月額5,000円になります。さらに同じ条件で、年収1,162万円(子ども2人)、または年収1,200万円(子ども3人)を超えると、児童手当はゼロになってしまいます。現在、所得制限の撤廃が議論されていて、東京都など一部の自治体では独自の手当てを設け、国に先駆けて所得制限を撤廃する動きなどもあるようですが、現時点では収入によって受け取れない場合があるのでご注意ください。
参考
児童手当制度のご案内(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/jidouteate/annai.html
「児童手当」の支給タイミングは6月、10月、2月の年3回。私の実感として「忘れかけた頃に振り込まれるお金」のようなイメージがあります。“使途不明”とならないためにも、子ども名義の銀行口座に貯めるなど、使い道や管理方法を家庭で決めておいたほうがいいかもしれません。
お金の不安を少しでも減らしかけがえのない時間を大切に
これらの制度を頭に入れておけば、出産前にある程度お金の不安が軽減できると思います。ただし、実際にはこの後にもいろいろと関係してくるお金もありますよね? たとえば、確定申告の「医療費控除」を使う場合は、その年に発行された領収書をすべて取っておく必要がありますが、わが家は、子どもが生まれた年の領収書が何件か見つからず、申告できなかった医療費がありました。
そうですね。妊娠・出産をする年には病院に行く機会が増えますので、補助を受けてもまだ自己負担がそれなりにかかるケースもあります。自己負担額が所定額を超えたときには、所得税の医療費控除を使って税を軽くできる可能性があるので、領収書は取っておくことをおすすめします。
これ以外にも、出産後には、「子どもの医療費無料」や「幼保無償化」などの親にとって助かる制度があります。将来かかってくる「子どもの教育費の貯め方」なども気になるところではないかと思います。これらについては、機会をあらためてお伝えしたいと思います。
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)。マネーステップオフィス株式会社代表取締役。保険会社、信託銀行、ファイナンシャル・プランナー会社を経て独立。専門は家計、ライフプラン、資産運用など。