最近のスマートフォンでは、広角レンズを搭載する機種が増えてきました。たとえば、価格.comのスマートフォン人気ランキングでSIMフリーモデルのトップに位置するファーウェイの「P30 lite」は、通常のカメラと120度の広角カメラの2つを背面に備えています。
いっぽう、広角ではなく望遠撮影を特徴とするスマートフォンは、選択肢がかなり限られます。最近の機種では、メインカメラに対して光学5倍(ハイブリッドズームなら10倍)の望遠カメラを備えたOPPOの「Reno 10x Zoom」くらいです。
そんななか、光学機器メーカーのケンコー・トキナーから、スマートフォンで望遠撮影ができるクリップタイプ望遠レンズの新モデルが登場。どのような写真が撮れるのか気になったので、早速試してみることにしました!
今回購入したのは、ケンコー・トキナーがスマートフォン向けに販売している外付けレンズシリーズ「REAL PRO」の最新製品となる「リアルプロクリップレンズ 望遠8倍」です。
パッケージ外観。望遠8倍の効果を示すイメージ写真付き
名称が示すとおり、本製品はスマートフォンに取り付けることで光学8倍の望遠撮影を可能とする外付けレンズです。
レンズ本体のサイズは90mm(全長)×31mm(直径)。先端部分を回転させると対物レンズの位置が前後して、ピントを合わせられるようになっています。後端部分にはネジが切られており、後述するクリップにねじ込むことでスマートフォンに装着できます。
また、ネジの周囲を回転させてアイカップを引き出せば単眼鏡に変身。スマートフォンと人間の両方に対応する製品となっています。
本製品のレンズ本体。先端(左側)を回転させてピント調整ができるほかに、後端(右側)のアイカップを引き出して単眼鏡として使うことも可能
レンズを取り付けるためのクリップにも工夫が凝らされています。レンズ本体を取り付けるためにネジが切られている部分はスライドするようになっていて、スマートフォンのカメラの位置に合わせやすくなっています。
なお、レンズを取り付けてからではカメラの位置に合わせにくいので、下の写真のようにあらかじめ位置を調整してからレンズを取り付けるのがおすすめです。
レンズを取り付ける部分がスライドする構造になっているので、スマートフォンのカメラに対する位置を合わせやすい
このタイプの製品のクリップはスプリングの力だけでスマートフォンに取り付けられているため、ちょっとした拍子に位置がずれてしまったり、クリップが外れたりすることがあります。「クリップをつまんでスマートフォンを落としてしまう」ような、ショッキングなトラブルもあり得ます。
不意の脱落をなるべく防ぐために、本製品にはクリップが開かないようにするための落下防止ネジが備わっています。位置の調整後にこのネジを締めておけば、クリップが外れにくくなります。
クリップには落下防止ネジが付属。取り付け後にネジを締めておけば、落下のリスクを減らせます
なお、「スマートフォンをクリップではさむ」という構造上、画面側の一部分にもクリップがかぶさることになります。
今回使用した「iPhone 7」は画面上下のベゼルが広いので特に問題はありませんでしたが、最近のスマートフォンではノッチ(切り欠き)を備えたベゼルレスデザインの端末も増えています。機種によっては画面の一部がクリップに隠されてしまい、撮影時の操作に支障をきたすことがあるかもしれません。
また、レンズが取り付けられる端末は、クリップではさむ部分の厚さが30mm以下、端末の端からカメラの中心までの距離が25mm以下となっています。そのため、カメラが背面の中心線上に配置されているような機種では、本製品が取り付けられません。購入してから困らないように寸法を測っておきましょう。
画面側にもクリップがかかるので、最近のベゼルレスなスマートフォンでは画面の一部が隠れてしまう可能性もあります
クリップが固定できたら、レンズ本体をねじ込んで取り付けます。ネジの部分も樹脂でできているので、無理にねじ込むとネジ山を潰してしまうことも考えられます。かみ合わせに少し注意しながら取り付けました。
レンズを取り付けたところ。サイズは別として、黒一色のデザインなので変に目立つ感じはありません
本製品の重量は59g(レンズ本体のみ)。iPhone 7の重量が138gなので、クリップも含めた本製品全体の重さはiPhone 7の半分近くに達します。
スマートフォンで写真を撮るときは両手の指先でつまむように持ったりすることもありますが、飛び出たレンズ本体がそれなりに重いため、片手でレンズ付近をしっかり支えて撮るほうが撮影しやすく感じました。
まるで普通のカメラで写真を撮るように、片手でしっかり支えてあげると撮影しやすくなりました
また、本製品には持ち運び用のポーチやクリーニングクロスが付属します。レンズを取り付けたままのスマートフォンは持ち歩きにくいですが、撮影以外の場面ではレンズを外してポーチに入れれば携帯しやすくなるので便利です。
同梱物は望遠レンズ本体、レンズマウント用のクリップ、持ち運び用のポーチ、クリーニングクロスの4点
届いたばかりの本製品を手に、さっそく何枚か写真を撮ってみました。ネジを回すだけでレンズを着脱できるので、通常の画角と望遠8倍の撮影を手早く切り替えられるのも本製品の魅力のひとつです。
こちらは価格.comマガジンが毎月実施している格安SIM速度調査で「人口密度の低い地域」として定点調査を行っているJR佐久平駅。いずれもiPhone 7の標準カメラアプリを使い(以下の作例も同様)、レンズを付けない状態と付けた状態で撮影したものです。
レンズを付けない状態では小さく写っているにすぎない駅名表示ですが、レンズを付けて撮影すると、英字表記がはっきり読めるほどに大きく写ります。
ただ、駅名表示の下にあるひさしを見てみると、左右に下がるようにゆがんで写っているのがわかります。また、「佐久平」の文字周辺はくっきりと写っていますが、JRの「J」の文字や街路樹は少しぼやけていて、にじむような色収差の影響も認められます。
レンズなしで撮影した佐久平駅の駅舎
レンズありで撮影した駅名表示。ひさしがゆがんでいたり、街路樹が色収差でにじんでいたりしています
別のアングルからステンドグラスを撮影してみましたが、真四角の窓枠が内側にたわむように写っているのがわかります。建物などの幾何学的な被写体を撮影したときには、このようなゆがみが気になりました。
レンズなしの状態で別のアングルから撮影した駅舎
同じ場所からレンズありの状態でステンドグラスを撮影。中央部分は四角形を保っていますが、外側へ離れるにつれて内側に向かってたわんでいるように見えます
駅近くの公園に移動して遊具を撮影してみましたが、やはり周辺部分ではゆがみとにじみが気になる結果に。ただし中央部分はくっきり撮影できるので、製品パッケージにあったような動物をはじめ、人物や乗り物など、ピンポイントの被写体を撮影するにはよさそうです。
佐久平駅近くの公園にある遊具を撮影。こちらはレンズなしで撮影したもの
同じ場所から遊具の頂部を撮影。下のほうは手すりがゆがんだりにじんだりしている
また、上の作例と同じ場所で、iPhone 7のデジタルズームを併用して遊具の一部を撮影してみました。
デジタルズームはカメラがとらえた景色の中央部分をトリミングする機能です。倍率をうまく調整すればゆがみやにじみのある範囲をカットして撮影できますが、ズーム倍率が上がるほど手ブレの影響も強くなるので、ブレない写真を撮るのが難しくなります。
本製品とiPhone 7のデジタルズームを併用したもの。ゆがみやにじみの出る範囲はカットできています
本来の用途である望遠撮影ではゆがみとにじみが気になりましたが、意外にも楽しかったのが比較的近くの被写体を撮影する場合。狙った被写体の背景をぼかしやすいので、デジタル一眼レフカメラとまではいきませんが、ボケを生かした写真が手軽に撮影できます。
複数のカメラを備えたスマートフォンでは、デジタル処理によって背景をぼかしたポートレート撮影に対応する機種もありますが、被写体によっては本来ボケないはずの部分までボケてしまったり、反対にぼかしたい背景の一部がボケなかったりすることがあります。
いっぽう、本製品では光学的に背景がボケるので、ポートレート撮影機能にありがちなこうしたエラーは生じません。
公園に咲いていた花を撮影。背景を大きくぼかし、被写体を強調して撮ることができます
また、本製品は望遠レンズなので、被写体に近すぎるとピントが合いません。ピントを合わせるには被写体から1〜2m程度以上離れる必要がありますが、それゆえに近寄ると逃げてしまいそうな生き物でもそっと驚かせずに撮りやすいと感じました。
花にやってきたシロテンハナムグリ。模様のディテールもはっきりと写っています
せわしなく飛び回るミツバチ。数歩引いたところから被写体を観察しつつレンズを向けられるので、接近して撮るよりも動きを追いやすく感じる場面もありました
ちなみに、SNSでは縦横比が1:1のスクエア写真がおなじみですが、本製品を使って撮影した写真を1:1になるよう切り取れば、ゆがみやにじみの目立つ範囲をカットできます。あとはフィルターで効果を加えたり、自分で明るさや色調などを調整したりすれば、普段とはまた違った雰囲気の写真をシェアすることができるはず。
信州佐久からモバイル情報を発信するフリーライターであり2児の父。気になった格安SIMは自分で契約せずにはいられません。上京した日のお昼ごはんは8割くらいカレーです。