PDA博物館
「これ1台で何でもできる、魔法の道具が欲しかった」

エロとデジタルの関わりを研究するライターが求めた「究極のモバイル端末」とは

モバイル黎明期に誕生したPDAを振り返る本連載。今回登場するのは、アダルトメディア研究家で、「日本エロ本全史」(太田出版)の著者でもある、安田理央氏だ。

早い時期からパソコン通信やインターネットを駆使して仕事をこなしていた彼にとって、「必要な情報がいつでも取り出せて、メールのやり取りがリアルタイムにできる」環境を手に入れたいと思うのは必然。そこで彼が目を付けたのは、電子手帳やPDAだった。安田氏が語る個人的モバイル史とともに、「PDA=パーソナルデジタルアシスタント」ツールがたどった進化について考えてみよう。(※聞き手=PDA博物館初代館長 マイカ・井上真花)

安田理央(やすだ りお)。1967年埼玉県生まれ。ライター、アダルトメディア研究家。美学校考現学研究室(講師:赤瀬川原平)卒。主にアダルトテーマ全般を中心に執筆。特にエロとデジタルメディアとの関わりや、アダルトメディアの歴史研究をライフワークとしている。AV監督やカメラマン、トークイベントの司会や漫画原作者としても活動している

きっかけは「名たんていカゲマン」

―― 安田さんはなぜ、モバイル端末が好きになったんですか?

以前、僕はいつもシステム手帳を持ち歩いていました。その中には、資料やそのほか必要なものを何でも入れて、どこにでも持って行きました。これさえあれば何でもできる、そういうものが欲しかったんです。

このやり方はとても気に入っていて、しばらく愛用していたんですが、そのうち入れるものが増えてきて、どんどん手帳が大きくなっていく。重いし、ジャマだし、何とかしたかった。こういうものがコンパクトに収まるものがあればいいなと、思っていました。

そういえば昔、「名たんていカゲマン」(※編集部注:山根青鬼氏原作のギャグ漫画)という漫画がありました。主人公のカゲマンは、カゲマン電池やカゲマンウォッチを使って、いろんなことをするんですが、きっと僕は、そういうものが欲しかったんだと思います。いろんなことができる、携帯可能な何かが。

「『名たんていカゲマン』が持っている道具が欲しくて、PDAに興味を持った」

「『名たんていカゲマン』が持っている道具が欲しくて、PDAに興味を持った」

電子手帳を使えば近いことができるのではと思い、使い始めたんですが、やがてそれが「ザウルス」になった。当時、カラー液晶を備えた「ザウルス カラーポケット」(シャープ)というPDAがあって、これを愛用しました。そのころ、すでにデジカメを持っていたので、撮った写真を閲覧するビューアーとしても使っていたのですが、便利でしたよ。

どこでもメールが読める環境を求めて

――安田さんは確か、シャープの携帯端末「コミュニケーションパル」も使っていましたよね?

はい、使っていましたね。小さいけれどフルキーボードを備えていて、携帯電話を接続するケーブルも付いていた。これがあれば、どこでもメールが送受信できると思ったんですが、結局あまり使わなかったかな。

フルキーボードを備えたPDA、コミュニケーションパル

フルキーボードを備えたPDA、コミュニケーションパル

――そういえば当時、コミュニケーションパルがおもしろい使われ方をしている、という話を聞いたおぼえが。確か、“風俗系のおねえさん方”が愛用していたとか?

そうそう、そのおねえさんたちが営業メールを出すのに、よく使っていたんですよ。あとは当時、出会い系サイトなんかでもよく使われていたかな。まだ、あまりメールが一般的ではなかった時代だったので、きっと、お客さんが仕事で使っているメールアドレスに出していたんだと思うけど。

――安田さんは、仕事でメールを使われていたんですか?

はい。メールで仕事の連絡をしたり、原稿を送ったりしていたから、メール環境は大事でしたね。それで、コミュニケーションパルや「テガッキー」(東芝)に興味を持ったんです。

出版業界であまりデジタル化が進んでいなかった時代、僕は「エロ+デジタル」ライターという色合いが強かったので、意識的に、そういった端末を取り入れて使っていたということもありました。

インタビューの様子。手前の黒い箱からは、懐かしいガジェットが続々と登場

インタビューの様子。手前の黒い箱からは、懐かしいガジェットが続々と登場

――テガッキーは、私も使っていました。当時、「モバイルプレス」という雑誌の編集部にいて、安田さんに取材したことがありましたよね?

そうでしたね。テガッキーは気に入っていて、しばらく使っていました。メールを送ることはできないんだけど、先方から送られてきたメールをリアルタイムに確認できるから、メール受信端末として便利だったんです。

安田氏が所有するPDAやデジカメ群

安田氏が所有するPDAやデジカメ群

その後、プッシュ型メール端末に傾倒し、1999年にはJ-PHONEの「DP-211」(パイオニア)も使っていました。当時としては珍しい、全面液晶のタッチパネルを搭載したモデルで、1画面に100文字を表示できたんです。この端末にあわせて、100文字メールマガジンも発行。ほとんど、毎日配信したりしていましたね。

全面液晶のタッチパネルを搭載したDP-211

全面液晶のタッチパネルを搭載したDP-211

あと、PHSカードを挿して使うPDAも流行っていましたね。なかでも僕は、この「SL-C700」(シャープ)がお気に入りでした。確か、2台買ったはず。キーボードも装備していて、使いやすかったですね。

LinuxザウルスのSL-C700

LinuxザウルスのSL-C700

PDAと決別し、ガラケーへ

――デジカメも、初期から使っていたんですね。

はい、デジカメは好きでした。デジカメの本も出したほど。デジカメは、現像しなくてもいいというところが画期的でしたよね。

1997年に出版された安田氏の著書「裏デジタルカメラの本」(秀和システム)

1997年に出版された安田氏の著書「裏デジタルカメラの本」(秀和システム)

そのとき使っていたカメラは「QV-10」(カシオ)。確か、20万画素ぐらいだったかな(※編集部注:1/5インチで総画素数25万画素のCCDセンサーを装備)。今ではお話にならないほど、ひどい画質なんだけど、それが意外とおもしろい作品になった。僕にとってPDAは、デジカメで撮った写真を見るビューアーとしての側面が強かったかも。

――ビューアーとして必要なのは、さきほど聞いたカラーポケットのように、カラー液晶であること?

それと、液晶は大きければ大きいほどいい。僕の理想のPDAは、液晶が大きくて、ジョグダイヤルが付いていて、キーボードもあって、SIMが内蔵されているというもの。これをずっと求めていて、やっと「これだ!」という端末が発売されたんです。イーモバイルの「EM・ONE(エムワン)」(シャープ)という端末です。

EM・ONEを手にする安田氏

EM・ONEを手にする安田氏

イーモバイルから発売されたEM・ONE

イーモバイルから発売されたEM・ONE

発売前の情報を見たときは、胸が高鳴りました。何しろ、僕が欲しいと思っていた機能が全部入っていましたから。期待して予約して、発売日の朝イチで買いに行きました。実際に端末を手に入れたときは、ドキドキしたなあ。

ところが、使ってみたらとんでもない! 動きがモッサリしていて、まったく使い物にならなかったんです。このとき、僕の中のPDA熱はすっかりさめてしまい、見切りを付けました。「もうPDAはいらない」と、心の中で決別したんです。

――何と! 本連載初の「PDA決別宣言」!

それからはずっと、ガラケー1本でした。当時のガラケーはよくできていて、やりたいことがほとんどできた。何より軽いし、動きはキビキビしているし、メールはリアルタイムに送受信できるし、液晶も進化して、写真がきれいに表示できるようになった。

デジカメ好きだから、カシオ製のガラケーが好きでした。そのためにキャリアをauに変えたほど。すっかり満足して、「もうこれでいいじゃん」と思っていました。

PDAとの決別を決意。「もう、ガラケーでいいじゃんと思っていました」

PDAとの決別を決意。「もう、ガラケーでいいじゃんと思っていました」

スマートフォンは理想に近いけど、ちょっと寂しい気持ちも

――iPhoneが登場したときは、どうでした?

iPhoneも最初はダメでしたよね。iPhone 3Gでしたっけ。コンセプトは、ほぼ理想だったから期待していたんだけど、実際に触ってみて、ああこれはEM・ONEの二の舞だと(笑)。でも、iPhone 3GSから少しよくなって、これはもしかすると期待できるかも? と思いました。それからはずっと、iPhoneを使っていました。

ただ最近は、iTunesが嫌いになって、アップルと手を切ってしまったので、もっぱらAndroidスマートフォンですね。現在使っているのは、「Galaxy Note8」(サムスン電子)。これの何がいいって、電源を切った状態でメモ書きができるんです。メモをとる環境として、これが最速。忘れないうちに書ける安心感ったらないですよね。普段は、ロルバーンのノートとセットで持ち歩いています。

画像左から、安田氏が愛用するGalaxy Note と、ロルバーンのノート。まずは紙に書き出し、整理してから、スマートフォンに入力するのが“安田流”

――やっと、安田さんがやりたかったことができる環境になったんですね。

そう。スマートフォンの機能もそうだけど、やっぱりクラウドが当たり前になって、すごくやりやすくなったと思います。昔はスケジュールをPDAに転送するのにも、ひと苦労だったけど、今やGoogleカレンダーに入力しておけば、それだけでスマートフォンから確認できる。同期という概念すら必要なくなりましたよね。Googleの存在は、やはり大きいと思う。

確かに、今はスマートフォンがあれば何でもできるし、不満はない。ただ最近、スタパ齋藤さんの昔の記事を読み直して、あのころはよかったなと思っていたところだったんですよ。記事の内容は、何てことないんですよ。このメモリーがいい最高とかいって、その実、容量は数メガだったりする。だけど、キャーキャー言っている(笑)。でも、何か楽しそう。

今は、あのころのワクワク感はありませんよね。どの端末を見ても同じ形だし、できることもほぼ同じ。「これがあれば、こんなこともできるようになるかも!」というトキメキを感じることはありません。それが、ちょっと寂しいような気もします。

「変な形のPDAがどんどん出てきた時代に感じたワクワク、今はもうないよね」

「変な形のPDAがどんどん出てきた時代に感じたワクワク、今はもうないよね」

取材を終えて(井上真花)

私には、これまでの人生の中で、非常にシンパシーを感じる方が3人います。安田理央さんは、そのうちのひとり。今回の取材でも、何度も「そうそう! そうですよね!」と盛り上がるシーンがありました。私がPDAにひかれた理由も「これだけあれば何でもできる、魔法の小箱がほしい」だったし、メールがいつも確認できる端末を求めて(キーワードはプッシュ型!)、テガッキーやDP-211を使っていたし、今一番必要としているのは「最速でメモできるもの」。つまり安田さんは、私にとって「同じ時期、同じニーズを感じ、同じようなものを買ってしまう人」なんです。……ん? ということは、次に私が買ってしまうのは「Galaxy Note」ってこと?

オフィスマイカ

オフィスマイカ

編集プロダクション。「美味しいもの」と「小さいもの」が大好物。 好奇心の赴くまま、良いモノを求めてどこまでも!(ただし、国内限定)

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