VAIOは2021年2月18日、ノートパソコンの新モデル「VAIO Z」を3月5日に発売すると発表した。フルカーボンボディのフラッグシップモデルだ。価格はオープン。VAIOストアでの最小構成価格は272,580円(税込)から。
試作機を試す機会を得たのでレビューをしながら、新生VAIO Zをチェックしていきたい。
14型のディスプレイを搭載するVAIO Z。軽くて丈夫なマルチレイヤーカーボンファイバー(カーボンファイバー積層板)を、ボディを構成するすべての面(具体的には4面)に使用した、同社のフラッグシップモデルだ
新VAIO Zの一番の特徴は、ボディを構成するすべての面にマルチレイヤーカーボンファイバー(カーボンファイバー積層板)を使ったフルカーボンボディだ。
VAIOは1997年のソニー時代に、世界で初めてマグネシウム合金を使ったパソコンを世に送り出し、いわゆる“銀パソ”ブームを巻き起こした。ただ、マグネシウム合金の軽量・薄型化は限界点に達しているという。そこで、よりよい素材を求めて、2003年に世界で初めてマルチレイヤーカーボンファイバーをノートパソコンに使用。それ以来、カーボンファイバー素材を使ったVAIOを開発し続けてきた。
カーボンファイバーは加工が難しく、パソコンでは平面部材として使用されてきたが、長年カーボンファイバーを使ってきたノウハウを活用して、フルカーボンボディを実現。立体成型構造により、高い剛性と美しいフォルムを兼ね備えた新VAIO Zが誕生したのだ。
VAIO Zに使われているカーボンファイバー
立体成型構造により高い剛性を実現したフルカーボンボディは、26面の落下試験など独自の厳しい品質試験をクリア。MIL規格(MIL-STD-810H)に準拠した試験も導入しているという
左が板状のカーボンファイバー素材、右が立体成型構造のカーボンファイバー素材(VAIO Zの天板)。同じ重りをのせているが、たわみ具合が違うのがよくわかる。同じカーボンファイバー素材でも立体成型構造にすることで、その強度は大幅にアップする
素材の特性を生かし、曲線で構成されたデザイン。これまでのVAIOとは雰囲気がひと味違う。写真は通常モデルだが、プレミアムエディションとして用意される「SIGNATURE EDITION」はカーボンファイバーの繊維目をいかした特別な塗装が施される
オーナメントと呼ばれる四隅には、金属のパーツが使われている。カーボンの繊維の交わる部分を上手に処理するためのものでもある
フルカーボンボディのVAIO Zの重量は約958gと1kg以下を達成。本体サイズは320.4(幅)×220.8(奥行)×12.2〜16.9(高さ)mm。14型のディスプレイを搭載していることを考えると、軽量かつコンパクトなサイズ感だ。
発売前の試作機の重量はキッチンスケールでの実測で973gとカタログスペックよりもやや重かった
VAIOのZシリーズと言えば、古くからハイスペックなのが特徴だ。2008年(そと時の名前は「type Z」)にはディスクリートGPUを搭載、2010年にはクアッドSSD、2011年には外付けグラフィックユニットなど、当時は他社ではできない取り組みに挑戦してきた歴史がある。
そのチャレンジ精神は今回の新VAIO Zにもしっかりと引き継がれている。まず、CPUにインテルの第11世代CoreプロセッサーのHシリーズを搭載。ゲーミングノートPCやクリエイティブノートPC向けのTDP(熱設計電力)35Wの高性能なCPUだ。重量が1kg以下のノートパソコンでHシリーズを搭載するのはVAIO Zだけかもしれない。しかも、最上位モデルは「Core i7-11375H<Special Edition>」を搭載する。最大動作周波数5GHzの高性能4コアCPUだ。
店頭で販売される個人向け標準仕様モデルの主なスペックは以下の通り。CPUはCore i7-11370H(3.30GHz、最大4.80GHz)またはCore i5-11300H(3.10GHz、最大4.40GHz)となる。「VJZ14190111B」は5Gに対応するなど、フラッグシップモデルにふさわしいスペックだ。
VJZ14190111B:Core i7-11370H、16GB、512GB SSD、4K、Office Home and Business 2019、399,800円
VJZ14190211B:Core i7-11370H、16GB、512GB SSD、フルHD、Office Home and Business 2019、329,800円
VJZ14190311B:Core i5-11300H、16GB、512GB SSD、フルHD、Office Home and Business 2019、309,800円
(CPU、メモリー、ストレージ、画面解像度、Office、税込みの市場想定価格)
TDP(熱設計電力)35WのHシリーズを搭載するため、2つのファンを日本電産と共同開発。低騒音化のため軸受けには流体同軸受を採用する。排気性能は同等サイズのファンと比較して、低騒音化と風量が30%アップしているという。VJZ14190211B(試作機)で主要なベンチマークテストを実施してみたが、ファンは回転するものの、大型のゲーミングノートPCよりは静かだった。
そのほか、ストレージはシーケンシャルリードで6GB/sを超える、第4世代ハイスピードSSD(PCIe Gen.4)を採用。BTOでは256GB/512GB/1TB/2TBから選べる。
ストレージの読み込み、書き込み速度を測定するベンチマークソフト「CrystalDiskMark 8.0.1 x64」(ひよひよ氏作)の結果。シーケンシャルリードの速度はスペックどおり6GB/s超え
外部インターフェイスにはThunderbolt 4を2ポート搭載。両側面に1ポートずつ備えるのがポイントで、左右どちらからでも充電や周辺機器を接続できるのが便利だ。
両側面にThunederbolt 4を1ポートずつ搭載
キーボードも新規開発。キーストロークが従来モデルの1.2mmから1.5mmに深くなっており、キートップを皿形状にして安定性が増している。パンタグラフの材料も見直し、打鍵時の静音性も確保しているという。VAIO独自のチルトアップヒンジも備える。バックライトの構造も見直し、より光ムラがなく美しく光るようになっている。
キーボードは、日本語配列のかな文字なし/あり、英語配列、日本語配列の隠し刻印、英語配列の隠し刻印の5種類から選べる(モデルによって選べないキーボードがあるの注意)。
新開発のキーボード。スペースキーが短めだが、キーレイアウトは標準的で快適にタイピングできる。ストロークが深くなり、クリック感が増している印象を受けた
タッチパッドはクリックボタン付き。地味ながら、誤操作しにくいクリックボタンがあるとうれしい
指紋認証付きの電源ボタン。起動時認証とWindowsログオン認証が実行できる
人感センサーと顔認証により、着席オートログオン、離席オートロック、在席ノーロックが利用可能
チルトアップヒンジも引き続き搭載
バッテリーは薄型・軽量の53Whの新開発バッテリー。駆動時間はVAIO史上最長の最大約34時間。JEITA2.0測定によるものだが、驚異的な長さだ。4K液晶モデルでも最大17時間の長さを実現している。Type-CのACアダプターにも注目したい。最大電力65Wながら、ケーブルを含む重量が164gと大容量かつ小型アダプターとなっている。差し込み部分が抜きやすいような台形になっているなど、細かな部分までこだわっている。
65WのUSB Type-C ACアダプター
差し込み部分は抜き差しがしやすい形状
14型のディスプレイはフルHD液晶と4K液晶の2種類から選択可能。4K液晶はHDR対応で、デジタルシネマ規格DCI-P3カバー率99.8%での広い色域をカバーする。
写真はフルHD液晶モデルのディスプレイ。画質面では4K液晶モデルに劣るが、省電力性能はフルHD液晶モデルのほうが上だ
Webカメラは消し忘れを防げる物理シャッター付き。昨今のビデオ会議ニーズに応えるため、Webカメラは約207万画素の高画素で、内蔵マイクやスピーカーも高性能なものを搭載している
試作機をしばらく使わせてもらったが、フルカーボンボディの新VAIO Zのフォルムは、まさに機能美という言葉がよく似合う。このボディにゲーミングノート用のCPUが入っているというのは驚きだ。キーボードや小型のUSB Type-CのACアダプターなど、細部のこだわりも徹底している。
さすがに30万円を超えるプレミアムモデルだが、VAIOらしいワクワク感のある「Z」が久しぶりに誕生した。
パソコン関連を担当する双子の兄。守備範囲の広さ(浅いけど)が長所。最近、鉄道の魅力にハマりつつあります。