教育市場においてシェアを急拡大させている「Chromebook(クロームブック)」だが、最近ではテレワークでの利用など、一般ユーザーからの注目度も高い。Chromebookは普段使いに適しているのか、検証する。
一部制約はあるものの、マウスやプリンター、外付けハードディスク、USBメモリーなども利用できる。写真のChromebookはASUS JAPANの「ASUS Chromebook Flip CX5(CX5500)」
Chromebookは、グーグルが独自開発したオペレーティングシステム(OS)である「Chrome OS」を搭載するパソコンのことだ。
「Windows」や「MacOS」のようにソフトをインストールして活用するのではなく、ブラウザーソフト上で動作するWebアプリや、Androidスマートフォンと同様にGoogle Play ストアからアプリをインストールして活用する。
ただし、Google Play ストアに非対応のChromebookがあり、対応機においても一部、正常に動作しないアプリがあることは理解しておきたい。
Chromebookの主な特徴を以下にまとめたので、まずはザックリと理解しておこう。
・初期設定がGoogleアカウントへのログインだけと簡単
・起動が約10秒と高速
・重たいソフトを使わないので動作が快適
・インターネット接続が前提(オフラインの作業に対応するアプリもある)
・タッチパネル搭載モデルならタッチ操作に対応
・タッチペン対応ならタッチペンによる操作が可能(Chromebook専用のUSIペンを使用)
・Google アシスタントによる音声操作が可能
・データの保存は基本的にクラウドを利用(内蔵ストレージにも可)
・システムのアップデートがバックグラウンドで自動実行され、常に最新の状態を保てる
・組み込みのセキュリティ対策機能によりウイルス対策ソフトなどが不要
・Androidスマートフォンとの連携でChromebookのロックを自動で解除可能
・Androidスマートフォンの通知をChromebook上で確認可能
・ファミリーリンクアプリにより、子供のアカウント設定や利用時間の設定が可能(マルチアカウント対応)
日本で購入できるChromebookは現在、Acer、ASUS、HP、Lenovo、Dell(企業、教育機関向け)が製造、販売しており、機種も豊富になってきた。
タイプもさまざまで、いわゆるノートパソコン型のほか、ディスプレイ部とキーボード部を閉じるのとは逆側に360度回転させるとタブレット仕様になるコンバーチブル型、液晶部とキーボード部を分離できる取り外し可能型、キーボードが付属しないタブレット型がある。
各社のChromebookに関しては、以下のページで比較できるので参考にしよう。
なお以降の操作は、「ASUS Chromebook Flip CX5(CX5500)」を使って検証した。
<使用したChromebook>
ASUS JAPAN
ASUS Chromebook Flip CX5(CX5500)
[スペック]
・サイズ:357.6(幅)×244.16(奥行)×18.5(高さ)mm
・重量:約1.95kg
・ディスプレイ:15.6型 フルHD液晶
タッチパネル搭載
・CPU:Core i5-1135G7
・メモリー:8GB
・ストレージ:256GB SSD
・インターフェイス:USB3.2(Type-C/Gen2)×2
USB3.2(Type-A/Gen2)×1
HDMI×1
microSDメモリーカードスロット×1
オーディオジャック×1
・カメラ:92万画素Webカメラ
・バッテリー駆動時間:約11.2時間
・バッテリー充電時間:約2.4時間
WindowsパソコンやMacからの乗り換え、あるいは買い増しを検討するとき、気になるのは各種データの移行だろう。
これは、Androidスマートフォン/タブレットへのデータ移行と同じだ。すでにいずれかを使っているのなら、同じGoogleアカウントでログインするだけで終了する。
そうでない場合は、住所録とメール、予定データはあらかじめ「Gmail」に登録しておく。また、Google Play ストアには「Outlook」があるので、OutlookユーザーであればMicrosoft アカウントでログインするだけでメールと予定データはすぐに利用できる。
Google Play ストアにある「Outlook」アプリ。Microsoft アカウントでログインすれば、今使っている環境がそのまま利用できる
ブラウザーソフトのブックマークに関しては、Windowsパソコン、Mac上で「Google Chrome」を起動してインポートすることができる。Google Play ストアには「Microsoft Edge」もあるのだが、今回試した環境では正常に動作しなかった。
「Google Chrome」でブックマークをインポートできる
写真は「Google フォト」か、「Amazon Photos」のようなクラウドベースの写真管理サービスにアップロードしておく。
また、外付けハードディスクやUSBメモリーにコピーしておくのでもいい。
音楽は、「YouTube Music」にアップロードできる。CDからパソコンに取り込んだ音楽データの管理も可能だ。
Google Play ストアには「Apple Music」もあるので、Apple Musicユーザーであれば、Chromebook上で今使っているのと同じApple IDでログインすれば利用できる。
Google Play ストアには「Apple Music」アプリがある
文書ファイルなど、WindowsパソコンやMacに保存している各種データは、「Google ドライブ」や「OneDrive」「Dropbox」などのクラウドサービスにアップロードする。
また、ハードディスクやUSBメモリーにコピーしておくのでもいい。
Chromebookの基本操作を見てみよう。
WindowsパソコンやMacの場合、デスクトップ上にファイルを置いて作業できるが、Chromebookは何も配置できない仕様になっている。作業は、後述する「シェルフ」や「アプリランチャー」「ファイル」を利用することになる。
マルチウィンドウには対応しているので、複数のウィンドウを同時に開いて作業することが可能だ。
複数のウィンドウを同時に開いて作業ができる
デスクトップ操作の特徴は、最下部にある「シェルフ」にある。これは、Windowsパソコンの「タスクバー」にあたる。中央に、起動中のアプリアイコンが表示され、固定表示させておくことも可能だ。
左端には「ランチャー」ボタンがあり、クリックすると検索ボックス、直近に使ったアプリが表示される。
中央上部のボタンをタップすると「アプリランチャー」画面が開き、ここには標準でインストールされているアプリと、Google Play ストアからダウンロードしたアプリが配置される。
「アプリランチャー」画面。アイコンはドラッグ操作で位置を移動できる
右端には「ステータストレイ」があり、ここには通知の件数、キーボード入力の方法、Wi-Fiの接続状態、バッテリーの状態、現在時刻を表示する。
クリックすると、スマートフォンのコントロールセンターのような画面が開く。Wi-FiやBluetooth、通知の設定などができ、上部のボタンでログアウトや電源オフ、ロックなどを行える。
歯車アイコンをクリックすれば、Chromebookの各種設定ができる。
ステータストレイを開いた画面。何らかの通知があるときには、上部に表示される
「設定」画面。WindowsやMacOSと比べると、設定項目は少ない
ChromebookとAndroidスマートフォンを連携させると、「ステータストレイ」の左側にアイコンが表示される。
ちなみに、筆者は「Pixel 5」を使っているが、Chromebookの初期設定時に自動で連携が完了した。同じWi-Fiネットワークに接続していると、自動認識してくれるようだ。
Androidスマートフォンと連携すると、スマートフォンに届いた通知をChromebookで確認でき、Chromebookのロック解除も行える
ファイルの管理は「ファイル」アプリで行う。アプリを起動すると、左側上部に「最近使用したアイテム」「音声」「画像」「動画」が並ぶ。
その下の「マイファイル」がChromebook上にあるファイルであり、「Google ドライブ」が標準で表示される。これにより、ChromebookとGoogle ドライブ上のデータをシームレスに活用できる。
Chromebookのファイル管理は、「ファイル」アプリで行う
少しとまどったのは、「最近使用したアイテム」「音声」「画像」「動画」だ。ここには、Chromebook内に保存されているデータから該当のファイルを集約的に表示しているのみ。ファイルの実体は別の場所にあるのだ。
そのため、この4つは「読み取り専用」になっている。ファイルを開いたり、ほかの場所へのコピーはできるが、ここからファイルを移動したり、削除することができない。
ファイルを削除したいときは実体のファイルが保存されている場所を開き、直接削除することになる。実体の場所は、ファイルを選択して「スペース」キーを押すと「ファイルの場所」で確認できる。
また、「ごみ箱」がない。ファイルを削除すると、復元する方法がないのだ。ただし、「ごみ箱」機能が提供される可能性はあり、試験運用はされている。
これを試してみるには、ブラウザーアプリの「Chrome」を起動して「chrome://flags」を開き、「trash」を検索。「Enable Files Trash」が表示されたら、「Enabled」を選んで「Restart」をクリック。Chrome OSが再起動し、「ファイル」アプリの「マイファイル」に「Trash」が追加表示される。
なお、この機能は正式版ではないため、設定変更と利用は自己責任において行っていただきたい。
試験運用版の「Trash(ごみ箱)」を表示したところ。これにより、30日以内であれば削除したファイルを元に戻せる
標準では「Google ドライブ」が用意されているわけだが、ほかのクラウドサービスも問題なく利用できる。
「OneDrive」や「Dropbox」など、クラウドサービスは基本的にブラウザーソフトでの利用が可能なので、ブラウザーアプリの「Chrome」上で利用すればいい。
また、Google Play ストアでアプリが提供されていたら、インストールして利用することも可能だ。「OneDrive」「Dropbox」ともアプリが提供されている。
アプリをインストールした場合は、「ファイル」アプリに該当のクラウドサービスが追加表示される。ただし、「読み取り専用」になるので、読み書きを自由に行うにはアプリを使うことになる。
左の「ファイル」アプリには「OneDrive」が追加されているが「読み取り専用」になっている。右が、「OneDrive」アプリだ
「OneDrive」と「Dropbox」に関しては、ブラウザーソフトやアプリを使わない方法もある。それは、Chromeの拡張機能を利用して「ファイル」アプリに表示させるものだ。
Chromeで以下のウェブストアを開き、「+Chromeに追加」→「アプリを追加」→「アプリを起動」とクリック。アプリが起動したら「Mount」をクリックしてログインする。
「File System for OneDrive」
https://chrome.google.com/webstore/detail/file-system-for-onedrive/jbfdfcehgafdbfpniaimfbfomafoadgo
「File System for Dropbox」
https://chrome.google.com/webstore/detail/file-system-for-dropbox/hlffpaajmfllggclnjppbblobdhokjhe
ここでは「OneDrive」を追加したが、この方法の利点は「読み取り専用」にならない点にある。「Google ドライブ」と同じように、「ファイル」アプリでファイルの読み書きができる。
「読み取り専用」にならないので、「OneDrive」アプリを使うより使い勝手はいい
特に仕事での利用を考えるとき、Microsoft Officeファイルを扱えるかどうかは大きな問題だ。
結論から言えば、機能をフルに使えるわけではないが、ファイルの閲覧、新規作成、編集はできる。その方法は、3つある。
ひとつは、Googleのサービスを利用する方法だ。Excelに相当する「Google スプレッドシート」、Wordに相当する「Google ドキュメント」、PowerPointに相当する「Google スライド」を利用できる。
それぞれ互換性があるので、Excel、Word、PowerPointのファイルを開いて閲覧でき、新規作成したファイルをMicrosoft Office形式で保存することも可能だ。
ただし、グラフや図の表示スタイルが異なったり、一部の機能が使えないといった制約がある。
もうひとつは、「Office Online」の活用だ。これは、マイクロソフトが無料で提供するWeb版Officeのこと。ブラウザーアプリで利用でき、閲覧、編集、新規作成ができる。
・Office Online
https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/free-office-online-for-the-web
ただし、デスクトップ版のOfficeと比較すると機能に制約があるので注意が必要だ。
たとえば、Excelであればピボットグラフやマクロ機能が使えない。Wordでは図形の描画やアウトライン表示ができない、といった具合だ。
「Office Online」でExcelファイルを開いて編集中の画面。操作感は、デスクトップ版と同じなのだが、一部利用できない機能がある
最後が、AndroidやiOS/iPadOS向けに提供される「Office Mobile」の活用だ。「Excel」「Word」「PowerPoint」をGoogle Play ストアからインストールして無料で利用できる。
ただし無料版の場合、ディスプレイサイズが10.1インチを超える機器ではファイルの閲覧のみしかできず、新規作成や編集ができない。10.1インチ以下の場合も、機能に制限がある。
「Microsoft 365」のサブスクリプションを契約しているユーザーであれば、こうした制約なしに利用できるのだが、やはりデスクトップ版と比べると機能が制限されている。使える機能の詳細は、以下のページで確認できる。
ちなみに、Microsoft 365 Personalのサブスクリプション料金は、年額12,984円(税込)だ。
・Office Mobile 利用できる機能
https://www.microsoft.com/ja-jp/office/homeuse/device-tablet-edit2.aspx
「Office Mobile」の「Excel」で編集中の画面。筆者は「Microsoft 365 Personal」のサブスクリプション契約をしているので、編集も問題なく行えた
現在使っている周辺機器がそのまま利用できるのかも気になるところだ。そこで、筆者が所有する機器で動作を試してみた。
マウスはロジクールのBluetoothマウス「MX ERGO」だが、Bluetooth接続して利用できた。ただし、Chrome OS用のドライバーソフトがないため、基本機能は使えるもののカーソルの移動速度などの調整はできず、多機能ボタンは機能しない。
「ASUS Chromebook Flip CX5(CX5500)」はノートパソコン型の場合、キーボードを接続する必要はないのだが、とりあえず動作確認をしてみた。使ってみたのはサンワサプライのUSBスリムキーボード「SKB-SL18BK」だが、問題なく文字入力ができた。ただし、Chromebookのキーボードには特殊なキーがいくつかあり、当然、そうした機能は使えない。
「ASUS Chromebook Flip CX5(CX5500)」のキーボード。左列中央に「ランチャー」を表示するキーがあり、最上段にはブラウザーアプリの戻る、再読込みキーや、すべてのウィンドウを表示するキーなど特殊な機能キーが用意されている
外付けタイプのHDDやSSD、USBメモリーは問題なく利用できた。WindowsパソコンやMacでデータを保存しておくと、Chromebookで利用できる。ただし、各ファイルに対応するアプリは必要だ。
CD/DVDドライブは、機器を認識しさえすればデータの読み込みはできる。ただし、書き込みはできないので、データのバックアップなどには利用できない。
筆者が所有するアップルの「USB SuperDrive」は認識されず、利用できなかった。
エプソンの「EP-805A」をWi-Fi接続して使ってみたが、印刷は問題なくできた。しかし、スキャナー機能は利用できなかった。
また、プリンターもChrome OS用のドライバーソフトが提供されないため、インクの残量を確認するなど、付加機能が使えない。
いっぽう、Chromebook用のマウスやキーボード、充電器などの周辺機器も販売されている。まだまだ数は少ないものの、アンカー、エレコム、ロジクールが周辺機器パートナーとして機器を提供中だ。
Chromebookでシームレスに動作することがテストされている機器には「Works With Chromebook」のバッジがパッケージに付いているので、購入するときにはチェックをしたい。
・Chromebook対応アクセサリーのページ
https://www.google.com/intl/ja_jp/chromebook/workswithchromebook/
Chromebookを使った感想だが、起動の速さと軽快な動作は十分に実感できた。ただ、前述のようにファイルの削除など独特な動作をする場面があるため、そこは慣れる必要がある。
日常の作業は、WebアプリとGoogle Play ストアにある大量のアプリで多くはカバーできるのだが、年賀状印刷や動画の編集など、不満が残る部分もある。
しかし、用途が明確で、その用途をChromebookで実現できるのであれば、十分に買い換え、買い増し候補として検討していいと思う。とにかく、WindowsパソコンやMacと比べると、価格が安いのは大きな魅力だ。
注目度がアップすることで、Chromebookでの利用を想定したアプリや、周辺機器がより充実することにも期待したい。
興味のある方は、家電量販店の店頭などで実機を触ってみてはいかがだろうか。
パソコンからモバイルまで、ハード&ソフトのわかりやすい操作解説を心がける。趣味は山登りにクルマという、アウトドア志向のIT系フリーライター。