シャープの5Gスマートフォン「AQUOS wish」は、「AQUOS」シリーズの新しいエントリーモデルだ。端末価格は2万円台からと4万円台の「AQUOS sense6」よりもさらに安く、条件次第では5,000円程度で購入も可能という、高コスパが目を引く。そんな本機の使い勝手をレビューしよう。
ここ数年、スマートフォンの価格は全般的に上昇している。また、従来エントリーモデルであった製品の高性能化によって、エントリー機の価格も上がりつつある。しかしそのいっぽうでは、ガラケーなどで使われてきた3Gの停波も近づいており、4Gあるいは5Gに対応するスマートフォンへの移行もうながされている。今回取り上げるシャープの「AQUOS wish」は、そうした市場の動向をふまえて、従来のエントリー向け「AQUOS sense」シリーズよりも低価格な、新たなベーシックモデルとして登場した。
こうした事情もあり、「AQUOS wish」はau、UQ mobile、ワイモバイル、楽天モバイルといった通信キャリアで取り扱われる。3G停波にともなうガラケーからの移行ユーザーの受け皿として、各キャリアのラインアップのボトムを担う存在として期待されているわけだ(なお、「ソフトバンク」では法人向け限定として販売中)。以下に、各販路における端末価格を、新規、MNP、機種変更の条件別にまとめた。基本となる端末価格は26,180円〜31,680円といずれもかなり安価だが、各キャリアとも、通信プランなど一定条件をクリアすることで大幅な割引きが用意されており、ワイモバイルは新規契約の場合で10,080円、UQ mobileでは、MNP契約の場合で4,180円(プランMあるいはL)、8,580円(プランS)と、さらに安価に手に入れることができる。
本機のボディサイズは、約71(幅)×147(高さ)×8.9(厚さ)mmで、重量は約162g。ディスプレイは、1,520×720のHD+表示に対応した約5.7インチの液晶ディスプレイを搭載する。最近のスマートフォンとしては画面サイズは比較的小さめで、解像度も低い。なお、「AQUOS sense4」などで使われていたIGZO液晶ではない点には注意されたい。ボディは、IPX5/7等級の防水仕様、IP6X等級の防水仕様に加えて、耐衝撃性能など、米国国防総省の調達基準「MIL-STD-810H」の18項目をクリアしており、タフネスボディを実現。浴室での使用のほか、アルコール除菌シートで拭くこともできるなど、昨今注目される清潔性にも配慮されている。機能面では、FeliCaポートや指紋認証センサー、ヘッドホン端子を搭載しており、国内市場向けに必要と思われる機能はすべて搭載しているというイメージだ。このほか、ほかのAQUOSシリーズ同様、音声アシスタントの起動用「Googleアシスタント」ボタンを搭載している。
アルコール除菌シートでボディを拭くことができ、衛生的に使うことが可能
なお、本機のボディは、再生素材を使った樹脂製となっている。再生素材はコストがかさむので、低価格モデルにはあまり向かないが、シャープによれば、これは「SDGs」のコンセプトを実現するため、あえて採用したものということだ。気になる質感だが、表面がマット処理されているため滑りにくく、即面のボタンも、カチッとした心地よい押し心地で、チープな印象はない。
再生素材の樹脂を使ったボディ。表面がマット処理されたしっとりとした感触だ
ボタンは右側面に集中している。写真右から、ボリューム、Googleアシスタント、電源、指紋認証センサーという配置。指紋認証センサーは、長押しで電子決済アプリを起動する「Payトリガー」としても利用できる
ボディ下側面にスピーカーホールと、USB Type-Cポートを配置する
ボディ上側面にヘッドホン端子を配置する
側面の指紋認証センサーはかなりの薄型だが、認証精度は良好だった
本機のディスプレイは、IGZO液晶ではないものの、AQUOSシリーズに共通するクリアでクッキリとした画質だ。ただし、輝度がやや低めで、視野角もあまり広いとは言えず、周囲の明るさや見る確度の影響を受けやすい。前述の通り、解像度も低く、HDRにも非対応で、必要最低限の性能という印象だ。
5.7インチの液晶ディスプレイを搭載。解像度はHD+にとどまるがクリアでクッキリとした画質という印象だ
ただし、ディスプレイは視野角がやや狭く、最大輝度もあまり高くない。なお、AQUOSシリーズの特徴のひとつである「のぞき見ブロック」も非搭載だ
基本スペックを見てみると、SoCは「Snapdragon 480」で、4GBのメモリーと64GBのストレージ、1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせる。処理性能もあくまで最低限レベルという感じだ。搭載されるOSはAndroid 11で、ほかのAQUOSシリーズと同様、発売から2年間で最高2回のバージョンアップを保証しており、Android 13の世代まで最新のソフトウェア環境で利用できる。OSのバージョンアップ対応で長く使えるという点も、SDGsを意識するという本機のコンセプトには合致している。
本機の処理性能を、定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク(バージョン9.7.2)」を使って計測したところ、総合スコアは278,480(内訳、CPU:93,842、GPU:66,715、MEM;58,328、UX:59,595)となった。約2年前に発売された「AQUOS sense3」のスコア、114,802(内訳、CPU:43,349、GPU:16,729、MEM:32,268、22,456)に比べると、約2.5倍のスコア向上となっている。また、現在の上位モデルとなる「AQUOS sense6」のスコア、310,839(内訳、CPU:107,301、GPU:58,275、MEM:63,484、UX:81,779)と比べても1割程度のスコア低下に収まっている。処理性能は、価格を考えればかなり良好で、重量級のゲームを高画質モードで動作させるようなことでもない限り問題は感じなかった。ストレージも64GBとエントリーモデルとしては十分なレベルなので、アプリの追加や将来行われるバージョンアップもスムーズにできそうだ。
AnTuTuベンチマークの計測結果。2017年モデルのハイエンドSoC「Snapdragon 835」に近いスコアだ
本機のホーム画面は、Android標準のものと、シニア層向けにアイコンや文字を大きくした「AQUOSかんたんホーム」の2種類が用意されている。いずれも、操作方法はAndroidの標準に準じたもので、他社製品から移ってきた人でもすぐになじめるだろう。そのいっぽうで、画面のスクロールを自動で行う「スクロールオート」や、画面をなぞるだけでスクリーンショットを撮れる「Clip Now」、ゲーム最適化モード「ゲーミングメニュー」、「AQUOS」シリーズがずっと搭載していた独自の日本語入力アプリ「S-Shoin」のインストールも可能だ(プリインストールは「Gboard」)。なお、これら独自機能は「AQUOSトリック」としてホーム画面にまとめられている。
「AQUOSかんたんホーム」の画面。左のホーム画面では、アイコンがタイル上に配置されている。また、右のアプリ一覧画面では、アイコンの間隔が大きくとられている
独自機能の解説は「AQUOSトリック」としてまとめられている
本機のメインカメラは、約1,300万画素のシングルカメラで、自撮りや顔認証などに使うフロントカメラは約800万画素となっている。近ごろはエントリーモデルでもメインカメラには複数のカメラを備えるのがほとんどだが、本機ではあえてシンプルな構成にしている。なお、カメラアプリは、Googleが低スペックモデル向けに用意した「Camera Go」が使われる。
以下に、本機のメインカメラを使って撮影した静止画と動画の作例を掲載する。いずれも初期設定のまま撮影を行っている。
晴天のビル街を撮影。青空を肉眼以上に鮮やかにすることはないようだ。ただし、等倍に拡大すると周辺部分のノイズや青空の階調に粗さを感じる
明暗差のあるシーンをHDRモードに切り替えて撮影。窓枠の黒つぶれや遠景の白飛びが抑えられている
明るめの夜景を撮影。これくらいの光量でも光を十分にとらえているとは言えず、鮮明さに乏しい
本機のカメラは、ほかのAQUOSシリーズと比べてもシンプルで、上位モデルのような「Adobe Photoshop Express」と連携した画像補正もない。カメラ自体の性能はそれほど高くなく、ダイナミックレンジも小さめで、夜間撮影や細かな階調表現はそれほど得意とは言えない。また、AIシーン認識機能も搭載されていないため、夜景モードやHDR撮影といったモード変更は手動で行う必要がある。コストとの兼ね合いであろうが、カメラはあくまでもメモ程度のものを撮影するものと割り切ったほうがよさそうだ。
本機は3,730mAhのバッテリーを備えており、au版のスペックでは連続通話時間が約2,340分、連続待ち受け時間は約580時間となっている。上位モデルとなる「AQUOS sense6」の連続通話時間の約3,010分や連続通話時間約920時間と比べると、かなり短い。
電池持ちの検証に際しては、SNSの利用などをメインに1日に約3時間程度のペースで使用したが、バッテリー持続時間は約44時間で、フル充電で2日は持たないというペースだった。なお、6時間の待ち受けで消費されるバッテリーは大体5〜6%なので、ずっと待ち受けの状態でも、単純計算で5日ほどでバッテリー残量がゼロになる。1週間の電池持ちを標榜している「AQUOS sense6」のようなスタミナは望みにくい。
いっぽうの充電だが、USB PD 3.0規格に対応しており、オプションのUSB PD規格の充電器を使えば 最短130分でフル充電が行える。低価格モデルは一般に充電時間がネックになりやすいが、本機なら、上位モデルとほぼ同じように約2時間弱でフル充電できる。
本機はいずれの販路でもSIMロックのかかっていない状態で販売されているが、各販路ごとのモデルの対応周波数帯を調べてみた。なお、いずれのモデルも1枚のSIMカードに加えてeSIMにも対応しており、2個の電話番号を切り替えられるDSDV(デュアルSIMデュアルVoLTE)としても運用できる。
基本的には4モデルの対応周波数帯はよく似ている。4Gについては、国内4キャリアのネットワークにいずれも対応しているが、楽天モバイル版のみ、5Gのn79に対応している。このバンドは、NTTドコモの5Gでのみ利用されているので、将来的に、NTTドコモのSIMで本機を使用したいのであれば、楽天モバイル版がもっとも適していると言えそうだ。
以上、国内キャリアの新たなボトムラインを担う5Gスマホ「AQUOS wish」の特徴に迫った。5Gに対応しているうえ、FeliCaポートの搭載、防水・防塵、タフネス仕様のボディなど、国内市場で求められる機能は網羅しており、停波の迫る3Gケータイなどからのスマホ乗り換えには適した製品と言えそうだ。また、エントリーモデルではあるものの、2年間2回のOSアップデートが予定されているので、少なくとも2年は安心して使い続けられる。いっぽう、基本スペックをはじめ、ディスプレイやカメラの性能もさほどよいわけではないので、あくまでもスマホのライトユーザー向けという印象だ。また、「AQUOS sense」シリーズのような長時間のバッテリー持ちが望めない点にも注意が必要だろう。
なお、本機とよく似たスペック・価格の製品に、FCNT(旧富士通)の5Gスマホ「arrows We」がある。こちらも3Gケータイなどからの移行に適した製品で、特徴も本機とよく似通っている。ただ、「arrows We」のほうは、「迷惑電話対策機能」やシニア向けの「シンプルモード」、子ども向けの「ジュニアモード」といった機能を搭載しており、シニアや子どもに向けた製品というイメージが強い。これに対して本機は、あえてそうしたイメージを付けずに、スマートフォンの全ライトユーザーに向けた製品という印象が強い。価格も安いので、シンプルにデザインの好き好きで選んでもよさそうだ。
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