「POCO」ブランドの国内初参入モデルとして、シャオミが2022年6月23日に発売した「POCO F4 GT」。クアルコムの最新ハイエンドSoC「Snapdragon 8 Gen1」を搭載する正規流通品としては最安となる直販価格74,800円(税込)から購入できる。「あるべきものをすべてここに。要らないものは何もない」という「POCO」の掲げるコンセプトを、本機はどう実現しているのか詳しくチェックしていこう。
「Snapdragon 8 Gen 1」搭載する正規流通品としては最安となる「POCO F4 GT」。高性能を安く提供するシャオミの原点を突き詰めた製品だ
シャオミは高性能シリーズ「Xiaomi(Mi)」、コスパ重視の「Redmi」に続く第3のブランド「POCO(ポコ)」の国内初参入モデルとして「POCO F4 GT」を発表。シャオミ直販サイト、楽天市場、Amazonの各ECモールを通じて発売している。なお、記事執筆時点で通信キャリアやMVNO事業者での取り扱いはない。
最初に、「POCO」ブランドの国内におけるポジションを簡単に説明しよう。「POCO」は、シャオミにおけるオンライン直販専用のブランドとなる。「あるべきものをすべてここに。要らないものは何もない(Everything you need, nothing you don't)」という哲学を掲げ、メリハリのあるコンセプトの製品をより安く提供することを使命としている。今回発売された「POCO F4 GT」は、フラッグシップ「F」シリーズの4世代目となる最新モデルで、「GT」はシリーズの中でも最高性能を示すグレードの記号だ。
ボディサイズは、約76.7(幅)×162.5(高さ)×8.5(厚さ)mm、重量は約210gだ。ディスプレイは、2400×1080のフルHD+表示に対応した6.67インチの有機ELとなる。このディスプレイは、120Hzの倍速リフレッシュレートと、480Hzのタッチサンプリングレート、10bit階調、HDR10+に対応している。なお、ディスプレイの保護ガラスには、耐衝撃性能と傷の付きにくさが特徴の「Corning Gorilla Glass Victus」が使われる。
ディスプレイは大画面かつフラット型なので扱いやすい。120Hz駆動やHDR10+対応などハイエンドらしい性能を備える
ボディは、IPX3等級の防滴仕様とIP5Xの防塵仕様にそれぞれ対応している。FeliCaポートは非搭載だがNFCポートは備えている。サウンド機能を見ると、ヘッドホン端子は非搭載で、手持ちのイヤホンやヘッドホンを接続する場合、同梱の変換アダプターを使用しなければならない。本体のスピーカーはステレオ対応で、ウーハーとツイーターを独立させた2ウェイという豪華なものだ。
ボディの最大の特徴は右側面に、ポップアップ式のショルダーボタン「ポップアップトリガー」を2基搭載していることだろう。このボタンは、ゲームの操作のほか、カメラの起動などのショートカットに割り当てることができる。
カラーバリエーションは左から「ステルスブラック」「ナイトシルバー」「サイバーイエロー」の3色。比較的落ち着いたブラックと、前衛的なイエローのようにカラーバリエーションごとの印象がかなり異なる
背面のシルエットは比較的シンプル。質感もシャオミらしく手堅い印象だ
右側面に、2個のショルダーボタン「ポップアップトリガー」と指紋認証センサーを兼ねた電源ボタンを配置する
右側面にはボリュームボタンを配置する
下面に、スピーカーホールとUSB Type-Cポートを備える
スピーカーは、ツイーターとウーハーを別々に搭載。横持ちの際に手でスピーカーホールを塞がない位置に配置されている
「ポップアップトリガー」は、普段は収納されているが、使う場合にスライドスイッチを使い跳ね上げる。クリック感は良好かつ150万回の入力に耐える耐久性があるという
ポップアップトリガーは、静止画や動画の撮影といった機能のショートカットを割り当てることができる
実機の印象だが、ディスプレイはとても見やすく、120Hzの倍速リフレッシュレートや480Hzのタッチ対応によって、体感速度はとてもなめらかだ。HDR10+対応など性能も申し分ない。そのいっぽうで、最大輝度がやや暗めで、夏の直射日光が差し込むような状況での視認性は今ひとつに感じる場合があった。ステレオスピーカーは左右対称に配置されているため、定位感にすぐれる。特徴的な「ポップアップトリガー」は、適度なクリック感があり、操作性がよい。ショートカットボタンとしてゲーム以外でも使える。
基本性能を見てみよう。冒頭でふれたようにSoCには「Snapdragon 8 Gen 1」を搭載する。ラインアップは、メモリーとストレージ容量の違いで、8GBメモリーと128GBストレージ、12GBメモリーと256GBストレージの2モデルを用意。増設用のmicroSDメモリーカードスロットは非搭載だ。OSは、Android 12をベースにした「MIUI 13 for POCO」が使われる。今回は12GBメモリーと256GBGBストレージのモデルを試している。
定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク(バージョン9.X)」の総合スコアは、969419(内訳、CPU:218997、GPU:422716、MEM:164745、UX:162961)だった。このスコアは、同じSoCを備える「Xperia 1 IV」の751201(内訳、CPU:154749、GPU:346340、MEM:127822、UX:122280)よりもだいぶ高い。Xperia 1 IVは、発熱対策のために処理性能に制限がかけられている可能性が高いのに対して、本機は、そうした制約がかけられていないことの差だろう。加えて、本機の熱対策「LiquidCool テクノロジー3.0」はかなり徹底したもので、主要な熱源となる電力制御チップとSoCを分離したうえで、それぞれに大型の液冷ベイバーチャンバーを組み合わせている。その結果、ピーク時の約95%以上の性能を維持しながら3時間以上の動作が可能という。
AnTuTuベンチマークの結果。左が本機、右は同じSoCを備える「Xperia 1 IV」のもの。同じSoCとは思えないほど差がある
実際にどれくらいの熱処理性能があるのか、オープンワールドRPG「元神」を最高画質に設定してどれだけスムーズに動作し続けるのかを試した。ゲームを始めて早々にボディの熱は急激に上がるが、熱が原因と思われるフレームレートの低下は感じられなかった。ヘビー級ゲームを可能な限りの高画質で長時間快適に動作させるなら、Androidスマートフォンでは現状におけるベスト、あるいはそれに近い選択肢と言えるだろう。
ただし、ゲーム目的で見ると、本機のゲーム向けのソフトウェア機能は、「Game Turbo」が搭載されるだけという点には注意だ。熱対策として有効なダイレクト給電機能のようなゲーム向けの機能は搭載されていない(
2022年7月5日:「Game Turbo」の機能の記載を一部修正しました)。
ゲーム向けの最適化機能は「Game Turbo」が搭載されているだけで、シャオミの一般的なモデルに準じたものとなる。ゲーミングスマートフォンのような緻密な設定はできない
通信性能は、nanoSIMカードスロットを2基搭載。5Gの対応周波数帯はn1/3/5/7/8/20/28/38/40/41/77/78。4Gの周波数帯はB1/2/3/4/5/7/8/12/17/18/19/20/26/28/38/40/41 (2545〜2650MHz)となる。NTTドコモが5Gで使用しているn79には対応していないが、4Gについては、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルが運用している、プラチナバンド・コアバンドには対応している。
本機のメインカメラは、約6400万画素の広角カメラ(標準カメラ)と、約800万画素の超広角カメラ、約200万画素のマクロカメラという組み合わせのトリプルカメラだ。なお、ディスプレイを撮影する場合のちらつきを抑えるフリッカーセンサーも備える。フロントカメラは約2000万画素だ。
本機のメインカメラは、昨今のハイエンドスマートフォンで採用されることの多い望遠カメラが非搭載となっている。シャオミの製品紹介ページを見ても、カメラに関する情報が割と少なめで、カメラの優先度が高くないように見える。実際の写りはどうなのか気になるところだ。
メインカメラは、約6400万画素の広角カメラ(標準カメラ)と、約800万画素の超広角カメラ、約200万画素のマクロカメラという組み合わせのトリプルカメラだ
以下に本機のメインカメラで撮影した静止画の作例を掲載する。初期設定を基本に、AIシーン認識を動作させたうえで、シャッターボタンを押すだけのカメラ任せで撮影を行っている。
逆光の日中の景色。フレアは抑え込まれており、青空や植栽の発色などの極端な誇張は施されていない。周辺に部分まで解像感がかなり保たれている
撮影写真(4624×3472、6.97MB)
上と同じ構図を超広角広角カメラに切り替えて撮影。色調の大きな変化は見られないが、日光が構図に入ったことで、ゴーストが現われている。構図全般の解像感もほどほどだ
撮影写真(3264×2448、2.6MB)
窓枠から景色を写し、明暗差の大きな写真を撮影してみた。暗部はディテールがはっきりしていないが、肉眼の印象に近いとも言える。窓の外の遠景は階調が保たれており、写りは悪くない
撮影写真(4624×3472、4MB)
上と同じ構図を超広角カメラで撮影。左右側面の窓も構図に収まり、印象が大きく異なる。こちらも窓の外の景色は階調や発色が保たれているが、フレアが現われており、解像感も今ひとつといったところだ
撮影写真(3264×2448、2MB)
マクロカメラで、ユリのおしべを撮影。スマホのマクロカメラで一般的なやや暗めの画質だ。風のある屋外での手持ち撮影だが、手ブレや被写体ブレは抑えられている
撮影写真(1600×1200、0.69MB)
明るめの夜景を撮影。クリアな写りで植栽などの解像感も保たれている。これだけ写れば十分だろう。ただし、手ぶれには敏感なところがあるので、本体の固定や、多めの撮影といった工夫は必要そうだ
撮影写真(4624×3472、4.8MB)
上と同じシーンを超広角カメラで撮影。全般にノイズが乗っており、解像感も今ひとつ。近ごろのミドルレンジスマホに備わる超広角カメラの性能に近い
撮影写真(3264×2448、2.4MB)
「POCO F4 GT」のカメラは、ハイエンドスマートフォンで増えている望遠カメラが非搭載となっている。標準カメラとなる広角カメラは、手ぶれに注意する必要があるが画質は良好な部類だ。いっぽう、超広角カメラは、近ごろのミドルレンジ級の画質と言ったところ。一定以上の性能は備えているが、カメラをウリのひとつにしているわけではないようだ。
本機は4700mAhのバッテリーを内蔵する。電池持ちに関する指標は公表されていないが、検証に際し、1日3時間程度利用したところ30〜48時間に1回のペースで充電が必要だった。ただし、今回の検証は、スペック要求の高い「元神」を最高画質で動作させるなどかなりの負荷をかけているので、一般的な利用であればもう少しバッテリーは持つかもしれない。
そのいっぽうで、本機は120Wの出力に対応した充電器を同梱されており、これを使えば約17分でフル充電が可能だ。この充電器が使える状況であれば、電池持ちはそれほど問題にならないとも言える。
同梱の充電器は120Wの出力に対応しており、本機を最短17分でフル充電できる
最近のハイエンドスマートフォンは、かなり高価だ。しかし、「POCO F4 GT」は、FeliCa非搭載、カメラ性能もほどほどないっぽうで、「Snapdragon 8 Gen1」の性能を存分に発揮できるような熱対策が施されるといったメリハリを付けつつ、7万円台からという価格を実現している。この価格は大きな魅力だろう。
ハイエンドスマホは数々あるが、本機のライバルは少ない。筆頭となるのはモトローラの「motorola edge 30 PRO」(2022年6月28日時点における価格.comの最安価格は78,980円)だが、ゲーム特化のNubia「REDMAGIC 7」(2022年6月28日時点における価格.comの最安価格は97,780円)もギリギリ10万円以下。このうち「motorola edge 30 PRO」は、価格.comに寄せられる掲示板の投稿を見ると、熱処理に少し課題があるようだ。いっぽう「REDMAGIC 7」は、ファンを備えた独自の冷却機能は強力で、熱の心配は不要だが、価格が少し高い。
こうしてみると、処理性能、冷却性能、価格という3点のバランスで、本機は10万円以下のSnapdragon 8 Gen 1搭載機としては現状におけるベストチョイスと言ってよさそうだ。
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