Androidスマートフォンには、“ゲーミングスマートフォン”や“ゲーミングスマホ”と呼ばれるゲームに特化したジャンルがある。ゲーム最優先の仕様なので少々マニアックな印象を持つ人もいるかもしれないが、その性能の高さと、昨今のハイエンドスマホと比較すると割安な価格は、多くのスマホユーザーにとって魅力的なものだ。そんなゲーミングスマートフォンの特徴と、最新製品のカタログをお届けしよう。
高性能なSoCを搭載したハイエンドスマートフォンには、TPS(サードパーソン・シューター)や、スペック要求の高いRPG、あるいはリズムゲームなどに適したゲーミングスマートフォンと呼ばれるジャンルがある。
一般的なハイエンドスマートフォンは、ゲームに限らず、カメラ、ディスプレイ、ボディの薄型・軽量化、バッテリーの持続性、豊富な付加機能など、バランスの取れた万能性がある。しかし、ゲーミングスマートフォンは、ゲームに関係の深いディスプレイやサウンドおよび、冷却性能に注力するなど、機能にメリハリを付けられている点が異なる。具体的な特徴を、以下にまとめた。
ゲーミングスマートフォンは、ゲームにおけるフレームレートの低下や動作のカクツキを可能な限り抑えるために、グラフィック性能の高いハイエンド向けSoCを搭載している。また、メモリーの容量は12GBや18GBと、比較的大容量なものが多い。概して余裕のある基本性能を備えている。
ゲームアプリは、CPUやグラフィックアクセラレーターを統合したSoC、電源などに負荷をかけ続ける。しかし、こうしたパーツは熱に弱いため、パフォーマンスを一時的に下げて発熱を抑える必要もある。このジレンマを解消するため、ゲーミングスマートフォンは強力な冷却システムを搭載している。これにより、長時間のプレーによる熱ダレを防ぎ、安定した動作を実現している。
ゲーミングスマートフォンの冷却システムは、各社の腕の見せどころ。冷却ファンの採用や、熱源の分散など、各社がさまざまな工夫をこらしている
ゲームにおいてサウンドは重要な情報源だ。そのため、ゲーミングスマートフォンでは、ステレオスピーカーが広く採用されている。なお、遅延がないためゲームに適しているヘッドホン端子についてはおおむね搭載されているが、「Black Shark5」シリーズのように非搭載なものもある。その際は、USB Type-C接続のイヤホンか、変換アダプターを組み合わせる必要がある。
ディスプレイにも特徴がある。ディスプレイの解像度はフルHD+にとどめられており、4KやWQHDといった極端な高解像度なものは見られない。これは、ゲームならフルHDクラスで十分という判断に基づく。また、画面サイズも6インチ台後半という大画面が主流だ。加えて、視認性を確保するために、光の反射が少ない平面ディスプレイを採用しているものが多いのもポイントだ。
近ごろは、ミドルレンジスマートフォンでも、120Hzのリフレッシュレートに対応しているものが増えた。だが、ゲーミングスマートフォンには、144Hzや165Hzというより高速なディスプレイを備えるものがある。こうした高速なリフレッシュレートは、残像感を軽減し、視認性を高める効果が期待できる。なお、60Hz以上の高速リフレッシュレートを利用するには、ゲームアプリ側の対応が必要となる。
もうひとつ重要なのがタッチサンプリングレートだ。これは、タッチ操作の読み取りをどれだの頻度で行うかというもの。通常の値は60Hzだが、ゲーミングスマートフォンでは240Hz、360Hz、480Hz、720Hzというものがある。この数値が高ければ操作のタイムラグが短くなり、操作のキレやダイレクト感が向上する。ただし、バッテリーの消費も増える。なお、この機能はアプリ側の対応は不要となっている。
ゲーミングスマートフォンと聞いて、派手なデザインを想像する人は少なくなさそうだ。確かにゲーミングスマートフォンの外見は、どれも主張が強い。ただし、ボディは持ちやすさにも配慮されているので、決してデザインだけのボディというわけではない。もっとも、凝った冷却システムを内蔵していることもあって、一般的には大きくて重いものが多い。
もうひとつ、側面に配置された2個のショルダーボタンもゲーミングスマートフォンの特徴と言えるだろう。ショルダーボタンはユーザーでカスタマイズして使うが、ゲームによってはかなり強力な武器になりうる。
側面にショルダーボタンを備えるものも多い
ゲーミングスマートフォンの値段は、10万円前後。いっぽう、Snapdragon 8 Gen1を搭載するハイエンドスマートフォンは、2022年夏の時点で15万円台後半が主流。同じSoCを備えたものをより安価に入手できる。また、画面サイズが広く、サウンド性能も高いため、動画の視聴などにも適している。ゲームのガチ勢はもちろんだが、ゲームを含むさまざまな用途でスマートフォンを楽しみたいエンジョイ勢にとっても、かなり魅力的な製品なのだ。
次に、ゲーミングスマートフォンが苦手にしていることをまとめた。
日本市場では、スマートフォンの防水・防塵対応がかなり重視されるが、ゲーミングスマートフォンでは、雨や水しぶきに耐える防滴対応がせいぜい。防水・防塵性能を高めるためには、ボディ内部を密閉する必要がある。だが、効率的な熱処理を行うには、それは必ずしも歓迎されるボディの構造とは言えない。
FeliCaに対応しているものも見当たらない。ゲームにおいておサイフケータイで使用するFeliCaは不要という面もあるし、ゲーミングスマートフォンはグローバル展開が主流なので、日本独自のFeliCaに対応させることは割に合わないのが現実でもある。なお、このページで取り上げる製品はいずれも、FeliCaポートを備えていない。
ゲーミングスマートフォンでもカメラは搭載している。ただし、一般的なハイエンドスマートフォンのようなこだわりは薄い。夜景撮影を含めてまったく使い物にならないわけではないが、カメラを重視するなら通常のハイエンドスマートフォンを選んだほうがよさそうだ。
ゲーミングスマートフォンのカメラは、特徴的なものは少なく、価格相応の性能となっている
お世辞にもバッテリーがよく持つとは言えない。ゲーミングスマートフォンらしい性能を存分に発揮するなら、あっという間にバッテリーの残量を使い果たすだろう。ただし、ユーザーが調整できる処理性能の幅は広いのも確かなので、節電を重視した設定も可能ではある。こうしたデメリット対策として、ACアダプターやモバイルバッテリーから直接給電するダイレクト給電機能がある。この機能を使えば、有線接続になるものの長時間の安定した動作が可能だ。
以下に、最新のゲーミングスマートフォン5シリーズ計10製品を紹介しよう。
ASUSのゲーミングスマホ「ROG Phone」シリーズの2022年モデル。最大の特徴はSoCに「Snapdragon 8+ Gen1」を搭載したことだ。このSoCは、「Snapdragon 8 Gen1」の動作クロックの上限を3GHzから3.2GHzへ向上させたもので、処理性能とグラフィック性能がそれぞれ約10パーセント向上している。また、電力消費や発熱の緩和を狙って、製造プロセスをサムスンの4nmプロセスから、効率にすぐれるとされているTSMCの4nmプロセスに変更している。
冷却性能も強化された。前モデル「ROG Phone 5」シリーズと比較して、ベイパーチャンバーの面積は約30パーセント、グラファイトシートは85パーセントそれぞれ大型化。これに窒化ホウ素を使用した熱伝導グリスを組み合わせることで、放熱効率を向上させている。バッテリーは6000mAh(3000mAh×2)の大容量を誇る。また、ダイレクト給電機能に対応しており、発熱を抑えた長時間の安定した動作が期待できる。ディスプレイのリフレッシュレートは、前モデル「ROG Phone 5」シリーズの144Hzから165Hz、タッチサンプリングレートも360Hzから720Hzへより高速化された。
側面のショルダーボタンは前モデル同様の超音波タッチ式で、タッチのほか、スワイプ操作といったさまざまな動作を割り当てることができる。ユニークな機能として、スマートフォンを動かすことで操作を行う「モーションコントロール」機能や、内蔵のジャイロスコープセンサーを使った標準合わせ「ジャイロエイム」を搭載。これらにより、体感ゲームのような操作感覚を実現している。
「ROG Phone 6」と「ROG Phone 6 Pro」は、SoCやメインディスプレイなどの仕様は共通している。ただし、メモリー/ストレージ容量などの仕様は異なり、「ROG Phone 6」は12GB+256GBモデルと16GB+512GBモデルの2モデル構成で、背面にドットマトリクスLEDを採用。いっぽうの「ROG Phone 6 Pro」は18GB+512GBモデルのみで、背面に有機ELディスプレイを採用している。
通信性能は共通で、NTTドコモ系、KDDI系、ソフトバンク系、楽天モバイルのSIMカードと適合する。なお、利用できる5G専用周波数帯(Sub-6)は、n77/78/79でNTTドコモのn79にも対応している。
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中国企業ZTE傘下で、ゲーミングスマートフォン専業のメーカーNubia Technologyの2022年モデル。SoCにSnapdragon 8 Gen1を採用し、12GB+128GB、あるいは18GB+256GBの、メモリーとストレージ容量が異なる2モデルが用意される。
最大の特徴は、独自の冷却システム「ICE8.0」だ。これは毎分20000回転の空冷ファンやベイパーチャンバーなど9個の冷却デバイスを組み合わせたもの。このICE8.0とSnapdragon 8 Gen1の組み合わせは強力で、定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク」のの総合スコアは100万ポイント以上。同SoC搭載機としては最高レベルのスコアをたたき出す。
約6.8インチのディスプレイは、2400×1080のフルHD+表示やHDR、最高で165Hzのリフレッシュレートと720Hzのタッチサンプリングレートに対応する。側面に備わる2個のショルダーボタンはタッチセンサー式で、500Hzのタッチサンプリングレートにより8msという応答速度を誇る。ヘッドホン端子、ダイレクト給電機能などももれなく搭載している。
NTTドコモ系、KDDI系、ソフトバンク系、楽天モバイルのSIMカードを利用可能。ただし、NTTドコモの5Gについては周波数帯が適合しない点に注意だ(4Gなら利用できる)。
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2022年7月末に登場した最新モデル。「Black Shark 5 Pro」はSnapdragon 8 Gen1に12GBのメモリーと256GBのストレージを組み合わせるほか、10bitの階調表現とHDR10+に対応したディスプレイ、約1億800万画素のメインカメラを備える。「Black Shark 5」はSnapdragon 870に8GBのメモリーと128GBのストレージを組み合わせる。ディスプレイはHDRには非対応、メインカメラに約6400万画素のイメージセンサーを採用するのが大きな違いだ。
両機に共通する機能として、ディスプレイに感圧センサーを備えた「マジックプレス」を備える。これは、通常のタッチ操作とは別に、画面を強く押し込む操作を認識するもので、ショルダーボタンの代わりや、何か別のアクションを素早く行う場合に活用できる。なお、144Hzのリフレッシュレートと720Hzのタッチサンプリングレート(マルチタッチ時は360Hz)も両機種で共通だ。ショルダーボタンは、物理ボタンで、磁石を使い使用しない場合は本体に収納できる。なお、ヘッドホン端子は非搭載となっている点には注意だ。
冷却システムも強力で、合計面積5320mm2という大型のベイパーチャンバー2個で熱源を挟み込み、効率的に熱を拡散、高負荷が長時間続いても熱ダレを抑えることができる。なお、シリーズ初となるダイレクト給電機能も搭載された。
両機種とも、NTTドコモ系、KDDI系、ソフトバンク系、楽天モバイルのSIMカードを利用可能。ただし「Black Shark 5」についてはNTTドコモの5Gで使用するn79に対応していないためエリアの制約がある。
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シャオミの社内ベンチャー的なブランドである「POCO」の日本初参入モデル。シャオミは、本製品をゲーミングスマートフォンと位置づけてはいない。ただ、Snapdragon 8 Gen1の採用や、120Hzのリフレッシュレートレートや480Hzのタッチサンプリングレートに対応した約6.67インチのフルHD+ディスプレイ(HDR10+対応)、物理式ショルダーボタン、ステレオスピーカーなど、ハードウェアの特徴はゲーミングスマートフォンに限りなく近いと言えるだろう。12GB+256GBモデルと、8GB+128GBモデルの、メモリーとストレージ容量が異なる2モデルがラインアップされている。
冷却システムも強力で、合計面積4860mm2のベイパーチャンバーを主要な熱源であるCPUと電源管理チップのそれぞれに独立して搭載する。これにより、高い処理性能を求められるゲームを3時間使い続けても、パフォーマンスの低下はピーク時の5%以内に抑えられるという。
ダイレクト給電機能は搭載されておらず、ゲーム向けのソフトウェア機能は、シャオミ製品に広く採用されている「Game Turbo」が搭載されるにとどまっている。ヘッドホン端子も非搭載だが、変換アダプターは試供品として同梱されている。
NTTドコモ系、KDDI系、ソフトバンク系、楽天モバイルのSIMカードを利用可能。NTTドコモの5Gで使用するn79に対応していない点には注意だ。
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「ROG Phone 5s」は、2021年型のハイエンドSoC「Snapdragon 888+ 5G」を搭載する。このSoCは、通常の「Snapdragon 888」と比較すると、CPUのラージコア「Cortex-X1」の動作クロックを2.84GHzから3GHzに引き上げたほか、AI処理も20%向上している点が異なる。16GB+512GBモデルと、12GB+256GBの、メモリーとストレージ容量の異なる2モデルが用意される。
本機に搭載される、2448×1080のフルHD+表示に対応した約6.78インチディスプレイは、HDR10+、最高144Hzのリフレッシュレートと360Hzのタッチサンプリングレートに対応する。ステレオスピーカーおよびヘッドホン端子も搭載されている。ショルダーボタンはタッチ式だ。
冷却システムとして、6000mAhのバッテリーを2つに分割し、その中央SoCを配置するというユニークなレイアウトによって、熱源を分割させている。さらに、ベイパーチャンバーと熱伝導用のグラファイトシートが、熱をボディ全体に拡散させることで効率的な冷却が行える。
なお、USB Type-Cポートは本体下面と左側面の2か所に搭載されており、縦持ちと横持ちの両方で、自然なケーブルの取り回しが行えるように配慮されている。
NTTドコモ系、KDDI系、ソフトバンク系、楽天モバイルのSIMカードを利用可能だ。
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