ソニーがゲーミングデバイス市場への参入に合わせて立ち上げた新ブランド「INZONE(インゾーン)」。「INZONE M9」は、そんな新ブランドで7月8日に発売された27インチの4K/144Hz対応のハイエンドゲーミングモニターだ。同時発表されたもう1台のPCモニター「INZONE M3」はフルHD/240Hzとe-Sportsなど競技性重視の仕様に対して、「INZONE M9」はソニーらしい高画質なゲーミングモニターという位置付けのモデルだ。
実はこのソニー「INZONE M9」、発売直後のサンプルではPCと接続して144Hz信号を入力すると接続が安定せず検証を見送っていたのだが……最新ファームウェアを適用した改良版が届いたので、このタイミングで改めてレビューしていこうと思う。
7月8日に発売されたソニー「INZONE M9」。最新ファームウェアを適用した改良版が届いたので、実機レビューをお届けしよう
最初にソニー「INZONE M9」のスペックを紹介しておこう。搭載する液晶パネルはIPS液晶の4K/144Hzパネルで、PCゲーミングを想定したノングレア仕様だ。ゲーミング性能のみならず画質性能も重視したモデルで、色域はDCI-P3 95%、10.7億色表示、応答速度1ms(高速モード)、DisplayHDR600に対応している。
そしてソニー「INZONE M9」を象徴するスペックが“高コントラスト”で、PCモニターとしてはかなり珍しい直下型LEDの部分駆動に対応する。これはソニーの薄型テレビBRAVIAを始めとしたミドルクラス以上の製品では定番の技術で、画面内の明暗分布に応じて部分的にバックライト輝度を制御するものだ。27インチの小型モデルへの搭載はきわめて稀だ。
そのほかの画質機能や設置性の解説は後にして、まずは「INZONE M9」をDisplayPortケーブルで4K/144HzのSDRで接続。Winodowsのデスクトップを表示してみると、ひと目見た瞬間から一般的なPCモニターとは違う、鮮やかな色彩とまぶしさに目を奪われた。専用アプリ「INZONE Hub」から設定を確認すると、初期値が「ゲーム1」だった。映像モードを「標準」の設定に切り替えると色合いは多少落ち着いたが、それでも文字の解像感の画質はひと目見てキレイだなと思ってしまった。
「INZONE M9」。今回はPCとPS5と接続してレビューを行った
鮮やかと言ってもPCモニターなので、表示はノングレア(非光沢)でキツさや映り込みは最小限。いっぽう、視野角はIPSパネルではあるが斜め位置から見るとグレー方向に明るさの変化が生じる。クリエイター用途の2画面表示などより、1画面を注視するゲーミング向きというところだろうか。
画面全体がとても明るい。IPSパネルだが、やや色味の変化があるので、できれば真正面において使いたい
「INZONE M9」は、外見もスタンド形状もかなり個性的だ。まず本体のデザインとして白を基調としているのはゲーミングモニターとしてはかなり珍しい。ちょうどPS5のイメージとマッチしているが、本機は基本的にPCゲーミングを想定したモニターだ(もちろんPS5接続も可能)。ちなみに、PC利用者の視点で言うと真正面から見たベゼル部は黒色で、白色なのはあくまで背面やスタンド部のみになっている。
白色ベースのデザイン。付属組み立ては思いのほか簡単だった
前に足が伸びて画面が斜めにスライドするスタンド形状も独特。このスタンド、使い勝手としてもひとクセあって、まず画面を上下位置で移動をさせようとすると前後の距離も変化するため、ひんぱんに上下に動かす人には不向き。また、左右の首振りがないのも少々残念だ。
斜めにスライドして高さと距離が同時に動く機構
もうひとつは、中央部にスタンドの足の部分が出っ張ること。このためキーボードを画面下に潜り込ませることができない。ソニーはキーボードを横にズラして置くゲーミング向けの配置で“デスクトップ周りを広く使える”とアピールしているのだが……通常のPC利用を考えるとキーボードはモニター正面に置くことが圧倒的に多い訳で、一般的な用途では机の上が狭くなるデメリットのほうが気になるかもしれない。
正面中央にスタンドが突き出るので、キーボード正面派だとキーボードが引っかかりがち
なお、接続端子類はHDMI 2.1×2、DisplayPort 1.4×1、USB Type-C×1(DP Alternate mode)、3.5mmのヘッドホン端子、USB×4、USB Type-B(アップストリーム)×1。なお、DisplayPortを含む一切のケーブルが付属していない点は注意したい。
背面の端子類。ケーブルはスタンド部分にうまくまとめることができる
本体操作については画面右の裏側にスティックがあり、直感的な操作が可能。階層の作りも直感的で、この操作性はとても扱いやすい部類だ。
画面裏の右下にスティックを搭載
モニター側の設定画面
ただそれ以上に便利に感じたポイントが、PC向けの専用アプリ「INZONE Hub」を介して、細かな設定までPCで選べることだ。詳しくは写真を確認してほしいが、「標準」「FPSゲーム」「シネマ」「ゲーム1」「ゲーム2」の映像モードを選べるだけでなく、応答速度の切り替えや、暗部を見やすくするブラックイコライザー、明るさ、ガンマカーブ(HDR入力時は不可)、ローカルディミングなど画質関係はすべて設定可能となっている。
「INZONE Hub」のディスプレイ設定
さらには入力切り替え、USBハブ機能の動作(HDMI入力に連動したUSBハブ動作の切り替え)、OSD表示時間までPC側から切り替えられるところはとても扱いやすい。
「INZONE Hub」は本体設定も充実している
では実際にゲームをプレイしてみよう。ただPCスペックの都合で4K/144Hzのゲームプレイはできないので、144Hzの動画性能は解像度を落として体験したうえで画面は4K/60Hzで撮影している。
まずプレイしたのが『Apex Legends』。3D視点のアクションシューティングではあるが、開始直後射撃訓練場のスタート地点の暗がりの見え方、屋外の明かりのまぶしさの違いが印象的だ。144Hzだと、スプリントした時のカメラのガタ付き具合のなめらかさや、カメラ全体が動いた時のスムーズさもアップする。なお、応答速度の設定を切り替えても、見た目として違いを判別するのは難しかった。ローカルディミング高の設定では、黒バックのローディング画面などでわずかにハロー(光漏れ)があるが、問題にはならない程度だ。
『Apex Legends』。射撃訓練場のまぶしい映像表現が印象的
カメラが動いた時の追従もスムーズ
それからアクションRPGの『原神』もプレイしてみた。アニメタッチの3DCGゲームなので高解像度というところもないが、画面全体が明るく、キャラの衣装も色味が深くて陰影も豊かで安定感ある画質だ。旅の仲間のパイモンの輝きのような、細部の光の再現性も印象的。
『原神』は色のリッチさが印象的だった
続いて、PS5をHDMIで接続、HDR設定で『エルデンリング』をプレイしてみた。特に暗がりの再現性がゲーミングモニターとは思えないほどに優秀。とにかく暗がりの多いゲームなので、ローカルディミングによる暗部再現性を実感できる。ここではローカルデミィングの設定を弱/低/高で切り替えて写真に撮ってみた(暗部が見た目上の明るさに合うように撮影)。ローカルディミング高の暗部再現性は高いし、実際プレイしてみても高のままで特に問題がでるところもなさそうだ。黄金樹のようなまぶしい風景も画面全体の明るさで再現するところも美しい。
ローカルディミング切の画面
ローカルディミング低の画面
ローカルディミング高の画面
明るく鮮やかな画質表現でゲームの世界感にしっかりと没入できる
ここまで実際にレビューしてきたが、画質性能は納得できる「INZONE M9」ではあるが、ゲーミングモニターとしてはライバル機種が多いのも事実だ。
たとえば、4K/144Hzのみを条件とするとASUS「TUF Gaming VG28UQL1A」(28インチ)なら79,682円、HPの「OMEN by HP 27u 4K ゲーミングディスプレイ 価格.com限定モデル」(27インチ)なら84,000円で購入できる。上記にDisplayHDR600対応という条件に加えてもLGエレクトロニクス「UltraGear 27GP95R-B」(27インチ)が91,274円で購入できるし、AOC「AGON Pro AG274UXP/11」なら4K/160Hz駆動にも対応していて107,999円だ。「INZONE M9」は価格.com最安価格でも139,800円なので、やや割高感があるのは否めない。
※価格はいずれも2022年8月5日時点の価格.com最安価格
ソニー「INZONE M9」の価値は、直下型LEDの部分駆動による映像の美しさや、INZONE Hubによる操作性、そしてソニーブランドという安心感。これらに魅力を感じる人は、選んでもよい機種と言えそうだ。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。