イギリスを拠点とするデジタル製品メーカーNothing(ナッシング)は、2022年8月19日に5G対応のミドルハイ向けスマートフォン「Phone(1)」を発売した。ガラスを使った完全に透明な背面に900個のLEDを配置したデザインが特徴だが、Android標準にならった操作性も魅力だ。8GBメモリーと128GBストレージを搭載したベーシックモデルを使ったレビューをお届けしよう。
デザインが魅力の「Phone(1)」。その実力に迫ろう
「Phone(1)」は、ワイヤレスイヤホン「ear(1)」で知られるNothingの手がける初のスマートフォン。5Gに対応したミドルレンジ向けの製品だ。ボディサイズは、約75.8(幅)×159.2(高さ)×8.3(厚さ)mmで、重量は約193.5g。搭載される6.55インチの有機ELディスプレイは、2400×1080のフルHD+表示、60〜120Hzの可変リフレッシュレート、240Hzのタッチサンプリングレート、HDR10+に対応する。また、ディスプレイ指紋認証を利用できる。ボディは、IPX3等級の防滴仕様と、IP5Xの防塵仕様に対応しており、雨や水しぶきがかかる程度の耐水性がある。背面にはQiに対応したワイヤレス充電ポートを備える。なお、FeliCaポートは非搭載だ。
小型のパンチホールを備えた有機ELディスプレイ
近ごろあまり見かけないディスプレイ指紋認証に対応する。精度や速度はほどほど
ボディ下面にスピーカーホール、USB Type-Cポート、SIMカードのトレイを配置する。なお、ヘッドホン端子は非搭載だ
ボディの右側面に電源ボタンを配置する
ボディの左側面にはボリュームボタンを配置する
本機の特徴は、ユニークな背面デザインだ。背面カバーは透明なガラス製で、内部の様子が透けて見える。このガラスは、特殊加工が施されており、指紋汚れが比較的目立ちにくい。背面には、900個のLEDを並べた「Glyph Interface(グリフ・インターフェイス)」が備わり、着信や通知を知らせてくれる。今までも背面が部分的に透明というものはあったが、ここまで内部が丸見えというのは斬新だ。
なお、透けて見える基盤は、機能性を維持しつつ塗装とデザインが施されているので、スケルトンデザインのような武骨な印象はない。ただ、この背面を生かすには、カバーを付けないか、透明あるいは半透明のカバーを選ぶ必要があるだろう。カバーで個性を主張したい場合の相性がよくない。なお、製品パッケージにカバーは同梱されておらず、2,980円(税込)のオプションとして用意される。また、本機に限らずガラス製の背面は滑りやすいので、置き場所には多少の注意は必要だろう。
900個のLEDを備える「Glyph Interface」は、スマートフォンの背面をもっと活用するという提案でもある
透けて見える基盤はきちんとデザインされているので、洗練された印象を受ける。持つ人のパーソナリティを選びにくい点で、メカニカルなイメージを強調したスケルトンデザインとは一線を画している
充電中のバッテリー残量をLEDで表示する機能も備える
「Glyph Interface」は、着信音とセットになった10種類の発光パターンを選んで使用するほか、充電状況を知らせる機能もある。ただし、発光パターンなどのカスタマイズは行えない
「Glyph Interface」は着信音とセットになった10種類の発光パターンを選んで使う
サウンド機能を見てみよう。ステレオスピーカーを備えるがヘッドホン端子は非搭載で、変換アダプターは同梱されず、直販サイトにもラインアップされていない。有線イヤホンを使う場合、注意が必要だろう。なお、手元にあった、「iPad Pro」用のアップル製変換アダプターをつなげたところサウンドが再生できた。
基本性能を見てみよう。搭載されるSoCは「Snapdragon 778G+」で、8GBメモリーと12GBメモリーモデルが用意される。なお、8GBメモリーモデルには128GBと256GBのストレージが選べる。12GBメモリーモデルは256GBモデルのみが用意される。OSは、Android 12ベースの「NothingOS(ナッシングオーエス)」。見た目は通常のAndroid 12と大きく変わらない点は日本市場で支持を集めやすい要素と言える。また、内部処理を最適化することで、動作を軽くしているという特徴もある。
左の画面が設定画面、右は通知画面。いずれもAndroid 12の標準にならったものだ
ソフトウェアの負担を抑えて動作を軽くするという方針は、プリインストールされるアプリの数にも表れている。キャリア製のアプリがないのは当然だが、Googleの提供する基本的なアプリのほかは、独自のアプリらしきものとしてボイスレコーダーやカメラアプリが備わる程度だ。そのため、ストレージに占めるシステム領域は初期状態で23GBほどなので、128GBモデルでも100GB以上をユーザーが利用できる。また、動作が軽快なため、8GBのメモリーでも大きな問題は感じなかった。大型のゲームを含む数種類のアプリを切り替える場合には、12GBのほうが余裕があるかもしれない、という程度だ。
アプリの追加をしない初期状態のストレージで23GBを消費。128GBモデルでも100GB以上を利用できる
本機のSoCは、ベースとなる「Snapdragon 778G」と比べると、CPUの動作クロックが2.4GHzから2.5GHzに高められおり、処理性能は約5%高められている。定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク(バージョン9.4.4)の結果は、総合スコア563585(内訳、CPU:152806、GPU:174255、MEM:107869、UX:128655)で、2019年型のハイエンドSoC「Snapdragon 855」に比較的近い。グラフィック性能も高めなので、高負荷で知られるmiHoYoゲーム「原神」も比較的スムーズに動作した。
AnTuTuベンチマークの計測結果。2019年型のハイエンドSoC「Snapdragon 855」に比較的近く、近ごろのミドルレンジスマホに広く搭載される「Snapdragon 695 5G」のスコア約40万前後と比較すると、4割ほどスコアが高い
なお、OSのアップデートについては最低でも3回は行い、それ以上のバージョンアップにも含みが残されている。また、セキュリティパッチについても発売から4年間は、2か月に1回のペースで配布することが予告されている。
本機は2基のnanoSIMカードスロットを備えDSDV(デュアルSIMデュアルVoLTE)対応機で、NTTドコモ系、KDDI系、ソフトバンク系、楽天モバイル(MNO)のネットワークに適合する。ただし、5Gの対応周波数帯がn1、n3、n28、n41、n77、n78となっており、ミリ波のn257および、n79に対応していない。特に後者のn79は、n78とともにNTTドコモの5Gでは重要な周波数帯で、おおまかに言えばドコモの5Gエリアの半分は利用できないことになる。なお、NTTドコモ以外の3キャリアについて言えば、5Gの対応周波数帯に問題はない。このほか、4キャリアともに、緊急災害速報(ETWS)や、110番や119番発信の際に、相手に詳細な位置情報を提供する(SUPL)に対応している。
nanoSIMカードスロットは、SIMカードを表裏に取り付けるタイプ。なお、microSDメモリーカードスロットは利用できない
メインカメラはいずれも約5000万画素のイメージセンサーを使用した、広角カメラ(標準カメラ)と、超広角カメラという組み合わせのデュアルカメラだ。なお、広角カメラは、ソニー製イメージセンサー「IMX776」を採用し、光学式手ブレ補正とRAW撮影機能が搭載されている。いっぽう超広角カメラはサムスン製のイメージセンサー「Isocell(アイソセル) JN1」で、4cmまで被写体に近寄ることができ、マクロ撮影も行える。なお、フロントカメラは約1500万画素だ。
メインカメラは広角カメラと超広角カメラのデュアルカメラで、いずれも5,000万画素の高画素を誇る
以下にメインカメラを使った静止画の作例を掲載する。いずれも初期設定のままシャッターを押すだけのカメラ任せで撮影を行っている
曇天の日中を撮影。コントラストが低めだが、うっすらともやがかかり肉眼の印象もこんなものだった。石垣の解像感は十分なレベルだろう
撮影写真(4096×3072、3.87MB)
上と同じ構図を超広角カメラに切り替えて撮影。肉眼の印象よりもコントラストを強調しているので、広角カメラよりも見栄えはする。ただ、画素数は高いもののレンズの性能のせいか解像感は全般に高くない
撮影写真(4080×3072、4.24MB)
明るめの夜景を撮影。ハイライト部分のコントラストを保ちつつ、暗部のノイズは少なく明るさを強調しない素直な画質だ
撮影写真(4096×3072、2.6MB)
上と同じ構図を超広角カメラに切り替えて撮影。全般的なトーン、ハイライト、暗部の統一感は保たれている。ただし、ディテールは全般にぼんやりとしている
撮影写真(4080×3072、2.38MB)
本機のカメラは、オートフォーカスもごく普通で動く被写体にも強くない。ただし、総じて手堅く作られており、風景やポートレートなど動きのない被写体であればカメラ任せでキレイな写真が撮れる。スマートフォンに求められるニーズをしっかりと満たしているようだ。気になった点だが、シャッタータイムラグが、両カメラともに日中と夜景を問わず、少し長めだ。そのため、少し長めにしっかりとホールドしたほうが手ブレは抑えられるだろう。
本機は4500mAhのバッテリーを内蔵する。価格.comのユーザーレビューに寄せられ評価項目「バッテリー」の点数は4.29ポイントで、カテゴリーの平均3.69を上回っている。検証でしばらく使ってみたが、1日に1時間程度使用する待受け主体の利用ペースなら1日に25%前後のペースでバッテリーを消費し、フル充電で4日はバッテリーが持つ計算となる。いっぽう、ゲームを含めて1日に3時間程度のペースで利用した場合、1日に50%以上のバッテリーを消費し、48時間に1回以上の間隔でバッテリーを消費する。ミドルレンジスマートフォンとしては可もなく不可もないバッテリー消費ペースだろう。
充電に関しては、USB Power Delivery規格(USB PD)に対応しておりに、33Wの出力なら約70分で、45Wの充電器なら30分で65%まで充電可能だ。いっぽうワイヤレス充電は15Wの充電に対応しており120分でフル充電が行えるほか、5Wのリバース充電にも対応している。なお、本製品には充電器が同梱されていない。
本機は、透明の背面にデザインされた基板、900個のLEDを使った通知機能「Glyph Interface」というデザインが大きな魅力だ。メカニカルかつスタイリッシュで、持つ人のパーソナリティを限定しにくく、いわゆるスケルトンデザインとは一線を画する。しかし、本機の魅力は外見にとどまらず、最低3回のOSバージョンアップ保証、Android OSの標準に近い操作性を保ちつつ、最適化を進めることで総じてスムーズな動作を実現するといったスマートフォン好きにアピールする要素もポイントだろう。加えて、Androidの標準にならったシンプルな操作性は日本では評価されやすいこともあり、使いやすいと感じる人も少なくないはずだ。
ネックとしては、FeliCaポートを備えず、おサイフケータイが利用できない点だろう。近ごろは、一般流通向けスマートフォン(SIMフリースマートフォン)でも、FeliCaポートの搭載が進んでいるので、この点の見劣りは否めない。逆に、FeliCaポートの有無にはこだわらない場合や、FeliCaポート付きの製品と併用できるなら問題はない。日本市場におけるFeliCaの重要性は、Nothing自身も強く認識しているようなので、後継モデルで対応するモデルを期待したいところだ。
FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。