レビュー

2万円以下の超格安スマホ「moto e32s」の得意と不得意に迫った

2022年7月中旬に登場したモトローラのスマートフォン「moto e32s」は、メーカー直販価格が2万円以下の超低価格機。値段の割に高機能な高コスパ機とは少し趣が違うが、価格.comに寄せられるユーザー満足度は4点台と悪くない。その特徴や注意点を探ろう。

直販価格は2万円以下のエントリーモデル「moto e32s」を取り上げよう

直販価格は2万円以下のエントリーモデル「moto e32s」を取り上げよう

大画面のエントリーモデル、機能はシンプル

なかなか解消されない半導体の供給不足に急激な円安が重なり、スマートフォンの値上がりは近ごろさらに進んでいる。買い換えを考えているが、高価なハイエンドモデルは買いにくい。生活防衛の点からも、自分が必要とする使い方に十分な性能を意識しながら製品をしっかり見極めてムダを抑えたい。

今回取り上げる「moto e32s」は、モトローラの主力「moto」シリーズの一般流通向け(いわゆるSIMフリー)エントリーモデルとして、2022年7月15日に登場した。家電量販店や「IIJmio」「mineo」「イオンモバイル」などのMVNOでも取り扱われている。

まず注目したいのはその価格だ。モトローラの直販サイトにおける価格は19,820円(税込)で、価格.comの最安価格はそれより多少下回る水準だ。MVNOにおける価格も2万円前後である。いずれの販路でも、新製品としてはかなり安い。そのいっぽうで、価格.comに寄せられるユーザーレビューの満足度は4.07、エントリーモデルとしての評価は手堅い(いずれも2022年9月中旬の数値)。

サイズや外見を見てみよう。本体サイズは約74.9(幅)×164.0(高さ)×8.5(最薄部)mmで、重量は約185gだ。ディスプレイは1600×720のHD+表示に対応する約6.5インチの液晶で、大型化が進んでいる昨今のスマートフォンに合わせたサイズ感だろう。背面はアクリルだが指紋汚れが付きにくいマット加工が施されている。なお、樹脂製の背面はキズが心配だが、製品パッケージには透明のケースが同梱されている。

ボディはIPX2の防滴とIP5Xの防塵仕様に対応。IPX2の防滴仕様とは、左右15度までの角度から降ってくる雨に耐えるもので、水没や水しぶきがかかるような状況には向かない。なお、FeliCaポートは非搭載なので、おサイフケータイも利用できない。NFCも非搭載のため、Bluetooth機器との手軽なペアリングや家電製品との情報連携にも少し注意がいる。

右側面にボリュームと、指紋認証センサーを備えた電源の各ボタンを配置する。エントリーモデルでは省略されることも多い指紋認証に対応しているのがポイント

右側面にボリュームと、指紋認証センサーを備えた電源の各ボタンを配置する。エントリーモデルでは省略されることも多い指紋認証に対応しているのがポイント

ボディ上面にヘッドホン端子を配置する

ボディ上面にヘッドホン端子を配置する

ボディ下面にはUSB Type-Cポートとスピーカーホールなどが配置される。本体に備わるスピーカーは1基のみのモノラル出力

ボディ下面にはUSB Type-Cポートとスピーカーホールなどが配置される。本体に備わるスピーカーは1基のみのモノラル出力

ディスプレイは画面サイズの割に、解像度が低いため、人によっては、細かな文字を表示させた場合に粗さを感じるかもしれない。視野角も少し狭めだ。ただし、発色は素直で、パンチホール付き液晶ディスプレイで目立つ輝度のムラもさほど気にならない。なお、このディスプレイは、1.5倍速の90Hzのリフレッシュレートに対応している。サウンド機能として、ヘッドホン端子を備えるが、スピーカーはモノラルで、Dolby Atomsにも対応していない。

パンチホールを備えた液晶ディスプレイを搭載。視野角はやや狭いが、発色は総じて良好だ。なお、HDRには対応していない

パンチホールを備えた液晶ディスプレイを搭載。視野角はやや狭いが、発色は総じて良好だ。なお、HDRには対応していない

バックライトが必須の液晶ディスプレイでは、その構造上、パンチホール周辺に輝度のムラが起りやすい。しかし、本機は画面全体に均一な輝度が保たれている

バックライトが必須の液晶ディスプレイでは、その構造上、パンチホール周辺に輝度のムラが起りやすい。しかし、本機は画面全体に均一な輝度が保たれている

ディスプレイは90Hzの1.5倍速駆動に対応。表示する内容によって、フレームレートを60Hzと90Hzで自動的に切り替える機能も備える

ディスプレイは90Hzの1.5倍速駆動に対応。表示する内容によって、フレームレートを60Hzと90Hzで自動的に切り替える機能も備える

搭載されるSoCは、MediaTek社のエントリー向け「Helio G37」で、4GBのメモリーと64GBのストレージ、最大1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせる。OSは、Android 12だ。本機のOSは、モトローラのスマートフォンの特徴であるAndroidの標準的な操作に準じている。そのため、同じくAndroidの標準的な操作を採用するソニー「Xperia」シリーズ、シャープ「AQUOS」シリーズ、Google「Pixel」シリーズから比較的スムーズに移行できると考えられる。

Androidの標準的なユーザーインターフェイスに準じている。そのため、同UIを採用する「Xperia」や「AQUOS」の利用者などからすぐになじめるだろう

Androidの標準的なユーザーインターフェイスに準じている。そのため、同UIを採用する「Xperia」や「AQUOS」の利用者などからすぐになじめるだろう

定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク(バージョン9.X+AnTuTu 3D Lite)」の計測結果は、総合スコアで116901ポイント(内訳、CPU:33112、GPU:16949、MEM:29,198、UX:37,642。注意:検査項目「UX」を構成する6個の評価項目のひとつ「画像処理」プロセスに異常があった。総合スコアに決定的な影響を与えるレベルではないが「UX」の値だけは参考値とさせていただく)。なお、このスコアは昨年夏に登場したソニー「Xperia Ace II」のスコア113,765(内訳、CPU:33,252、GPU;17,512、MEM:28,334、UX:34,667)に近く、3年ほど前のミドルレンジスマートフォンを多少上回る程度だ。本機の処理性能はAndroid 12世代としてはギリギリのものだろう。

AnTuTuベンチマーク。昨今のエントリーモデルでは総合スコアが30万以上であることが珍しくないので、Android 12世代としてはギリギリの性能だろう

AnTuTuベンチマーク。昨今のエントリーモデルでは総合スコアが30万以上であることが珍しくないので、Android 12世代としてはギリギリの性能だろう

本機の性能を実用の観点で見てみよう。Webページの表示やメール、TwitterやLINEなどSNSアプリを使う程度であれば問題はない。YouTubeの視聴も十分だ。なお、Google Mapを素早くスクロールさせた際にもたつきは感じる。電子書籍など大型アプリの起動にかかる時間では、昨今のミドルレンジ機と比べても見劣りを感じる状況は少なくない。また、90Hz駆動も、本機の限られたグラフィック性能では、なめらかな描画を実現するのは難しい。60Hzと90Hzのどちらでもスクロールに引っかかりは感じられた。

描画性能が重要なゲームアプリでは、2016年に登場したナイアンティック社の「ポケモンGO」のフィールド画面程度ならスムーズだが、同社が2021年に発表した「Pikmin Bloom」では、スムーズとは言いがたかった。性能をさほど問われないパズルゲームなどならそれほど問題はないが、新しいゲームの中ではスムーズさに欠けるものが増えることが予想される。

国内4キャリア対応、microSDカードを併用できるトリプルスロット仕様

通信性能を見てみよう。本機は5Gには非対応で、4Gの対応周波数帯は、B1/2/3/5/7/8/18/19/20/26/28/38/40/41だ。この周波数帯には、NTTドコモ系、KDDI系、ソフトバンク系、楽天モバイル(MNO)が使用している主要な周波数帯やプラチナバンドが含まれている。加えて、4キャリアすべてで、VoLTE、緊急災害速報、SUPL(110番など特定の発信に際して、通話相手に詳細な位置情報を伝える機能)にも対応しているため、国内で流通しているSIMカードならどれでも問題なく使えるだろう。また、2基のnanoSIMカードスロットを備えており、2個のSIMカードを利用するDSDVにも対応しているので、近ごろ注目を集めているサブ回線を導入する際にも重宝する。5Gに対応していない点は気になるが、本機の基本性能に釣り合った使い方を想定するなら4Gでもとりたてて不都合はないだろう。

microSDXCメモリーカードスロットと独立した2基のnanoSIMカードスロットを搭載する

microSDXCメモリーカードスロットと独立した2基のnanoSIMカードスロットを搭載する

15WのUSB PD充電に対応

本機は5000mAhのバッテリーを内蔵している。本機のスペック表にはバッテリー持ちに関する指標は公開されていないが、検証に際して1日2時間程度の利用ペース(ゲームを含まない)なら4日プラスα程度の電池持ちだった。特別にバッテリーが持続する部類ではないが、2〜3日に1回の充電ペースで済むだろう。なお、充電器は同梱されないが、15Wの充電に対応しており、手元の時計で計測したところ、バッテリー残量なしからフル充電までにかかる充電時間は2時間30分程度だった。

スペックよりも実用性を重視したカメラはレスポンスが良好

本機のメインカメラは約1600万画素の広角カメラ(標準カメラ)、約200万画素のマクロカメラ、約200万画素の深度センサーという組み合わせだ。トリプルカメラではあるが、深度センサーは映像の記録には使わない。フロントカメラは約800万画素だ。なお、AIを使った美顔撮影が行えるが、構図の認識機能は備えていない。

メインカメラは、標準カメラ、マクロカメラ、深度センサーのトリプルカメラ

メインカメラは、標準カメラ、マクロカメラ、深度センサーのトリプルカメラ

本機のメインカメラを使った静止画の作例を掲載しよう。なお、初期設定のままシャッターを押すだけのカメラ任せで撮影を行っている。

明るい日中を撮影。鮮やかさを無闇に強調せず。少しもやのかかった雨上がりの雰囲気が維持されている。ただ、HDRが動作しているものの左右のビルはややアンダー気味だ撮影写真(4608×3456、3.58MB)

明るい日中を撮影。鮮やかさを無闇に強調せず。少しもやのかかった雨上がりの雰囲気が維持されている。ただ、HDRが動作しているものの左右のビルはややアンダー気味だ
撮影写真(4608×3456、3.58MB)

窓から景色を望む明暗差が大きな構図を撮影。HDRは動作しているが、構図中央のハイライトに合わせた露出で、暗部となる室内のディテールはつぶれ気味だ撮影写真(4608×3456、2.64MB)

窓から景色を望む明暗差が大きな構図を撮影。HDRは動作しているが、構図中央のハイライトに合わせた露出で、暗部となる室内のディテールはつぶれ気味だ
撮影写真(4608×3456、2.64MB)

明るめの夜景を通常モードで撮影。樹木などディテールがやや甘くなるが、心配された手ブレもなく、オートHDRが動作したため、ハイライト部分の白飛びも抑えられている撮影写真(4608×3456、3.38MB)

明るめの夜景を通常モードで撮影。樹木などディテールがやや甘くなるが、心配された手ブレもなく、オートHDRが動作したため、ハイライト部分の白飛びも抑えられている
撮影写真(4608×3456、3.38MB)

上と同じ構図を夜景モードの「ナイトビジョン」を使うと、全般的に色のりがよくなる。ただしHDRとの併用ができないため白飛びが現われる撮影写真(4608×3456、2.16MB)

上と同じ構図を夜景モードの「ナイトビジョン」を使うと、全般的に色のりがよくなる。ただしHDRとの併用ができないため白飛びが現われる
撮影写真(4608×3456、2.16MB)

マクロカメラで撮影。画素数が200万と少ないため、ディテールは甘い。キレイに仕上げるには、十分な明るさを確保しつつ、被写体ブレを抑えるなど工夫がほしい撮影写真(1600×1200、947KB)

マクロカメラで撮影。画素数が200万と少ないため、ディテールは甘い。キレイに仕上げるには、十分な明るさを確保しつつ、被写体ブレを抑えるなど工夫がほしい
撮影写真(1600×1200、947KB)

本機のカメラは、最低限のスペックと言えるものだが、いたずらに画素数を高めないこともあり、レスポンスが良好かつ手ブレにも意外と強い。絵作りの傾向も概して自然で好感が持てる。いっぽう、HDR機能を備えるものの、白飛びや黒つぶれを抑えきれない場合があり、明暗が大きな構図は得意ではないようだ。

大画面を求める場合や、サブ回線用途で選びたい

本機のような安価なエントリーモデルは、予算に限りがあるため、注力する点と、自分の重視する性能とのマッチングが重要だ。

本機が注力点はいくつかあるが、画面が大きい点がその筆頭だろう。代表的なエントリーモデルであるシャープ「AQUOS wish/wish2」やソニー「Xperia Ace II/Ace III」、シャオミ「Redmi Note 11」と比べたアドバンテージはここだ。また、国内で流通するSIMカードならどれでも適合するうえに、デュアルSIM対応なので、サブ機としても使いやすい。Androidの標準にならった画面デザインもサブ機としては適している。

逆に、おサイフケータイに対応しておらず、防水性能もあまり高くない。処理性能もAndroid 12世代としてはぎりぎりのレベルで、90Hz駆動のディスプレイもあまり実用的ではない。総じて値段相応の性能であり、驚きの機能があるわけでもない。ただし、この価格の中で無理をせず、バランスを重視した製品であるのは確かだ。本機が価格.comで比較的好評な理由もまた、派手さはないが価格相応の堅実さにあるのかもしれない。

参考記事
・税込22,000円のシンプル志向なスマホ、シャープ「AQUOS wish2」を試した
・「Xperia Ace III」レビュー、3万円台の格安Xperiaの実力は?
・必要な機能は維持、それでいてさらに安く。シャープ「AQUOS wish」レビュー
・高機能有機ELディスプレイ&クアッドカメラ搭載で24,800円。シャオミ「Redmi Note 11」レビュー

田中 巧(編集部)

田中 巧(編集部)

FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。

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