通信キャリアの扱うハイエンドスマホは最近、価格が20万円近くにまで高騰している。そんな中、2022年10月21日より、NTTドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイルの各社から発売された「Xperia 5 IV」は、ワイヤレス充電に対応しながら10万円台前半と、比較的価格が抑えられた1台だ。強化点やコスト削減の影響に迫った。
「Xperia 5 IV」が登場。20万円近くまで高騰した上位モデル「Xperia 1 IV」と比べれば、まだ安価。注目している人は少なくないはずだ
コンパクトながら高性能・高機能という日本メーカーの伝統芸を受け継いでいるソニー「Xperia 5」シリーズ。その第4世代モデルとなる「Xperia 5 IV(マーク・フォー)」は、上位モデル「Xperia 1 IV」と同じSoC「Snapdragon 8 Gen1」を搭載したハイエンドモデルだ。
ボディサイズは、約67(幅)×159(高さ)×8.2(厚さ)mmで、重量は172g。前モデル「Xperia 5 III」と比較すると幅および高さが約1mm小型化しつつ、重量は4gほど増加した。ただし、基本的な印象は変わらない。
搭載されるディスプレイは、2520×1080のフルHD+表示に対応した約6.1インチの有機ELディスプレイで、前モデルと共通。なお、残像低減機能付きの120Hz駆動や240Hzのタッチサンプリングレートを継承しつつ、最大輝度が約50%向上したほか、視聴環境に応じてHDR映像の最適化を行う「リアルタイムHDRドライブ」に対応している。ステレオスピーカーは音圧と音質を高めた「フルステージステレオスピーカー」に強化された。ヘッドホン端子も引き続き搭載されている。
なお、防水・防塵、FeliCa搭載も継承されているが、新たにQi規格のワイヤレス充電に対応した。これにより「Xperia 1 IV」との機能上の違いが減った。
磨りガラスを使った背面。カメラ周辺のデザインも「Xperia」シリーズのモチーフを受け継いでいる
最大輝度が向上したディスプレイ。ノッチやパンチホールなし、フラット、超縦長というXperiaシリーズの特徴を受け継いでいる
右側面にまとめられたボタン。Google アシスタントの呼び出しボタンが廃止され、ボリューム、指紋センサー内蔵の電源ボタン、シャッターという構成になった
ボディ下面にUSB Type-Cポートを配置。スロットは1個のnanoSIMスロットと、microSDXCメモリーカードスロットという構成。eSIMにも対応している
基本性能を見てみよう。上述のとおり、搭載されるSoCは「Snapdragon 8 Gen1」で、8GBのメモリー、128GBのストレージ、1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせる。OSはAndroid 12だ。定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク(バージョン9.x)」の計測結果は847741(CPU:210331、GPU:353835、MEM:130520、UX:153075)だった。同SoCを搭載するものには総合スコアが100万を超えるものが多いが、それと比べると1〜2割見劣りする。なお、「Xperia 5 III」のスコアは727,594(内訳、CPU:180,884、GPU:295,586、MEM:113,602、UX:137,522)で、本機との差は思いのほか少ない。
AnTuTuベンチマークの結果。左が本機、中央が前モデル「Xperia 5 III」、右が本機と同じSoC「Snapdragon 8 Gen1」を備える「REDMAGIC 7」。本機のスコアは「Xperia 5 III」よりも多少良好程度。「REDMAGIC 7」と比べると、本機のスコアには少々物足りなさを感じる
120Hz駆動のディスプレイの効果もあって、ゲームを含む動作は一般にスムーズ。ただし、前モデル「Xperia 5 III」でも十分なレベルだったので違いは感じにくい。むしろ気になったのは128GBに据え置かれたストレージ容量だ。ゲーム重視や4K/120fps対応カメラを備える本機に対して、物足りなさを感じる。長く使うのであればストレージの増設は検討したい。
また、発熱が多いのも気になる。Webページを閲覧する程度でもボディは体温以上の熱を発するし、動画撮影アプリ「VideoGrapy PRO」を長時間使い続けた場合、ボディの一部がかなり熱くなる。重量級ゲームを動作させた場合の発熱も多めで、長い時間持ち続けるのが少々苦痛だ。
通信性能を見てみよう。1基のnanoSIMスロットとeSIMに対応しており、nanoSIMとeSIMの組み合わせによるデュアルSIM(DSDV)機として利用できる。対応周波数帯は以下の通りとなる。
※塗りつぶしたセルは、自社でサービス中の周波数帯
いずれのモデルも、4GについてはNTTドコモのB19や、au(KDDI)や楽天モバイルのB18(B26)、ソフトバンクのB8といったプラチナバンドに対応しているので自社以外のネットワークでもエリアに不都合はないだろう。いっぽう5Gは、「Xperia 1 IV」とは異なり、より高速なデータ通信が可能なミリ波(n257)や、ネットワークスライシングなど5Gのフル機能に対応するSAモードの対応はキャンセルされている。
なお、au版とソフトバンク版は、5Gのn79に対応していないため、n79を使用するNTTドコモの5Gネットワークとの相性に難がある。逆に楽天モバイル版は対応する周波数帯が最も多く、国内4キャリアのいずれでも問題なく使うことができる。
本機のメインカメラは、超広角カメラ(35mm換算の焦点距離16mm)、広角カメラ(同24mm)、望遠カメラ(同60mm)という組み合わせのトリプルカメラだ。いずれも画素数は約1200万画素となっている。特に望遠カメラは「Xperia 5 III」と「Xperia 1 IV」のいずれとも異なる点には注意したい。
3基のカメラは、いずれも瞳AFに対応。追尾AFは「Xperia 5 III」のオブジェクトトラッキングから、AIを取り入れて追尾性を高めたリアルタイムトラッキングに強化している。動画撮影機能では、120fpsの高速イメージ読み出しに対応しており、4K/120fpsのハイフレームレートやスローモーション動画撮影が行える。総じて、3基のカメラにあった機能の差をなるべく減らす方向で進化している。
望遠カメラの焦点距離に加えて、「Xperia 1 IV」に搭載されAF機能の補助として使われる3D iToFセンサーがないため、AF性能にも違いがある
追尾AFの追尾性が向上。交差点を曲がる車のような予測しにくい動きでも追従可能になった
以下に、メインカメラを使った静止画の作例を掲載する。PhotographyProのAutoモードを使用している。
現実をあまり誇張しないXperiaらしい画質。構図周辺の画質も比較的安定している
(撮影写真:4032×3024、2.83MB)
16mmの超広角となり構図が一気に広がる。ハイエンド機らしく、カメラごとの色調のバラツキが目立たない。構図周辺のノイズや流れはミドルレンジクラスよりも格段に少ない
(撮影写真:4032×3024、3.49MB)
60mmの望遠となり、時計台の細部も確認できる。望遠としては中途半端だが、カメラの標準レンズに近い焦点距離なので使いやすいと感じる人もいるだろう
(撮影写真:4032×3024、3.13MB)
明るめの夜景を撮影。HDRが適切に動作しており、構図右のハイライトから遠景の暗部まで階調の破綻は抑えられている。手ブレにも強く、AFの迷いも少ないので夜景でも軽快な撮影が可能だ
(撮影写真:4032×3024、3.02MB)
上と同じ構図を超広角カメラに切り替えて撮影。ハイエンドスマホらしく、カメラを切り替えても画質の劣化が少ない。これくらいの光量がある構図なら十分実用になるだろう
(撮影写真:4032×3024、3.5MB)
さらに同じ構図を望遠カメラに切り替えて撮影。光学式手ブレ補正機構を備えるが、10カットほど撮ったうち4カットで手ブレが見られた。夜景撮影時は広角カメラや超広角カメラよりもしっかりホールドしたほうがよさそうだ
(撮影写真:4032×3024、2.37MB)
本機の望遠カメラは60mmの単焦点だが、この焦点距離は望遠としては物足りなさを感じる。また、光学式手ブレ補正機構を備える割に手ブレには敏感な傾向があるのも気になった。70mmと105mmの切り替え可能な「Xperia 5 III」のほうが望遠撮影を楽しめただろう。
ただし、「Xperia」シリーズのオートフォーカスの秀逸さは健在で、瞳AFやリアルタイムトラッキングなど、ペットや子どもなど動く被写体を撮影する用途に適している。逆に、超現実的な写真や超高感度撮影機能など、競合製品が重視する機能はほどほどで、狙いがはっきりとしたカメラと言える。
「Xperia 5 III」はバッテリー持ちのよさが人気の理由のひとつだった。そのいっぽうで、本機のSoC「Snapdragon 8 Gen1」はバッテリー消費の多さを指摘されることが多い。電池持ちはどのように変わっているだろうか?
「Xperia 5 IV」は、「Xperia 5 III」より500mAh容量アップの5000mAhのバッテリーを内蔵する。カタログスペックを見ると連続待受け時間は約420時間から約530時間へ、連続通話時間も約1950分から約2000分にそれぞれ伸びている。検証に際して半日以上3Dゲームをやりこんだがフル充電で20時間くらいはバッテリーが持った。「Snapdragon 8 Gen1」は電力消費の激しいSoCであるという前提で見れば、良好な部類だろう。また、1日に1時間使用する程度の待受け時主体の利用パターンなら、フル充電で4日以上はバッテリーが持った。バッテリー持ちと性能のバランスは引き続き良好だ。
最後に、本機と直接競合すると思われる防水・防塵、FeliCa対応の「Snapdragon 8 Gen1」搭載ハイエンドスマホの価格を一覧でまとめた。
ZenFone 9」が、通信キャリアで扱いのない一般流通モデル(いわゆるSIMフリー)だが、10万円以下だ。本機と「ZenFone 9」はともに小型モデルというライバルとなっている。">競合モデルと比べると本機は、概して安い。ただ、ASUS「ZenFone 9」が、通信キャリアで扱いのない一般流通モデル(いわゆるSIMフリー)だが、10万円以下だ。本機と「ZenFone 9」はともに小型モデルというライバルとなっている。
以上「Xperia 5 IV」のレビューをお届けした。ワイヤレス充電対応など機能を強化しつつ、「Xperia 1 IV」のような極端な価格上昇はなく、多くの人にとってまだ現実的な選択肢の「Xperia」となっている点は評価できる。小さなボディにハイエンドSoCを組み合わせつつバッテリー持ちも良好、高性能なAFを備えたカメラといった魅力も健在だ。
そのいっぽう、より新しい世代のSoCを搭載するものの、「Xperia 5 III」と比べると処理性能に劇的な進化は見られない。望遠カメラの焦点距離が少し短い点や、5Gのミリ波やSAモード対応が見送られた点などコストダウンの影響も目につく。特に、128GBというストレージ容量は、カメラ、ゲーム、オーディオなど、本機の想定するエンターテインメント用途に対しては不十分だと感じる人も少なくないだろう。
本機と競合する製品として、ASUS「Zenfone 9」の名前があげられる。こちらもコンパクトモデルだが、SoCはクロックアップにより1割ほどピーク性能を高めた「Snapdragon 8+ Gen1」に強化されている。機能面も、FeliCaや防水・防塵対応だ。そのいっぽうで価格は99,800円からと、本機とは2〜4万円の差がある。本機の価格はキャリアのラインアップとして見るとかなり健闘しているが、それを上回るライバルをどう捉えるかで、評価が分かれそうだ。
FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。