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インテル第13世代Coreシリーズの実力は?「Core i9-13900K」「Core i5-13600K」を試す【前編】

インテル第13世代Coreシリーズの実力は?「Core i9-13900K」「Core i5-13600K」を試す【前編】

2022年10月20日に満を持して発売された、インテルの最新CPU「第13世代Coreプロセッサー」シリーズ。「第12世代Coreプロセッサー」シリーズのマイナーチェンジモデルと目される向きもあるが、そのパワフルさで早くも話題を集めている。そこで今回は、「Core i9-13900K」「Core i5-13600K」のレビュワーズキットをインテルからお借りして、前世代の「Core i7-12700K」と比較しながら、ベンチマークを中心に徹底検証。前編と後編の2回に分けて、その実力をじっくりレポートしていきたい。この前編では、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズの進化のポイントを確認したうえで、主要ベンチマークプログラムをテスト。次回の後編では、クリエイティブ関連ベンチマークプログラムと、実際のゲームを使用したベンチマークプログラムで、より実践的な性能を確かめていく。

前世代のアーキテクチャーを踏襲しつつも最大限にブラッシュアップ

今回新たに投入された「第13世代Coreプロセッサー」シリーズのベースとなるアーキテクチャーは、やはり「第12世代Coreプロセッサー」シリーズのそれである。その中核となるのは、パフォーマンスを追求した「Pコア」と、高効率に徹した「Eコア」という2種類のコアを組み合わせ、「スレッド・ディレクター」と呼ばれるコントローラーで両者に得意なタスクを割り振るという、画期的なハイブリッド・アーキテクチャーだ。

「第11世代Coreプロセッサー」シリーズまでのCPUは、同一のコアを単純に組み合わせたもの。6コア程度までのCPUでは、こうしたシンプルな構成でもそこまで大きな問題は生じなかった。しかし、ライバルとなるAMD「Ryzen」シリーズとの性能競争により多コア多スレッド化が進行し、8コア以上のCPUが登場するようになると、単純な多コア多スレッド化による弊害が目立つようになったのである。

代表的な弊害のひとつは、CPUの消費電力が激増し、飛躍的に発熱しやすくなってしまったこと。当然ながらCPUが高温になれば、熱暴走を防ぐ制御機能のサーマルスロットリングが発動し、動作クロックが絞り込まれてパフォーマンスが落ちる。また、CPU内のコア数やスレッド数が多くなればなるほど、各コアや各スレッドに処理を割り振るためのオーバーヘッド(付加的な処理)が増加し、その処理自体がパフォーマンスのおもしになってしまう。こうした弊害はとりわけシングルコア性能に大きく影響を及ぼすため、コア数にすぐれる高性能CPUほどゲーミング性能などが伸び悩む現象が顕著になっていた。

そうした課題を鮮やかに解決したのが、2021年11月に発売された「第12世代Coreプロセッサー」シリーズのハイブリッド・アーキテクチャーだ。これにより、システム系の処理やバックグラウンドタスクなどを電力効率にすぐれたEコアが担当し、アプリケーションのメイン処理をパワフルなPコアが集中的にさばくという理想的な分業が実現。シングルコア性能とマルチコア性能を高次元で両立させることに成功した「第12世代Coreプロセッサー」シリーズは、AMDで当時最新だった「Ryzen 5000」シリーズを処理性能で大きく突き放し、この画期的なアーキテクチャーの威力を広く世に知らしめたのだった。

今回登場した「第13世代Coreプロセッサー」シリーズでもこのハイブリッド・アーキテクチャーが踏襲されているのは、インテルがこの設計思想に大きな自信を抱いていることの証左でもあるだろう。CPUソケットも前世代のLGA1700から変わっておらず、回路の線幅も10nmのまま据え置きだ。ただしこの最新CPUは、こうした前世代の基本設計を踏襲しつつも、マイナーチェンジのひと言では片付けられない進化を遂げている。

今回インテルからお借りしたレビュワーズキット

今回インテルからお借りしたレビュワーズキット

レビュワーズキットの中には「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」のパッケージとあわせて、CPUダイのレイアウト写真も同梱されており、ハイブリッド・アーキテクチャーに対するインテルの自負がうかがえる

レビュワーズキットの中には「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」のパッケージとあわせて、CPUダイのレイアウト写真も同梱されており、ハイブリッド・アーキテクチャーに対するインテルの自負がうかがえる

「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」の本体写真。「第12世代Coreプロセッサー」シリーズと同様にLGA1700を採用しており、サイズや形状は基本的には変わっていない

「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」の本体写真。「第12世代Coreプロセッサー」シリーズと同様にLGA1700を採用しており、サイズや形状は基本的には変わっていない

「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」の主な仕様をまとめたもの。今回、比較モデルとして使用する前世代「Core i7-12700K」の仕様も、参考のために添えている

「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」の主な仕様をまとめたもの。今回、比較モデルとして使用する前世代「Core i7-12700K」の仕様も、参考のために添えている

まず注目したいのは、改良が施されたプロセスルール「Intel 7」だ。そもそもプロセスルールとは回路の配線の太さを示すもので、細ければ細いほど省電力で高性能とされる。一般的には「10nm」や「7nm」などの線幅自体が名称としてそのまま使用され、インテルでも従来は同様の名称を扱っていた。ただ、現在の回路は2D構造ではなく3D構造になっているため、このnmベースの名称が技術レベルを正確に反映していないとインテルは考えた。そこでインテルでは、2021年からこのnmベースの名称を廃止し、たとえば他社の7nmに相当するものを「Intel 7」と呼ぶようになっている。そして「第12世代Coreプロセッサー」シリーズではこの「Intel 7」が採用されていたのだが、最新の「第13世代Coreプロセッサー」シリーズではこれをさらに改良し、同じ「Intel 7」という名称ながらも省電力性を大幅アップ。実質的に6nmに相当すると考える向きもあり、AMDから2022年9月に発売された最新CPU「Ryzen 7000」シリーズが採用する5nmプロセスルールに、かなり近いレベルと考えてよいだろう。

ブースト時の最大消費電力であるMTPを引き上げていることも手伝って、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズの動作クロックは最大600MHz向上。「Core i9-13900K」のPコアでは最大5.8GHzにも達し、「Ryzen 7000」シリーズのフラッグシップモデル「Ryzen 9 7950X」の最大5.7GHzを抜き去っている。

また、インテルが採用するハイブリッド・アーキテクチャーでは、あえてパフォーマンスを抑えたEコアを組み込む特性上、シングルコア性能に比べるとマルチコア性能がやや落ちる部分があるが、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズではその点もカバー。Pコアの数は据え置きながら、Eコアを各モデルで倍増させている。特に「Core i9-13900K」ではPコア8にEコア16を組み合わせ、合計32スレッドを実現。マルチコア性能を強みとするライバル「Ryzen 9 7950X」に、スレッド数でも肩を並べているのだ。

そして見逃せないのが、キャッシュのアーキテクチャーに大きく手が加えられていること。PコアとEコアの双方でL2キャッシュが大幅に増やされているうえ、EコアではL3キャッシュも増量。キャッシュとの通信経路であるリングバスの動作クロックが向上していることも相まって、とりわけキャッシュをひんぱんに使用するゲームなどで大きな威力を発揮することだろう。加えて「第13世代Coreプロセッサー」シリーズは、対応メモリーをDDR5-5600まで拡張。「Ryzen 7000」シリーズはDDR5-5200までの対応のため、対応メモリーの点でも「第13世代Coreプロセッサー」シリーズに優位性がある。

これらの進化により、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズは前世代よりもシングルスレッド性能で最大15%、マルチスレッド性能で最大41%も上昇しているという。この伸び幅は単なるマイナーチェンジで実現できるものではなく、アーキテクチャーの刷新に近いレベルの進化を遂げていると言えそうだ。

フラッグシップモデルとなる「Core i9-13900K」。外見上は「第12世代Coreプロセッサー」シリーズとほぼ変わらないが、その内側ではダイが拡張され、大規模なブラッシュアップが施されている

フラッグシップモデルとなる「Core i9-13900K」。外見上は「第12世代Coreプロセッサー」シリーズとほぼ変わらないが、その内側ではダイが拡張され、大規模なブラッシュアップが施されている

「CPU-Z」で「Core i9-13900K」の詳細を確認。前世代と同じ「10nm」と表示されているが、実際にはプロセスルールが大きく刷新されている。なお、「Core Speed」に表示されているように、全コア駆動時は最大5.5GHzで動作する

「CPU-Z」で「Core i9-13900K」の詳細を確認。前世代と同じ「10nm」と表示されているが、実際にはプロセスルールが大きく刷新されている。なお、「Core Speed」に表示されているように、全コア駆動時は最大5.5GHzで動作する

「Core i9-13900K」とあわせてチェックしたスタンダードモデルの「Core i5-13600K」。最新世代ながら2022年12月19日時点の価格.com最安価格では4万円台のプライスタグが付いており、比較的手の届きやすい価格なのも魅力だ

「Core i9-13900K」とあわせてチェックしたスタンダードモデルの「Core i5-13600K」。最新世代ながら2022年12月19日時点の価格.com最安価格では4万円台のプライスタグが付いており、比較的手の届きやすい価格なのも魅力だ

「CPU-Z」で「Core i5-13600K」の詳細を表示。スタンダードモデルながら20スレッドを備えていることが確認できる。こちらは「Core Speed」に表示されているように、全コア駆動時も最大ブーストクロックと同じく、最大5.1GHzで動作する

「CPU-Z」で「Core i5-13600K」の詳細を表示。スタンダードモデルながら20スレッドを備えていることが確認できる。こちらは「Core Speed」に表示されているように、全コア駆動時も最大ブーストクロックと同じく、最大5.1GHzで動作する

続いて、検証に使用したマザーボードをチェックしよう。今回採用したのは、ASUSからお借りした「ROG MAXIMUS Z790 EXTREME」。「第13世代Coreプロセッサー」シリーズが対応するチップセットは、700シリーズのZ790と600シリーズだが、本マザーボードは最上位のZ790チップセットを搭載した最新のフラッグシップモデルだ。105A対応の24+1パワーステージを採用した強力な電源回路により、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズのポテンシャルを最大限に引き出せることが魅力。PCIe 5.0 x16スロットを2基、PCIe 4.0 x4スロットを1基備えるうえ、3基のM.2スロットを装備しており、拡張も存分に行える。

検証に使用したASUS「ROG MAXIMUS Z790 EXTREME」。CPUまわりに電源回路のVRMを冷却する大型ヒートシンクがそびえ立っているかと思えば、下半分はM.2やチップセット用のヒートシンクでくまなく覆われており、徹底した放熱対策が施されている

検証に使用したASUS「ROG MAXIMUS Z790 EXTREME」。CPUまわりに電源回路のVRMを冷却する大型ヒートシンクがそびえ立っているかと思えば、下半分はM.2やチップセット用のヒートシンクでくまなく覆われており、徹底した放熱対策が施されている

CPUソケットは「第12世代Coreプロセッサー」シリーズと同じLGA1700。CPUクーラーも前世代からそのまま使い回せる

CPUソケットは「第12世代Coreプロセッサー」シリーズと同じLGA1700。CPUクーラーも前世代からそのまま使い回せる

メモリーは実にDDR5-7800+(OC)まで対応する。独自機能「ASUS Enhanced Memory Profiles II」(AEMP II)を採用しており、オーバークロック規格のXMPをサポートしていないDDR5メモリーでも、基本的にはXMPレベルのオーバークロックが可能だ

メモリーは実にDDR5-7800+(OC)まで対応する。独自機能「ASUS Enhanced Memory Profiles II」(AEMP II)を採用しており、オーバークロック規格のXMPをサポートしていないDDR5メモリーでも、基本的にはXMPレベルのオーバークロックが可能だ

「ROG MAXIMUS Z790 EXTREME」には、PCIe 4.0対応のM.2拡張カード「ROG DIMM.2」も付属。メモリースロットの隣にある専用スロットに挿入することで、M.2 SSDをさらに2枚追加できるようになる

「ROG MAXIMUS Z790 EXTREME」には、PCIe 4.0対応のM.2拡張カード「ROG DIMM.2」も付属。メモリースロットの隣にある専用スロットに挿入することで、M.2 SSDをさらに2枚追加できるようになる

バックパネルには、Thunderbolt 4 USB Type-Cポート、USB 3.2 Gen 2x2 Type-Cポート、10Gbps対応LANポートなど、最新規格のポートをしっかりと装備。Wi-Fi 6E(IEEE 802.11 a/b/g/n/ac/ax)に対応しており、このマザーボード1台で高速無線通信にも対応できるのもうれしいポイントだ

バックパネルには、Thunderbolt 4 USB Type-Cポート、USB 3.2 Gen 2x2 Type-Cポート、10Gbps対応LANポートなど、最新規格のポートをしっかりと装備。Wi-Fi 6E(IEEE 802.11 a/b/g/n/ac/ax)に対応しており、このマザーボード1台で高速無線通信にも対応できるのもうれしいポイントだ

そのほかのパーツも含めた今回の検証環境は以下のとおり。比較モデルとして使用した前世代「Core i7-12700K」でもすべて同じパーツを使用しており、メモリークロックのみ設定が異なる。XMPを使用して、「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」では定格のDDR5-5600に、「Core i7-12700K」では定格のDDR-4800に設定。それ以外のUEFIの基本設定はデフォルトのAutoのままとした。基本的にはこの状態で、負荷に応じてMTPないし最大温度まで自動的にブーストがかかることになる。また、「Windows 11」のコントロールパネル内の電源オプションは「バランス」、設定アプリ内の電源モードは「最適なパフォーマンス」に設定した。

今回検証した「Core i9-13900K」「Core i5-13600K」と、比較用の「Core i7-12700K」で使用したパーツリスト

今回検証した「Core i9-13900K」「Core i5-13600K」と、比較用の「Core i7-12700K」で使用したパーツリスト

シングルコア・マルチコア双方で前世代から1クラス以上も進化

消費電力・温度・動作クロック

まずはCPUの基本特性を把握するため、CPUをフル稼働させた場合の消費電力からチェック。CPUに100%の高負荷をかけ続ける「OCCT」を動作させつつ、各CPUの消費電力を「HWiNFO64」でモニタリングした。「Core i9-13900K」ではブースト時の最大消費電力であるMTPは253Wとされているが、実際には100%の高負荷時で平均265Wを消費。高負荷状態のまま5分経過するとMTPの253Wに落ち着いたが、余裕があればMTPを超える大電力を送り込める仕様になっているらしい。フラッグシップモデルだけあって、極限までパフォーマンスを追求しようとする姿勢がうかがえる。ただ、「Core i5-13600K」では100%の高負荷時でもMTPの181Wまで到達せず、160W程度で推移。下位モデルではギリギリのラインまで攻めてはいないようだ。

CPU消費電力の測定結果。「Core i9-13900K」では高負荷時で平均265Wもの電力を消費した。「Ryzen 7000」シリーズの最上位モデル「Ryzen 9 7950X」でも電力リミットであるPPTが230Wであることを考えると、気合の入れ具合がものすごい

CPU消費電力の測定結果。「Core i9-13900K」では高負荷時で平均265Wもの電力を消費した。「Ryzen 7000」シリーズの最上位モデル「Ryzen 9 7950X」でも電力リミットであるPPTが230Wであることを考えると、気合の入れ具合がものすごい

続いて、「OCCT」で100%の高負荷をかけつつ、「HWiNFO64」で各CPUの温度を確認。下位モデルの「Core i5-13600K」は、「Core i7-12700K」の温度こそ上回ってきたものの、高負荷時でも平均82℃で、十分な余裕を見せた。しかし注目したいのは「Core i9-13900K」だ。さすがに大電力を消費するCPUのため、一瞬で上限の100℃に達するかと思いきや、そのように張り付く様子はなく、比較的ゆるやかに温度が上昇。ときおり100℃に達してサーマルスロットリングが発動したものの、基本的にはフル稼働しながら平均98℃で安定して推移したのだから驚きだ。

今回CPUクーラーに採用したARCTIC「Liquid Freezer II 280」は、38mm厚の280mmラジエーターを備え、360mmラジエーターに匹敵するパワフルな冷却性能を誇る。それでも、同じ「Liquid Freezer II 280」を使用して、「Core i9-13900K」のライバルとなる「Ryzen 9 7950X」を検証した際は、一瞬で上限の95℃に張り付き、サーマルスロットリングが大きくかかり続ける有様だった。詳細についてはこちらの記事を参照してほしい。両者には最大温度に5℃の差があるものの、消費電力の差が非常に大きいことを考慮すれば、「Core i9-13900K」の発熱特性はかなり秀逸だと言えるだろう。

CPU温度の測定結果。前世代の「Core i7-12700K」と比べると、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズは全体的に発熱しやすくなっていることがわかるが、280mmラジエーターのCPUクーラーで対処できる範囲だということは大きい

CPU温度の測定結果。前世代の「Core i7-12700K」と比べると、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズは全体的に発熱しやすくなっていることがわかるが、280mmラジエーターのCPUクーラーで対処できる範囲だということは大きい

同様に、「OCCT」で100%の高負荷をかけた状態でのPコアの動作クロックを、それぞれ「HWiNFO64」でチェック。その結果、「Core i9-13900K」は平均5447MHz、「Core i5-13600K」は平均5100MHzで駆動することが確認できた。「Core i5-13600K」の場合は最大クロックで完全に動作しているし、「Core i9-13900K」も全コア駆動時の最大クロックである5500MHzに近い数値を維持できており、サーマルスロットリングによるパフォーマンス低下がほとんど生じていないことがわかる。

Pコア動作クロックの測定結果。「Core i9-13900K」ではときどきサーマルスロットリングが発動して動作クロックが100MHz落ちる場面が見られたが、その影響は限定的だ

Pコア動作クロックの測定結果。「Core i9-13900K」ではときどきサーマルスロットリングが発動して動作クロックが100MHz落ちる場面が見られたが、その影響は限定的だ

「Ryzen 7000」シリーズが採用する5nmプロセスルールに比べると、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズが採用する10nmの「Intel 7」は、一見はるかに発熱しやすく、サーマルスロットリングがかかりやすいように思えるが、実際には正反対の結果となった。今やnmベースの名称ではプロセスルールの正確な技術レベルは測れないというインテルの主張はもっともで、「Intel 7」がその表面的な数字以上にスマートに設計されていることは疑い得ない。そして「第13世代Coreプロセッサー」シリーズで採用されているハイブリッド・アーキテクチャーも、こうした発熱コントロールに大きく寄与しているはずだ。

Sandra 2021

続いて、CPUの基本性能を探るべく、多機能ベンチマークプログラム「Sandra 2021」をテスト。CPUの演算能力を測る「Processor Arithmetic」では全指標で、「Core i5-13600K」が「Core i7-12700K」を上回っていることから、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズでは前世代より1クラス以上処理性能を上げてきていることがわかる。とりわけ「Core i9-13900K」の伸びはすさまじく、整数演算(Dhrystone Integer)と長整数演算(Dhrystone Long)はかなり優秀だ。全体的に動作クロックを引き上げたうえ、Eコアの倍増によりマルチコア性能を大幅に強化した成果が、数値として如実に示されたと言える。

ただし、マルチメディア系の処理能力を計測する「Processor Multi-Media」では、「Core i9-13900K」の伸びが今ひとつ。以前、ライバルの「Ryzen 9 7950X」をテストした際は、マルチメディア整数演算(Multi-Media Integer)やマルチメディア単精度浮動小数点演算(Multi-Media Single-float)で4000を超える値を示したいたことを考えると、3000前後の「Core i9-13900K」は全体的にやや物足りない印象だ。高負荷のかかるグラフィック処理がひたすら機械的に続くとなると、パフォーマンスに劣るEコアを混ぜたハイブリッド・アーキテクチャーでは、やはりどうしても不利になるのかもしれない。

「Sandra 2021 Processor Arithmetic」のベンチマーク結果。基本性能の高さを見せつけた。ただ、倍精度浮動小数点演算(Whetstone Double-float)はやや低く、得意としない処理があることも見て取れる

「Sandra 2021 Processor Arithmetic」のベンチマーク結果。基本性能の高さを見せつけた。ただ、倍精度浮動小数点演算(Whetstone Double-float)はやや低く、得意としない処理があることも見て取れる

「Sandra 2021 Processor Multi-Media」のベンチマーク結果

「Sandra 2021 Processor Multi-Media」のベンチマーク結果

「第13世代Coreプロセッサー」シリーズはキャッシュとメモリーが強化されていることも見どころのひとつ。そこで、キャッシュとメモリーの帯域幅「Cache & Memory Bandwidth」もチェックしてみた。この指標ではCPUの動作クロックが大きく反映されるため、「Core i9-13900K」が突出しているのは当然ではあるが、その点を差し引いても「Core i9-13900K」とほか2モデルとの差が大きい。特に1MB〜64MBにかけて、L2キャッシュを32MB、L3キャッシュを36MB積んでいる「Core i9-13900K」の優位性が色濃く反映されている。

続いてキャッシュとメモリーの応答時間であるレイテンシ「Cache & Memory Latency」をチェックしてみたが、こちらもやはり「Core i9-13900K」が最もすぐれていた。「Core i5-13600K」も2MB〜32MBにかけて「Core i7-12700K」よりレイテンシが小さく、この領域にとりわけ関わるキャッシュのブラッシュアップが大きく効いているようだ。

「Sandra 2021 Cache & Memory Bandwidth」のベンチマーク結果。キャッシュが大きく関わる16MB以下の領域での差が目立つが、メモリーが大きく関わってくる64MB以降の領域でも、「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」がしっかりと「Core i7-12700K」を上回っている

「Sandra 2021 Cache & Memory Bandwidth」のベンチマーク結果。キャッシュが大きく関わる16MB以下の領域での差が目立つが、メモリーが大きく関わってくる64MB以降の領域でも、「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」がしっかりと「Core i7-12700K」を上回っている

「Sandra 2021 Cache & Memory Latency」のベンチマーク結果。特に2MB〜64MBにかけて「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」のレイテンシが小さく、この領域のデータをよく使用するゲームなどでとりわけ威力を発揮しそうだ

「Sandra 2021 Cache & Memory Latency」のベンチマーク結果。特に2MB〜64MBにかけて「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」のレイテンシが小さく、この領域のデータをよく使用するゲームなどでとりわけ威力を発揮しそうだ

CINEBENCH R23

次に、CPUの処理性能を端的に表してくれるCPUベンチマークプログラム「CINEBENCH R23」をテスト。レンダリング系ベンチマークのため、マルチコア性能では「Sandra 2021 Processor Multi-Media」のように伸びきらない部分もあるかと思いきや、「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」のいずれも、ライバルの「Ryzen 7000」シリーズを凌ぐレベルのハイスコアをマーク。思い返せばインテルは、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズは機械的なベンチマークではなく、より実践的なタスクで真価を発揮するとしきりにアピールしていた。「Sandra 2021 Processor Multi-Media」は前者に近いが、「CINEBENCH R23」は後者に近いため、こちらのスコアが本来の実力をより適切に示していると考えてよいだろう。

そして特筆すべきはシングルコア性能だ。「Ryzen 7000」シリーズでは上位モデルほどシングルコア性能が伸び悩んだが、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズではそういった傾向はなく、とりわけ「Core i9-13900K」の伸びが目覚ましい。多コア多スレッド化の弊害を抑制するハイブリッド・アーキテクチャーの成熟も手伝って、Pコア本来の輝きが遺憾なく解き放たれている。

「CINEBENCH R23」のベンチマーク結果。マルチコア性能とシングルコア性能が高いレベルでバランスよく両立していることは、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズならではの強みだ

「CINEBENCH R23」のベンチマーク結果。マルチコア性能とシングルコア性能が高いレベルでバランスよく両立していることは、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズならではの強みだ

PCMark 10

続いて、より実践的な総合ベンチマークソフト「PCMark10」を使用して、幅広く性能をチェックする「PCMark 10 Extended」をテスト。これまでのベンチマーク結果と同様に「Core i5-13600K」が「Core i7-12700K」を上回っているが、これまでに比べてその差が大きく、いかに「第13世代Coreプロセッサー」シリーズが進化しているかがよくわかる。「Core i9-13900K」も各指標で順当にハイスコアをマークしており、多コア多スレッドであるがゆえの弱点はほぼ見られない。総合力の高さが裏付けられた格好だ。

「PCMark 10 Extended」のベンチマーク結果。「Productivity」を除けば、高いほうから「Core i9-13900K」、「Core i5-13600K」、「Core i7-12700K」の順で並んでおり、安定してハイパフォーマンスが発揮されていることがわかる

「PCMark 10 Extended」のベンチマーク結果。「Productivity」を除けば、高いほうから「Core i9-13900K」、「Core i5-13600K」、「Core i7-12700K」の順で並んでおり、安定してハイパフォーマンスが発揮されていることがわかる

3DMark

最後に、ゲーミング性能を測る「3DMark」を使用して、DirectX 12をターゲットにした「Time Spy」(2560×1440)をテストした。スコアはやはり、高いほうから「Core i9-13900K」、「Core i5-13600K」、「Core i7-12700K」の順。「Core i9-13900K」はここでも大きく伸ばしてきたが、これまでのベンチマーク結果と比較すると、「Core i5-13600K」との差はそれほど大きくないし、「Core i5-13600K」と「Core i7-12700K」の差はほとんどない。「Time Spy」の4K解像度版である「Time Spy Extreme」(3840×2160)をテストしてみると、マルチコア性能の違いが効いてそれぞれの差は広がったが、それでも限定的だ。

ゲームで重要になるシングルコア性能の差や、キャッシュまわりの違いを考慮すると、もう少し明確な結果が出てもおかしくないため、やや不可解ではあるが、「Core i5-13600K」と「Core i7-12700K」が予想以上に健闘していると解釈するべきなのかもしれない。

「3DMark Time Spy」のベンチマーク結果。「Core i9-13900K」が頭ひとつ抜け出ているが、「Core i5-13600K」が2クラス下のCPUであることを考えると、その差は少なめ

「3DMark Time Spy」のベンチマーク結果。「Core i9-13900K」が頭ひとつ抜け出ているが、「Core i5-13600K」が2クラス下のCPUであることを考えると、その差は少なめ

「3DMark Time Spy Extreme」のベンチマーク結果。「3DMark Time Spy」よりは差が広がっているが、「Core i5-13600K」と「Core i7-12700K」の伸びもあなどれない

「3DMark Time Spy Extreme」のベンチマーク結果。「3DMark Time Spy」よりは差が広がっているが、「Core i5-13600K」と「Core i7-12700K」の伸びもあなどれない

【まとめ】安定性にもすぐれたフルモデルチェンジ級の正常進化

「第13世代Coreプロセッサー」シリーズが「第12世代Coreプロセッサー」シリーズの基本的なアーキテクチャーを踏襲していると知ったとき、その進化の幅は限定的だと推測したものだ。CPUソケットも前世代のLGA1700から変わっておらず、回路の線幅も10nmのまま据え置きならば、常識的にはビッグマイナーチェンジが関の山。しかし、シングルコア性能とマルチコア性能の両面で、前世代から1クラス以上も進化していたのだから驚きだ。

CPUの消費電力を大幅に上げ、最大600MHzのクロックアップを行ったと言えば簡単に聞こえるが、フラッグシップモデルの「Core i9-13900K」でも、280mmラジエーターの簡易水冷クーラーでしっかりとコントロールできる範囲にきっちり収めてきたのは相当なもの。10nmという線幅こそ前世代から変わっていないが、プロセスルールに相当なアップデートが施されていなければ実現できないことだろう。そして、Eコアを倍増させてマルチコア性能を飛躍的に高めているのに、シングルコア性能に陰りが見えない。ハイブリッド・アーキテクチャーのポテンシャルが最大限に引き出されるよう、各コアへのタスクの割り振りも含め、バランスよく多角的に追い込んだ結果と言える。

ただ、こうしたアーキテクチャーの本領はより実践的なタスクで際立つもの。今回の前編ではやや機械的なベンチマークが中心になったため、次回の後編で実践的性能を見極めたい。また今回は、シングルコア性能やキャッシュの違いによるゲーミング性能の差が見えにくかったため、後編ではそのあたりもより掘り下げてみようと思う。

冨増寛和

冨増寛和

ライター、編集者、画家。学習院大学文学部哲学科卒業。制作会社で経験を積んだのち、コンテンツ制作会社の株式会社理感堂を設立。PC、ICT、芸術文化など、幅広い分野で書籍や記事の執筆・編集を手がける。

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