写真や動画を撮影した後、多くの人はPCに画像を取り込んで、管理・鑑賞・編集をすることだろう。その際に、画像が正しい色で表示されているのか疑問に思ったことはないだろうか? ディスプレイ(モニター)で見ている色が正しくないということは案外多い。本記事では、写真や動画の編集でカラーマネジメントモニターを使用する重要性を解説したうえで、筆者が使用しているBenQのディスプレイを紹介しよう。
筆者の写真・動画の制作環境では、BenQのカラーマネジメントモニターが活躍している
ひとくくりにPC用のディスプレイといってもさまざまな種類があり、それぞれに見え方が異なっている。家電量販店などのPCディスプレイ販売コーナーに並んでいるサンプル機器を見比べるだけでも、表示にバラツキがあることがわかるはずだ。
ディスプレイの種類が多いのは、使用用途に分けて設計されていることが主な理由だ。ビジネス、映画鑑賞、ゲーミング、写真、デザインといったジャンル別に、実に多様なモデルが用意されている。たとえば、映画鑑賞やゲーミング向けはコントラストや彩度が強めのものが多く、写真やデザイン向けはより自然な見え方をするものが多い。また、ノートPCでも、ビジネス向けやゲーミング向け、写真向けなど、モデルによって搭載するディスプレイの種類は異なっている。
写真や動画の編集を行う場合に知っておきたいのは、用途に合ったディスプレイを使用しないと、最終的な結果に大きな影響を及ぼすということ。ディスプレイは色の基準になる重要なデバイスなので、その基準を間違えたまま編集を行うと、プリントした際や、ほかのディスプレイで表示した際に、本来のイメージとは大きく異なるものになってしまうこともある。
たとえば、それほど品質の高くない低価格なディスプレイを使用して、写真を編集したとしよう。このディスプレイは表示が青みがかっているうえ、コントラストや色表現性も低い。この場合、撮影者は「写真にメリハリが足りない」と判断して、コントラストを高くしたり、彩度を上げたり、ホワイトバランスを大幅に変更して暖色を強くしたりと過度な調整を行ってしまいがちだ。
このディスプレイで表示する分には、自分のイメージどおりの色の写真に仕上がっている。しかし、実際には、ディスプレイの明るさや色が不正確で基準がズレているため、編集した画像は色が破綻しているのだ。
余談になるが、筆者が写真コンテストの審査員を担当したときに、過度な編集が行われた写真を見かけたことがある。写真自体はとてもよいのだが、コントラストや彩度の調整が強すぎて落選になってしまい、「いい写真なのにもったいない」と感じたこともある。
基準がズレたディスプレイを使って編集すると、この写真のように、コントラストや彩度が強いイメージになりがち(※キャリブレーションが取れていないディスプレイを使って、価格.comマガジン編集部が編集した写真です)。逆に、この写真が自然な色味でキレイに見えているのであれば、ディスプレイの設定変更や買い替えをおすすめしたい
最新のディスプレイはある程度正しい色で表示されるようになってはいるものの、作品作りで細かいところまでこだわりたい場合は、やはり、信頼できる高品位なディスプレイを使用したいところだ。
写真や動画の閲覧・編集に向いているのは、いわゆる「カラーマネジメントモニター」と呼ばれるディスプレイである。
そもそも「カラーマネジメント」とは、ディスプレイやプリンターなど、それぞれの機器の色の特性やズレを考慮して一貫性のある色表現ができるように調整すること。基準をそろえて個々の色ズレを調整することで、表示から印刷まで一貫して正しい色を表現できるのである。
カラーマネジメントモニターとは、正しい色を表現するために必要な機能がそろっているモニターのことだ。広い色域をカバーするだけでなく、輝度やコントラスト、色などの細かい調整が行えるようになっている。
数あるカラーマネジメントモニターの中で、今回紹介したいのが、筆者が昔から愛用しているBenQの製品。BenQのカラーマネジメントモニターは価格に対する性能が高く、コストパフォーマンスにすぐれるのが魅力だ。
筆者はBenQのカラーマネジメントモニターを複数台所有していて、そのうち、メインで使用しているのが「SWシリーズ」のハイスペックな2台。32型モデル「SW321C」と27型モデル「SW271C」の2台を事務所と自宅に設定し、作品作りに生かしている。いずれも、忠実な色表現が可能なカラーマネジメントモニターで写真・動画編集に最適だ。
32型モデル「SW321C」。画面解像度は3840×2160。色域のカバー率はAdobe RGBが99%、sRGBとRec.709が100%、DCI-P3とDisplay P3が90%。HDRはHDR10とHLGに対応。ムラ補正技術を搭載し、画面全体でより均一な表示が可能な大型ディスプレイだ
「SW321C」と同じく、Adobe RGB 99%/sRGB&Rec.709 100%カバーの27型モデル「SW271C」。DCI-P3とDisplay P3のカバー率は95%。画面解像度(3840×2160)やHDR対応(HDR10とHLG)などのスペックは「SW321C」と同等だ。ムラ補正技術も搭載している
「SW321C」「SW271C」ともに、60Wの給電が可能なUSB Type-C端子を搭載。ノートPCなどを接続して使用しやすい
「SWシリーズ」は、BenQ のディスプレイの中でも高価なモデルで、とにかく性能が高い。色をどの程度表現できるかを示す数値(カバー率)も高く、Adobe RGBは99%、sRGB & Rec. 709は100%表現できる。写真や動画の撮影で使用する通常の色空間をほとんどカバーしつつ、そのうえで、より正確に色を表示・確認できるようになっている。
一般的な写真の色空間はsRGBとAdobe RGBが主流だ。撮影した写真を鑑賞する分にはsRGBで十分かもしれないが、本格的な作品作りでプリントを行う場合は、やはり、より広い色域をカバーするAdobe RGBに対応していたほうがよい。筆者の場合、作品作り以外にも、仕事で出版社にデータを入稿する場合などにAdobe RGBを使用しており、Adobe RGB対応は必須のスペックだ。
最新のカラーマネジメントモニターはAdobe RGB対応のものが多いが、写真撮影用に製品を選ぶ際は、Adobe RGBとsRGBの数値(カバー率)をしっかりと確認してほしい。
写真や動画の編集用にディスプレイを使用する場合に欠かせないのがキャリブレーション。キャリブレーションには、ソフトウェアキャリブレーションとハードウェアキャリブレーションの2種類がある。
ソフトウェアキャリブレーションは、ノートPCでも利用できる汎用性のあるキャリブレーション。画面をキャリブレーター(測定ツール)で測色して、PCからの色の出力をソフトウェア上で調整する。簡単に行える半面、精度や階調にバラツキが出ることもある。
ハードウェアキャリブレーションは、専用のキャリブレーターを用いて測色し、ディスプレイ内部の設定を変更するキャリブレーション。精度も高く、階調などもなだらかに表現できる。ソフトウェアキャリブレーション以上にしっかりとキャリブレーションできるため安心だが、対応するディスプレイは比較的高価だ。
使用する環境に合わせてキャリブレーションを行うことで、より精度の高い表示が可能になる。BenQのハードウェアキャリブレーション対応のディスプレイでは、専用ソフト「Palette Master Element」を使用してキャリブレーションを行う
BenQの「SWシリーズ」は、高品位なハードウェアキャリブレーションに対応しており、より正確なカラーマネジメントが可能だ。
ちなみに、BenQのカラーマネジメントモニターは出荷時に1台ずつカラー調整が行われているので、大きく色がズレることはまずない。しかし、ディスプレイは使っていると少しずつ色が変化することもあるので、定期的に基準値を調整する目的でキャリブレーションを行う必要がある。
「SWシリーズ」は購入時に専用のモニターフードが付属。通常は別売が多く高価なので、モニターフードが付属はありがたい。モニターフードは画面への不要な乱反射を防ぐことができる重要なアイテムだ
「SWシリーズ」は高額で予算がオーバーしているという人には、デザイン向けの「PDシリーズ」をおすすめしたい。
「PDシリーズ」の最新モデル「PD2506Q」は25型(2560×1440)と使いやすいサイズで、sRGB/ Rec.709の色域を100%カバーしている。一般的な用途では十分な性能だ。もう少し画面サイズが大きいほうがよい場合は、27型モデル「PD2705U」や32型モデル「PD3205U」も選べる。「PD2705U」「PD3205U」ともに4K解像度に対応しているので、画面が広く使えて編集作業がやりやすい。ハードウェアキャリブレーションには対応していないが、ソフトウェアキャリブレーションは可能なうえ、出荷時にキャリブレーション済みなので安心して使えるはずだ。
25型(2560×1440)ディスプレイを採用する「PD2506Q」。直販価格66,500円(税込)とコストパフォーマンスにすぐれるモデルだ。USB Type-C接続にも対応している
「PDシリーズ」はハードウェアキャリブレーションに非対応。キャリブレーションはソフトウェアキャリブレーターのソフトを使用して行う
また、これらのモデルは、画面が一般的なノートPCの画面のようなグレア(光沢)ではなく、外光の写り込みが少ないノングレア処理が施されているのも特徴。プリントとの相性もよく、より理想的な色で編集することができるだろう。
本特集で紹介したような高品位なカラーマネジメントモニターを使えば、写真や動画の色をより正確に扱えるようになる。「この色で合っているのかな?」という不安がなくなるのが大きなポイントで、自信を持って、よりクリエイティブに編集作業を楽しめるはずだ。
最近はカラーマネジメントモニターのスペックが向上しており、画面サイズが大きいモデルや、4K解像度に対応するモデルが増えている。こうしたモデルは作業スペースを広く取れるので使いやすく、作業効率もアップする。4K対応なら4K作品を鑑賞できるし、動画編集時にも使いやすい。今カラーマネジメントモニターを選ぶなら、やや高額にはなるが、4K対応モデルがおすすめだ。
ぜひ、この機会にカメラやレンズ以外の、写真周りのインフラについても考えてみてほしいと思う。
米国サンフランシスコに留学し、写真と映像を学び、CMやドキュメンタリーを撮影。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フォトグラファー/映像作家として活動開始。ドローンなど新しい技術をいち早く取り入れ、写真や映像表現に生かしている。現在は、雑誌、広告を中心に、ライフワークとして世界中の街や風景を撮影。講演や執筆活動も行っている。YouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」でカメラや旅について情報を発信中。ニコンカレッジ講師、LUMIXアカデミー講師、Hasselbladアンバサダー2015、プロフォトトレーナー。