本連載「スマホとおカネの気になるハナシ」では、多くの人が関係する、スマートフォンとお金にまつわる話題を解説していく。連載第2回は、通信障害に備えた予備回線向けの安価な料金プランを取り上げよう。
※本記事中の価格は税込で統一している
今や携帯電話はつながって当たり前のもの。固定電話や公衆電話も減少しつつある現在、通信の要はスマートフォンだけ、という人も少なくないだろう。そんな人たちにとって、携帯電話のネットワークがつながらなくなることは、プライベートとビジネスの両面で切実な問題と言える。
端末の故障を除けば、携帯電話がつながらなくなる要因には大きく2つある。ひとつは大規模な自然災害などによってネットワークの設備が破損したり、停電したり、通話などが同じ場所に殺到してしまったりするもの。そしてもうひとつは、携帯電話会社のネットワーク設備の根幹近くに障害が発生し、通信ができなくなってしまうものだ。
なかでも、ここ最近大きく問題になるのが後者の大規模な通信障害である。記憶に新しいのが、2022年7月に発生したKDDIの大規模通信障害だ。およそ3日にわたって、主として音声通話を制御する部分に障害が起きた。この影響は大きく、「au」「UQ mobile」などKDDI回線の利用者が長時間にわたって音声通話ができず、「110番」「119番」などの緊急通報もできなくなったことで大きな社会問題にも発展している。
KDDIは2022年7月2日から、およそ3日間にわたる通信障害を発生させたが、主として音声通話に影響が及んだことから緊急通報ができなくなるなど深刻な問題ももたらしていた
確かにKDDIの通信障害が与えたインパクトは大きかったが、実はここ数年来大規模な通信障害は増加傾向にある。2018年12月にはソフトバンクが、2021年10月にはNTTドコモが大きな通信障害を起こしているし、2022年9月には楽天モバイルも、およそ2時間半にわたる通信障害を発生させている。
これだけ通信障害が増えているのには、ネットワークやそれを利用するデバイスの高度化が進んだことで、中身も複雑化していることが大きく影響している。そうした背景まで目を向けると、今後、各社がさまざまな対策をしてもなお通信障害がなくなることは望み薄だろう。
そこで重要になってくるのが、通信障害発生時に深刻な事態を受けないように“備え”ておくことだ。政府もKDDIの通信障害を受け、障害が起きていない他社のネットワークに迂回させる「非常時ローミング」の実現に向けた議論を進めている。だが、先のKDDIの通信障害のように、ネットワークの根幹に障害が起きてしまい機能しないことも想定されるなど、いくつかの弱点がある。
総務省「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」第1回会合資料より。KDDIの通信障害を受け、総務省は通信障害発生時などに、他社回線に乗り入れることで通信を維持する「非常時ローミング」の実現に向けた検討を進めている
総務省は、そうした最悪の場合も念頭に置いて、非常時ローミングだけに頼らない多様な通信手段を活用することも推進している。その手段のひとつとして2023年2月3日にKDDIとソフトバンクが打ち出したのが、非常時に他社回線を利用できる予備回線サービスだ。
これは要するに、非常時に、KDDI回線のユーザーがソフトバンク回線を、ソフトバンク回線ユーザーがKDDI回線を利用できるようにするというもので、サービス開始は3月下旬を予定しているとのこと。NTTドコモも同じタイミングとはいかないようだが、近い時期に2社と協力して同種のサービスを提供する予定であることを明らかにしている。
サービスの現時点でまだ詳細は明らかにされていないのだが、2023年2月初頭に両者が実施した決算説明会である程度の内容は明らかにされている。
KDDIとソフトバンクは、互いのネットワークを用いた非常時の予備回線サービスを提供することを明らかにしているが、その詳細はまだ明らかにされていない
ひとつは有料のサービスであるということ。サービスの性格的により多くの人に契約してもらえるよう、月額料金は数百円程度と安価に抑えられるいっぽう、実際に通信する際には別途料金を支払う形となるようだ。
これは、月額料金は0円で、必要に応じてデータ通信量などを購入して利用するKDDIの「povo 2.0」に近い仕組みといえる。他社回線を借りて提供するため維持費を0円にするのは難しいようだが、「povo 2.0」を非常用に特化し、よりシンプルにしたものと言えばイメージしやすいかもしれない。
「povo 2.0」は月額0円で最小限のサービスを提供し、必要に応じて有料の高速データ通信や通話定額などを“トッピング”する仕組み。今回の予備回線サービスに近い内容と言える
「だったらソフトバンク回線ユーザーはpovo 2.0を使えばよいのでは?」と思われるかもしれないが、「povo 2.0」は契約やサポートの手続きがすべてオンラインかつクレジットカード払いなので、誰もが手軽に利用できるとは言いにくい。だが、今回発表された予備回線サービスは実店舗でも契約でき、より幅広いユーザーに提供することを重視したものと言えるだろう。
そしてもうひとつのポイントが、「デュアルSIM」の仕組みを活用したサービスになることだ。デュアルSIMとは1台の端末に2枚のSIMを入れ、2つの回線を同時に待ち受けできるようにする仕組みで、近ごろ対応モデルが急増している。デュアルSIMに対応したスマートフォンに、メインで契約しているSIMに加え予備回線のSIMを追加し、非常時は予備回線に切り替えることで端末を変えることなく通信を維持できるようにするわけだ。
ただ最近のデュアルSIM対応端末は、アップルの「iPhone」シリーズやグーグルの「Pixel」シリーズに代表されるように、いっぽうのSIMは物理的なSIMカードだが、もうひとつのSIMは端末に内蔵された「eSIM」であることが多い。そのためこのサービスも、物理SIMカードとeSIMのどちらにも対応できるようにする予定だという
いくつかのスマートフォンは、SIMを2つ挿入できるデュアルSIMに対応。最近は物理SIMカードとeSIMのデュアルSIM構造を採用するものが多いようだ
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実は、現在でもデュアルSIMの仕組みを活用して非常時の予備回線を追加することは可能だ。そしてこの方法であれば、今回の枠組みに含まれていないNTTドコモや楽天モバイルの回線利用者もすぐ予備回線を持つことができる。
予備回線の候補としてまず検討したいのは先にあげた「povo 2.0」だ。初期費用無料で、通信料金は月額0円(月額2.2円ユニバーサル料金や、月額1.1円電話リレーサービス料は必要)でいざという時に使える予備回線を追加できるメリットは大きい。加えて、「povo 2.0」はeSIMにも対応しているので、利用できるスマートフォンも多い。
では、KDDI回線のユーザーや一部でKDDI回線も併用している楽天モバイルのユーザーはどうすればよいか? MVNOのサービスを利用するのが現状のベストだ。MVNOの中には月額500円を切る料金プランを提供するところが増えているのに加え、eSIMにも対応するなど予備回線に適したものがいくつか出てきているためだ。
なかでも、KDDIの通信障害の際に注目されたのが、インターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJmio」が提供するeSIM対応のサービスだ。たとえばNTTドコモ回線を用いた「ギガプラン」のデータ通信専用eSIMプランであれば、月額440円で通信量2GBの利用が可能なうえ、SIMカードの発送が不要なので開通にかかる時間もごく短い。非常時だけでなく、通信容量が足りなくなったときの予備としても活用できるだろう。
さらに月額料金を抑えたいのであれば「データプラン ゼロ(eSIM)」という選択肢もある。こちらは月額料金が165円で、データ通信を利用したいときにチャージ料金(月当たり1GBで330円、2GB以降10GBまでは1GBあたり495円)を支払う仕組みであることから、非常時しか利用しないのであればこちらのほうがお得だ。
IIJはMVNOの中で最も早く、2020年よりデータ通信専用ながらeSIMのサービス提供を開始している。KDDIの通信障害の際にもIIJmioのeSIM対応サービスを契約した人が多く見られた
音声通話も利用したいなら日本通信の「合理的シンプル290プラン」がよいだろう。こちらもNTTドコモ回線を用いたサービスで、物理SIMカードだけでなくeSIMでの契約も可能。月額290円で30秒11円の従量制音声通話と1GBのデータ通信が利用でき、それ以上は利用した通信量に応じて1GB当たり220円が追加される仕組みなのだが、あらかじめ通信するデータ量の上限を設定でき、1GBを超えないよう設定しておけば月額290円で使い続けることも可能だ。
オプテージの「mineo」が2023年2月22日から提供開始予定の「マイそくスーパーライト」を選ぶ手もある。こちらは月額250円で、利用できるのは30秒22円の従量制音声通話と最大32kbpsのデータ通信のみだが、「24時間データ使い放題」(1回当たり330円)を追加すれば24時間のデータ通信が可能になるので、非常時の予備回線としても十分活用できるだろう。
オプテージのmineoが提供予定の「マイそくスーパーライト」は月額250円で回線を維持できるので、予備回線としての活用にも適している。3社の回線を選べるのも大きなメリットだ
しかも、「マイそくスーパーライト」は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのうちいずれか好みの回線を選ぶことが可能だ。現状、mineoでeSIMに対応しているのはKDDI回線のみだが、「マイそくスーパーライト」のサービス提供開始と同日にはNTTドコモ回線もeSIMに対応することが明らかにされている。
MVNOのサービスは、朝夕や昼休みのような混雑時にデータ通信の速度が低下しやすいデメリットもある。しかし、非常時は通信速度よりも通信できること自体が重要だ。携帯各社が予備回線サービスを提供するより前に安心を得たいなら、これらのサービスを検討してみる余地もあるのではないだろうか。
※ソフトバンク回線はeSIM非対応
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。