本連載「スマホとおカネの気になるハナシ」では、多くの人が関係する、スマートフォンなどのモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく。連載第3回は、5G対応などで近ごろ魅力が高まっている「FWA」(ホームルーターのこと)の料金やサービスを比較し、メリットとデメリットを解説しよう。
「ホームルーター」などとも呼ばれるFWAのサービスは、モバイル回線を用いて自宅内でのWi-Fiインターネット環境を整備できるなど、工事不要で利用できるのがメリットだ。写真はNTTドコモの「home 5G」
入進学や就職など進路が決まり新生活を迎える直前の2〜3月は、新しいスマートフォンを契約・購入する人が多く、携帯電話業界では最も大きな商戦期と位置付けられている。だがこの時期に販売が増えるのは、実はスマートフォンだけではない。
それは「FWA」(Fixed Wireless Access)と呼ばれるもので、要は光回線などのケーブルを敷設する必要なく、Wi-Fiルーター型の端末をコンセントに挿すだけで、自宅にあるパソコンやタブレットなどをWi-Fi経由でインターネットに接続できるサービスのこと。KDDI傘下のUQコミュニケーションズが提供する「UQ WiMAX」やソフトバンクの「SoftBank Air」などが以前からよく知られるところで、「ホームルーター」という名称のほうがなじみのある人が多いかもしれない。
自宅で高速なインターネット接続を利用するには光回線が必要と思われる人も多いかと思うが、最近ではモバイル通信も4G、5Gと通信方式の進化にともない通信速度が大幅に向上しており、光回線には及ばないもののフルHDクラスの動画を同時に再生してもまだまだ余裕のある、下り方向で100Mbps以上の通信速度を実現している状況にある。それを生かしてモバイル回線を固定通信の代替として活用するのがFWAで、日本のように光回線の普及が進んでいない海外の多くの国では広く用いられているサービスでもある。
日本では、光回線が全国のかなり広いエリアに敷設されていることからFWAのニーズは海外ほど多いわけではない。だが、賃貸住宅の場合、入居したアパートやマンションに光回線が引き込まれていない、あるいは引き込まれていても「VDSL」と呼ばれる古い方式で速度が非常に遅かったりするなど、満足に利用できないケースが少なからずある。
それに加えて、回線の工事に立ち会いが必要なのも手間だ。部屋に知らない人が入るのに抵抗がある人も多いだろう。そうしたことから日本でもモバイル回線を用いたFWAのニーズが一定数存在しており、特に家から独立して賃貸住宅などへ入居する人が増える春先はその販売が増える傾向にある。
それゆえFWAに力を入れる携帯電話会社は増加傾向にあるようで、NTTドコモは2021年8月より「home 5G」を開始。2023年1月には楽天モバイルも「Rakuten Turbo」でこの市場への参入を果たしている。
楽天モバイルも2023年1月26日より「Rakuten Turbo」を提供開始したことから、現在は携帯4社すべてがFWAサービスを提供している
スマートフォンに詳しい人からは、「同じモバイル回線を使っているなら、テザリングを使えばよいのでは?」という声も出てくることだろう。確かにスマートフォンの回線をWi-Fi経由などでほかの機器と共有するテザリング機能を使えば、FWAと同様のことを自宅で実現できるのだが、そこにはいくつかのデメリットもある。
ひとつはスマートフォン上でのデータ通信が使い放題でも、テザリングでのデータ通信が使い放題になるとは限らないこと。実際KDDIの「au」ブランドやソフトバンクの使い放題プランは、テザリング使用時は使い放題にならず通信量に一定の制限が存在するので注意が必要だ。
スマートフォンの回線をWi-Fiなどほかのデバイスと共有できる「テザリング」だが、通信量に制限があったり、自宅に常時置いておけなかったりするなどデメリットも多い
そしてもうひとつは、スマートフォンは自宅に常時置いておけないこと。最近ではパソコンやタブレットだけでなく、スマートスピーカーや見守りカメラ(ネットワークカメラ)など、自宅に設置し常時Wi-Fiに接続して利用する情報家電も増えている。そうした機器はスマートフォンのテザリングで利用するのに不向きなので、別途FWAを用意したほうが安心というわけだ。また、スマートフォン側を見ても、テザリング中に充電し続けるのは、バッテリーには決して好ましくないだろう。
では実際のところ、FWAを利用するにはどの程度の料金がかかるのだろうか。主なFWAサービスの料金を比較してみると、いずれも月額5,000円前後でデータ通信が使い放題だが、最も高い「SoftBank Air」と最も安い「Rakuten Turbo」とでは500円程度料金に違いがある。ただ、「home 5G」以外はキャンペーンの適用で1〜3年間基本料を割り引かれることから、期間中はより安価な料金での利用が可能なことは覚えておきたい。
ホームルーターの端末については、各社ともに通信速度や同時接続台数など性能面で細かな違いがあり、価格も3〜7万円とかなりばらつきがあるようだ。だがNTTドコモ、au、ソフトバンクといったメインブランドのサービスを契約すると、回線と端末をセットで購入・契約することで毎月料金が割り引かれる「月々サポート」「毎月割」「月月割」といった割引が適用され、3年間使い続ければ端末代が実質的に0円になる。
こうした回線契約を前提にした端末割引の仕組みは2019年の電気通信事業法改正で規制され、スマートフォン向け通信サービスでは見られなくなっているもの。なぜFWAでこうした割引が健在なのかというと、実は移動して利用しない端末には規制が適用されないためだ。ただ、その条件を満たすため、割引対象の端末には据え置き型であるにもかかわらずGPSが備わっており、登録した住所以外では利用できなくなるという不可思議な仕様が盛り込まれていたりするので引っ越しの際には注意が必要だろう。
では実際のところ、自分がどのFWAサービスを選ぶべきか? というと、基本的にはスマートフォンで契約している携帯電話会社と同じサービスを利用するのがベストということになる。なぜならFWAサービスは光回線などと同様の扱いとなることが多く、セットで契約することでスマートフォン側の料金プランで割引が受けられるからだ。
実際スマートフォンとFWAのセット契約により、NTTドコモは「home 5G セット割」、auは「auスマートバリュー」、ソフトバンクは「おうち割 光セット」といった割引の適用が可能で、「UQ mobile」「ワイモバイル」といったサブブランドでも同様の割引が提供されている。こうした割引が用意されない楽天モバイル以外のメイン・サブブランドを契約しているなら、なるべく同じグループの回線を用いたサービスを選んだほうがお得だ。ただし、通信障害対策などに備えて、あえてスマートフォンとは違う携帯電話会社のサービスを契約するのも悪くない考えだ。
なお、FWAサービスを利用する際は、料金だけでなくスマートフォンとのエリアの違いについても注意を払う必要がある。FWAサービスは基本的にデータ通信が使い放題であることから大容量通信が可能な周波数帯を用いたエリアでしか利用できず、郊外や建物の中などでも電波の届きやすい低周波数帯のプラチナバンドが利用できるとは限らない。そのため、同じ4G回線であってもスマートフォンで利用するよりエリアが狭くなる場合が意外と多いのだ。
「au ホームルーター 5G」と「UQ WiMAX」を例にあげると、「スタンダードモード」ではデータ通信が使い放題だが、より広いエリアでの利用が可能な「プラスエリアモード」で利用する場合は使い放題にならず、月間通信容量に15〜30GBの上限が設けられている。逆に、こうしたエリア面の制約が最も少ないのが、プラチナバンドを制限なく使えるNTTドコモの「home 5G」だ。そうしたことからFWAサービスを契約する際は、各社が公開しているエリアマップで自宅がデータ通信使い放題のエリア内かどうかをしっかり確認してほしい。
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。