USBがPCの外部機器用インターフェイスのデファクトスタンダードになってから、かなりの年数が経った。何でもUSBで接続できるため非常に便利ないっぽう、USB規格は相当複雑になってしまったことを知っているだろうか。今回は20Gbps(USB 3.2 Gen 2 x2)の速度を自作PCで利用することに焦点を当てて解説する。
USBの最大速度はUSB4の40Gbpsだ。なぜ今回20Gbpsを取り上げるかというと、ここにわかりにくい要素が集約しているからだ。実際、USB4の40GbpsはThunderbolt 3の技術がベースになっていることもあり、機器側の対応に加えてケーブルにも対応品を使うことが基本。反対に言えば、対応する環境を揃えればほぼ間違いなく40Gbpsで動作するということだ。それに対して20Gbpsはと言うと、20Gbpsの環境を揃えていても20Gbpsで動かない可能性がある。同時に、20Gbps対応で揃えなくても20Gbpsで動作することもあるのだ。
フロントパネルに20Gbps対応のUSB Type-C端子を搭載したPCケースもある。写真はIn Win Developmentの「A5」
USB Type-C端子。写真ではわかりにくいが、20Gbpsに対応している
USBには速度や端子・ケーブルの種類でさまざまなパターンがある。まずはそこをおさらいしよう。
USBの最大速度には480Mbps、5Gbps、10Gbps、20Gbps、40Gbpsの5種類がある。実効速度と併せて、下の表にまとめた。USB 3.x以降は「Gen」が速度を表し、「Gen 1」は5Gbps、「Gen 2」は10Gbpsを表す。「x2」は「Dual-Lane」のことで、信号線を2セット使うことで速度を2倍にする転送モードだ。
USBのバージョンごとの速度をまとめた。「Gen」という表記はUSB 3.1から登場しており、「Gen 1」はUSB 3.0と同じ速度だ。規格上、10GbpsにはUSB 3.2 Gen 1 x2というパターンも存在するが、こちらはほぼ使われていない
1B(バイト)は8b(ビット)なので、5Gbpsは625MB/sだ。それにもかかわらずUSB 3.0の実効速度が500MB/sなのは、8b/10b転送という方式を採用しているため。8ビットのデータにチェック用のデータを2ビット分加えて転送するので、625MB/sのうち125MB/sがチェック用となり、実際のデータを転送する能力は500MB/sとなる。10Gbps以降は転送効率を上げるために128b/132b転送を採用しており、実行速度の理論値がきりのよい数字にならない。
次にケーブルだ。速度との関係に絞って下にまとめた。
ポイントは、USB 3.xは速度に関わらず同じケーブルが使えること。5Gbps対応ケーブルと10Gbps対応ケーブルは、基本的に同じ構造だ
USBケーブルは、対応するデータ転送速度で分類するとUSB 2.0(480Mbps)対応とUSB 3.x(10Gbps)対応の2種類に分けられる。USB 3.1で最大10Gbpsの転送モードを追加した際、ケーブルの種類は増えず、5Gbpsと10Gbpsは基本的に同じケーブルで利用できることとしたためだ。ただし、20Gbpsは両端がUSB Type-C端子のケーブルを前提としているため、片方でもType-AやType-Bの端子を採用しているケーブルでは利用できない。
USB Type-Cケーブルにも2種類ある。USB 2.0対応ケーブルとUSB 3.x対応ケーブルだ。USB 3.x対応ケーブルは「Full Featured」ケーブルとも呼ばれる。USB4対応ケーブルやThunderbolt 3/4対応ケーブルも「Full Featured」ケーブルの一種だ。
「Full Featured」ケーブルは10Gbps用の信号線(レーン)を2セット備えており、それぞれが10Gbpsのデータ転送に対応する。2レーンを同時に使う転送モードを「Dual-Lane」モードと呼び、「Dual-Lane」モードでのみ20Gbpsの転送速度に対応する。
PCや自作PC用マザーボード、外付けSSDなどでUSBの20Gbpsに対応した製品が続々と登場している。
20Gbpsの高速な帯域を活用できるのはやはりSSDだ。大容量のファイルコピーもあっという間に完了する。トランセンドジャパンの「ESD380C」シリーズのように、20Gbpsの限界に近い速度を実現した製品もすでに登場している。
トランセンドジャパン
ESD380
CUSB 3.2 Gen 2 x2での接続に対応した外付けSSD。96.5(幅)×53.6(高さ)×12.5(奥行)mmと手のひらサイズで、読み書き共に最大2GB/sと高速だ
マザーボードも、ミドルクラス以上の製品で20Gbpsに対応したUSB Type-C端子を搭載するモデルが増えた。ただし、背面端子、フロントパネル用内部端子のいずれか片方で1ポートのみという仕様が多い。20Gbpsの端子は10Gbpsの端子2個分の帯域を使うため、何個も搭載すると利用できるUSB端子の総数が減ってしまうためだ。
ASRock
Z790 LiveMixer
前回も紹介した、チップセットに「Intel Z790」を搭載したマザーボード。USB 3.2 Gen 2 x2(20Gbps)はType-C用の内部端子で搭載している
PCケースのフロントパネルについては10Gbpsにとどまることが多く、20Gbpsに対応したPCケースは少ない。このあたりの事情も見ていこう。
ここからは20Gbpsがきちんと動作しない可能性について見ていこう。答えはシンプルで、ケーブルが長過ぎるからだ。高速なデータ転送では信号の減衰による影響が深刻で、長いケーブルではきちんと動作しないことがある。USBでも例外ではなく、高速なSSDが短いUSBケーブルしか付属していないのはこのためだ。
ではどのくらいの長さで長過ぎるかというと、実ははっきりとはわからない。有効なケーブルの長さが規格で決められているわけではないためだ。規格で定められているのはケーブルの両端で維持されるべき信号の強さのみ。目安として1m以下という数値があるものの、1mなら20Gbpsで動作すると保証したものではない。実際に20Gbpsで動作するかは試してみないとわからないということだ。
またデスクトップPCの場合、マザーボードとPCケースのフロントパネルの間はケーブルで接続することになる。やっかいなことに、このケーブルもケーブル長に含めて考える必要がある。すると、マザーボード、PCケース、USBケーブル、外部機器と、すべてが20Gbpsに対応していたとしても、きちんと動作するかはなおのことわからなくなってしまう。
そこで、ケーブルの長さで挙動がどう変化するか、実際に試してみた。テスト環境は以下のとおり。PC側はマザーボードに「Z790 LiveMixer」、PCケースに「A5」を使用した。「Z790 LiveMixer」は背面端子に20Gbps対応のUSB端子がないため、拡張ボード「BIG SINGLE TURBO(SD-PE4U32-C1L)」(エアリア)を使って増設した。使用したSSDは「ESD380C」の2TBモデルだ。
ケーブルの長さは50cm、1m、1.2mの3種類を試した。50cmのケーブルは「ESD380C」の付属品。1mと1.2mのケーブルは、パッケージ記載のスペックでそれぞれ20Gbps、5Gbpsに対応している。
今回使用したテスト環境。背面のUSB Type-C端子は拡張ボードを使用した
まず背面端子のテスト結果を見てみよう。一般的に言われている1mの基準が正しければ、1mまでは速度が変わらないはずだ。
結果は下の画像のとおり、50cmと1mでは大きな差はなく、1.2mケーブルでは書き込みの速度がおよそ25%落ちた。速度が落ち込む場合でも、5Gbpsや10Gbpsでの動作に切り替わるわけではないようだ。読み込み速度はほぼ変化がなかった。
また、1.2mのケーブルは5Gbps対応のはずが、10Gbpsを大きく超える速度で動作していた。メーカーのサポート外の使い方ではあるが、ケーブルの構造が同じなのでこのような現象が起こる。
「ESD380C」を背面端子に接続し、「CrystalDiskMark 8.04」(ひよひよ氏)を、NVMeプロファイルを使用して実行した。左上が50cmケーブル、右上が1mケーブル、左下が1.2mケーブルの結果だ。1.2mケーブルでは書き込みの速度が落ちている
次に「A5」の前面端子を使ったテストだ。「A5」の備えるフロントUSB Type-C端子の内部ケーブルは実測で約45cm。つまり、50cm程度であれば速度への影響はほぼないはずだ。
結果は下のとおり、かなり意外なものとなった。50cmケーブルでも、背面端子を使った場合よりも全体的に速度が落ちている。やはり基板上の端子に直接つないだほうが、速度は得やすいようだ。いっぽう、1mケーブルは全長がおよそ1.5mになってしまうにもかかわらず、50cmケーブルとあまり変わらない結果となった。
1.2mケーブルはケーブル長の影響が大きく現れた。書き込み速度は100MB/s以下まで落ち込み、読み込み速度も300MB/s近く下がっている。ほんの20cmだが、データ転送には致命的な違いになってしまったようだ。
上図と同様、左上が50cmケーブル、右上が1mケーブル、左下が1.2mケーブルの結果。1.2mケーブルは書き込み速度の下がり方が非常に大きい。読み込み速度にも影響が見える。
テスト結果からわかるように、1mを越えた瞬間に20Gbpsで動作しなくなるわけではない。また前半で触れたように、5Gbpsに対応したケーブルは10Gbpsや20Gbpsでも動作する可能性がある。同様に、PCケースのフロントUSB Type-C端子も、対応をうたっていなくても実は20Gbpsで動作する可能性がある。こちらも試してみた。
テストに使用したのは「Define 7 Light Tempered Glass」(Fractal Design)。フロントパネルにUSB Type-C端子を搭載しているが、対応をうたっているのは10Gbpsまでだ。
Fractal Design
Define 7 Light Tempered Glass
定番のミドルタワーPCケース。フロントに10Gbps対応のUSB Type-C端子を備えている。内部ケーブルは実測で約80cmだった
テスト内容は「A5」と同じ。50cm、1m、1.2mのケーブルを使って「ESD380C」の読み書き速度を測った。「Define 7 Light Tempered Glass」は「A5」と同じミドルタワーケースだが、本体サイズが大きめ。その分内部ケーブルも実測で約80cmと長く、外付けSSDの動作には不利となる。
ただ、試してみるとあっさりと20Gbpsで動作し、速度も「A5」のフロント端子とほぼ同じ。1mケーブルでも目立った速度低下はなかった。1.2mケーブルでの速度は「A5」とは異なった傾向となり、読み込み速度はほぼ影響なし、書き込み速度は大幅ダウンという結果。しかも400MB/s台と「A5」より速度を維持できていた。
左上が50cmケーブル、右上が1mケーブル、左下が1.2mケーブルを使用した結果。1mケーブルでは合計のケーブル長が1.8mにもなるが、50cmケーブルと比べて目立った速度低下はなかった
USBの20Gbpsモードは、ケーブルの長さによってはデータ転送速度が大幅に落ちてしまう。どの程度落ちるかは環境によって異なり、試してみるしかない。今回試した範囲では1mまでのケーブルであれば大きな影響はなかったが、ほかのパーツやケーブルの組み合わせでは異なる結果になる可能性もある。速度面だけを見ればマザーボードの背面端子を利用するのがベストだが、使い勝手がよいのはフロントパネルなので悩ましいところだ。
いっぽう、製品のスペックよりも高い速度で利用できることもある。特に短いUSB Type-Cケーブルは、5Gbps対応のケーブルであっても10Gbpsや20Gbpsできちんと動作する可能性が高い。もちろんパッケージに記載されているものより速い速度での利用はメーカーのサポート外となるが、機会があれば手持ちのケーブルで速度が出るか試してみてはいかがだろうか。
編集プロダクション「スプール」所属。PCパーツショップ店員から雑誌編集部アシスタントを経て現職。Windows Vista発売の時は深夜販売のスタッフをしていました。自作PCを中心にPC全般が好きで、レビューやノウハウ記事を中心に執筆しています。