スマホとおカネの気になるハナシ

「月額0円」をなぜ止めた? 料金プランから見える楽天モバイルの変化

本連載「スマホとおカネの気になるハナシ」では、多くの人が関係する、スマートフォンなどのモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく。連載第5回は、楽天モバイルを取り上げる。人気の高かった「月額0円」を廃止した背景、何を目指しているのかに迫ろう。

※本記事中の価格は税込で統一している。

好評だった月額0円の廃止で、契約数が大幅に減少

2020年に携帯電話事業への本格参入を果たして以降、プラス・マイナスの両面で注目を集めている、楽天グループ傘下の楽天モバイル。なかでも大きな注目を集めたのは、やはり「月額0円」を巡る騒動ではないでだろうか。

楽天モバイルは2021年4月から2022年7月まで提供していた料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」で、通信量に応じて料金が変化する「段階制」の料金プランを導入。どれだけ通信をしても月額料金が3,278円と、大手3社の使い放題プラン(割引なしで月額7,000円程度)と比べて非常に安い料金を実現したうえ、月当たりの通信量が1GB以下であれば月額料金0円で利用できることに大きな注目が集まった。

楽天モバイルが2021年から提供していた料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は、通信容量が1GB以下であれば月額料金が0円という仕組みで契約数を大きく伸ばした

楽天モバイルが2021年から提供していた料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は、通信容量が1GB以下であれば月額料金が0円という仕組みで契約数を大きく伸ばした

さらに、「Rakuten UN-LIMIT VI」では、専用アプリ「Rakuten Link」を使うことで国内通話がかけ放題になるほか、「楽天市場」で買い物をしたときのポイント付与率が1倍プラスされるなど、月額0円以外にも多くのメリットを得ることができた。これを武器として楽天モバイルは急速に契約を伸ばし、2022年4月には500万契約を突破するにいたっている。

専用アプリ「Rakuten Link」は「<a href="https://kakaku.com/mobile_data/sim/detail.asp?si_planunitcd=3730&lid=kmag_pc_pc_19380_txt" onclick="onclickcatalyst_CV_kakaku_diftab(); return true;" target="_blank" rel="noopener

専用アプリ「Rakuten Link」は「Rakuten UN-LIMIT VI」から提供されており、月額0円で国内通話をかけ放題にすることも可能だった

だが、2022年5月に楽天モバイルは、現行の料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」(2022年7月より提供開始)への移行を発表。その内容は「Rakuten UN-LIMIT VI」から月額0円で利用できる仕組みをカットし、通信量が3GBまでは月額1,078円と必ず料金がかかるようになることから利用者に大きな衝撃を与えたのである。

2022年から提供されている新しい料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」では、月額0円で利用できる仕組みを廃止。これが不満を呼び解約者が続出することとなった

2022年から提供されている新しい料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」では、月額0円で利用できる仕組みを廃止。これが不満を呼び解約者が続出することとなった

もちろんその代わりに、このプランを契約していると楽天市場でのポイント付与率が最大で2倍プラスされるなどのメリットも追加されたが、0円で利用できなくなることに不満を覚えたユーザーは非常に多かったようだ。それゆえ、この発表以降楽天モバイルを解約し、KDDIの「povo 2.0」など低価格の他社サービスに乗り換える人が続出。楽天モバイル(MNO回線)の2022年12月末時点での契約数は449万と、最盛期から50万以上減らしてしまっている。

楽天モバイルの四半期ごとの契約数推移。0円廃止を発表した2022年第2四半期から減少している(楽天グループ2022年度決算資料を基に作成)

楽天モバイルの四半期ごとの契約数推移。0円廃止を発表した2022年第2四半期から減少している(楽天グループ2022年度決算資料を基に作成)

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楽天モバイルの赤字がグループ全体の足を引っ張っている状態

同社の業績を見ると、契約数を減らしてでも月額0円の仕組みを止める必要があったというのが正直なところだ。なぜなら楽天グループは楽天モバイルへの先行投資で大幅な赤字に苦しんでいるからだ。

実際楽天グループの2022年度決算を見ると、売上高は1兆9,279億円と前年度と比べ14.6%増えているいっぽう、営業損益は3,639億円と赤字が前年度(1,947億円)から倍近く増加している。携帯電話のようなインフラ事業は設備投資に非常にお金がかかるものだが、それにも関わらず楽天モバイルは当初の計画を4年も大幅に前倒しして基地局の整備を進めたため、その分先行投資がかさみ赤字が拡大しているのだ。

楽天グループの2022年度決算説明会資料より。楽天モバイルを含む同社のモバイルセグメントは、売上は伸びているものの依然大幅な赤字を抱えている状況だ

楽天グループの2022年度決算説明会資料より。楽天モバイルを含む同社のモバイルセグメントは、売上は伸びているものの依然大幅な赤字を抱えている状況だ

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KDDIのネットワークを使ったパートナー回線の負担も大きい

そもそも、なぜ基地局整備をそんなに急ぐ必要があったのかという点に疑問を抱く人も多いことだろう。そこに影響しているのは、実はKDDIである。

楽天モバイルは新規参入でゼロからネットワークを整備しなければならず、全国くまなくカバーするには時間がかかる。そこで国内携帯大手の一角を占めるKDDIと2018年に提携し、整備が進むまでの間はKDDIのネットワークにローミング(乗り入れ)する「パートナー回線」として併用することで、サービス当初から広いエリアで通信を利用できる環境を整えていた。

だが、ユーザーがパートナー回線で通信をすると、楽天モバイルがKDDIにローミング料金を支払う必要があり、その費用が想定以上にかかってしまっていたようだ。そこで楽天モバイルはローミング費用を抑えるために基地局整備を大幅に前倒ししたわけで、結果確かにローミング費用は抑えられたものの、短期間のうちに大きな投資が必要になり赤字が拡大してしまったのである。

楽天モバイルはKDDIに支払うローミング費用を減らすため、当初予定より4年前倒しして基地局を整備。2022年末時点では人口カバー率98%に到達している

楽天モバイルはKDDIに支払うローミング費用を減らすため、当初予定より4年前倒しして基地局を整備。2022年末時点では人口カバー率98%に到達している

楽天グループは非常に大きな企業で主力のEコマースや金融事業などは絶好調なのだが、これだけの赤字が続くようであれば企業としての信用が失われグループ全体の経営が危うくなってくる。しかも楽天モバイルは参入当初から2023年中に単月で黒字化を実現することを掲げており、基地局整備の前倒しなどがあってもなおその目標を変えなかったことから、目標達成にいたらなければ信用を大きく落としてしまう可能性がある。

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3つの対策で事業を立て直し、安定的な事業を目指す

そうなれば赤字要因のモバイル事業から撤退を求められることも十分考えられるわけで、楽天モバイルは今非常に危機的な状況にあるとも言える。そこで楽天グループは、この危機を乗り越えるべく大きく2つのアクションを起こしている。

ひとつは当面の楽天モバイルの運転資金を確保するための資金調達である。2021年には日本郵政グループなどからの出資を受けているが、さらなる資金調達のため楽天銀行や楽天証券ホールディングスの上場も打ち出しており、さらに楽天証券ホールディングスはみずほ証券からの出資を受け入れるにいたっている。手段を問わず資金調達に動いている様子が理解できるだろう。

楽天グループの2022年度第3四半期決算説明会資料より。楽天グループは資金調達のため、楽天銀行だけでなく楽天証券ホールディングスといった主力企業の上場を打ち出しており、さらに後者はみずほ証券からの出資を受け入れるにいたっている

楽天グループの2022年度第3四半期決算説明会資料より。楽天グループは資金調達のため、楽天銀行だけでなく楽天証券ホールディングスといった主力企業の上場を打ち出しており、さらに後者はみずほ証券からの出資を受け入れるにいたっている

そしてもうひとつは楽天モバイルの赤字を解消することであり、とりわけ単月黒字化の実現を目指す2023年はコスト削減に重点を置く方針を打ち出している。なかでも最も大きな赤字要因でもあった基地局整備に関しては、大幅前倒しにより人口カバー率98%を達成しており、従来ほど整備を急ぐ必要がなくなったことから、今後は投資コストを大幅に削減できると見ているようだ。

それに加えて楽天モバイルは、事業そのものから売上を高めることにも重点を置くようになっており、月額0円施策の廃止はまさにその一環と言える。携帯電話事業の売上は基本的に契約者数とARPU(1ユーザー当たりの平均売上)の掛け算で決まってくるのだが、「Rakuten UN-LIMIT VII」の移行によってそれまで500円未満だった月間のARPUも、最近では0円で利用するユーザーの減少により1,000円を超える水準にまで上昇しているようだ。

楽天モバイルの四半期ごとのARPUの推移(楽天グループ2022年度決算資料を基に作成)

楽天モバイルの四半期ごとのARPUの推移(楽天グループ2022年度決算資料を基に作成)

そして3つ目の対策として、楽天モバイルは2023年2月より新たに法人向けの料金プランの提供も開始している。楽天グループはEコマースの「楽天市場」などで多くの取引先企業を抱えていることから、法人向けプランの提供によってそれらの企業に楽天モバイルの回線を契約してもらい、確実な売上を得たいというのがその狙いと言える。

楽天モバイルは新たに法人向けの料金プランを提供開始。段階制を採用したコンシューマー向けとは違い、3〜30GBの3つのプランに分かれているのが特徴だ

楽天モバイルは新たに法人向けの料金プランを提供開始。段階制を採用したコンシューマー向けとは違い、3〜30GBの3つのプランに分かれているのが特徴だ

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郵便局内の簡易店舗を廃止し、クチコミでユーザーを獲得する方針も

ただいっぽうで、郵便局内で展開していた楽天モバイルの簡易店舗のうちおよそ200店を閉店するなど、コスト削減が売上を増やすための契約獲得にマイナスの影響を与えている部分もある。その代わりとして楽天モバイルは、楽天モバイル契約者からのクチコミで契約を伸ばす施策に力を入れているようだが、それだけで月額0円施策を補うほど顧客を急拡大できるとは考えにくい。

楽天モバイルは2021年より、郵便局内への簡易店舗の設置を急拡大してきたが、2023年4月末までにはそのうち200店舗を閉店するとのこと

楽天モバイルは2021年より、郵便局内への簡易店舗の設置を急拡大してきたが、2023年4月末までにはそのうち200店舗を閉店するとのこと

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ライトユーザー向けからの変貌で、真価が問われる今年

こうした状況を考えると現状、楽天モバイルには課題が多く、当面は苦戦が予想されるというのが正直なところだ。だがもし楽天モバイルが赤字を解消できずに撤退してしまったとなれば、再び携帯電話市場が大手3社の寡占状態に戻り、料金が高止まりするなどして消費者にも何らかの弊害が出る可能性もある。

大幅な赤字を計上してまで行った設備投資の前倒しで、データ通信使い放題の自社回線エリアは広がった。また、データ通信無制限と言いつつ実は存在していた1日10GBという通信容量の制限が2022年末に撤廃されたと見られている。月額0円時代は、ライトユーザー向けやサブ回線用途に適した内容だった楽天モバイルだが、今はデータ通信を多用するユーザーのほうが魅力を感じやすい内容に変化している。2023年は同社のこうした方針転換が受け入れられるか焦点となりそうだ。

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佐野正弘

佐野正弘

福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。

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