今夏の新しいスマートフォンの中でも期待値の高いハイエンドモデル「Xperia 1 V」(ソニー製)の評価機をいち早く入手! カメラなどスペックに見どころの多い製品だが、実際はどのように進化しているのだろうか? 2020年モデルの「Xperia 1 II」ユーザーだった筆者がその実力に迫る。
※本記事は、ベンチマークアプリやSIMカードなどの使用が不可の試作機(NTTドコモ版「SO-51D」の試作機)を使用しています。
「Xperia 1 V」は、ソニーのフラッグシップモデル「Xperia 1」シリーズの5世代目として2023年夏に登場する新モデル。通信キャリア向けモデルは6月中旬以降にNTTドコモ、au、ソフトバンクの各社から発売される。一般流通向けモデル(いわゆるSIMフリー版)は7月下旬以降にリリースされる予定だ。
外見は2020年に登場した3世代前の「Xperia 1 II」から続く、高級感のあるデザインモチーフを継承している。サイズは約71(幅)×165(高さ)×8.3(厚さ)mmで、重量は187g。前モデル「Xperia 1 IV」と比べると、厚さが0.1mm増えただけなので「Xperia 1 IV」用の外付け冷却ファン「Xperia Stream」を流用することができる。
上記の説明だと、「Xperia 1 IV」とほぼ同じボディと思うかもしれないが、実機に触れると印象は一変する。背面のガラスカバーには表面に細かな凹凸があり、側面の金属フレームに溝が作られるなど、従来のつるつるとした感触が手にしっかりと食い込むものに変わっているのだ。また、これらの表面処理は、汚れの目立ちにくさという機能性にもプラスだ。
右側面は、左からボリューム、電源兼指紋認証センサー、シャッターボタンという配置。シルエットやメインカメラの配置もそのままなので、第一印象ではどこが変わったのかわかりにくい
ボディ下面に、USB Type-CポートとSIMのトレーを配置。SIMのトレーはピン不要で取り出せる
上面にヘッドホン端子を配置する
ガラスの背面カバーには、ざらっとした感触の細かな凹凸が施されている。FeliCaポートはカメラ脇に配置
側面には細かな溝があり、滑りにくさの改善につながっている
ディスプレイは超縦長の6.5インチ有機ELで、3840×1644の4K表示に対応。歴代の「Xperia 1」シリーズと同じスペックのものを採用している。画質チューニングもほぼ変わりないようで、ピーク輝度のスペックは異なるものの、筆者の使用していた「Xperia 1 II」との違いを見分けるのがかなり困難だった。むしろ、3世代前から高画質を実現しているのは評価ポイントと言えるだろう。
リフレッシュレート/タッチサンプリングレートは2世代前の「Xperia 1 III」から変わりなく、120Hzのリフレッシュレート(残像低減機能使用時で240Hz)と、240Hzのタッチサンプリングレートに対応。近ごろ増えている360Hzや480Hzのタッチサンプリングレートに慣れていると、アクション性の強いゲームにおける操作性で、レスポンスに多少の違いを感じるかもしれない。
ディスプレイのサイズや解像度、画質チューニングは従来と同様だ。120Hzのリフレッシュレート(残像低減機能使用時で240Hz)と、240Hzのタッチサンプリングレートにも対応している。「Xperia 1 IV」で行われたピーク輝度の向上も受け継いでいる
バッテリーは従来と同様に容量5000mAhだ。急速充電もUSB PDの30W対応が据え置かれている。公開済みのauのスペックによれば、USB PD充電器「TypeC共通ACアダプタ02」を使用した場合の充電時間は120分で、こちらも前モデル「Xperia 1 IV」と同じだ。
近ごろは100W以上の電力を使用して20分程度でフル充電が行えるものもあるが、それらと比べると本機の充電スピードはおだやかだ。なお、こうした極端な急速充電に対応させる場合、より大きく重いバッテリーを使う必要がある。実際、60W以上の急速充電に対応する機種の重量は200g以上であることが多い。いっぽう、「Xperia 1 V」は約187gなので、それらより1割ほど軽い。
先駆けて公開されているau版のスペックでバッテリー持ちの進化を見てみよう。連続通話時間は「Xperia 1 V」が3350分、前モデル「Xperia 1 IV」が約2000分なので、5割以上伸びている。連続待ち受け時間は約700時間で、「Xperia 1 IV」の約450時間からこちらも大幅に伸びている。この「Xperia 1 V」の電池持ちのよさは、ハイエンドモデルとしては破格だ。価格帯もコンセプトも本機とまったく異なるが、1週間以上の電池持ちを標榜するシャープ「AQUOS sense7」の連続通話時間が約3520分、連続待ち受け時間が約820時間と比較できる値であることからも、そのすごさが理解できるだろう。
SIMカードを利用しない、完全にWi-Fi環境で利用という変則的な条件だったが、フル充電で、1日に3〜4時間程度使っても2日+αのバッテリー持ちだった。ハイエンドスマホは、使っても使わなくてもバッテリーが目に見えて減るものだが、本機は待ち受けが6時間続いても3%程度しかバッテリーが減らない。「ウマ娘 プリティーダービー」や「デレステ(アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ)」(いずれもCygames製)のように、そこまで処理性能に負荷をかけないゲームなら、1時間続けてもバッテリーの消費は数パーセントで済んだ。バッテリーの消費が少ないため、必然的に発熱も少ない。熱が気になったのは超重量級ゲームの「原神」(miHoYo製)を高負荷で動作させたときくらいだった。
基本性能を見てみよう。
本機は、SoCに「Snapdragon 8 Gen 2」を搭載している。通信キャリア向けモデルは12GBのメモリーと256GBのストレージを、一般流通向けモデルは16GBのメモリーと512GBのストレージを採用。プリインストールされるOSは、Android 13だ。
近ごろ注目されているOSバージョンアップの方針は、現時点では明らかにされていないが、過去の製品では2回のバージョンアップが行われている。競合する「AQUOS R8」シリーズや「Pixel 7」シリーズは3回、サムスン「Galaxy S23」シリーズは4回のバージョンアップをそれぞれ予告。本機が従来の2回を超える対応になるのかに注目したい。
本機のメインカメラは、超広角(16mm)、広角カメラ(24mm)、光学ズーム対応の望遠カメラ(85〜120mm。いずれも35mm判換算の焦点距離)という組み合わせだ。オートフォーカスで使われていた3DiToFセンサーは非搭載で、代わりにAIを使った構図認識が使われている。また、「Xperia 1」シリーズとして初めてナイトモードを搭載し、光量の少ない状況でも鮮明な撮影が行えるようになっている。
広角カメラのイメージセンサーは、新開発の2層トランジスタ画素積層型CMOSイメージセンサー「Exmor T for mobile」だ。これはトランジスタとフォトダイオードを分離して2層化することでそれぞれを大型化し、感度性能を高めている。また、センサーの面積も1/1.7インチから1/1.35インチに拡大され、画素数も約1200万画素から4800万画素に強化されている。広角カメラは「Xperia 1 II」から据え置きだったので、3世代ぶりの強化だ。
なお、広角カメラは4個のフォトダイオードをひとつにまとめるピクセルビニングを使用して、通常は1200万画素で記録される。4800万画素はデジタルズームを使った場合の画質向上を狙ったもので、いたずらに高画素化を追求しない「Xperia 1」シリーズのこだわりに変わりはない。
トリプルカメラのうち広角カメラを一新。3D iToFセンサーを省略してAIを使った構図認識に変更されている
以下で、「Xperia 1 V」の広角カメラの画質を「Xperia 1 II」と比較していこう。いずれも、「PhotoGraphy Pro」のAUTOモードで、カメラ任せの撮影を行っている。
左が「Xperia 1 V」で、右が「Xperia 1 II」。暗めのLED電球下で撮影した。絵作りの傾向は同じだが、「Xperia 1 V」のほうが鮮やかでノイズも少ない。同じ構図で20ショット程度撮影したが、ピントや手ぶれも見られず、仕上がりは安定していた(撮影写真:Xperia 1 V、Xperia 1 II)
左が「Xperia 1 V」で、右が「Xperia 1 II」。街灯がわずかに差し込む暗い室内で撮影した。「Xperia 1 V」では自動でナイトモードに切り替わり、何を撮影しているのかは認識できる。対する「Xperia 1 II」は性能の限界を超えているようで、花がぼんやりと写るだけだ(撮影写真:Xperia 1 V、Xperia 1 II)
「Xperia 1 V」のナイトモードは特に切り替えなどは行わず、初期設定なら構図によってカメラ任せで処理が行われる。処理にかかる時間は数秒程度なので手軽に利用できるだろう。3D iToFセンサーからAI処理に変更したことによるオートフォーカスの使い勝手は、明るい日中においてはあまり違いがない。ただ、極端に暗い構図では3D iToFセンサーを備える旧モデルのほうが迷わずに行える場合があった。
冒頭でふれたように「Xperia 1 V」は通信キャリア向けモデルと一般流通向けモデルの2種類があり、メモリーとストレージの容量に違いがある。これに加えて、キャリア向けモデルは5Gのミリ波に対応している。ミリ波は超高速の通信を可能にするが、対応エリアがなかなか広がらず、ほとんど使われていない現実がある。いっぽう、512GBの大容量ストレージを備える一般流通向けモデルは、カメラの撮影を多用する本機のコンセプトにより適したものと言える。
価格については、NTTドコモとソフトバンクがまだ発表していないが、au版は210,240円、一般流通向けモデルの市場想定価格は195,000円前後(いずれも税込)で、一般流通向けモデルのほうが安価だ。ただし、通信キャリアでは端末購入補助が利用できるので、2年後に端末を下取りに出すことで実質負担額を半額程度まで減らせる。
ハイエンドスマートフォンはますます値上がりしており、本機も20万円前後という信じられない価格に設定されている。外見からは新鮮さを感じにくいものの、表面加工を施したことでボディは断然持ちやすくなっており、完成度は間違いなく上がっている。
加えて、ハイエンドスマホとは思えないバッテリー持ちは、近年のハイエンドスマホにはなかったものだ。「Xperia1 V」と前モデル「Xperia 1 IV」の価格差は約5万円(一般流通モデルの場合)。近ごろは、値下げされた1世代前のモデルをあえて選ぶ動きもあるが、「Xperia1 V」の場合は、前モデルとの価格差以上の価値が感じられるはずだ。予算が許すのであれば「Xperia 1 V」のほうが断然満足度は高い。高嶺の花で終わらせるには惜しい「Xperiaの傑作」と言ってよいだろう。
FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。