スマホとおカネの気になるハナシ

エリアは広いが速度が不安!? 6月開始の新料金「Rakuten最強プラン」を深掘り解説

多くの人が関係する、スマートフォンなどのモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、2023年6月1日に開始されたばかりの楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten最強プラン」を取り上げる。改善された点を詳しくまとめるほか、今後の課題やライバルの動向についても解説しよう。

※本記事中の価格は税込で統一している。

料金据え置きでパートナー回線が使い放題に

月額0円で利用できる仕組みを廃止した「Rakuten UN-LIMIT VII」への移行を打ち出し、顧客の反発を招くなど物議を醸した楽天モバイル。その楽天モバイルは2023年6月1日にさらなる新料金プラン「Rakuten最強プラン」を打ち出した。

2023年6月より提供される楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten最強プラン」。「最強」をうたうが変化している点はひとつだけだ

2023年6月より提供される楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten最強プラン」。「最強」をうたうが変化している点はひとつだけだ

Rakuten最強プラン」の内容は、実は前プランとなる「Rakuten UN-LIMIT VII」とあまり変わっていない。月額料金は通信量に応じた段階制で、月当たりの通信量が3GBまでであれば1,078円、20GBまでなら2,178円、それを超えても3,278円で使い放題となる点は同じだ。

料金の仕組みは「Rakuten UN-LIMIT VII」と大きく変わっておらず、どれだけデータ通信をしても月額3,278円より上がることはない

料金の仕組みは「Rakuten UN-LIMIT VII」と大きく変わっておらず、どれだけデータ通信をしても月額3,278円より上がることはない

専用アプリの「Rakuten Link」を使えば国内通話がかけ放題になる点や、海外69の国や地域で毎月2GBのデータ通信が利用できる点、「楽天市場」で付与されるポイントの倍率が上がる「SPU」(スーパーポイントアッププログラム)が3倍になる点なども変わっていない。ならばなぜ“最強”なのかというと、それはローミングエリア「パートナー回線エリア」の扱いにある。

楽天モバイルは、「自社回線エリア」に、KDDIのネットワークを借りたローミングエリア「パートナー回線エリア」を併用することで、まだ基地局整備が進んでいない地方や建物の中などをカバーしている。だが、従来そうしたローミングエリアではデータ通信が使い放題にならず、高速通信ができるのは5GBまで、それ以上は通信速度が最大1Mbpsへと大きく落ちる仕組みであった。

しかしながら、「Rakuten最強プラン」ではそれらローミングエリアでの制限がなくなり、自社回線のエリアと同様にデータ通信が使い放題に。しかも楽天モバイルは2023年5月11日にKDDIと新たなローミング協定を締結しており、ローミング期間が2026年9月まで半年間延長されるほか、新たに東京23区、名古屋市、大阪市の繁華街の一部もエリアに加わるという。

大きな違いはKDDIとのローミングでまかなっているエリアの扱い。「Rakuten最強プラン」ではローミングエリアが使い放題だ

大きな違いはKDDIとのローミングでまかなっているエリアの扱い。「Rakuten最強プラン」ではローミングエリアが使い放題だ

楽天モバイルは自社回線エリアの拡大が大きな課題のひとつとされてきた。だが、新たなKDDIとのローミング協定と、それをフル活用した「Rakuten最強プラン」の提供によって、当面のエリア面での課題をクリアし、他社とそん色ないエリア・通信品質を実現できるとしている。

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KDDI回線からの脱却から共存へ大きく変わった方針

楽天モバイルの親会社である楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は、これまでの決算説明会などで、KDDIとのローミングにかかる費用が「高い」と話していた。それゆえローミングでまかなっているエリアをいち早く減らすため、4Gの基地局整備を4年も大幅に前倒しした経緯がある。

その結果、楽天モバイルの4Gネットワークは人口カバー率98%を超えるにいたったのだが、それが一転してローミングをフル活用することになった理由は、基地局整備の前倒しによる大幅な赤字にある。

楽天グループの三木谷氏はかねて、KDDIに支払うローミング費用の高さをしきりに訴えていただけに、一転してローミングのフル活用にいたったことには驚きもある

楽天グループの三木谷氏はかねて、KDDIに支払うローミング費用の高さをしきりに訴えていただけに、一転してローミングのフル活用にいたったことには驚きもある

楽天モバイルが大幅な赤字に苦しんでいることは連載第5回でも説明したとおり。赤字が楽天グループの業績に与える影響は非常に大きく、モバイル事業の継続そのものを危ぶむ声が少なからず出てきている。それゆえ楽天モバイルは2023年、赤字解消に専念するべく、郵便局内の簡易店舗の大量閉鎖や、テレビCMなどマス向けプロモーションの大幅縮小など、さまざまな部分でのコスト削減を進めている。

だが、最もお金がかかっているのは、実は基地局などネットワークへの投資である。ならば、楽天モバイルが短期間で赤字を解消するにはネットワークへの投資を大幅に減らせばよい。しかし、同社のネットワークは整備途上なだけに通信品質の評価が低く、積極的に基地局整備を進めなければ消費者の満足度が高まらず、契約拡大にもつながらない。

楽天グループの2023年度第1四半期決算説明会資料より。楽天モバイルはユーザーから料金面では高く評価されている。そのいっぽうで、通信品質の評価が低く、それが解約理由にもつながっている

楽天グループの2023年度第1四半期決算説明会資料より。楽天モバイルはユーザーから料金面では高く評価されている。そのいっぽうで、通信品質の評価が低く、それが解約理由にもつながっている

プラチナバンド獲得は確実だが、待っていられない懐事情

楽天モバイルは現状、郊外や山間部、建物の中など入り組んだ場所を低コストでカバーできる、1GHz以下のいわゆる「プラチナバンド」の免許を持っていない。ただし、総務省の議論で、他社が使用中のプラチナバンドの再割り当てで、有利な条件を獲得している。加えて、別の未使用のプラチナバンドとして「狭帯域700MHz帯」の割り当てに向けた準備が総務省で進められている。今後同社がプラチナバンドを獲得することはほぼ確実視されているのだが、いずれもまだ総務省での準備が整っていないのですぐプラチナバンドを使えるわけではない。

楽天モバイルは他社からのプラチナバンド再割り当て、あるいは2023年秋に割り当てが見込まれている狭帯域700MHz帯の免許割り当てによってプラチナバンドの獲得が見込まれているものの、割り当てにはまだ時間がかかる

楽天モバイルは他社からのプラチナバンド再割り当て、あるいは2023年秋に割り当てが見込まれている狭帯域700MHz帯の免許割り当てによってプラチナバンドの獲得が見込まれているものの、割り当てにはまだ時間がかかる

ローミング収入が激減したKDDIと利害が一致

このような事情から、事業継続のためお金も時間もない楽天モバイルが、お金をかけずに、手っ取り早く通信品質を改善する方法として浮上したのが、縮小していたKDDIとのローミングをフル活用することだったというわけだ。KDDIとのローミングに使用しているのはプラチナバンドのひとつである800MHz帯であり、広範囲をカバーできることから楽天モバイルの最大の課題であるエリアの問題をすぐ解決できるし、一定の費用がかかるとはいえ基地局を整備するよりはお金がかからない。

KDDI側も、楽天モバイルから入るローミング収入が急に減ったことが業績に大きな影響を与えていたようだ。それゆえローミング収入の減少幅をなだらかにし、業績の影響を抑えたい狙いがあったことからローミングの活用には前向きだったようだ。

エリアは広がるが、通信速度では不利になりやすい

ただし、「Rakuten最強プラン」には注意が必要な部分もある。楽天モバイル側は「Rakuten最強プラン」でKDDIと同じ水準のエリアをまかなえるとしているが、先にも触れたように、ローミングに用いる周波数帯は、KDDIが免許を保有する4G向けの周波数帯6個(傘下のUQコミュニケーションズを含めると7個)のうち800MHz帯のみ。厳密に言えばほかの周波数帯のエリアはカバーしていないことになる。

楽天モバイルがローミングで利用しているのは、KDDIのネットワークのうち郊外や地方が中心の800MHz帯のみ。KDDIとまった同じエリアというわけではない

楽天モバイルがローミングで利用しているのは、KDDIのネットワークのうち郊外や地方が中心の800MHz帯のみ。KDDIとまった同じエリアというわけではない

とりわけその影響が顕著に表れそうなのが通信速度である。KDDIをはじめ多くの携帯電話会社では、複数の周波数帯を束ねて高速大容量通信を実現するキャリアアグリゲーションという技術を用いている。これは同時に複数の周波数帯を利用できるのが前提だが、ローミングエリアが800MHz帯のみの楽天モバイルでは対応できない。

つまり、KDDIの持つ周波数帯をフルに活用したキャリアアグリゲーションが利用できる「au」「UQ mobile」などのKDDI直営サービスや、KDDI回線を使った格安SIMサービスと比べ、混雑時の通信速度などの品質が落ちやすい条件と言えるのだ。エリアの広がりではKDDIに近づくいっぽう、通信品質に大きな違いが出る可能性があることは、利用する側も覚えておく必要があるだろう。

KDDI回線を直接利用した場合、800MHz帯以外の周波数帯を用いたキャリアアグリゲーションをフル活用できるが、800MHz帯しか使用していない楽天モバイルはそれが利用できないので混雑時に品質が低下しやすくなる可能性がある

KDDI回線を直接利用した場合、800MHz帯以外の周波数帯を用いたキャリアアグリゲーションをフル活用できるが、800MHz帯しか使用していない楽天モバイルはそれが利用できないので混雑時に品質が低下しやすくなる可能性がある

KDDIと新たに結んだローミング契約は2026年9月までであり、それまでの間に楽天モバイルは自社でエリアを構築する必要がある。加えて赤字解消のためには楽天モバイルのサービスを利用してくれるユーザーの数自体を増やす必要があり、コスト削減のためプロモーションを抑えている楽天モバイルがどうやって契約者を拡大するかという点にも課題がある。

パートナーのKDDIは新料金「コミコミプラン」で対抗

ビジネスパートナーであるKDDIは2023年6月1日より、サブブランド「UQ mobile」において楽天モバイル対抗の新プラン「コミコミプラン」の提供を開始している。KDDIもネットワークでは協力するも、サービスでは競争の手を緩める様子はないようだ。

ちなみに「コミコミプラン」は、月額料金が「Rakuten最強プラン」の上限価格と同じ3,278円で、通信量は20GB。10分間の定額通話も利用できる。通信容量や通話時間は楽天モバイルに優位性があるが、キャリアアグリゲーションが利用できるネットワーク面での強みや、店舗でサポートが受けられる安心感などはUQ mobileが有利で、楽天モバイルにとって強力なライバルとなるのは確かだろう。

KDDIは2023年6月1日より、サブブランドの「UQ mobile」で新プラン「コミコミプラン」の提供を開始。料金は「Rakuten最強プラン」と同じで通信量は20GB、定額通話は10分までとなるが、ネットワーク品質やサポート面での優位性が高い

KDDIは2023年6月1日より、サブブランドの「UQ mobile」で新プラン「コミコミプラン」の提供を開始。料金は「Rakuten最強プラン」と同じで通信量は20GB、定額通話は10分までとなるが、ネットワーク品質やサポート面での優位性が高い

「Rakuten最強プラン」で当面の危機を回避できた楽天モバイルだが、課題が山積なのは変わりない。サービス継続のためそれらの課題をいかなる手でクリアするか、引き続き同社の手腕が大きく問われている。

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佐野正弘

佐野正弘

福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。

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