NTTドコモ、au、UQ mobileから発売されている、サムスンのミドルレンジスマホ「Galaxy A54 5G」。マイナーチェンジにとどまるものが多い2023年春夏のスマートフォンだが、本機はしっかりと性能向上を図りつつ、価格上昇は最低限に抑えており、実はかなり良心的な高コスパ機でもある。前モデル「Galaxy A53 5G」などと比較しながら進化点に迫ろう。
左が「Galaxy A54 5G」で、右が「Galaxy A53 5G」。いずれも6インチを超えるディスプレイを搭載する大型モデルだ
今回取り上げる「Galaxy A54 5G」は、販売価格が7万円前後のミドルレンジスマホ。ミドルレンジスマホは価格と性能のバランスにすぐれたものが多いが、本機はまさにそのど真ん中に位置しているような、良バランスな製品だ。価格は前モデル「Galaxy A53 5G」から1万円程度値上がりしているが、今期の注目モデル「Pixel 7a」に近い価格帯であり、多くのユーザーにとって現実的な選択肢の製品と言えるだろう。
本機のディスプレイは、2340×1080のフルHD表示に対応する約6.4インチの有機ELで、120Hzのリフレッシュレートやタッチサンプリングレート(タッチサンプリングレートはツールで測定したもの)に対応している。前モデルは約6.5インチで長辺の解像度が2400ピクセルだったので、それと比べると少しずんぐりした縦横比だ。その代わりというわけではないが、新モデルは新たにHDR対応したほか、最大輝度が800nitsから1000nitsに向上し、明るい場所での視認性が高められている。
左が「Galaxy A54 5G」で、右が「Galaxy A53 5G」。画面の縦横比が異なる
本機のディスプレイの注目点は、多くのハイエンド機と同様に、120HzのリフレッシュレートとHDRの両方に対応していることだ。比較すると、前モデル「Galaxy A53 5G」は120Hz駆動に対応しているがHDRは非対応。「Pixel 7a」はHDR対応だが90Hz駆動にとどめられている(2023年6月8日訂正:Pixel 6aの最大リフレッシュレートは90Hzです)。本機のディスプレイはスクロールがなめらかで体感速度の点でも有利。120Hz駆動対応のゲームでも重宝するだろう。
ディスプレイ指紋認証に対応。認証のレスポンスは「Galaxy A53 5G」より改善されている
機能を見るとおサイフケータイに対応するほか、NFCとステレオスピーカーを備えるなど、前モデルと共通する部分が多い。ヘッドホン端子が非搭載なのも変わっていない。ただし、細かく見ると、防水性能がIPX7からIPX8に向上しており、国内メーカー機と同レベルの防水性能に強化されている。
続いて「Galaxy A54 5G」の処理性能を見ていこう。
SoCはサムスン製の「Exynos 1380」で、これに6GBのメモリーと128GBのストレージ、1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせている。OSはAndroid 13だ。
サムスンのミドルレンジ以上のスマートフォンは、長いソフトウェアサポートを行うことが特徴だが、本機も4世代のOSバージョンアップと発売後5年間のセキュリティアップデート配布を予告している。そのため、Android 17世代まで最新のソフトウェア環境を利用できる。
このサポート期間はGoogle純正の「Pixel」シリーズよりも手厚く、国内で正規流通するAndroidスマートフォンとしては現時点で最長になる。もし長く使いたいのであれば、現状におけるベストと言える。
本機のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク(バージョン10.x)」のスコアは608117(内訳、CPU:194998、GPU:167593、MEM:93311、UX:152215)。前モデル「Galaxy A53 5G」は397033(内訳、CPU:98670、GPU:131338、MEM:81952、UX:85073)だったので、比べると3割以上スコアが向上している。
サブスコアを見てみると、処理性能を示す「CPU」で前モデルに倍近い差を付けているが、グラフィック性能を示す「GPU」では2割増しにとどまっている。「CPU」の値はあらゆる状況に影響を与えるものだが、「GPU」は現実的にはゲームのための指標だ。実際、ゲームアプリで動作を比べてみたが、両者にそこまで大きな違いは感じられなかった。
本機のライバルとなる「Pixel 7a」はハイエンド向けのSoC「Google Tenosor G2」を流用しているため、やはり性能面では有利だ。ただし、「Pixel 7a」はリフレッシュレートが90Hzにとどまっているので、体感速度やタッチ操作のダイレクト感では本機のほうが快適に感じられるかもしれない。
AnTuTuベンチマーク(バージョン10.x)のスコア。左が「Galaxy A54 5G」、中央が「Galaxy A53 5G」
「Galaxy A54 5G」のメインカメラは、約5000万画素の広角カメラ(標準カメラ)、約1200万画素の超広角カメラ、約500万画素のマクロカメラという組み合わせだ。前モデル「Galaxy A53 5G」と比較すると、深度センサーが廃止されたことと、標準カメラが1/1.7インチから1/1.56インチに大型化しつつ、画素数が約6400万画素から5000万画素に少なくなったことで、感度性能を高めているのがポイントと言えるだろう。
左が「Galaxy A54 5G」で、右が「Galaxy A53 5G」。「Galaxy A54 5G」では深度センサーが廃止されたほか、標準カメラが1/1.7インチから1/1.56インチに大型化するなどの改良が加えられている
以下に、標準カメラを中心に「Galaxy A54 5G」と「Galaxy A53 5G」の画質を比較した結果をレポートする。いずれの比較も、左が「Galaxy A54 5G」で、右が「Galaxy A53 5G」で撮影したものになる。
日中の風景を撮影。いずれも青空や雲、街路樹の色味を現実より見栄えのするものに加工されているが、肉眼の印象に近いのは左の「Galaxy A54 5G」だ。ただし、陰影を強調した「Galaxy A53 5G」のほうが好みという人もいるだろう
撮影写真:Galaxy A54 5G、7.34MB・Galaxy A53 5G、5.79MB
深紅のバラを撮影。両機の発色にはっきりと違いがあり、「Galaxy A54 5G」のほうが肉眼の印象に近い黒みを帯びた色が再現されている。「Galaxy A53 5G」は意外とあっさりとしており、発色より花びらのディテールを重視した仕上がりだ。背景についてはいずれも肉眼よりも青空や雲を際立たせる方向性は同じだが、「Galaxy A53 5G」のほうがより強調されている
撮影写真:Galaxy A54 5G、3.08MB・Galaxy A53 5G、4.21MB
間接照明の回廊を撮影。「Galaxy A54 5G」のほうがより明るく、天井部分の模様や大理石の柱のディテールを残すような処理が行われている
撮影写真:Galaxy A54 5G、4.08MB・Galaxy A53 5G、4.04MB
夜の浄水場を撮影。全体の画作りの傾向は似ているが、滑らかさとノイズの少なさ、ハイライト部分の飽和の少なさなどで「Galaxy A54 5G」の優位を確認できる。なお、画像処理にかかる時間も「Galaxy A54 5G」のほうが短かった
撮影写真:Galaxy A54 5G、4.78MB・Galaxy A53 5G、4.87MB
「Galaxy」シリーズのカメラは、より鮮やかに見栄えよく積極的に画像処理を行う傾向がある。ソニー「Xperia」シリーズやシャープ「AQUOS」シリーズのような、肉眼の印象に近づけるものとはコンセプトが異なる点は、まず理解しておきたい。
その観点で見ると、「Galaxy A54 5G」と「Galaxy A53 5G」は、印象的な写真を手軽に撮れるという方向性は同じだ。だが、「Galaxy A54 5G」のほうがいくらか仕上がりがマイルドで、人工的な印象は抑えられている。加えて、肝心の高感度撮影ではノイズが減り、かつ滑らかさが増しているので扱いやすくなっている。
なお、前モデル「Galaxy A53 5G」はシャッタータイムラグや全体のレスポンスが悪い欠点があったが、新モデル「Galaxy A54 5G」ではそれがいくらか改善されて使いやすくなった。ただし、まだ軽快とは言えず、動く被写体を撮影するような用途では課題が残る。
最後に、販路モデルごとに通信機能や価格の違いを解説しよう。
本機は、NTTドコモ向けの「SC-53D」とau/UQ mobile向けの「SCG21」の2モデルが用意されている。いずれも基本的には同じものだが、通信機能に違いがある。
両モデルともnanoSIMカード+eSIMのデュアルSIM機で5Gに共通しているが、「SC-53D」は5Gの対応周波数帯がn28/78/79で、自社で使用するもののみをフォローしている。いっぽう「SCG21」はn3/28/41/77/78に加えてNTTドコモで使用するn79にも対応している。
価格を比較すると、「SC-53D」は69,850円、「SCG21」は74,730円(いずれも税込)だが、auオンラインショップでは機種変更(povo1.0を含む)なら5,500円、新規契約なら11,000円、UQ mobileからの番号移行とpovo2.0および他社からのMNPなら22,000円の割引が用意されている。これらの割引を考慮するなら、auで購入するのが割安だ。
スマートフォンの価格上昇はまだ終わっていない。ミドルレンジスマホの新モデルは、「Xperia 10 V」のように価格上昇を抑えた小改良にとどまるものが目立つが、その中で「Galaxy A54 5G」は、HDRに対応したディスプレイや、処理性能全般の向上、カメラの強化などコストのかかる改良をしっかり行っている。その結果、前モデルより1万円ほど値上がりしているが、機能の内容を考えれば、逆にその程度の値上げにとどめられていると言えるだろう。この価格差なら前モデルを選ぶ理由を筆者は感じない。
本機のライバルはやはり「Pixel 7a」だ。「Pixel 7a」に対する本機の魅力は、HDRと120Hz駆動の両方に対応したディスプレイと、4世代のOSバージョンアップ保証で長く使えること。また、「Pixel 7a」では少し小さいと感じる人にとっても、大型の本機は魅力的に映るはずだ。ただし、処理性能やグラフィック性能ではハイエンド向けのSoCを搭載する「Pixel 7a」のほうがすぐれているのも確か。両者は得意とする部分が異なっており、比較しがいのあるライバルと言えるだろう。
FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。