多くの人が関係する、スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回はNTTドコモの新料金プラン「eximo(エクシモ)」と「irumo(イルモ)」の詳細を解説しよう。複雑でわかりにくいという声が多いが、従来プランとの違いやNTTドコモの狙いを整理することで理解が早まるはずだ。
※本記事中の価格は税込で統一している。
NTTドコモは2023年7月1日に料金プランを大幅にリニューアル。新たに「eximo」「irumo」という2つの料金プランを追加し、従来提供してきたオンライン専用の「ahamo」を加えて3つの料金プラン体制に移行した。
NTTドコモは2023年7月1日より、新料金プラン「eximo」と「irumo」の提供を開始。今後は「ahamo」を含めた3プラン体制となる
正直なところ、同社の新料金プランは発表直後から「わかりにくい」という不満の声が多かったのも事実。なぜユーザーにそのような印象を与えてしまったのか? その理由を含めて両プランの詳細を確認していこう。
まずは上位プランの「eximo」について確認すると、こちらはわかりやすく言えば、これまでNTTドコモが提供していた料金プラン「ギガホ/ギガホ プレミア」と「ギガライト」をひとつにまとめたようなプランだ。
具体的には「ギガライト」と同様、月当たりのデータ通信量に応じて月額料金が変化する仕組みを採用しており、割引なしで1GBまでの場合は月額4,565円、1〜3GBまでの場合は月額5,665円、3GBを超えた場合は月額7,315円。3GB以上はどれだけデータ通信を行って料金は変わらず、使い放題になる点は「ギガホ」などと共通している。
「eximo」の仕組み。「ギガライト」と同じ段階制を採用しながらも、「ギガホ」などと同様、どれだけ通信しても月額料金の上限は7,315円
また、家族でNTTドコモ回線を複数契約すると適用される「みんなドコモ割」や、「dカード」で料金を支払うと適用される「dカードお支払割」、そして指定の固定ブロードバンド回線やその代替となる「home 5G」の契約で適用される「ドコモ光セット割」または「home 5Gセット割」といった割引の仕組みも共通しており、それらをフルに適用することで月額料金はそれぞれ2,178円、3,278円、4,928円まで割引される。
ほかにも、「eximo」は、NTTドコモの料金プラン向けに提供されていたサービスやサポートはフルで提供されるし、各種サブスクリプションサービスとのセット契約でポイント還元が受けられる「爆アゲ セレクション」も、通信量を問わずフルに適用される。
しいて言えば、「eximo」の提供に合わせて通話定額の「かけ放題オプション」などが110円値上げされている。ただ、これは従来の「ギガホ プレミア」なども同様に値上げされており、その代わりに留守番電話やキャッチホンが割引になる「音声オプション定額料割引」が新たに適用されることから、実質的には値下げとなる人のほうが多いと考えられる。
「eximo」は従来のNTTドコモの料金プランと同様、サービスやサポートをフルで受けられるのも特徴のひとつ
そうしたことから、従来「ギガホ/ギガホ プレミア」を契約していた人ならば、「eximo」に移行しても違和感なく利用できるだろうし、月当たりの通信量が1GB未満の場合は安くつく。
そのいっぽうで、「ギガライト」の契約者からすると割引なしの料金は明らかに割高になっているし、割引があっても毎月3GB以上利用していた人には高くついてしまう。そうしたユーザーにはもうひとつの料金プランである「irumo」に移ってもらうというのがNTTドコモの考えだろう。
・3段階料金プラン、3段階目は容量無制限
・ドコモショップでのフルサポート
・月間3GB以上の場合も割安に
・割引メニューが豊富
・「ギガホ/ギガホ プレミア」の受け皿として適する
続いて、「irumo」はどのような料金プランなのかを説明しよう。
簡単に言えば、データ通信量が少なくて、より安価な料金を求める人に向けた「節約志向のプラン」だ。具体的には毎月のデータ通信量に応じて「0.5GB」「3GB」「6GB」「9GB」の4つのプランが用意されており、その中から自分にあった通信量のプランを選ぶ仕組みである。
まずは0.5GB以外のプランについて解説すると、3GBプランは月額2,167円、6GBプランは2,827円、9GBプランは3,377円。こちらにも「dカードお支払割」と「ドコモ光セット割」または「home 5Gセット割」の適用が可能で、それらを適用すると月額料金はそれぞれ880円、1,540円、2,090円とかなり安く利用できる。
ちなみに「irumo」の各プランには「みんなドコモ割」は適用されないが、3GB以上のプランの場合契約しているとそのカウント対象となり、「eximo」など「みんなドコモ割」適応のプランを利用する家族に恩恵がある点は「ahamo」と共通している。
「irumo」の仕組み。データ通信量に応じてプランを選ぶ形で、0.5GBプラン以外は各種割引を適用することで安価に利用できる
残る0.5GBプランだが、こちらは割引の仕組みがなく月額550円とよりいっそう安く利用できるのだが、5Gによる通信は利用できず4Gのみ。また通信速度も最大3Mbpsまでと非常に遅いので、通話とメールくらいしか利用しないような人に向けたプランと言えるだろう。
価格が安くお得感が高いNTTドコモの料金プランと言えば「ahamo」が思い起こされるが、「irumo」は「ahamo」と違ってドコモショップでのサポートを、基本的に無料で受けることが可能だ。データ通信量が少ない人はスマートフォンに詳しくない傾向が強いこともあって、「irumo」では低価格ながらもドコモショップでのサポートにかなり重点が置かれているようだ。
「irumo」は低価格ながら、ドコモショップでサポートを受けることが可能。ただし一部のサポートは有料なので注意したい
この「irumo」こそが、新料金プランがわかりにくいと言われている大きな要因だ。それは従来の料金プランと違う点が非常に多いからだ。
まずは「ギガホ プレミア」や「ギガライト」といった従来プランとの違いなのだが、1つ目はドコモショップでのすべてのサポートが無料で受けられるわけではないこと。「eximo」では無料で受けられる、OSのアップデートやスマートフォンの初期化などといった設定のサポートは、「irumo」では1回当たり1,100円の有料扱いだ。
2つ目は、「irumo」では利用できない、あるいは利用するのに別途費用がかかるサービスがいくつか存在すること。なかでも代表的なのはいわゆるキャリアメールの「ドコモメール」で、「ahamo」を除く従来プランでは無料で利用できたのが、「irumo」では「ドコモメールオプション」(月額330円)を契約しないと利用できない。
また、「irumo」はドコモオンラインショップで契約できないことにも注意だ。「irumo」に変更して新しいスマートフォンを購入するには、ドコモショップに行くか、あるいはドコモショップで「irumo」を契約した後にドコモオンラインショップで端末を購入する必要があり、オンラインでの手続きが非常に面倒なのだ(ただし「irumo」の契約だけであれば専用Webサイトで手続きが可能)。
ドコモオンラインショップのWebサイトより。ドコモオンラインショップでは「irumo」の契約自体ができず、オンラインでスマートフォンなどを購入する際は「ahamo」以上に多くの制約を受ける
3つ目はネットワーク状況による利用制限があることで、NTTドコモのネットワークが混雑したときに、ほかの料金プランよりも先に「irumo」ユーザーの通信速度が制限されてしまうという。このことを把握していなければ、大規模イベントの開催時や自然災害発生時などにネットワークが混雑した場合、ユーザーが混乱してしまう可能性があるだろう。
そしてもうひとつ、「irumo」は「OCNモバイルONE」と比較してわかりにくい部分が多いことも押さえておきたい。「OCNモバイルONE」は、NTTドコモの子会社だったNTTレゾナントがMVNOとして提供していたモバイル通信サービスだ。実はNTTドコモがNTTレゾナントを吸収し、「OCNモバイルONE」をベースに開発されたのが「irumo」なのである。
それゆえ「irumo」には、「OCNモバイルONE」で好評だった0.5GBのプランが存在するなど共通点も多いのだが、料金は「OCNモバイルONE」と比べると、割引を使わないと大幅に値上げされているし、0.5GBプランも、上記のような通信速度の制限が付くなど多くの制約が生まれてしまっている。しかも「irumo」の開始と同時に「OCNモバイルONE」の新規受付が終了してしまったことから、既存の「OCNモバイルONEユーザー」からかなり多くの不満があがったことは確かだろう。
※通信は4Gのみ、通信速度は最大3Mbps
・0.5GB、3GB、6GB、9GBの4つのプランを用意
・ドコモショップのサポートが一部有料、ドコモメールも有料
・0.5GBプランは4Gのみで通信速度も3Mbpsにとどまる
・他プランよりネットワークの利用制限が早めにかかる
・「ギガライト」系を使っていたユーザーの受け皿に適する
ではなぜ、「irumo」がわかりにくくなってしまったのか? それはひとえに低価格とドコモショップでのサポートを両立するためだ。「ahamo」がドコモショップでのサポートをカットしたことで低価格を実現したことが示しているように、全国津々浦々にお店を構えてスタッフを雇用し、教育する必要があるショップでのサポートは非常にコストがかかるものなのだ。
だが、「irumo」が主なターゲットとしているのはスマートフォンにあまり詳しくないユーザーであることから、ショップでのサポートは不可欠と判断。低価格でも可能な限りショップでのサポートを実現するため、オンラインでのサポートが主だった「OCNモバイルONE」と比べ料金が高くなってしまったほか、既存プランよりも利用できるサービスが減るなどの制約が出てしまったと言えるだろう。
「irumo」はスマートフォンに詳しくなく、データ通信が少ないユーザーが主なターゲット。そうした人たちはNTTドコモのブランドや、ドコモショップでのサポートを求める傾向が強い
とはいうものの、NTTドコモからしてみれば「irumo」の狙いは明確だ。それは「UQ mobile」や「ワイモバイル」といった競合他社のサブブランドに対抗するためで、小容量で低価格、なおかつショップでのサポートが付くといった特徴は、まさにサブブランドそのものである。
「irumo」と他社のサブブランドは似ている部分が多い。まず、料金が同水準で、いずれも割引の適用で料金を安くできる仕組みが用意される。メインブランド(「irumo」の場合は「eximo」)では無料で提供されるサービスの一部が有料なのも同じだ。たとえば、先に紹介したように「irumo」のキャリアメールは有料だが、これは「UQ mobile」でも同様である。
そうしたことを考えれば、「irumo」も「UQ mobileやワイモバイルに対抗するサブブランド」と打ち出してしまえば、比較対象が競合サブブランドとなるためユーザーにも伝わりやすかったと考えられる。それを「NTTドコモの料金プラン」としてしまったことが、わかりにくさを招いてしまった大きな要因と言えそうだ。
実際「eximo」をNTTドコモのメインブランド、「irumo」をサブブランドと分けて考えれば、ユーザーとしてもプランの違いが理解やすく、選びやすくもなるだろう。とりわけ「NTTドコモに小容量・低価格のプランがないからUQ mobileやワイモバイルへの移行を考えていた」という人ならば、「irumo」をサブブランドとして見れば選ぶ価値が高いことが理解しやすいのではないだろうか。
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。