スマホとおカネの気になるハナシ

急増しているSIMフリースマホ、買う前に知っておきたい3つのポイント

多くの人が関係する、スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回はSIMフリースマートフォンが増えている背景と、キャリアスマホとの違いを取り上げる。

iPhoneにXperia、Galaxyも……近ごろ増えているSIMフリースマホ

ここ最近、「SIMフリー」と銘打って販売されるスマートフォンが増えている。これは携帯電話会社のショップではなく、パソコンなどと同じように主として家電量販店やECショップなどで販売されているスマートフォンのことを指し、好きな携帯電話会社のSIMを挿入して利用できるのが最大の特徴だ。

SIMフリースマートフォン自体は以前から存在しているのだが、どちらかといえば海外の新興メーカーなど、日本ではあまり馴染みのないメーカーのものが多く、知名度はそれほど高いとは言えなかった。だがここ最近、従来携帯電話会社からしか販売されていなかったメーカーのスマートフォンも、SIMフリースマートフォンとして販売されるケースが増えているのだ。

その象徴的な事例が、従来SIMフリーモデルをほとんど提供してこなかった韓国サムスン電子である。同社は、フラッグシップモデルの最新機種「Galaxy S23 Ultra」を2023年4月20日にNTTドコモやKDDI(au)から販売しているが、それからおよそ2か月半後の2023年7月6日に自社オンラインショップ限定という形ではあるものの、SIMフリー版の1TBストレージモデルを発売。SIMフリースマートフォンの販売に力を入れようとしている様子が見て取れる。

従来SIMフリーモデルの販売に消極的だったサムスン電子も、2023年のフラッグシップモデル「Galaxy S23 Ultra」のSIMフリー版モデルを、2023年7月に自社オンラインショップ限定ながら投入している

従来SIMフリーモデルの販売に消極的だったサムスン電子も、2023年のフラッグシップモデル「Galaxy S23 Ultra」のSIMフリー版モデルを、2023年7月に自社オンラインショップ限定ながら投入している

また、従来は、メーカー側が携帯電話会社に配慮してなのか、SIMフリーモデルの販売を携帯電話会社の販売から半年程度遅らせる傾向にあった。だがここ最近は携帯電話会社からの販売に近いタイミングでSIMフリーモデルを販売するケースが増えている。

実際、ソニーの2023年のフラッグシップモデル「Xperia 1 V」は、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3社から2023年6月16日に発売されたが、ソニーが独自販売するSIMフリーモデルもそれからおよそ1か月後の2023年7月14日に発売されている。

ソニーの「Xperia」シリーズのハイエンドモデルは従来、携帯各社の販売から約半年後にSIMフリーモデルが販売される傾向にあったが、「Xperia 1 V」のSIMフリーモデルは携帯大手の販売から約1か月後に販売が始まっている。コストのかかる5Gのミリ波対応を見送ったことで、割安な点でも注目を集めている

ソニーの「Xperia」シリーズのハイエンドモデルは従来、携帯各社の販売から約半年後にSIMフリーモデルが販売される傾向にあったが、「Xperia 1 V」のSIMフリーモデルは携帯大手の販売から約1か月後に販売が始まっている。コストのかかる5Gのミリ波対応を見送ったことで、割安な点でも注目を集めている

携帯電話会社の競争を促した結果、メーカーが直接扱うSIMフリーが増えた

メーカーがSIMフリースマートフォンの販売に力を注ぐようになった背景には、2019年の電気通信事業法改正がある。法改正以前は通信契約した携帯電話会社からスマートフォンをセットで購入するというのが常識であった。携帯電話会社各社は回線契約とのセット販売によりスマートフォンの価格を大幅に値引く代わりに、契約の“縛り”に加え、スマートフォンにも購入した携帯電話会社以外のSIMを挿入すると通信ができない「SIMロック」をかけることにより、他社への乗り換えを防いでいたのだ。

だがその販売手法を問題視していた総務省、ひいては国によって2019年に電気通信事業法が改正され、携帯電話回線の契約とスマートフォンの販売を完全に分離することが義務化された。さらに2021年には正当な理由がない限りSIMロックをせずに端末を販売することを義務化するようガイドラインが改定され、同年10月よりSIMロックをかけること自体が原則禁止となっている。

2021年8月に改訂された「移動端末設備の円滑な流通・利用の確保に関するガイドライン」より。このガイドライン改定によって携帯電話会社が端末にSIMロックをかけることが原則禁止されている

2021年8月に改訂された「移動端末設備の円滑な流通・利用の確保に関するガイドライン」より。このガイドライン改定によって携帯電話会社が端末にSIMロックをかけることが原則禁止されている

伸びしろの少ないキャリア販売から活路を見出したいメーカー

国によるこれら施策の狙いは、公正競争を阻害するスマートフォンの大幅値引きを撲滅し、通信契約の乗り換え競争を促進するためである。そのため、一連の施策によって携帯各社のショップでスマートフォンだけを購入し、他社で契約したSIMを挿入して利用できるようになり、端末選択の自由度は高まったが、携帯各社によるスマートフォンの値引き販売は難しくなった。

実際にはその後、「1円スマホ」など新たな値引き手法が登場して大幅値引きは継続しているのだが、こちらも今後規制がかけられるというのは前回説明した通り。それゆえメーカーとしては、行政が厳しい目を光らせている以上、今後携帯各社によるスマートフォンの大幅値引きで販売を伸ばすことは期待できないことから、自社でもSIMロックがかかっていない「SIM(ロック)フリー」のスマートフォンを販売することで少しでも販売を増やそうとしているわけだ。

ポイント1(対応周波数帯)
5Gにおいてネットワークの相性が問題になる場合が多い

従来携帯電話会社のセット販売でスマートフォンを購入してきた人たちが、SIMフリースマートフォンを購入する際にはさまざまな注意が必要になってくる。なかでも最も注意したいのが、スマートフォンが対応する周波数帯(バンド)の確認だ。

携帯各社が販売するスマートフォンは、自社のネットワークが使用している周波数帯を最大限活用して快適に通信できる仕組みが整えられているので、周波数帯を気にして購入する必要はほぼない。だがSIMフリースマートフォンは世界的に多く使われている周波数帯にのみ対応させていることが多いので、日本では使われているが海外ではあまり使われていない周波数帯に対応させずに販売するケースが少なくないのだ。

現在その代表例となっているのが、NTTドコモが5Gの主要周波数帯として使っている4.5GHz帯(バンドn79)。この周波数帯は日本のほか、中国など一部の国でしか使われていないことから、NTTドコモが販売するもの以外で対応するスマートフォンはかなり少ない。そうした機種でNTTドコモやMVNOのSIMを使って5Gで通信するとエリアが狭い、通信速度が遅いといったケースが増えることから、事前の確認が重要になってくるわけだ。

また、周波数帯が対応していたとしても、ネットワークとの相性が悪く通信が安定しないというケースもあるので注意が必要だ。最近では楽天モバイルが2023年7月21日に、同社が販売していないグーグルの「Pixel」シリーズの一部モデルで、同社のSIMを使用して通信した場合、ネットワークが利用しづらくなることを明らかにしている。

周波数帯が対応していてもネットワークとの相性が悪い場合もあり、楽天モバイルが販売していないグーグルの「Pixel 7a」など一部のPixelシリーズで、楽天モバイルのSIMを用いて通信した場合、ネットワークが利用しづらくなることが明らかにされている

周波数帯が対応していてもネットワークとの相性が悪い場合もあり、楽天モバイルが販売していないグーグルの「Pixel 7a」など一部のPixelシリーズで、楽天モバイルのSIMを用いて通信した場合、ネットワークが利用しづらくなることが明らかにされている

ポイント2(サポート体制)
故障時の補償に注意

2つ目の注意点は補償である。携帯各社が販売するモデルは、購入時に「smartあんしん補償」(NTTドコモ)や「故障紛失サポート with Cloud」(au)などの補償サービスに入ることで故障時の補償などが受けられるが、SIMフリースマートフォンにはそうした補償サービスが必ずしも存在するとは限らない。SIMフリースマートフォンは他店で購入したものになるので、携帯電話会社のショップを頼ることも基本的にはできない。

もちろんアップルの「Apple Care+」に代表されるように、メーカーが独自に補償サービスを提供している場合もあるし、MVNOからSIMフリースマートフォンを購入する場合はMVNO側が補償サービスを提供していることもある。端末を長く安心して利用したいのであれば補償サービスも事前にチェックしておきたい。

SIMフリースマートフォンを販売するメーカーが独自に補償サービスを提供するケースも増えており、モトローラ・モビリティも自社スマートフォン向け補償サービス「moto care」の提供を開始している。このほかに、ソニーは「Xperia ケアプラン」、シャープは「モバイル補償パック」を用意している

SIMフリースマートフォンを販売するメーカーが独自に補償サービスを提供するケースも増えており、モトローラ・モビリティも自社スマートフォン向け補償サービス「moto care」の提供を開始している。このほかに、ソニーは「Xperia ケアプラン」、シャープは「モバイル補償パック」を用意している

ポイント3(支払い方式)
店舗ごとに異なる分割払いの内容

そして3つ目は購入方法だ。携帯電話会社の場合、「いつでもカエドキプログラム」(NTTドコモ)や「新トクするサポート」(ソフトバンク)など、スマートフォンを分割払いで購入し、一定期間使用した後に返却することで残債の支払いが不要、あるいは安くなるいわゆる「端末購入プログラム」が利用でき、高額なスマートフォンも比較的安く利用できるようになっている。

だがSIMフリースマートフォンには基本的にそうした仕組みが存在しない。それゆえ高額なスマートフォンを、負担を減らして利用するには、通常の家電などと同様に販売する店舗、あるいはクレジットカードの分割払いを利用して購入するしかない。

ただアップルやグーグルなどのように、自社ストアでの購入時に手持ちのスマートフォンを下取りすることで、安く購入できる仕組みを提供するケースも増えている。さらにアップルに関して言えば、後払いサービスの「Paidy」を利用して分割手数料0%で最大36回払いができる仕組みなども用意している。分割払いで少しでも負担を減らして利用したいなら、小売価格だけでなくこうした仕組みを事前に調べたうえで、自分に適した販路から購入するのがいいだろう。

後払いサービス「Paidy」のWebサイトより。Paidyはアップルの店舗で、分割手数料0%で最大36回払いができる「ペイディあと払いプランApple専用」を提供している

後払いサービス「Paidy」のWebサイトより。Paidyはアップルの店舗で、分割手数料0%で最大36回払いができる「ペイディあと払いプランApple専用」を提供している

SIMフリースマートフォンは、自由な価格競争が行われているので、同じものでも割安に購入できる場合がある。ただし、快適に利用するには、ここで解説したようなスマートフォンに関する一定のスキルや調査能力が求められる面もまだあり、価格だけで比較が行いにくいところもある。

初めてSIMフリースマートフォンを手にする場合、ここで解説したような3点(対応周波数帯・サポート体制、支払い方法)を把握しておけばより快適に使い始められるだろう。

佐野正弘

佐野正弘

福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。

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