多くの人が関係する、スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回はワイモバイルの新料金プラン「シンプル2」を取り上げる。基本料金は値上げされたものの、系列グループのサービスを使っていれば割引が利用できるので、ひと口に値上げとも言いにくい。料金プランが複雑になった背景に迫ろう。
※本記事中の価格は税込で統一している。
2023年に入って、携帯各社が中〜低価格帯の料金プランやブランドを相次いで強化している。KDDIが6月に新料金プラン「コミコミプラン」「トクトクプラン」などを提供開始したのに続き、従来この領域のプランがなかったNTTドコモも、7月より新たな料金プラン「irumo」を提供開始。楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten最強プラン」も、料金面ではこの領域に入るだろう。
いっぽう、これまで動きを見せていなかったのがソフトバンクだが、2023年8月23日に、中〜低価格の領域を担うワイモバイルブランドの新料金プラン「シンプル2」を発表している。この料金プランは、従来提供している料金プラン「シンプル」をベースに、昨今の競争環境を意識した内容に改定されている。
「シンプル2」は、「シンプル」と同様に「S」「M」「L」という3つの料金プランが用意され、ユーザーが選びやすい仕組みは変わっていない。だが、その内容にはいくつかの変化がある。ひとつはデータ通信容量である。
ソフトバンクの説明によると、2023年度におけるひとりあたりの通信量は、2020年度と比べ倍以上に増えているとのこと。そうしたことから「シンプル2」では「シンプル」と比べて通信容量が見直されている。
具体的には、「シンプル」のSプランは3GB、Mプランは15GB、Lプランは25GBだったが、「シンプル2」ではそれぞれ4GB、20GB、30GBに増量されている。いずれのプランもあまった分を翌月に繰り越せるほか、月額550円で容量を足すことができる「データ増量オプション」の適用も可能だ。
ワイモバイルの新しい料金プラン「シンプル2」。トラフィックの増大に合わせて通信容量が増えているが、基本料金も上がっている
「シンプル2」は、通信容量を増やしたいっぽうで、月額基本料金もアップしている。「シンプル」ではSプランは2,178円、Mプランは3,278円、Lプランは4,158円だったが、「シンプル2」ではそれぞれ2,365円、4,015円、5,115円(いずれも月額)に。それぞれ187円、737円、957円の値上げだ。
ただ、値上げ分の負担を減らすため、割引サービスの充実も図られているようだ。ひとつは「SoftBank光」「SoftBank Air」などとセットで契約すると適用される「おうち割 光セット(A)」の割引額が、M・Lプランでは月額1,650円に増額(Sプランは月額1,100円)されている。
そしてもうひとつは、新たに設けられた「PayPayカード割」で、これは自社系列のクレジットカード「PayPayカード」で通信料金を支払うことで月額187円割り引かれるというもの。「PayPayカード」を保有していない人は新たに契約する必要があるが、手数料がかからない通常の「PayPayカード」でも割引は適用されるので金銭的に負担はかからない。
「シンプル2」は料金が上がった分割引サービスが強化されており、「おうち割 光セット(A)」の強化に加え新たに「PayPayカード割」が追加されている
上記2つの割引を適用すると、Sプランは1,078円、Mプランは2,178円、Lプランは3,278円で利用できる。旧料金プランの「シンプル」ですべての割引を適用した場合(Sプランで990円、Mプランで2,090円、Lプランで2,970円)と比べるとSプランとMプランが88円、Lプランが308円の差にまで縮まる。
加えてMプランとLプランは、月あたりの通信量が1GB以下の場合にそれぞれ1,100円、2,200円の割引が受けられるのもポイント。この場合、Mプラン/LプランともにSプランと同じ1,078円になるので、使わなかった月はさらにお得だ。
「シンプル2」の基本料金と割引の仕組み(ソフトバンクのプレスリリースより)
また、オプションサービスに関しても、通話定額サービスの「だれとでも定額+」「スーパーだれとでも定額+」の月額料金がそれぞれ880円、1,980円と、「シンプル」向けの同オプションと比べて110円値上げされている。だが、こちらには従来オプションでの提供だった「留守番電話プラス」「割込通話」などがセットとなったことから、それらも利用していた人にとってはお得になったとも言える。
このほか、「シンプル2」では、ネットワークの公平性のため、高速データ通信量を使い切って通信速度制限がかかった後も通信をし続けると、いっそう厳しい通信速度制限がかかるなどの制約が加わっているようだ。
通話定額サービスも料金が110円値上げされているが、その分「留守番電話プラス」などがセットになっている
「シンプル2」は、全体的に見ると、料金がやや値上がりしたいっぽうで通信量が増量されるなど、お得感が高まったプラン内容になったと見ることができる。とはいえ、割引を一切適用しなければ料金が上がっていることは間違いないし、複雑さが増したとの声も聞かれる。もっとシンプルに安くできないのか? と思う人は多いだろうが、そこには携帯電話というサービスならではの難しさがある。
携帯電話会社は、みずからネットワークを整備してモバイル通信サービスを提供している。そのインフラを整備・維持するだけでなく、最近では3Gのサービスを終了させるいっぽうで5Gのネットワーク整備を進めるなど、ネットワークも常に新しいものに入れ替えていく必要があることから莫大なコストがかかる。それに加えて、各社は独自のショップを全国に展開し、販売だけでなくサポートも実施していることから、それを維持するにもやはり大きなコストがかかってしまう。
にもかかわらず安価なサービスを高品質で提供し、なおかつ通信容量を増やすとなれば料金を少しは上げざるを得ないのが正直なところだろう。ただ、消費者は値上げに敏感なだけに、少しでも安く提供するには何らかの形で割引をすることが求められるのだが、かつてのようにユーザーの契約を長期間“縛る”ことで料金を割り引くことは法律で禁止されている。
そこで携帯各社は昨今、自社系列のサービスを利用してもらうことを前提に携帯電話料金を割り引くことに力を入れている。
その象徴的な例が、自社系列のクレジットカードを使ってもらうことで適用される割引だ。系列のクレジットカードで支払ってもらうことで料金引き落とし時の手数料を抑えながら、クレジットカードの利用をうながして収益も増やそうというわけだ。UQ mobileであれば「au PAY カードお支払い割」、NTTドコモの「irumo」であれば「dカードお支払割」がそれに当たる。
自社系列のクレジットカードを使った「PayPayカード割」を新設したことからもわかるように、ワイモバイルの新料金プラン「シンプル2」の内容は、他社にならい、系列サービスの利用につなげることを強化したい狙いが透けて見える。そのため、ソフトバンク系列のサービスを利用すればお得になるが、そうでないとむしろ値上げになってしまうプランに変化したと見ることもできよう。
ワイモバイルだけでなく他社の料金プランも同じ傾向にあるだけに、通信料金を徹底して引き下げたいのであれば、普段利用しているクレジットカードなどのサービスを、可能な限り契約している携帯電話会社系列のものに合わせていく必要があることは覚えておくべきだ。
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。