スマホとおカネの気になるハナシ

知らない人は損をする? じわじわと進むスマホの事務手数料値上げの現実

多くの人が関係する、スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、通信キャリア各社で相次ぐ事務手数料値上げを取り上げる。端末価格や月額料金ほどの注目度ではないものの、負担増には変わりない。その詳細を解説しよう。

契約時やSIMの交換などの際に発生していたスマートフォンの回線事務手数料が今年になって相次いで値上げされた。※本記事中の価格は税込で統一している

契約時やSIMの交換などの際に発生していたスマートフォンの回線事務手数料が今年になって相次いで値上げされた。※本記事中の価格は税込で統一している

ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が事務手数料の値上げを実施

前回はワイモバイルの新料金プランについて触れたが、実は2023年は携帯電話料金だけでなく、それ以外の料金に関しても変化が起きている。それは「手数料」だ。

新規契約時や機種変更時に3,000円程度の「事務手数料」が徴収されるのが一般的だが、ここ最近値上げが相次いでいる。その契機となったのが2023年3月31日、KDDIが事務手数料の値上げを発表したことだ。

これまでKDDIはすべてのブランドで新規契約時に3,300円(「povo 2.0」は一定の条件を満たした場合のみ徴収)、「au」「UQ mobile」ブランドではそれに加えて機種変更時やSIMカードやeSIMの再発行に2,200円から3,300円の手数料をかけていた。だが、2023年4月20日からは手数料が一律で3,850円に値上げされたのである。

「au」および「UQ mobile」の事務手数料値上げの詳細

2023年4月20日に実施された「au」「UQ mobile」ブランドの事務手数料改定内容( KDDIのプレスリリースより)。新規契約や機種変更、SIMカードの再発行時などにかかっていた手数料が一律3,850円に値上げされている

2023年4月20日に実施された「au」「UQ mobile」ブランドの事務手数料改定内容( KDDIのプレスリリースより)。新規契約や機種変更、SIMカードの再発行時などにかかっていた手数料が一律3,850円に値上げされている

翌々月の2023年6月には、KDDIに続いてソフトバンクが、「ソフトバンク」「ワイモバイル」ブランドの店頭での事務手数料を一律3,850円に値上げ。さらに7月にはNTTドコモが、やはり店頭での手続き時における事務手数料を一律3,850円に値上げするなど、追従する動きが相次いだのだ。

NTTドコモの事務手数料値上げの詳細

NTTドコモのプレスリリースより。同社も2023年7月1日より店頭での手続きにおける各種事務手数料を一律3,850円に値上げしており、店頭での手数料を見れば各社ともに横並びとなった

NTTドコモのプレスリリースより。同社も2023年7月1日より店頭での手続きにおける各種事務手数料を一律3,850円に値上げしており、店頭での手数料を見れば各社ともに横並びとなった

手数料値上げはその後も続いており、特にその動きを強めているのがKDDIだ。同社は8月3日に、窓口での料金支払いや、書面での明細などを発行する際にかかる手数料を、12月よりそれぞれ110円ずつ値上げすると発表。それに加えて、支払期日を過ぎた料金をauショップなどで支払った場合にかかる「期日後料金支払手数料」を新設することも打ち出している。

8月に追加発表されたKDDIの手数料改定の詳細

KDDIのプレスリリースより。同社は窓口での支払い手続きや書面で明細書を発行する際の手数料を値上げしたのに加え、期日を過ぎた後に料金をauショップなどで支払った際にかかる「期日後料金支払手数料」を新設している

KDDIのプレスリリースより。同社は窓口での支払い手続きや書面で明細書を発行する際の手数料を値上げしたのに加え、期日を過ぎた後に料金をauショップなどで支払った際にかかる「期日後料金支払手数料」を新設している

また、これまで基本的に事務手数料がかからなかったオンライン専用ブランド「povo 2.0」に関しても動きがあり、従来無料措置が取られていたSIMカード再発行に関する事務手数料を、9月13日よりauやUQ mobileと同様に3,850円請求することが明らかにされている。

povoのWebサイトより。KDDIの「povo 2.0」でもこれまで無料措置が取られていたSIMカードの再発行などにかかる手数料が、2023年9月13日以降措置を終了して3,850円を徴収するとしている

povoのWebサイトより。KDDIの「povo 2.0」でもこれまで無料措置が取られていたSIMカードの再発行などにかかる手数料が、2023年9月13日以降措置を終了して3,850円を徴収するとしている

スタッフの負担や物価高騰など店舗負担の増大が大義名分

しかしなぜ、2023年に入って手数料を値上げする動きが相次いでいるのだろうか。各社の発表した内容を確認するに、大きく2つの要因を指摘できる。そのひとつが説明事項の増加だ。携帯電話サービスはサービス内容や割引や端末購入プログラムなど複雑な部分も多く、消費者がその内容をよくわからないまま、店員のすすめるままに契約したことで、契約後にトラブルが生じることが多かった。そこで総務省が携帯各社に説明の徹底を求めている。

これに加えて、サービスの複雑化によって説明する内容も増えたことも、対応に時間がかかる要素だ。そこで、現場スタッフにかかる負担の増加分を手数料の値上げで対処するというのが狙いだろう。

そしてもうひとつは「物価高や電気代の高騰」。電気代などの値上がりは携帯電話会社にも大きな影響を与えており、携帯電話ショップの運営に必要な部材や電気代の値上がりによって、ショップの運営に悪影響を与えるようになってきた。そこで電気代などの値上げ分を手数料の値上げでまかないたいという狙いが見える。NTTドコモやソフトバンクが手数料の値上げを店頭に限定し、オンラインでの手続きにかかる手数料に変更を加えていないことが、その傾向を示している。

KDDIの2023年3月期決算説明会資料より。363億円の支出増の内訳に燃料費高騰が含まれている。電気代の値上げが業績にマイナスの影響を与えていることが示されている

KDDIの2023年3月期決算説明会資料より。363億円の支出増の内訳に燃料費高騰が含まれている。電気代の値上げが業績にマイナスの影響を与えていることが示されている

物価・電気代高騰の直撃で値上げはしたいのが各社の本音

一連の手数料値上げには、それ以外にも要因があると筆者は見ている。それは政府の通信料引き下げ政策の影響だ。菅義偉前政権下で、政治主導により携帯電話料金引き下げが進められたことは多くの人がご存じかと思うが、政権が変わった現在も総務省は携帯電話料金に関して厳しい目を光らせており、値上げは容易ではない状況にある。

だが今や、物価高や電気代の高騰は携帯電話やそのグループの業績にも大きな影響を及ぼすようになってきている。にもかかわらず、政府が携帯電話料金に厳しい目を光らせている現状、値上げした電気代などをそのまま携帯電話料金に転嫁して値上げすることは難しい。

そこで携帯各社はここ最近、低価格のサブブランドを中心として、基本料金はやや値上げする分通信量を増やし、なおかつ割引サービスを手厚くすることで安価に利用できるよう料金プランを改定するケースが増えている。前回取り上げたワイモバイルの「シンプル2」はその代表例だろう

ワイモバイルの「シンプル2」は、基本料金が値上げされたいっぽうで、割引施策の充実が高まっており、すべて適用すれば従来と大きく変わらない料金で利用できる

ワイモバイルの「シンプル2」は、基本料金が値上げされたいっぽうで、割引施策の充実が高まっており、すべて適用すれば従来と大きく変わらない料金で利用できる

これら料金プランはベースの料金が上がっていることから「ステルス値上げではないか」との声も聞かれる。だが携帯各社にとっては、物価高で業績悪化が進行しているにもかかわらず大幅な値上げが難しい中にあって、適切な対価を得ながらも可能な限り料金を安く抑えているうえに、通信容量当たりのコスパで見ると、むしろ向上したことで批判をかわそうとしている。

手数料の値上げもこれと同様に、携帯電話料金に物価高の値上げ分を転嫁するのが難しいための苦肉の策と見ることができる。手数料値上げの対象を店舗での手続きや、紙を使った手続きなどに限定しているのも、対象者を限定して可能な限り消費者に与える影響を小さくしたいためだ。見方を変えれば、NTTドコモやソフトバンクのユーザーでオンライン手続きサービスを知っている・使える人であれば回避の余地がある、消費者の情報力が問われる値上げかもしれない。

手数料無料「ZERO宣言」を維持する楽天モバイルは耐えられるか

ここで気になるのが、事務手数料などがかからないことをセールスポイントのひとつにしている楽天モバイルだ。

楽天モバイルは以前より「ZERO宣言」を打ち出し、新規契約や機種変更、SIMの再発行などにかかる事務手数料を無料にしている。だが、当然のことながら楽天モバイルも、ほかの3社より少ないとはいえ基地局や店舗を多く保有していることから、電気代高騰などの影響は大きく受けているものと考えられる。

楽天モバイルは以前から「ZERO宣言」として、事務手数料などが無料であることをアピールしてきたが、電気代高騰などの影響は同社も受けていると考えられる

楽天モバイルは以前から「ZERO宣言」として、事務手数料などが無料であることをアピールしてきたが、電気代高騰などの影響は同社も受けていると考えられる

それに加えて親会社の楽天グループは、楽天モバイルの資金調達のため社債を発行しており、今後5年間で1.2兆円の社債償還、つまり借金を返すことが求められている。そこで楽天モバイルは、新料金プランの「Rakuten最強プラン」で縮小していたKDDIとのローミングをあえてフル活用し、インフラ整備にかかるコストを大幅に減らすなど収益改善の最中にある。

そんな状況の楽天モバイルだけに、手数料無料をどこまで維持できるのか、懸念はぬぐえない。2022年に月額0円から利用できる「Rakuten UN-LIMIT VI」を終了させたように、ZERO宣言を終了して手数料を徴収するよう戦略転換を図る可能性も十分考えられる。ただそうなれば、2023年8月28日に契約数500万を回復して復調の兆しのあるタイミングで、再び消費者から大きな反発を受けかねない。同社には慎重な判断が求められるところでもある。

佐野正弘

佐野正弘

福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。

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