ソニーが2023年9月1日に発表した小型ハイエンドスマホ「Xperia 5 V(エクスペリア・ファイブ・マークファイブ)」。その試作機を入手したので、いち早くレビューをお届けする。
人気シリーズ「Xperia 5 V」の最新モデル「Xperia 5 V」の試作機を使用し、実力に迫った
まず、「Xperia 5 V」に関する状況を解説しよう。
本機はソニーより2023年9月1日に発表されたが、現時点では、販路は「国内の通信事業者からも発売される」とだけ説明されているにとどまっている。現状分かっているのは、グローバルモデルをベースにしたハードウェアの情報のみで、価格もまだわからない。
今回使用した検証機は「XQ-DE44」というモデル名で、8GBのメモリーと256GBのストレージを備えている。貸し出しに際してSIMと一部のアプリの使用は不可という条件が課せられており、今回のレビューはそれに準じたものだ。なお、おサイフケータイ対応かつ初期の言語設定が日本語であることから、未発表の国内向けSIMフリーモデルの試作機と思われる。
ボディサイズは約68(幅)×154(高さ)×8.6(厚さ)mmで、重量は182g。前モデル「Xperia 5 IV」と比較すると、横幅は約1mm、厚さは約0.4mm大きく、重量は約10g重くなった。高さは約2mm小さい。
従来の「Xperia 5」シリーズは、「Xperia 1」をそのまま小さくしたようなデザインだったが、本機はデュアルカメラになったことで、カメラ部分が小さくなり、背面部分を見ると「Xperia」の特徴は薄まったように感じる。加えて、鋭角的な側面のデザインや上記の重量増もあって、感触の点からは重厚な印象が強くなった。
コンパクトだが重量感はしっかりとある。過去の「Xperia 5」シリーズよりも若干重めだ
手のひらと接触する側面部分は鋭角的なデザインで、ごつごつとした感触を与える
カメラ部分の出っ張りは比較的大きい。机などに置いた場合の安定感にはやや乏しい
ボタン配置は「Xperia」シリーズ共通でボディの左側面に集中している。指紋センサー内蔵の電源ボタンは、塗装されていない黒い樹脂製
注目したいのはカラーバリエーション。ブラック、プラチナシルバー、ブルーの3色で、プラチナシルバーとブルーは、流行の「くすみカラー」の要素を取り入れている。この点で、ボディの輝きを追求しがちな海外メーカーの製品とはデザインの方向性が異なると言えるだろう。
カラーバリエーションは、ブラック、プラチナシルバー、ブルーの3色。いずれも表面にマット処理が施されており、落ち着いた印象を受ける。近年の流行「くすみカラー」の要素を取り入れている
ディスプレイは従来同様の2520×1080のフルHD+表示対応の6.1インチ有機ELディスプレイ。リフレッシュレートは最高で120Hz、残像低減機能を使用した場合は240Hz、タッチサンプリングレートも240Hzのままで変更はない。変更されたのはHDR対応で、従来はHDR10対応のみだったのがHDR10+とHLGにも対応するようになった。
ディスプレイはシンプルだが、視界をさえぎるノッチがないためとても見やすい
サウンド機能も、ディスプレイの左右に対称に配置されたスピーカーや、ヘッドホン端子を備えるなど大筋では前モデルを踏まえている。アンプの容量を増やすことで、ボリュームを高めた際の高音や低音の音割れは減っており、音質は高められた。
スピーカーはボディ前面に左右対称に配置されているため、音の定位感が高いうえに、手でスピーカーをふさがないなどメリットが多い。こうしたスペックに現れにくい設計が「Xperia」のこだわりと言える
このように、外見のイメージは確かに変わったが、定評のあったディスプレイやサウンド性能はAVメーカーであるソニーのこだわりが変わらず息づいている。ハイエンドスマートフォンでは映像やサウンドの重視は当たり前ではあるが、あまたのライバルと比較しても「Xperia 5 V」は引き続きハイレベルな映像・音声の再生環境を実現していると言える。
今年のスマートフォンは、価格上昇を抑えるために、SoCを前モデルから据え置きにしているものが目立つ。そんな状況ではあるが、本機は最新のハイエンドSoCである「Snapdragon 8 Gen2」を搭載しており、最高レベルの基本性能を備えている。
「Snapdragon 8 Gen2」は、前世代である「Snapdragon 8 gen 1」と比較して、3割の性能向上を果たしつつ電力消費は抑えられており、これを搭載するスマートフォンは高性能かつバッテリーは長持ちするものが多い。
ベンチマークテストを行えないため、体感速度にとどまるが、アプリの起動速度は、手元にあった2世代ほど前の「Snapdragon 888」を搭載するスマートフォンよりも明らかに速かった。同SoCは、グラフィック性能も高いためゲーム用途としても力を発揮する。本機は、ディスプレイが120Hzのリフレッシュレートや240Hzのタッチサンプリングレートに対応しているため、ゲームにも適していると言えるだろう。
8GBというメモリーは実用に困ることはないが、大型のゲームアプリを複数並行して起動させるような場合にもたつきを感じた。検証機は256GBのストレージだったが、先日のメーカー発表にあった128GBのストレージでは、昨今のアプリの大型化を踏まえると不足を感じるかもしれず、大容量のmicroSDXCメモリーカードを併用したほうがよさそうだ。
プリインストールされるOSはAndroid 13で、バージョンアップの予定は明らかにされていない。だが、近ごろの「Xperia」シリーズは2回のOSバージョンアップを行っているものが多く、本機もそれに準じたものは期待してよさそうだ。
ただ、シャープの「AQUOS R8」シリーズでは3回、サムスンの「Galaxy」シリーズの一部モデルでは4回と、バージョンアップの予定回数を増やす傾向がある。「Xperia」シリーズもそうした業界の動向にならってほしいところではある。
メインカメラは前モデルから大きく変わった。約4800万画素の2層トランジスタ画素積層型CMOSイメージセンサー「Exmor T mobile」を使用する広角カメラ(35mm判換算の焦点距離は24mm)と、約1200万画素の超広角カメラ(同条件の焦点距離は16mm)のデュアルカメラ仕様だ。
この仕様は、「Xperia 1 V」から望遠カメラを削除したものと同等だ。従来機では搭載されていた望遠カメラは非搭載なので、広角カメラのデジタルズームを使用して同条件の焦点距離で48mmの望遠撮影を行うようになっている。
なお、広角カメラは通常時ではピクセルビニングを使用しており約1200万画素として動作する。フル性能となる4800万画素は、デジタルズームを使用した場合のみに使用。よって、実際の画素数は1200万画素のままで従来と変わりない。
「Xperia 5」シリーズの望遠カメラは、「Xperia 5 III」では70mmと105mmの切り替え式だったのが、「Xperia 5 IV」は60mmに、そして本機はデジタルズームの48mmと、モデルを経るごとに焦点距離が短くなっている。ただし、機能が低下しているとばかりも言えない部分がある。「Xperia 1 V」のAIを使った深度測定を流用しているため、オートフォーカスの性能で「Xperia 1 V」と同等まで強化されているのだ。
望遠カメラを廃止したデュアルカメラに変更された。望遠撮影は広角カメラのデジタルズームで代用している
カメラアプリでは16mm、24mmとともに、48mmの望遠撮影がプリセットされており、使い勝手はトリプルカメラと変わらない
以下に、静止画の作例を掲載しよう。
肉眼の印象に近い「Xperia」らしい画質だ、樹木や噴水のタイルのような周辺部分の解像感も高い
デジタルズーム特有のノイズが抑えられており、解像感も高い。レスポンスやオートフォーカスの性能も広角カメラに準じているのも使いやすい。ただし、望遠撮影としては焦点距離が短い
上と同じ構図を超広角カメラに切り替えて撮影した。さすがに全体的な解像感は低下するものの、広角カメラとの発色は似ている。荒れやすい周辺部も安定した画質だ
明るめの夜景を撮影。非常に鮮明で、舗装のタイルや遠景のコンクリートの質感も申し分ない。また、構図左隅のハイライト部分の飽和もぎりぎり抑えられている
夜景撮影でもデジタルズームのデメリットであるノイズや解像感の低下はほとんど感じられない。感度性能も高く、手ぶれもほとんど気にしなくてよいレベルだ
上と同じ構図を超広角カメラに切り替えて撮影。解像感が落ちるのは仕方ないとしても、四隅まで画質が維持されているのはやはりハイエンドならではだろう
AIが複数の花(サンタンカ)のどれにピントを合わせるか試してみたところ、構図左下の一番大きなものにピントを合わせた。強化されたボケ処理のため一眼カメラのような構図の立体感だ
上と類似する構図だが、中央の遠くに花(サンタンカ)を配置すると、中央にピントを合わせてくれる(2023年9月19日訂正:花の名前を「アジサイ」から「サンタンカ」に訂正、お詫び申し上げます。)
実際の使い勝手だが、注目のデジタルズームを使った焦点距離48mmの撮影は、夜景であっても画質面の不利は無視してよいレベルだ。デジタルズームなので焦点距離24mmの撮影と最短撮影距離が変わらず、レスポンスも速い。オートフォーカスも優秀で、広角カメラの強みをそのまま生かしている。望遠撮影としてみると48mmという焦点距離は物足りなさを感じるが、そのデメリットを上回る使い勝手を備えていると言えるだろう。
ソフトウェアの点では、新しい動画編集アプリ「Video Creator」に注目だ。
これは、スマホ内に保存されている動画・静止画、BGMを選び、出力する動画の尺を選ぶだけで、BGMのリズムに合わせたショート動画を手早く作成できるというもの。手動で、カット・字幕の追加や、色調の調整も行える。なお、シンクロに対応するBGMは、プリインストールされる12種類のみだが、外部の音源も利用できる。
タッチ操作でも苦になりにくい画面デザインなうえに、処理にかかる時間も短め。近ごろは動画コンテンツの人気が高いが、作るには撮影や編集のスキルも必要で苦手意識のある人も少なくないだろう。だが「Video Creator」は、コマ切れ撮影の動画であっても、アプリ任せで雰囲気のある動画が作れる。多くの人に「これなら使えそう」と思わせてくれる敷居の低さがある。
基本的な操作は、使用する動画あるいは静止画とBGMを選んで「Auto Edit」のボタンを押すだけ(左画面)。できあがった動画に字幕やフィルターといった追加編集も可能だ
バッテリー周辺を見てみよう。内蔵バッテリーは前モデルと同じ5000mAhだ。まだバッテリー持ちに関する指標は公表されていないが、ソニーはインターネット閲覧・動画閲覧・ゲーム・そのほかの機能を1日あたり360分利用、1080分の待機した場合において、約55%のバッテリー残量を維持するとしている。
なお、同じ条件における「Xperia 5 IV」のバッテリー残量は約43〜44%なので、2割ほどバッテリー性能が上がったことになる。実際、今回の検証機はSIMカードを使わないWi-Fi運用という制約だが、待ち受け状態なら24時間で6%ほどのバッテリー消費で済んだし、1日に3時間以上カメラやゲームで酷使しても、3日(72時間以上)はバッテリーが持続した。バッテリーが長持ちするハイエンドスマホという特徴は本機でも期待してよさそうだ。
評判のよい「Snapdragon 8 Gen2」を搭載した「Xperia 5 V」に期待している人は少なくないだろう。検証機でも体感速度、バッテリー持ち、発熱の少なさなどその期待に応えるだけの実力は感じられた。
望遠カメラが廃止されたことが気になったが、新開発の高性能な広角カメラを使ったデジタルズームなので、画質はもちろんオートフォーカスやレスポンスも良好で、スマホカメラとして使いやすい。倍率が広角カメラ比で2倍の48mmにとどまっているので望遠としては物足りない部分はあるが、それを補う魅力も存在する。「Xperia 5」シリーズの魅力であるバッテリー持ちもさらに高められている点も見逃せないところだ。
まだ価格も販路もわからない状況ではあるが、売り出し価格が前モデル「Xperia 5 IV」と同レベルの12〜14万円程度なら、高評価の「Xperia 1 V」には手が出ないという人にとって待望の1台になりそうだ。通信事業者などの続報が待ち遠しい期待の1台である。
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