家で過ごす時間が増え、自宅でコーヒーを楽しむ機会が増えたという人も多いのではないだろうか。そんな中、デザイン性の高い家電製品を数多く展開するバルミューダから、同社初となるコーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」が登場。従来のコーヒーメーカーとは異なる機構や抽出方法を採用し、クリアでストロングな味わいを実現したという本製品の実力を、コーヒー好きの筆者が確かめてみた!
サイズは140(幅)×297(奥行)×379(高さ)mm。直線と曲線を絶妙なバランスで組み合わせた美しいデザインは、さすがバルミューダと言える仕上がり。キッチンにポンと置くだけで、その空間がより洗練された印象になる
「BALMUDA The Brew」は、ミル機能を搭載しないドリップタイプのコーヒーメーカー。水タンク、ドリッパー、サーバーを備えた構造は、一般的なドリップタイプのコーヒーメーカーと同じだが、BALMUDA The Brewにはドリッパーを経由せず、サーバーに直接つながる注湯口が設けられている。この第2の注湯口を使った「バイパス注湯」と、従来のコーヒーメーカーにはないレベルの緻密な温度制御や正確なドリップを組み合わせた独自の抽出方法「Clear Brewing Method(クリア ブリューイング メソッド)」で淹れるのが本製品の特徴だ。
水を入れるタンク、コーヒー粉をセットするドリッパー、そして抽出したコーヒーを溜めるサーバーという構造は一般的なドリップ式コーヒーメーカーと変わらない
通常はドリッパーにお湯が降り注ぐ注湯口があるだけだが、BALMUDA The Brewにはサーバーにつながる注湯口も備えた独特な機構となっている
一般的なドリップタイプのコーヒーメーカーの抽出方法は、適温に加熱されたお湯がドリッパー(コーヒー粉)に降り注ぐ工程から始まるのに対し、BALMUDA The Brewは、まず、「バイパス注湯」でサーバーに高温のスチームを吹き込む。事前にサーバーを温め、抽出したコーヒーの温度が下がらないようにするためだ。その後、通常の注湯口からお湯が降り注ぎ、一般的なコーヒーメーカー同様に、コーヒー粉を蒸らしてからドリップ(間欠的な注湯)が行われるのだが、BALMUDA The Brewは、それぞれの工程でお湯の温度を調整しているのがポイント。お湯の温度は抽出モードや室温により異なるが、標準的な「REGULAR」モードの場合、最初のバイパス注湯のスチームは100℃、コーヒー粉を蒸らすためのお湯は93℃、そしてドリップ中は徐々にお湯の温度を下げていくプログラムとなっている。さらに、ドリップを0.2mlという少量で間欠的に細かく続けるのもこだわりだ。
「REGULAR」モードでコーヒーを抽出する工程。ドリップ時にはお湯の温度を下げていくことで、コーヒーの酸味、苦味、甘み、コクといったおいしさを引き出していくのだそう
また、上の図(「Clear Brewing Method」の抽出方)の最後にある「仕上げ」も、BALMUDA The Brewならではの工程。「REGULAR」モードで抽出する時にのみ実行される工程で、ドリップを止めたあとにバイパス注湯でサーバーにお湯を追加し、サーバーに溜まったコーヒーをお湯で飲みやすい濃度に調整して仕上げるのだ。バルミューダによると、抽出時間の経過にともなって雑味やエグ味が溶け出すため、最後までドリッパーを経由して抽出するとコーヒーのおいしさである香りやコクが雑味などに負けてしまうのだそう。そこで、BALMUDA The Brewの「REGULAR」モードではコーヒーを濃いめに抽出し、雑味などが出る前に抽出をストップ。最後にお湯を加えることより、力強い味わいとクリアな後味を両立したという。
抽出工程の温度にこだわるBALMUDA The Brewのサーバーは、保温性のある真空二重構造のステンレス製。サーバーをヒーターで加熱しなくていいので、抽出したコーヒーが煮詰まり、味が変化する心配もない
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さっそく、BALMUDA The Brewでコーヒーを淹れてみよう。抽出モードは「REGULAR」「STRONG」「ICED」の3つのモードが用意されているが、まずは、もっともスタンダードな「REGULAR」モードの味わいをチェックする。なお、前述のとおり、抽出では細やかな温度制御やドリップが行われるが、それはコーヒーメーカーが自動でやってくれること。人の手で行わなければならない手順は、一般的なドリップタイプのコーヒーメーカーと何ら変わらない。
ドリッパーに、ペーパーフィルターと中挽き〜中細挽きのコーヒー粉をセット(今回は中挽きを使用)。カップ1〜3杯分を1度に抽出できるので、今回は2杯分淹れてみる。2杯分に必要なコーヒー粉は20〜28g(メーカー推奨)。なお、今回使用するコーヒー粉は、カルディコーヒーファーム「スペシャルブレンド」をミルしたもの。200gで価格507円(税込)なので、さほど高価なコーヒー豆というわけではない
使用するペーパーフィルターは、BALMUDA The Brew用の「コーヒーペーパーフィルター(OPF-100)」(100枚セットで価格は660円/税込)。もちろん、市販の1~4杯用の円錐型ペーパーフィルターも使える
ちなみに、ドリッパーの形状が一般的な台形型ではなく、円錐型とされたのもポイント。豆の成分を引き出しやすく、雑味が出にくいことから円錐型を採用したとのこと。ただし、台形型より穴が大きく、お湯が通過しやすいため、お湯の注ぎ方や量の調節は難しいのだそう
コーヒー粉をセットしたドリッパーは、本体正面から差し込み、90°スライドさせるように回してカチッと固定させる。この操作感が、実にいい。ちょっとした所作を気持ちよく行えるところにも、バルミューダのこだわりが感じられる
水タンクも取り外しできるので、水が入れやすい。淹れたいコーヒーの杯数に該当する目盛りどおりに、水を入れよう
電源を入れ、抽出モードを「REGULAR」、杯数を「2」に設定し、「START」ボタンを押す
運転が始まると、最初にバイパス注湯用の注湯口からサーバーに高温スチームが放出される。「プシュー」という音が立ち、その際の運転音は74.3dB(筆者計測)だったが、間欠的に放出されるうえ、50秒ほどで終わるので、実環境ではそれほど気にはならないだろう
高温スチームでサーバー内を温めたら、通常の注湯口からお湯が出てコーヒー粉に降り注がれる。25〜40秒ほどかけてコーヒー粉を蒸らしたあと、間欠的な注湯でドリップがスタート。0.2ml単位で注湯すると記されているとおり、かなり少量のお湯でゆっくりドリップされる(下の動画参照)
BALMUDA The Brewはドリッパーの上が開けたオープンドリップ構造になっているので、ドリップの様子を眺めたり、抽出中にコーヒーの香りが堪能できる。一般的なドリップタイプのコーヒーメーカーはドリッパーの上部分がフタで覆われていることが大半なため、ここまでドリッパー内が見えるのはめずらしい。ちなみに、上の動画に振り子時計の音が入っているが、筆者宅にある時計の音ではない。BALMUDA The Brewは運転中、古時計の振り子の音をイメージした音が流れるようになっているのだ。
最後に、バイパス注湯でサーバーにお湯が追加されたら抽出終了。「REGULAR」モード2杯分は約4分53秒で淹れられた
抽出されたコーヒーの量は約240ml。水タンクには340mlの水を入れたので、サーバーを温めるスチームで使用される水量とドリッパーのコーヒー粉に含まれて残る水量で100mlくらい減ってしまったようだ
「REGULAR」モードで淹れたコーヒーは、カルディコーヒーファーム「スペシャルブレンド」の特徴でもある、しっかりしたコクとバランスのよさをしっかり感じられる仕上がりだった。表面にはコーヒー豆の油分が浮いており、豆本来の成分が十分に抽出されていることがわかる。それでいて後味には雑味がまったくなく、非常にクリアな印象。文句なしの味わいだ
なお、抽出が完了した直後のサーバー内のコーヒーの温度を計ってみると85.6℃。コーヒーの理想的な温度は85〜90℃前後とされているので、最適な温度で抽出されていることがわかる
ただ、保温性のあるサーバーということだが、10分経つとコーヒーの温度は74.4℃になった。いわゆる魔法瓶構造の場合、抽出したコーヒーを長時間保温しておけるイメージがあるが、取扱説明書によると、サーバーに長時間コーヒーを入れて保温することは推奨されていない。抽出したら、飲み切るのが前提のようだ。とはいえ、抽出してから10〜15分くらいなら十分飲みごろの温度が保たれるようなので、それほど慌てなくても大丈夫だ
ここまで「REGULAR」モードの淹れ方とそのコーヒーの味わいについて紹介したが、ここからは残り2つの抽出モードについて解説する。まずは、「STRONG」モード。コーヒー豆の成分を凝縮したフルボディのコーヒーが味わえるモードで、「REGULAR」モードと使用するコーヒー粉や水の量は同じだが、最後にお湯を入れて薄める「仕上げ」工程がない抽出方法となる。もちろん、お湯で薄めないから濃いという単純な仕組みではなく、各過程のお湯の温度は「STRONG」モード用に調節されているので、濃く抽出しながら雑味などは出ないという。
「STRONG」モードで淹れたコーヒーは力強く、コーヒー豆の個性をダイレクトに味わえる印象。かなりパンチのある濃さだが、後味は驚くほどスッキリとしている。甘めのスイーツを食べる時に飲みたい1杯だ
「ICED」モードは、「REGULAR」モードよりも多めのコーヒー粉と少なめの水で抽出し、最後に氷を入れて仕上げる。必然的に濃いめに抽出されるだけでなく、ドリップ時の注湯の間隔も変えているという。もちろん、蒸らし、ドリップ過程のお湯の温度も「ICED」モード用に調節されている。
「ICED」モードで淹れる際は、「ICED」用の目盛りに合わせて水を入れる。「REGULAR」モードで2杯分を抽出する時に使用する水が約340mlなのに対し、「ICED」モードは約270ml。コーヒー粉は2杯分が24〜32gとなる(「REGULAR」モードは20〜28g)
抽出完了後、サーバーにカップ1杯あたり45g(角氷3〜4個程度)の氷を入れたら完成。氷を入れたグラスにコーヒーを注いで味わってみると、キリッとエッジが効いている。先に試した「REGULAR」モードや「STRONG」モード同様に、クリアな後味。氷を入れても、しっかりとしたボディ感があるので、ミルクを追加してアイスオレを楽しむのもよさそうだ
BALMUDA The Brewは、バルミューダらしい美しいデザインもさることながら、おいしいコーヒーを淹れるために採用された独自の機構と抽出方法が、非常に興味をそそられる。最初にスチームを使ってサーバーを温めたり、ドリップ中のお湯の温度を細かく変えたり、「REGULAR」モードではバイパス注湯という加水をして仕上げるなど、一般的なドリップタイプのコーヒーメーカーにはない手法が満載だ。コーヒーは淹れ方や温度がちょっと違うだけで、香りや味が変わるもの。BALMUDA The Brewで淹れたコーヒーは、緻密な温度や注湯の制御が、きちんとおいしさに結びついている。ドリップ式のメリットである、準備や後片付けの手軽さは保持しつつ、ワンランク上のコーヒーが味わえるコーヒーメーカーであると言えるだろう。
また、オープンドリップ構造で抽出の様子をみられるのも楽しい。コーヒー粉がお湯を含んでふくらみ、注湯され仕上がっていく過程を見つめている時の高揚感は、バリスタがコーヒーをドリップしてくれているのを見ている時と同じような感覚だ。メーカー希望小売価格は59,400円(税込)と決して安くはないが、BALMUDA The Brewのように、コーヒーを淹れる行為を“作業”ではなく、心躍る体験にしてくれるコーヒーメーカーというのはなかなかないのではないだろうか。
編プロでの広告制作、雑誌編集を経てフリーライター/エディターに。家電をはじめ、自動車、ファッション、ビジネス関連など幅広い分野で活動。86年、秋田県出身。「大曲の花火」とグミをこよなく愛する。