実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト

アメリカ軍も認めるタフさ! 62Lのバックパックが小型パックにも変身するミステリーランチ「スタイン62」

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アウトドアギア、特に山岳用のものは、正しいものを選び、正しく使わなければ生死にかかわる事態すら発生しかねないという、非常に重要な装備だ。

悪天候時には体が飛ばされそうなほど強烈な風雨を避けられるか? ひとつのミスで数百メートルも滑落するような険しい岩の上でも無事に先へと進めるか? マイナス要素を可能な限り排除すべく、山の道具には最先端の素材や最新技術が惜しげもなく使われる。しかも日帰りではなく、テント泊装備ともなれば、行動中や停滞時に身にまとう「衣」の要素、山中でのエネルギーを補給する「食」の要素、夜を過ごすための「住」の要素という「衣食住」のすべてが必要だ。

こうなると、日常生活で必要なものと何も変わらない。違いがあるとすれば、野外でも使える耐久性があり、自分で運べるほど軽量であることであろう。それはレインウェア、クッカー、バーナー、テント、寝袋といったものであり、さらにそれらを運ぶためのバックパックやブーツも加わってくる。過酷な状況に対応しつつ、これほど多岐にわたる道具が必要な分野は、ほかにはもはやミリタリ−くらいしかない。次から次へと先端素材や最新技術を投入していくという点も同様である……。

山道具の持つ意味を堅苦しく表現すれば、このようになるだろう。しかし「生死」うんぬんは大げさだとしても、自分に合う道具をしっかり選べば、山中での活動が俄然スムーズになる。せっかくの山歩き、できるだけラクに、快適に過ごしたいではないか。

この新連載「実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト」では、注目すべき山道具を毎回ピックアップし、山中でテストしていく。そして、そのモノ自体の使い勝手のよさを確認しつつ、他モデルをチェックする際にも役立つ「視点」をお見せしていきたい。

栄えある初回に紹介するのは、ミステリーランチのバックパック「スタイン62」である。

カタログ値の容量よりも収納できる秘密は「ポケット」

ミステリーランチは、アメリカはモンタナ州ボーズマンに本拠地を置くバックパックメーカー。このブランド自体の立ち上げは2000年だが、創始者のデイナ・グリーソンは、それ以前に「デイナ・デザイン」という伝説的なブランドを手がけていたバックパック界の大御所である。

ミステリーランチの誇りは「タフであること」。事実、同ブランドの製品は過酷極まるシチュエーションで使われることが想定されるアメリカ軍やレスキューチーム、消防隊などに採用されており、この頑強であるという点は山岳用途の「マウンテンライン」でも同様だ。

今期の新作であるスタイン62は、容量62Lの大型モデルで、縦に長いシルエットを持つ。このモデルの特徴のひとつは、ユニークなポケット類の形状と、その数の多さだ。ミステリーランチのバックパックはカタログ表記の容量よりも実際にはもっと大きい、つまり容量以上にモノを収納できるといわれることがある。それには僕も同意見で、個人的な見解でいえば、おそらくこれらのポケットの容量が計算に入っていないからではないかと思うのだが……。

ミステリーランチ「スタイン62」

ミステリーランチ「スタイン62」

リッド(雨蓋)のポケットは2つに分かれ、どちらもかなりの容量。体に近いほうに水などの重いものを入れ、遠いほうに行動食などの軽いものを入れると重心が体に近くなり、背負いやすくなるはずだ

フロントには縦に長いファスナーが、左右に2本。どちらも巨大なポケットの入れ口になっているが、内部でつながっているわけではなく、荷物を小分けできる。僕はいっぽうにレインウェアのジャケットとグローブ、もういっぽうにレインパンツとゲイター(スパッツ)を入れておいた

サイドのポケットは、密が細かいメッシュ地となっている。伸縮力がとても高いうえに深さもあり、内部のものを落としにくい。そこに付けられたストラップはポケットの外側にも内側にもまわすことができ、ギア類のキープ力を向上させている

外部のファスナーはポケット部分だけについているとは限らない。荷物の出し入れを簡単にするための開口部としてボトムやサイドにも取り付けられており、使い勝手をアップするのに貢献している。

ボトム部分のバックルを外すと、その下にファスナーが現われる。これは、開口部を大きくするために本体の幅以上に長いファスナーを取り付け、荷物を取り出しやすくするための工夫だ。反対に、収納時はバックルを留めてからパッキングを進めたほうが、きれいに収まる

ボトムのファスナーを開き、一部の荷物を取り出した状況。内部は仕切りのパネルで、いわゆる二気室構造となり、荷物を上下に入れ分けることが可能だ。また、荷物が少ない時はこのパネルによって荷物を上にまとめると重心が上がり、疲れが減らせる。このパネルは脱着自在で、パッキングの効率だけを考えれば、外したままのほうが荷物を隙間なく詰め込むことができる

サイドにも長いファスナーがあり、この部分からも荷物を取り出し可能。スタイン62の外部から見える部分のファスナーはすべて止水タイプで、内部への雨水の浸透を最低限にとどめてくれる

無段階で背面長を調整できる「フューチュラヨークシステム」

ここまではポケットを中心とする表側のデザインを見てきたが、実はミステリーランチの製品を特徴づける大きなポイントは、むしろ裏側。背中、肩、腰を中心に、体へほどよくフィットさせるための独自の工夫が施されている。

パッドのみで構成されているかのような背面とウェストは、一見シンプル。だが、いくつもの独自技術が投入されている

バックパックの荷室の内部。左右の黒い線はカーボンのフレームで、超軽量だ。従来は自重がかさむといわれていたミステリーランチのバックパックだが、スタイン62は2.1s(サイズM)と、同容量の他ブランドのモデルにも引けをとらない軽さだ

ウェストのハーネスは2重構造。パッドの上に硬いパネルを重ねるシステムで、バックルが付いたストラップを締めると腰の曲線にパッドがきれいに沿い、過不足なくフィットする

お尻の上で腰に当たるパッドは平面的で面積が狭く、滑りがよい。そのため、慎重にストラップでフィット感を調整しなければ、歩行中に腰の裏で左右にズレてくることがあった。ただし、ストラップを左右均一に締めればそれほど気にならない

スタイン62のみならず、ミステリーランチの多くのモデルには同社独自の「フューチュラヨークシステム」が採用されている。バックパック本体とハーネスの連動をシステム化し、無段階で背面長を調整して荷重を背中全体に分散するという画期的な工夫だ。もともとスタイン62のサイズは、身長などの体形に合わせてS、M、Lの3つから選べるが、そのうえで、フューチュラヨークシステムを中心にフィット感を微調整していくわけである。

わずかに湾曲した黒い樹脂製パーツは「フレームシート」。フレームシートはバックパックを背負っている時に、ちょうど背中から肩のラインに沿う場所に格納され、この曲線によって背面パッドを体にフィットさせる。また、背面長の調節の際は、ベルクロを引きはがすための板として利用される(使用方法は下の写真を参照)

ハーネスと背面パッドが一緒になったパーツには大きなベルクロが付き(ミステリーランチでは、これを「ヨーク」と呼称)、同様にスリット部分にベルクロが張られたバックパック本体と固着されると、少々の力では外れなくなる。だが、張り合わされた2枚のベルクロの間にフレームシートを押し込めば、ヨークがフリーになって引きはがせる。これにより、背面長の調整が無段階で可能になるわけだ

背面の中央にあるラインの上は可動するヨークで、その下部はスリット状になったバックパック本体の隙間に押し入れられている。つまり、ラインより上の部分の長さによって背面長が変わるということだ。ちなみに、ラインの上下で平行に見えないのは、メッシュ生地が無用に斜めにズレて縫製されているため。工場生産品でもこのような「個体差」が出るのは仕方ないのかもしれないが、調整の妨げにつながる「目の錯覚」を引き起こすので、改善を望みたい

このようなフューチュラヨークシステムとウェストハーネスとの連動で、よほど極端な体形の人でなければ、スタイン62は多くの人の体へフィットする。僕は以前からいくつかのミステリーランチのモデルを使ってきたが、微調整が理想的にできた時の背負い心地は、快適のひとこと。実は完璧なフィッティングができなくてもそれなりに背負えてしまうのがミステリーランチの長所でもあるのだが、やはり何度でも調整して、使う人のとってのベストフィッティングを探してほしい。

左は背面長の調整を終えつつも、その他のストラップを引いていない状態。その後、各部のストラップを締めていくと、右のような姿に。このようにフィッティングを終えると、背面とウェストのパッドが体になじみ、荷物が本来の重量よりも軽く感じられる

大型バックパックが小型パックに変身!

本体から「外せる」というフューチュラヨークシステムの特徴を生かし、スタイン62には面白い工夫がプラスされている。なんと、雨蓋部分にヨークを組み合わせることで、本格的な小型バックパックとして使用できるのだ。

左が雨蓋、中央がヨーク、右がヨークを外したバックパック本体。ヨークをバックパック本体に合わせれば本来の大型バックパックになり、ヨークと雨蓋を組み合わせれば小型バックパックになる。非常に面白い工夫だ

実際に、ヨークを雨蓋に組み合わせてみよう。雨蓋の裏のスリットにヨークのパッドの末端を差し入れ、その後、各部のストラップをバックルに通す。すると、スタイン62の一部のパーツだけで、完璧なバックパネルを持つ小型バックパックが生まれる

これまでにも雨蓋部分にストラップなどを加え、背負えるようにしたモデルはいくつもあった。しかし、これほど完成度が高い工夫は見たことがない。モノ好きの方の心にはぐっさりと突き刺さるギミックだろうが、実際の背負いやすさも確かなのである。

まるで、もともとそういう製品であったかのような小型パックに変身。さすが本来は大型バックパックのショルダーハーネスだけあり、ウェストハーネスで荷重を腰に分散しなくても、荷重で肩に食い込むことがない

山行を終えて

すぐれたフィッティング能力を持つスタイン62は多くの登山者の背中になじむことだろう。各部のポケットも使いやすく、荷物の出し入れも容易だ。雨蓋が小型バックパックになる工夫もいい。

大容量のわりに2.1sという重量も悪くはない。ただ、今回の1泊2日のテスト山行だけでは、ミステリーランチらしい「頑強さ」「耐久性」までは把握できなかったので、そのあたりは今後も使い続けるつもりの僕の課題である。

むしろ問題かもしれないと思うのは、多くの人には容量が大きすぎるのではないか、ということだ。容量62L、しかもポケットを含めれば実際にはもっと収納できるというサイズ感は、日帰りや小屋泊の登山者ではなく、テント泊を想定しているはず。だが日本の一般的な登山者は、山中に泊まれても多くは1〜2泊。その場合、持参する食材が少なく、無雪期ならば50L程度で十分に間に合うだろう。62Lでは荷物を入れるスペースに余裕がありすぎ、自重だけが増えてしまって無駄に感じる。簡単に言えば、「スタイン50」というモデルがあれば、日本人にはもっと使い勝手がよさそうだ。

だがバックパックは、ある程度まで「大は小を兼ねる」。荷物が少なくてもパッキングに気をつければ、背負い心地は大きく変わらない。真夏にしか山でテント泊をしない人は、もっと容量が少ないバックパックを選ぶほうがよいとは思う。しかし着替えや寝袋の厚みが増し、荷物のかさが増えてしまう秋や春にもテント泊山行を行うならば、スタイン62の大きさは重宝しそうである。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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2017.6.21 更新
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