実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
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細部にわたる工夫が見事!使いこなすのがおもしろいバックパック、マックパック「フィヨルド 40」

山中での行動に必要な装備をすべて収めるバックパック。一般的な登山からクライミング、トレイルランニングなど用途に対するバリエーションが非常に豊富で、サイズ展開も容量10Lに満たない超小型から100Lを越える超大型まで揃い、さまざまな方向に進化を遂げている。まさに山道具の基本中の基本ともいえる存在だ。

今回ピックアップしたのは、ニュージーランドのメーカー、マックパックの新作「フィヨルド 40」。名称に「40」という数字がついているが、フィヨルド 40には体型に合わせた2つのサイズがあり、適応身長の目安152〜178cmの「サイズ2」が容量40L、173〜193cmの「サイズ3」が容量43Lとなっている。つまり、「サイズ3」を選ぶとフィヨルド 40という名称ながら、容量が少し大きく、それだけモノが入るというわけだ。

ワンアクションで容量を圧縮できる便利な機構

さて、一般的には“中型”バックパックとカテゴライズされる容量40L前後のバックパックは、どのようなシチュエーションに向いているのか? これが意外と難しい。日帰り山行にはあきらかに大きすぎ、食事と寝具が提供される山小屋泊でも余裕がありすぎる。しかし、衣食住のすべてを持たねばならないテント泊には少し足りないのである。

マックパック社の本国ニュージーランドでは、数日かけて荒野を駆け巡る本格的なアドベンチャーレースが盛んだ。実は、フィヨルド 40は荷物の軽量性が重視される状況でも使いやすいように開発されたモデルで、そう考えれば装備を極力減らせばテント泊でも道具が収められるサイズ感なのである。もちろん寒い時期は小屋泊でも防寒着などで荷物が増えるため、テント泊に限らず活用できる。また、バックパックというものは「大は小を兼ねる」面を持っており、フィヨルド 40は使い方次第では日帰り山行でも使えないことはないとも言えるのだ。

上品なグレーを基調としたフィヨルド 40。ストラップなどをオレンジにし、デザイン上のアクセントにしている。オレンジは視認性が高く、薄暗い時もパッキングしやすくなるという効果も持っている

フィヨルド 40の特徴は、サイドの「ZigZagサイドコンプレッション」という独自のシステムに如実に表れている。これは文字通り、ジグザグに取り付けられたドローコードにより、ワンアクションで簡単にバックパックをコンプレッションできるようにしたもの。似たような工夫を持つバックパックは以前にもなかったわけではないが、これだけシンプルでいて使いやすいものは初めてかもしれない。

荷物をいっぱいに入れた状態。バックパックのサイドにはM字にもW字にも見えるジグザグのコードが付けられている。その中央にあるのはコードの引き手だ

コードの両端は固定されており、引き手の根元にはコードストッパーが付属。そのため、片手で引っ張るだけですみやかなコンプレッションができ、サイド部分の厚みが減少する

コード下部の末端は、サイドポケットの内部にもおよんでいる。コードの存在を無視して、そのままポケットを使用してもよいが、写真のようにコードを上にかけるようにすると確実に固定できる

「ZigZagサイドコンプレッション」を最大限に活用すれば、サイドから見た時の厚みは7〜8cm程度少なくなる。計測したわけではないが、これによりバックパックの容量は40Lから30L以下に減少していることだろう。こうなると、もはや小型パックだ。それでいてハーネスや背面パッドは本来の小型バックパックよりしっかりとした中型のものなのである。背後から見た大きさと背負い心地は変わらないが、容量だけは減らすことができ、まさに「大は小を兼ね」ている。こうすれば日帰り山行にも難なく使えるだろう。

フィット感と使いやすさを高める数々の工夫

とはいえ、わざわざコンプレッションしてバックパックの厚みを減らさなくても、荷物が少ない場合は底にまとめて入れればいいと思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、体に負担を与えずに荷物を背負うためには、荷物の重心を上にあげつつ、背中全体に荷重を分散させることが重要だ。また、荷物が背中から離れた場所にあると重心も後ろに移動してしまい、行動中に体が左右にブレて疲れやすく、すみやかに前方へ歩くこともできなくなってしまうのである。

そこでフィヨルド 40は「ZigZagサイドコンプレッション」に加え、ボトム部分も前へ引き絞れるシステムのストラップを取り入れている。他の一般的な大型〜中型バックパックにも同じようなストラップが付属しているが、その大半はバックパックの背中に近い位置に付けられ、荷物が左右にブレないようにする効果はあるものの、コンプレッションにはあまり役立たない。だが、フィヨルド 40のストラップが縫い付けられているのは、背中からもっとも離れたバックパックの外側。そのため、荷物が左右に揺れるのを抑えながら、コンプレッションにも役立つのだ。

オレンジ色のストラップを引くと、バックパックのいちばん外側からボトム部分が体に寄っていく。引き絞りすぎるとサイドポケットが狭くなるというデメリットもあるが、荷物を安定させて背負うためにはよいアイデアだ

ヒップハーネスにもひと工夫。太いベルト状のもので単純に締めるのではなく、細身のストラップを上下2列にわけることでフィット感を向上しているのだ。これによりバックルも小型で済み、腹部への違和感も少ない

各ストラップの末端にはベルクロのテープが付属し、ストラップを巻いて固定できる。ストラップを長いまま垂れさせておくと、風によってムチのように体を叩いたり、地面に置いた時に踏んでしまったりとじゃまになるので、このような配慮はうれしい

これらのディテールの仕掛けは、さすがアドベンチャーレースで得たノウハウをつぎ込んだバックパックならではだ。しっかりとコンプレッションすることで内部での荷物の移動を抑え、重心を高く保てば体の疲れを予防でき、行動のスピードアップにもつながる。そんな工夫に加え、発汗量が多いレースにも向いたモデルゆえ、背面の通気性もよく考えられている。

背面の素材は速乾性が高いメッシュ。その下には、波を打たせることで風の通りをよくしたフォーム材のパッドが収められている。後述するが、このパッドは取り外すこともできる

次に、バックパック本体部分以外の収納性を見てみよう。フィヨルド 40にはトレッキングポールの取り付けをはじめ、いくつものアイデアが盛り込まれ、いずれも使いやすさをアップさせるのに貢献している。

「ZigZagサイドコンプレッション」の下部の末端(写真の左下)はループ状になっており、トレッキングポールの先を差し込める。さらに、バックパック上部のループを連動させれば、しっかりとポールを固定できる。この時、写真のようにポールを片側に2本まとめることもできるが、両サイドに1本ずつ固定したほうが重量バランスはいい

フロントには大型のメッシュポケットがあり、脱いだウェアなどを収納可能。その上には、さらに伸縮性が高いバンジーコードも装備されており、さまざまな荷物を取り付けられる

リッドのメインポケット自体はそれほど大きくはないが、その裏側にもメッシュのポケットがある。内部に入れたものがかすかに透けて見えるのが便利だ

ヒップハーネスの上にあるポケットは見た目以上の収納力があり、行動食などを入れるのに便利。僕が持っていった薄手のウインドジャケットまで押し込んでしまえたのにはおどろいた

2〜3泊のテント泊用の装備を背負い、山を歩いてみた

細部の確認を済ませ、実際に山中を歩き始める。2〜3泊のテント泊用として準備した荷物は合計12〜13kgほど。軽量でいてコンパクトな最新の装備、しかも防寒着や寝袋が薄手で済む夏場と想定すれば、容量40Lのバックパックでもテント泊装備が十分に収められた。とはいえ、従来のかさばる装備が中心の人や、パッキングの技術がそれほど高くない人は、40Lでは入らないだろう。フィヨルド 40をテント泊に使うためには、それなりの道具や技術が必要なのである。

今回はテストがメインのため、荷物の重さのわりにはコンパクトな見た目に。荷重はショルダーハーネス、ヒップハーネス、そして背面パッドに分散され、やわらかな背負い心地だ

フィヨルド 40は、いわゆるロールトップ式のバックパックだ。つまり本体の上部をクルクルと丸めてからバックルで留めるタイプで、適当にモノを入れてもあとから圧縮できる長所がある。慣れれば扱いは簡単なのだが、巾着式にコードで絞る一般的なタイプのほうが好きな人も多く、好き嫌いがわかれるかもしれない。

リッド(雨蓋)を取り外すと、バックパック本体の上部を丸めて留めるロールトップ式だということがわかる。荷物が少ない時はリッドを使わず、写真のような状態で背負ってもよい

丸めていたバックパック本体上部を解き、内部を見た様子。背中側にはハイドレーションパックが収められるポケットがあり、チューブを外部に引き出すスリットも設けられている

フィヨルド 40はアドベンチャーレースも想定したバックパックだけあり、自重を減らせるようにと、各部のパーツを外して使えるようになっている。これは岩と氷の世界に挑むクライミング系バックパックと同様の発想だが、荷物が少ない時などは一般登山でも有用なシステムだ。

背面パッドは、バックパック本体内部のスリットから抜き出すことができる。これにより実測で約58g軽くなる。このパッドは、休憩中に腰かけるマットとして使ってもよい

ベルクロで固定されているヒップハーネスも引き抜ける。重量は約204gで、かなりの軽量化につながる

ベルクロで固定されているヒップハーネスも引き抜ける。重量は約204gで、かなりの軽量化につながる

チェストハーネス(重量約20g)も簡単に取り外せる。ここでは写真を省略するが、同様に使わないでも済ませられるリッドは約108gで、この分も自重を減らせる

フィヨルド 40の生地は透けるように薄く、各部のパーツを外さなくても一般的なモデルよりも軽量な造り。耐久性が少々落ちるのは否めないが、ボトムなどの擦れやすい部分は十分に補強してある

背面パッド、ヒップハーネス、チェストハーネスに、リッドも加えれば、その重量は約290g。これらを省けば、自重約1,090gとただでさえ超軽量なフィヨルド 40(サイズ3)が、約800gのバックパックとして使えるということだ。相当な軽量化である。ただし、パッドやハーネスを取り外せば、その分だけ背負い心地は劣化する。

そこで、各部パーツを外すとどのような変化が現れるのか、背負う荷物の重さを変えながら最後に試してみた。

ヒップハーネス、チェストハーネスだけでなく、リッドも取り外して背負ってみた。背面パッドも抜いてあるので、背中の部分の張りがなくなり、いくらかたわんでいる

結論を言えば、荷物が少なくて軽い場合(日帰りを想定した5〜6kg)ならば、ヒップハーネスやチェストハーネスがなくても快適に背負える。しかし背面パッドがないと内部に入れたボトルの角などが背中に当たり、心地よいとは言えない。もっとも、ボトル角をレインウェアなどで覆えば違和感は少なくなるので、パッキング時にひと手間かければいいだけともいえる。

しかし荷物がある程度重い場合(テント泊を想定した12〜13kg)は、ヒップハーネスがないと腰に荷重を分散できず、長時間歩いていると肩と腰の負担が高まり、次第にツラくなる。また、なで肩気味の僕がチェストハーネスを使わないとハーネスが肩からずれやすくなり、しっかりと背負えない。パッドを省いた背中の当たりもやわらかとは言えず、正直なところ快適とは言いがたかった。

アドベンチャーレースに出場したり、クライミングに使ったりするのではなく、荷物が重い時やテント泊の場合はハーネスやパッドはやはり使ったほうがよさそうだ。しかし、日帰り山行ならば好みに応じて省くこともできそうだが、個人的には背面パッドだけはどんな時でも使ったほうがよいと思われる。背面パッドは入っているのといないのとでは背中の心地よさが大きく違うというのに、省いたところで軽減できるのはわずか約58gだけだからだ。いっぽう、ヒップハーネスは荷物が少ない場合は使わなくても背負い心地を大きく損なうわけではないのに自重は約204gもある。ウェストのポケットが利用できなくなる不便さはあるとはいえ、軽量化を考えれば積極的に外して使ってもいいかもしれない。

山行を終えて

ただでさえ軽量なうえにパーツを外せばさらに軽くできるのが、フィヨルド 40のひとつの持ち味だ。おもしろい工夫が各部に投入され、モノ好きの人ほど「使っていて楽しい」モデルでもある。しかし、「ZigZagサイドコンプレッション」を効果的に機能させねば真価を発揮できず、軽量ゆえに耐久性はそれほど高くはないだろう。フィヨルド 40を使いこなすためにはそれなりの経験や知識があったほうがよく、初めてのバックパックとしてよりも、2つめ、3つめのバックパックとして選ぶと失敗がなさそうである。

ともあれ、フィヨルド 40の完成度は高いようだ。しかし、一般登山がメインとなる日本のユーザーには、よりテント泊に使いやすい容量60L程度のものや、日帰りに向いた容量30Lなどのバリエーションも展開されるようになれば、さらに有用かもしれない。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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