ゴルフの楽しさ伝道師、オグさんです。今回は、アイアン打ち比べ・キャビティバック編。前回のマッスルバック編とも大きく関係しますよ。
おさらいすると、現代のアイアンは大きく3つの系統に分けられます。以前ご紹介した「飛び系アイアン」、打点のミスに強く飛距離も追求した「バランス系」、そして飛距離よりもボールをコントロールすることを重視した「アスリート系」です。今回は「アスリート系」の中から、「キャビティバック」と呼ばれるモデル(2018年5月現在売られているもの)をいくつか打ち比べてみました。
キャビティバックアイアンとは、マッスルバックアイアンのバックフェースを削り、削った分の重量をヘッドの外周やソール部分に配置することでヘッドの慣性モーメントを高めたり、重心を低くしたりするよう設計されたモデルを指します。マッスルバックと比較すると芯を外したときのミスの幅が少なくなり、ボールが上がりやすくなります。それとのトレードオフでヘッドの操作性が下がるので、ボールを意図して曲げる、高さを抑えるといったことがマッスルバックアイアンと比べてやりづらくなっています。
<アスリート系アイアンでの比較>
■マッスル ■キャビティ
飛距離 × △
寛容性 × △
操作性 ◎ ○
バックフェースを削り、その分の重さをソールや外周に配置することで、芯を外したときにフェースのブレを抑えやすくなるのです
極言すれば、マッスルバック以外のアイアンはすべてキャビティバックアイアンと呼ぶことができますが、バックフェースのえぐれの深さによって特性を変えることができるので、キャビティバックアイアンもいくつかの種類に分類できます。
・えぐれを浅くしマッスルバックのよさである操作性をある程度残しながら、ミスへの許容度を持たせるハーフキャビティ
・えぐれを深くして操作性よりもミスへの許容度を高めたフルキャビティ
・えぐれを深く取ってなおかつフェース裏下部をもソールギリギリまで削り、ミスへの許容度を最大限に高めたポケットキャビティ
大きく分ければ上記3種類ですが、それぞれの中間に位置するような特性のモデルもあります。ジャンルに当てはめると「飛び系アイアン」はポケットキャビティが多く、「バランス系」はポケットキャビティやフルキャビティを採用しているモデルがほとんどです。今回紹介するアスリート系には、ハーフキャビティが多いですね。以下、本稿ではアスリート系キャビティバックアイアンを「CBアイアン」と記すことにします。
CBアイアンは芯のちょうど裏ぐらいのところに厚みを残し、マッスルバックに近い打感のよさを演出しつつ、ミスへの許容度を高めています
現代のマッスルバックとCBアイアンを比べると、性能の劇的な差異はありません。マッスルバックの中にもミスに強いものもあれば操作性に振ったものもあり、CBアイアンも同様です。ただ、CBアイアンは低重心設計で作られており、マッスルバックに比べてボールが上がりやすく、かつミスに強くなっています。しかし、ミスしたらそのフィードバックがあり、想定より飛びすぎるということもありません。ですのでマッスルバックの操作性が欲しいが、“少し”やさしいアイアンを使いたい、ボールの上がりやすさが欲しいといったアスリートに使用者が多くなっています。ボールが上がればスピンがそれほどかからなくてもグリーン上で止まりやすくなり、そういった球が打ちやすいのもCBアイアンのメリットです。
同メーカーのマッスルバックとCBアイアンの比較です。両方とも小ぶりなヘッドで操作性やラフからのヌケを考えつつ、操作性とフィーリングを重視したマッスルバック(左)、操作性を残しながらミスへの許容度を持たせたキャビティ(右)という違いがあります
CBアイアンは、ミスへの許容度を持たせつつも操作性やフィーリングも重要視しているので、打感も柔らかく気持ちいいモデルが多いと思います
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アスリート系にしてはやや大きめなヘッドにグースネックを採用し、ボールがつかまりそうな安心感がある形状をしています。キャビティは比較的深くえぐられています
番手/ロフト角(度)
#5/25
#6/28
#7/31
#8/35
#9/40
PW/45
見た目と性能が一致した作りで、適度な大きさのヘッドに厚めのトップブレードや軽めのグースネックが特徴的、軽いドローで安定した弾道が打ちやすかったです。操作性は抜群というわけではありませんが、右に逃がすフェード系も打てましたし、必要十分。芯を外すとやや距離は落ちますが、むしろそれがミスの幅を減らしてくれ、大きく曲がることもないので打っていてすごい安心感があるアイアンです。中上級者が安定したプレーをするのに適した仕上がりだと思います。CBアイアンの中ではミスへの許容度が高い印象を受けました。
試打クラブは7番
操りやすさ ★★★☆☆
打点左右ミス強さ ★★★☆☆
打点上下ミス強さ ★★☆☆☆
打感 ★★★★☆
※CBに限らず、現代のアイアン全般に照らし合わせて各項5点満点で採点(以下同)
やや長めのフェースで操作性は穏やか。つかまりはニュートラルで、打点のミスにとても強い仕上がり。クセがないのでスイングの傾向がボールに出やすいモデルです
番手/ロフト角(度)
#5/25
#6/28
#7/32
#8/36
#9/41
PW/46
フェースがやや長めで操作性が穏やかですが、つかまり具合はニュートラルなので、スイング傾向がそのままボールに反映されやすい印象です。セミグースでやや厚めのトップブレードと安心感を与える要素を持ちつつ、打ってみると上級者も満足できる気持ちのよい打感(グッと押してくれるような感触)と適度な操作性で、バランスがよい仕上がり。腕を磨きながらできるだけ長く使いたいと考えるゴルファーには、強くおすすめできるモデルです。
試打クラブは6番
操りやすさ ★★★★☆
打点左右ミス強さ ★★★☆☆
打点上下ミス強さ ★★★☆☆
打感 ★★★★☆
大きめのヘッドに厚めのトップブレード、広めのソールと、ほぼバランス系に近いCBアイアン。フェースに弾きのいい素材を使い、直進性と飛距離性能にすぐれています
番手/ロフト角(度)
#5/24
#6/27
#7/31
#8/35
#9/39
PW/44
もうほとんどバランス系に近いアスリートモデルです。弾道の直進性が高く、ほかのCBアイアンと比べて1番手ぐらい飛距離が出ます。ソール幅も広いのでダフりのミスにも強い。ではこれをなぜアスリートモデルとして紹介したかというと、「打点のミスへの許容性が高い割には操作性がある」から。打感はやや硬めですが飛距離が出しやすくてミスにも強い。それでいて操作も最低限できるという欲張りなアイアンです。アイアンも飛ばしたいけど、操作できないのはちょっと…という方には魅力的なモデルです。
試打クラブは6番
操りやすさ ★★☆☆☆
打点左右ミス強さ ★★★★☆
打点上下ミス強さ ★★★★☆
打感 ★★☆☆☆
ヒールが低く直線的なブレード形状は、いかにも操作性がよさそうなフォルム。実際にフェース長も短めで、操作性が高く仕上がっています
番手/ロフト角(度)
#5/26
#6/29
#7/33
#8/37
#9/41
PW/45
一見するとえぐれが割と深めですが、構えてみると小ぶりでシャープな形状をしていて、操作性も高いアスリートアイアンです。バックフェースのえぐれが深いだけあり、左右のミスに強い印象がありますね。距離は決して出るほうではありませんが、必要十分で、高さもしっかりと出ます。個人的に打感は少し硬めに感じましたが、はじく感じを好む方にはいい打感だと思います。上級者が好む要素をしっかり押さえながら、やさしさを加味したバランスのいい仕上がりのアイアンです。
試打クラブは7番
操りやすさ ★★★★☆
打点左右ミス強さ ★★★☆☆
打点上下ミス強さ ★★☆☆☆
打感 ★★★☆☆
角ばった部分が少なく柔らかい印象を与えるフォルム。フェース面を黒く仕上げることで目標に構えやすくなっています
番手/ロフト角(度)
#5/26
#6/30
#7/34
#8/38
#9/42
PW/46
これぞアスリートのためのキャビティといったモデル。ミスはミスとしっかりフィードバックしてくれますが、そのミスを適度にカバーしてくれる寛容性があります。左にミスしても飛びすぎることなく、コースで使うと調子が悪くてもそれなりにスコアを作れそうですね。自分の想像以上の球が出ないので、安心して狙っていけそう。余計なことをしないのがすごく気に入りました。
試打クラブは6番
操りやすさ ★★★☆☆
打点左右ミス強さ ★★☆☆☆
打点上下ミス強さ ★★☆☆☆
打感 ★★★☆☆
やや厚めのブレードによる剛性感のある形状が厚いインパクトを想像させます。トゥ側の上部に少しだけボリュームを持たせることで、アスリートが好む“逃げ顔”と呼ばれる形状になっています
番手/ロフト角(度)
#5/25
#6/28
#7/32
#8/36
#9/41
PW/46
こちらも奇をてらわないオーソドックスなアスリートキャビティ。ほんの少しだけグースネックにしてボールのつかまりを演出し、キャビティ部分は広めながら芯付近に厚みを残すことで、打点のミスと打感を両立。上下左右どこに芯を外しても飛距離の落ち幅が少ないです。飛びすぎるわけでもないのでミスしても計算がしやすく、上級者も使いやすいモデル。打感は柔らかい中にも芯があり、フィーリングも出しやすかったですね。
試打クラブは7番
操りやすさ ★★★★☆
打点左右ミス強さ ★★★☆☆
打点上下ミス強さ ★★★☆☆
打感 ★★★★★
やさしいといわれるピンのアイアンの中でも一番操作性を重視したモデル。小ぶりなサイズながら安心感のある形状、過度なプレッシャーを与えない絶妙さがあります
番手/ロフト角(度)
#5/27
#6/30.5
#7/34
#8/38
#9/42
W/46
かなり小ぶりなサイズですが、打ってみるとそれほどシビアなアイアンではありません。小さいなりに芯を外しても距離はそれほど極端に落ちませんし、意図せぬ曲がりも大きくはありません。打感は決して柔らかくはありませんが不快な感触はなく、ミスしたときのフィードバックもしっかりあります。操作性などアスリートが好む部分は見た目どおりで、ミスなどの補正機能を見た目より持っているクラブです。
試打クラブは7番
操りやすさ ★★★☆☆
打点左右ミス強さ ★★☆☆☆
打点上下ミス強さ ★★☆☆☆
打感 ★★★☆☆
テーラーメイドのカスタムメイド専用モデルの1つ。マッスルバックのP730に似た、小ぶりでシャープな形状により操作性を高めたCBアイアンです
番手/ロフト角(度)
#5/26
#6/30
#7/34
#8/38
#9/42.5
PW/47
以下3本はテーラーメイドのカスタムメイド限定モデル、Pシリーズ。このP750はCBアイアンの中ではかなり小ぶりなサイズで、フェース長も短く操作性を重視しています。それだけに操作性はまさに抜群、ほぼマッスルバックのような扱いやすさを見せました。ミスへの許容性はさすがに大きくはありませんが、それでもマッスルバックよりはやさしめ。操作性を第一にしたいけれどマッスルバックは気後れするといった方には最高のアイアンでしょう。
試打クラブは6番
操りやすさ ★★★★★
打点左右ミス強さ ★★☆☆☆
打点上下ミス強さ ★☆☆☆☆
打感 ★★★★☆
上のP750に比べてトップブレードが厚くなり、操作性よりも直進性を意識した形状になっています。とはいえ、逃げ顔で左に行くイメージをなくしているのがアスリート向けらしいところですね
番手/ロフト角(度)
#5/26
#6/29.5
#7/33
#8/37
#9/41.5
PW/46
P730が純粋なMB、P750はCB。このシリーズは数字が大きくなるにつれて操作性よりも直進性や飛距離を重視するようになっていきます。このP770はロフトがやや立った設計で、P750より飛距離性能を高めた仕様。トップブレードの厚さや長くなったフェース長などを見ても、操作性よりも直進性を求めた特性です。打ってみるとロフトは立っていますがしっかりボールが上がり、それほどパワーがなくても安定した距離が出せます。打点が上下にズレても安定した距離が打てました。コースをシンプルに、直線的な弾道で攻めていきたい方におすすめのアイアンですね。
試打クラブは6番
操りやすさ ★★☆☆☆
打点左右ミス強さ ★★☆☆☆
打点上下ミス強さ ★★★☆☆
打感 ★★★★☆
パッと見はマッスルバックですが、中が“空洞”になっている中空キャビティ。Pシリーズの中では一番フェース長が長く、直進性を最重視したモデルです
番手/ロフト角(度)
#5/23.5
#6/26.5
#7/30.5
#8/35
#9/40
PW/45
中が空洞の中空キャビティ構造のアイアンです。空洞部には充填剤が入れられており、打感や打音を工夫してあります。難しそうな見た目ですが、性能は見た目と全然違います。直進性が非常に高く、言い方を変えれば、球を曲げようと思っても曲がりません。打点のミスに強く、少々芯を外しても狙った方向に飛んでいきます。距離もそれほど落ちませんので、中級者にはやさしいと感じるモデルではありますが、上級者からするとちょっと扱いにくいと感じるかもしれませんね。
試打クラブは6番
操りやすさ ★☆☆☆☆
打点左右ミス強さ ★★★☆☆
打点上下ミス強さ ★★★☆☆
打感 ★★☆☆☆
これらのCBアイアンは「マッスルバックではちょっとシビアすぎる」と感じるゴルファーたちに好まれるジャンル。しかし実際に発売されているモデルの性格は多様で、操作性を重視したもの、ミスへの許容度を重視したもの、はたまた直進性を重視したものと、これまた試打してとても楽しかったです。個人的によかったモデルを3つ挙げるとすれば…下記のようになりました。
・P750アイアン(テーラーメイド)
・TOUR B X-CB(ブリヂストン)
・Z765(スリクソン)
あくまで個人的な意見ですが、これら3モデルには、つかまり具合がニュートラルで操作性が高いという共通点を感じました。ミスの強さはそれぞれですが、どれもクラブとしてのバランスがよいので、しっかりシャフトを合わせれば長く付き合えそうなアイアンに仕上がりそうです。
写真:野村知也
ゴルフショップ店長、クラフトマン、クラブフィッターそして雑誌の編集・執筆業も行う、歌って踊れるゴルフライター。好きなクラブはパター、左利き/右打ち。愛称は「オグさん」。