実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
着心地がバツグンにいいジャケットとパンツを雪中テスト!

驚くほどの伸縮性! ファイントラック「エバーブレスバリオ」で雪山へ

春から秋にかけての無雪期に比べ、気象条件がはるかに過酷になる冬の山。大地は凍りつき、頭上から降り注ぐのは、雨ではなくて冷たい雪である。そのような厳しい外界と温かな自分の体との間で“壁”を作り、外と内を遮断するのが「ハードシェル」素材のウェアだ。


たった今、僕は“壁”という言葉を使ったばかりだが、正確には“殻”が正しい。なぜならば、「ハードシェル」の「シェル」とは、英語で“殻”。つまり、ハードシェルとは、「硬い殻」という意味なのだ。貝やカニ、エビの殻のように、外界から自分の体を守るためのシェルターのようなウェアだとイメージしてもらえばいい。

また、ハードシェルという言葉は単一のウェアを指すのではなく、あくまでも「素材」である。多様なバリエーションが展開されているアウトドアウェアの中で、ハードシェルという素材の定義は厳密ではないが、一般的には表地の裏側に防水性のメンブレン(膜)がラミネートされ、防風性を兼ね備えている素材のことを指している。だから、ハードシェル素材を使ったウェア類には、ジャケットやパンツに加え、帽子やグローブ、ゲイターなども含まれる。実はレインウェアもハードシェルの一種といえるのだが、あまりにポピュラーな存在のため、分離して扱われているだけだ。なお、対義語的な言葉として「ソフトシェル」があり、こちらはその名のとおりにやわらかい生地で、伸縮性、通気性、撥水性の高さが特徴となっている。

最近は行動中に蒸れにくく、ほどよい保温性もあるソフトシェル素材のウェアも人気を博している。だが、汗を発散できるよう通気性を確保しているため、強風が吹く冬山では寒すぎることも多い。過酷な環境では、やはりハードシェル素材のウェアの安心感にはかなわないだろう。

軽量でやわらかいハードシェル素材のウェア

前置きが長くなってしまったが、今回紹介するのは、ファイントラック「エバーブレスバリオジャケット」と「エバーブレスバリオパンツ」。上下セパレートで販売されており、男性用も女性用も用意されている。日本のブランドなので、海外メーカー製にはありがちな腕や裾の長さが余るという問題が起きにくいのも大きなメリットだ。特にパンツは素材やウェアの構造上、丈詰めができず、はじめから自分の足に合う長さを探さねばならないため、これは非常に重要な点なのである。

パンツは1色だが、ジャケットは男女ともに3色展開されている。落ち着いた色合いのネイビーやグリーンもそろっているが、雪の中で特に目立ち、遭難時に発見されやすくなるレッド系のカラーを僕は推薦したい

エバーブレスバリオジャケットとパンツの最大の特徴は、素材の性質だ。アイテム名にも採用されている「エバーブレス」という同社独自の多孔質の防水透湿素材が全体に取り入れられ、外界からの水分と強風を遮りつつ、ウェア内部の湿気を排出する。それだけならば他の防水透湿性素材のハードシェルと大きくは変わらないが、エバーブレスがすごいのは、その伸縮性。ジャケットに使われているエバーブレスは横に127%、パンツに使われているエバーブレスは横に121%、縦に112%もストレッチするのである。だから、体にフィットするサイズ感のものを着用して行動しても、生地が引っ張られるような感覚があまりない。これはちょっと驚くほど。ただ快適であるだけではなく、力を入れて腕や足を動かす必要がないので、疲労防止にもつながる。ハードシェルの素材としては軽量でもあり、ジャケットは370g、パンツは400g。合わせて800gに満たない。

「エバーブレス」という素材には2ウェイストレッチ(縦か横に伸びるもの)と、4ウェイストレッチ(縦にも横にも伸びるもの)がある。今回紹介したウェアのうち、可動部分が腕と首程度で済むジャケットには2ウェイ、足という動きが激しい部分を覆うパンツには4ウェイが使われている

伸縮性の高さは特筆すべきもの。足を思いっきり曲げても、生地が引きつれる感覚はあまりない。一般的には硬くて伸縮性で劣ると思われているハードシェルのイメージをくつがえす高機能な素材だ

表地はサラっとした質感で、降りかかった雪はすぐに払える。撥水性も高く、雪が溶けて水になった場合もすぐに流れ落ちてしまう

長時間、雪面に膝をついていると、体温で溶けた雪がこびりつくことも。しかし、少しもみほぐせば、簡単に落とせる

「エバーブレスバリオジャケット」の構造と着心地をチェック!

ハードシェルジャケットと外観的にはとても似ているレインジャケットは「必要な時に取り出して着る」という前提で設計され、収納時のコンパクトさや持ち運ぶ際の軽量性を重視している。着用する季節は春から秋の無雪期だ。これに対し、ハードシェルは「常に着たまま行動する」ことを前提とした設計となっている。ハードシェルが活躍する積雪期の山は過酷な条件で、硬い殻であるハードシェルで外界から絶えず身を守らねばいけないからだ。

そのため、エバーブレスバリオジャケットのようなハードシェルには「常に着たまま」での快適性を向上する工夫が設けられている。たとえば、ウェア内部に熱気や湿気が溜まった時に換気をうながすベンチレーターだ。エバーブレスバリオジャケットの場合、体のサイドへ斜めにベンチレーターが取り付けられ、止水ファスナーで開閉できるようになっている。その長さは32p。ハードな行動で歩行中に暑くなったら、フルに開くと寒気が一気に流れ込み、ウェア内部の温度と湿度を低下させられる。ハードシェルジャケットにはつきものの機能ではあるが、多くのジャケットのベンチレーターは、ファスナーの開閉がしにくい脇の下にある。しかし、エバーブレスバリオはもっと下に配置されており、無理に腕を上げなくてもラクにファスナーの調整が行える。しかも、バックパックを背負った時にショルダーハーネスが干渉せず、いつも良好な状態で換気できるという絶妙な場所なのだ。実際、とても使いやすく、この点は好印象。また、ファスナーは2つの引き手が付いたWタイプとなっており、好みの位置まで上げ下げしてベンチレーターの開き具合を調整できる。

ジャケットのサイドに斜めにとられたベンチレーターは、32pというかなりの長さ

ジャケットのサイドに斜めにとられたベンチレーターは、32pというかなりの長さ

フロントファスナーに寄った場所にも別の短いファスナーがあり、こちらはポケットの開閉部になる

フロントファスナーに寄った場所にも別の短いファスナーがあり、こちらはポケットの開閉部になる

バックパックを背負った様子。ショルダーハーネス、ウエストハーネスともに、ジャケットのファスナーと干渉していないことがわかる。行動中に開いたベンチレーターが押しつぶされることはなく、ポケットも常に使える

左側のポケットの裏側には、メッシュのポケットも装備。伸縮性があり、グローブなどを入れておいても落ちにくい

風をさえぎる木々の葉が落ち、無雪期以上に風の影響が強くなる雪山では、防寒のためにフードをかぶる機会が増える。ゆえに、フードの使いやすさは重要なポイントだ。エバーブレスバリオジャケットのフードの特徴は、頭部と肩をつなぐ首の部分。「エバーブレスニット」という非常に伸縮性が高い素材を使っており、頭部を動かした時にラクにフードが追従し、ストレスを感じない。フードのひさしに張りを持たせていることもあって、視界が遮られず、いつも周囲の様子を確認できて安全だ。頭部を締めるようにドローコードも取り付けられ、フィット感も上々。強風下でもフードが外れにくい。

高い伸縮性とともに、汗を発散させる効果も高いエバーブレスニットが使われたフード部分。この黒い素材は、デザイン上のアクセントにもなっている

エバーブレスニットの素材は、脇の下にも使われている。この効果で腕が上げやすく、脇の下の汗もすみやかに発散される

フードの裏側には小孔があり、無用な湿気を逃す効果も。表側から見ると、この部分は別素材で覆われ、たとえ雨が降ってもフード内に水は入らない

帽子の上からフードをかぶった状態。フロントのファスナーを鼻近くまで上げても視界は保たれている。フードには余裕があり、ヘルメットを着用したままでもかぶることができる

テスト時の山は、薄曇りで寒く、かなりの強風だった。しかし、ジャケットの耐風性は十分で、冷気がウェア内部に流れ込むことはない。シンプルな形状だが、よくできている。いくらか改善してほしい点があるとすれば、袖の部分の面ファスナーだろうか。狭めに絞って使っている時は面ファスナーの両面が触れる面積が広くなって外れにくいが、袖の口径を広げて使っていると、面ファスナー同士が重ねる面積が狭くなり、剥がれやすくなるのである。使用上の大きな問題というわけではないが、少し気になった。

袖の面ファスナーは幅が狭めのタイプ。簡単に片手で調整できるのはいいが、他メーカーで使用されているものと比べると粘着力が弱い印象で、ときどき剥がれてしまう

「エバーブレスバリオパンツ」の構造と着心地をチェック!

エバーブレスバリオパンツに使用されている素材は、ジャケット同様にエバーブレス。ただし、ジャケットよりもパンツは傷みやすいこともあり、厚手となっている。ジャケットの表地が20デニールの生地で、パンツは50デニールの生地だから、倍以上である。そして、腰の裏側にはエバーブレスニットを採用。伸縮性が高い素材を使うだけではなく、膝の部分を中心に立体裁断されているため、足の動きはじゃまされない。ウエスト部分は一般のパンツのようなシンプルな造りになっており、着用中に大きな違和感がない理由にもなっている。

ウエストにはバックル付きのベルト。バックルは簡単には外れないタイプが採用され、ベルトもゆるみにくく、とても使いやすい

エバーブレスニットが使われているのは、汗が溜まりやすい腰の部分。この部分はバックパックを背負った時に圧迫される部分でもあるが、当たりがソフトなので異物感がない

エバーブレスバリオパンツもベンチレーターの機能が充実している。サイドには裾から太ももまで長いファスナーが付けられており、ジャケットと同じくWタイプ。このファスナーはジャケット以上に長いため、足が完全に露出するほど外界に開け放つことができる。

サイドのファスナーは、全長68p。止水タイプが使われ、雪が溶け出すような気温の時も、水分が内部に入らない

太ももまで大きく開けることができるので、脱ぎ着の際に足を通すのは非常にラク。裾にはスナップボタンとドローコードが付き、しっかりと留められる

行動中は、このように開け放ち、ベンチレーターとして機能させられる。もちろん寒い時や雪が入りそうなシチュエーションでは、完全に閉じてしまえばいい

ポケットと裾にも目を向けてほしい。両サイドのポケットの内側はメッシュ。ポケットを開けたままにして行動すれば、この部分もベンチレーターとして外気とつながる。そして裾には、丈夫な素材で補強されたエッジガード。裾は歩行中に擦れやすく、アイゼンの歯で引っかけてしまうこともめずらしくないが、エッジガードがあるだけで安心感が違ってくるだろう。

ポケットの内側はメッシュ。内側には細いループもあり、カギなどの貴重品を取り付けるのにも使える

ポケットの内側はメッシュ。内側には細いループもあり、カギなどの貴重品を取り付けるのにも使える

格子状の模様が入ったエッジガード。写真を見ると雪が付着しやすいように思うかもしれないが、色の関係で少々目立つだけで、実際はわずかなもの。使用に難があるわけではない

前述のようにエバーブレスバリオは、ハードシェルを使ったウェアの中ではタフさを追求したものというよりは、着心地のよさや軽量性を重視したライトな感覚のもの。事実、ファイントラック社では、エバーブレスバリオよりもハードな環境でも使えるモデルも展開している。そのため、機能面ではあえて省いてしまったものも見られなくもない。たとえば、現代の多くのハードシェルパンツの裾につけられている簡易的なゲイター。ブーツとパンツの間を仕切り、ブーツ内に雪を侵入させない円筒状の布地のパーツである。これが付属していないため、エバーブレスバリオパンツのみで深雪を歩くと、いくらドローコードで裾を引き絞っておいても、いつしかブーツ内には雪が侵入してしまうのだ。

もっとも、現実的なレベルで機能する簡易的ゲイターが付けられたパンツが登場してきたのは、比較的近年。それでなくても、日本では雪山用のパンツの上にブーツごとロングゲイター(スパッツ)を巻くスタイルがまだまだ一般的だ。エバーブレスバリオパンツも同様に、別途ロングゲイターを用意して使えばいい。むしろ簡易的なゲイターが付属していないことは重量面ではメリットとなり、価格も安く抑えられる。エバーブレスバリオパンツは、そういった面を重視しているのだろう。個人的には付属していてくれたほうがうれしいが、大きな苦もなくがまんできるレベルだ。

膝下ほどまで深さのある雪の中を歩いていると、少しずつパンツの裾から雪がブーツの上に。気付くと冷たい雪がブーツ内に入ってしまっている。こういう場所で使うならば、ゲイターと組み合わせる必要がある

別途、ロングゲイターを組み合わせた時の様子。このようにして着用すれば、簡易ゲイターが付属しないデメリットをカバーできる

山行を終えて

終日、雪の中でエバーバリオブレスジャケットとエバーブレスバリオパンツを試した結果、再確認したのは、その生地の伸縮性ややわらかさの素晴らしさであった。ハードシェルのウェアの中ではいくぶん華奢なタイプだが、その代わりに軽量で使い勝手がいい。厳冬期の日本アルプスのような高山ならいざ知らず、2,000m級の山から低山まで十分に活躍するだろう。

エバーブレスバリオは雪山に適したウェアだとはいえ、軽さを生かして、無雪期はレインウェアとして使ってもいいかもしれない。もともとハードシェルのウェアとレインウェアの境界は曖昧であり、本物のレインウェアよりはいくらか重くはなるが、生地は丈夫だ。特に、パンツよりも薄い生地を使っているエバーブレスバリオジャケットは収納時には予想以上にコンパクトになり、長いベンチレーターもあるので、暖かい時期でも使いやすい。冬以外にも使える可能があるウェアとしてチェックしてみてもよいかもしれない。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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