実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
いろいろな使い方ができる「ダウンハガー800 ハーフレングス #3」

応用力がスゴい! 上部はシェルのみでフードもないモンベルのマミー型スリーピングバッグ


もうすぐ梅雨が明ける。今年は暑夏になるのか、冷夏になるのか? いずれにせよ、日本の夏は気温以外に湿度も高く、春に使っていたスリーピングバッグ(寝袋やシュラフとも呼ぶ)では蒸し暑くて眠れないことも多い。特に、標高が低い山や風が吹き抜けない森の中のキャンプ地では、寝苦しい夜が訪れそうだ。

そんな時に有用なのが、上半身部分の中綿を省いた“半身サイズ”のスリーピングバッグである。全体に使われる中綿が削減されるので軽量になり、荷物の重量を減らしたい人をメインターゲットとしたタイプだ。だが、“中綿が少ない”という特徴は、夏こそ使いやすいということにもつながる。

フードのないマミー型スリーピングバッグ

今回ピックアップしたのは、モンベル「ダウンハガー800 ハーフレングス #3」。足先から腹部までダウンが封入され、それより上は1枚のシェル(布地)のみ。山岳用のマミー型スリーピングバッグの“基本仕様”ともいうべき頭部を覆うフードも省略されているというユニークな特徴を持つ新作だ。

斜めに縫製されているところが、ダウンが封入されている「バッフル」の部分。それよりも上にはほとんど縫製はなく、1枚のシェルだとわかる

多様なラインアップが揃うモンベルのスリーピングバッグにおいて、本製品は「ダウンハガー800」シリーズとなる。「800」とはダウンの品質を表す「FP(フィルパワー)」の数値で、いまや1000FPのダウンも登場しているが、800でも相当な高品質だ。また、同社のスリーピングバッグは番号(数字)などで保温力を表しており、保温力が最高のものが「EXP(エクスペディション)」で、以下「#0」「#1」「#2」「#3」「#5」「#7」と7段階に細かく分かれている(現在、#4と#6はない)。本製品が該当する「#3」は、快適に眠れる“コンフォート温度”が“3℃以上”に設定されており、夏の高山から春・秋の低山といった、山中ではもっとも出番が多い温度帯だ。

では、実際に「ダウンハガー800 ハーフレングス #3」のスペックをチェックしていこう。まずは、同シリーズの中でもっとも似た「ダウンハガー800 #3」とカタログ値を比較してみる。「ダウンハガー800 #3」は「ダウンハガー800 ハーフレングス #3」の全身バージョン。全身に中綿が入り、フードも付いている一般的な形状のタイプだ。


上の表のとおり、「ダウンハガー800 ハーフレングス #3」は、「ダウンハガー800 #3」よりも重量が157g軽く、収納時の容量も1L少ない。ただ、“半身”というイメージから考えれば、あまり軽くも小さくもなっていない気もする。その理由は、“ハーフレングス(=半身)”サイズという名称ではあるが、実際には半身以上の長さがあるからだ。メジャーで計測したところ、「ダウンハガー800 ハーフレングス #3」のバッフル(ダウンが入っている部分)は約120p。いっぽう、「ダウンハガー800 #3」は約185p。実際には“2/3レングス”なのである。それに、超薄手生地「バリスティックエアライト」を採用していても上半身までシェルが延びているのだから、これくらいの重量にはなるわけだ。しかし、150g以上の軽量化が見込め、パッキングサイズもかなり小さくなるのは、登山者にとっては非常に大きい。

付属のスタッフバッグに押し込めば、収納サイズは12(直径)×24(長さ)cmに。別途コンプレッションバッグを購入して圧縮すれば、より小さくできる

次は、胸元にあるブランドのロゴより上、ダウンが封入されていないシェルの部分を見てみよう。布地は非常に薄く、中綿も省かれているので保温性はあまりない。だが、暖気を内部に閉じ込める働きや風をさえぎる効果は期待でき、内部の温度調整には便利だ。

ドローコードをゆるめたままの状態。このまま体を入れて眠れば、テント内に流れ込む風をほどよくさえぎり、上半身を冷やさずに済む

ドローコードを引き絞った状態。首の太さに合わせてコードの部分を絞め、頭部だけを外に出せば、内部の暖気が逃げにくくなり、保温性がアップする

ドローコードをゆるめ、布地を内部に押し入れた状態。胸元から上が露出し、暑い時期でも涼しく眠れる

ドローコードをゆるめ、布地を内部に押し入れた状態。胸元から上が露出し、暑い時期でも涼しく眠れる

このように、最上部にドローコードが付いているのがポイントだ。体を入れてから頭だけを出し、巾着状に引き絞ると肩に引っかかり、寝相が悪い人でもスリーピングバッグが体からずれにくくなる。実際、ドローコードを締めないまま寝てみたら、知らないうちに自分の足でスリーピングバッグを蹴飛ばしてしまい、腹部が露出して少々寒い思いをした。暑い時期はあまり問題ないが、涼しい季節にはこのドローコードが重宝するだろう。

寝相ということでいえば、モンベルの「ダウンハガー」シリーズはもともと寝相が悪い人に適したスリーピングバッグとして知られている。その理由は、同社独自の「スーパースパイラルストレッチシステム」。生地がストレッチしやすいように、繊維方向が斜めになるように縫製し、しかも縫い糸には「糸ゴム」を使うことで驚くほど伸縮するのだ。同社の計測では伸縮率は135%にもなるといい、スリーピングバッグの中で足を曲げたり、丸まったりしてもきゅうくつではない。一般的なスリーピングバッグのように体をまっすぐに伸ばして眠らなくていいので、寝相が悪くてもリラックスできる。この特徴は、「ダウンハガー800 ハーフレングス #3」にも引き継がれている。

生地にテンションをかけていない通常の状態では、糸ゴムの伸縮性によって表面生地が絞られていることがわかる

生地を引っ張ると、糸ゴムで絞られていた部分の表面生地が伸びる。体の動きに沿いやすいことが想像できる

生地を引っ張ると、糸ゴムで絞られていた部分の表面生地が伸びる。体の動きに沿いやすいことが想像できる

伸縮性が高いので、スリーピングバッグに入ったままであぐらをかくことも可能。これなら寒い時期でも、下半身を保温したままテント内でくつろげる

コンフォート温度について確かめてみる

さて、「ダウンハガー800ハーフレングス #3」のコンフォート温度は「3℃〜」。快適に眠れるのは気温3℃以上ということだ。実は、この温度設定は全身サイズの「ダウンハガー800 #3」とまったく同じ。半身サイズでダウンの量も少ないのに、コンフォート温度が同一というのはおかしなことに思えるが……。

おそらくその理由は、「ダウンハガー800ハーフレングス #3」は当初から“上半身には防寒着を着て眠る”ことを前提としているからだろう。つまり、スリーピングバッグでカバーしていない部分は、ウェアでフォローするという発想だ。「コンフォート温度3℃〜」という数値は、防寒着込みで想定されたものと考えたい。

このようなことを踏まえ、ここからは就寝する時のスタイルをいくつかお見せしたい。順番に、体感温度が「暑い時」「ちょうどよい時」「寒い時」となる。

胸から上は完全に露出。スリーピングバッグがずれる恐れはあるが、胸元から空気が入り、暑苦しさが減る

胸から上は完全に露出。スリーピングバッグがずれる恐れはあるが、胸元から空気が入り、暑苦しさが減る

ドローコードを締め、肩から下を閉じる。暖気が逃げにくくなり、保温力が高まる

ドローコードを締め、肩から下を閉じる。暖気が逃げにくくなり、保温力が高まる

上半身に防寒着をプラス。写真ではわかりやすさのために上半身を露出させているが、実際は「ちょうどよい時」のように肩より下もスリーピングバッグ内に入れれば、とても温かくなる

今回テストした就寝時の気温は約12℃。正直なところ、防寒着を着た状態では暑くて眠る気になれず、当初は「暑い時」のように、Tシャツ1枚で胸から上をスリーピングバッグから出して眠りに入った。しかし、気温が下がった夜半には寒くなり、Tシャツのまま「ちょうどよい時」の状態に。その頃の気温はおそらく7〜8℃くらいだったと思われるが、僕にはちょうどよかった。

また、「ダウンハガー800ハーフレングス #3」は防寒着と合わせるだけではなく、ほかのスリーピングバッグと重ねて保温力を強化するのにも便利だ。「ダウンハガー800ハーフレングス #3」の内部にほかのスリーピングバッグを入れたとしても、「スーパースパイラルストレッチシステム」による伸縮性のおかげで狭苦しくない。

別のスリーピングバッグを内側にした様子。これとは逆に、「ダウンハガー800ハーフレングス #3」を内部に入れる手もあるが、半身サイズということもあって、やはり外側のほうがなじみはいい

防寒着を合わせたり、ほかのスリーピングバッグを重ねたりと、保温性をアップするのは比較的簡単だ。しかし、暑苦しい時は胸元を露出するか、いっそスリーピングバッグから完全に体を出すくらいしか方法はないのだろうか?

実は「ダウンハガー800ハーフレングス #3」には、気がきいた工夫が加えられている。足元にファスナーが付いており、足を外に出すことができるのだ。足を出さないまでも、ファスナーを開けるだけで内部の熱気を逃がし、外部の冷気を取り込めるので、温度調整がしやすい。

ファスナーを締めていると、足元の形状は一般的なスリーピングバッグと変わらない

ファスナーを締めていると、足元の形状は一般的なスリーピングバッグと変わらない

ファスナーを開ければ、足先を出せるだけではなく、隙間から熱気を逃せる

ファスナーを開ければ、足先を出せるだけではなく、隙間から熱気を逃せる

暑がりの僕は、この工夫がとても気に入った。ファスナーのすべりもよく、生地をかみにくいのも高ポイントだ。開口部がもう少し広ければヒザくらいまで露出させることもでき、より涼しくできるかもしれないが、それは欲張りすぎというものであろう。

ところで、中綿のダウンは水濡れに弱いというのが定説である。起毛がつぶれ、保温力を発揮できなくなるからだ。最近は、水濡れに強い「撥水ダウン」も登場しているが、「ダウンハガー800ハーフレングス #3」に使用されているダウンは、一般的なものである。「ダウンハガー」シリーズは同程度の保温力をもつスリーピングバッグと比べ、かなりリーズナブルな価格に抑えていることもあり(「ダウンハガー800ハーフレングス #3」のメーカー希望小売価格は19,000円/税別)、これは仕方ないことだろう。しかし、表面生地には「ポルカテックス」という撥水加工が施されており、少々の水濡れくらいは弾き飛ばしてくれる。ただし、生地の縫い目からは浸水しやすいので、状況に応じてカバーを併用することも考えたい。

「ポルカテックス」加工の表面生地は水をよく弾く。しかし、放置しておくと次第に浸透することは避けられないので、水分は早めに叩き落としたほうがいい

自宅ではスリーピングバッグを完全に乾燥させてから、付属の大型ストレージバッグに収納して保管する。ダウンのふくらみをつぶさないように保管するのが、初期の保温力をキープする秘訣だ

山行を終えて

「ダウンハガー800ハーフレングス #3」は、アイデア次第でさまざまな使い方ができそうなスリーピングバッグである。荷物の軽量化を念頭に温暖期のメインとして使うことはもちろん、寒冷期にほかのスリーピングバッグと組み合わせて保温力を強化したり、身長の低い子ども用に流用したりすることも考えられる。応用度は高そうだ。

ただ、初めて購入するスリーピングバッグとしては使いにくいかもしれない。同じ保温力なら、やはり、同シリーズの全身サイズ「ダウンハガー800 #3」のほうが初心者には気軽に扱える。だが、スリーピングバッグの扱いに慣れてきた中級者や、現在手持ちの製品に不満がある方には、かゆいところに手が届く絶妙なモデルになる可能性もある。オーソドックスなタイプと比較しつつ、一度試してみるのもよいのではないだろうか。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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