実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
他に類を見ないほどの調整機構と収納性を完備

収納へのこだわりがハンパじゃない! ミレーの大型バックパック「マウントシャスタ55+10」


日帰り用の小型タイプから、数日をかけたテント泊用の大型タイプまで、さまざまな種類がそろっているバックパック。特に大型パックは、山中生活に必要な「衣食住」のすべてを入れなくてはいけないため、重い荷物にも耐えられるようにさまざまな工夫が凝らされ、丈夫な素材で頑丈に作られている。開発されたばかりの最新技術が投入されることも多く、バックパックの中でも花形ともいえるポジションだ。

使う人の体にフィットさせやすい調整機構を完備

今回取り上げるのは、ミレー「マウント シャスタ 55+10」。製品名にある「55+10」は、バックパック本体の容量「55L」と上部の拡張部分の容量「10L」のことで、他メーカーの65Lのバックパックと同じ容量だと考えればよい。

モノトーンの主体に入れられた赤いラインが、デザイン上のポイント。シックなカラーリングだ

モノトーンの主体に入れられた赤いラインが、デザイン上のポイント。シックなカラーリングだ

重いテント泊装備をかつぐための大型タイプゆえ、荷重が分散されるように背面パッドや各種ハーネス類の作りは非常にしっかりとしている。特に、立体的な構造の背面パッドとヒップハーネスは厚みが2cm以上もあり、体への当たりがやわらかい。

見るからにがっしりとした背面の構造。上部から両サイドにかけてコの字型に細いフレームが入り、形状を安定させている

フォーム材を使ったパッドは肉抜きされ、三角形の小穴が無数に開いている。これによりパッドが軽量化され、通気性も向上。しかも、肌にやさしいアンチバクテリア素材だ

フィット感の微調整がしやすいのも、「マウント シャスタ 55+10」の特徴だ。ショルダーハーネスが背面と連結する部分には「M」「L」「XL」という表記があるが、背面長を3段階で調整できるわけではなく、単なる目安。実際は無段階で好みの長さにでき、自由度が高い。いっぽう、ヒップハーネスはとても立体的で、真上から見るとハーネスが円を描いている。また、非常にがっしりとした形状を持ち、簡単には手で曲げられないほど。つまり、ハーネスの柔軟さではなく、パッドの厚みによって体にフィットさせるという考えでデザインされているタイプなのだ。ゆえに、ハーネスに柔軟さを求める人には合わないかもしれない。また、ヒップハーネスと背面パッドが連結する腰の裏の部分には小さなパッドが内側にプラスされ、厚みを微調整できるようになっている。サイドのスタビライザーはバックパックを体に引き寄せて背負いやすくする働きだけではなく、ヒップハーネスの角度も調整できるようになっていて、フィッティングの向上に効果的だ。これらはほかのバックパックではほとんど見たことがないユニークな工夫である。

ラインで表記されたM、L、XLの表記だけを見ると6〜7cmの幅でしか調整できないように見えるが、実際は面ファスナーによる無段階調整のため、あと数cmは長さを変えられる

ヒップハーネスを真上から見ると、そのままの状態で楕円形を描き、腰回りにフィットする様子が想像できるだろう

この部分に追加されているパッドの厚みは1cmほど。つぶれればその半分程度になるが、荷重を腰に乗せやすくなる。これがあるとむしろ体に合わない人は、取ってしまえばいい

ヒップハーネスのサイドにはストラップのスタビライザー。バックルはひとつだが、上下2本のストラップが連動し、上のストラップを引けばハーネスの角度が上を向き、下を引けば下を向く

驚きの工夫が施された収納の数々

フィッティングの方法に特徴が多い「マウント シャスタ 55+10」だが、各部のポケットやバックパック本体の収納力も充実している。それも、ちょっと驚くレベルだ。フロントには、U字型にファスナーが付けられた大小2つのポケットを装備。大きく開閉するので、奥に入れた荷物も簡単に取り出せる。さらに、ボトム部分にはファスナーが付いており、開ければ内部にアクセスでき、閉めれば内部を仕切ることが可能だ。いわゆる二気室構造となっているので、下部からも荷物の取り出しが容易に行える。荷物を小分けして入れたい人にはうれしい仕様だろう。

フロントのパネルには、ポケットが2つ。赤いウェアが見えるのが大きいポケットで、青いウェアがはみ出ているのが小さいポケットだ

フロントパネルを開くと内部の荷物が丸見えに。目的地に到着後、すぐに荷物を取り出すことができる

フロントパネルを開くと内部の荷物が丸見えに。目的地に到着後、すぐに荷物を取り出すことができる

ボトム部分も大きく開き、フロントパネル部分同様に荷物を出しやすい。この部分のファスナーはかなり太く、荷物を圧縮して入れても壊れにくい

ボトムから荷物を取り出すと、内部が黒いパネルで2つのスペースに仕切られていることがわかる。つまり2気室だ。このパネルはファスナーで開くことができ、内部を仕切らずに1気室として使うことも可能である

フロントパネルやボトムに使われているファスナーの引き手は、かなり大ぶり。グローブをしたままの手でもラクに開閉できる

ボトムに装備されたコンプレッションストラップは、荷物が少ない時に圧縮できるほか、マットなどを外付けできる。途中にバックルが付き、上下で使い分けられる仕様は、あまり例を見ない

サイド部分の収納方法にも工夫がある。片側はボトルなどを入れられる一般的なメッシュポケットなのに対し、もういっぽうは大きく開くファスナーが付けられ、50cm近くにもなる縦長のポケットになっているのがおもしろい。リッド(雨蓋)内にはレインカバーも付属し、その近くにはハイドレーション用の孔も装備されている。

サイドポケットは深さも口径の大きさも十分あり、1Lのボトルも余裕で入る。ハリのあるメッシュ素材で、強度が高いのが気に入った

反対側のサイドポケットは、ちょっと特殊。上下に40cmほど開く大きなファスナーが装備され、内部には50cm近いものまで入ってしまう。僕はテントのポールをここに入れていたが、すぐに取り出せて便利だった

リッドの表面にもポケットが付けられている。厚みがないので大きなものは入れにくいが、なかなか便利である

リッドのメインポケットは容量4〜5Lにもなる大容量。内部に見える黄色いものは、付属のレインカバーだ。ファスナー部分には「RAINCOVER」と記されているが、レインカバーはかなり大きく、この部分に入れるのは少々じゃま。バックパックの別の部分に入れ替えたほうが使いやすい

付属のカバーだけあって、バックパックにかぶせた時のサイズ感はぴったり。フックがひとつ付いているので、バックパックにかけることもできるが、それだけなので風に引きはがされやすいのは否めない

サイドの長いポケットの上には、ハイドレーションパックのチューブを引き出せるスリットがあり、面ファスナーで閉じられるようになっている

登山での使い心地はいかに?

ここからは、使用時の感想を本格的に述べていきたい。

フィッティングを終えた直後に気付いたのは、ヒップハーネスのサイズ感だ。僕は腰まわりがかなりがっちりとした体形で、腰骨も張り出しているのだが、それでも左右のハーネスが接触しそうになるほどハーネスが長過ぎる。さいわい、完全に接触するまでにはいたらなかったので背負えたが、僕よりも腰が細い人はアウトだろう。むしろ、ほとんどの人はダメなのではないだろうか。だが、ハーネス類はワンサイズで、これ以上の選択肢はない。なぜ、こんなにハーネスが大きいのかわからないが、アウトドアショップなどで試しに背負ってみて大きいと感じる場合は、荷物の重さが分散できず、肩に大きな負担がかかってしまうので購入すべきではない。

僕の場合、ギリギリのところでフィット感を調整できたわけだが、調整さえできれば非常に心地よく背負えることもわかった。ハーネスがまわりこむ背中から腰、腹部まで、どこにも過度な圧力がかからず、一定のフィット感なのである。合う人は少ないかもしれないが、合いさえすればそのすばらしさが味わえる……。現状ではそんなハーネスになっていると言ってよいのではないだろうか。

ハーネスがあと3cm長かったら、僕の腰にも合わせられなかったはずだ。ただし合いさえすれば腰骨にぐるりと楕円形に回り込み、フィット感は上々なのである

ヒップハーネスのサイズ感には問題がありそうだが、そのハーネス周辺に装備されているポケット類は非常にユニークで使いやすい。特に、左側に位置するポケットは特筆すべきものだろう。なんと、入れるものに合わせて拡大できるのである。それも非常に簡単な方法だ。通常時、ポケットの一部は折りたたんで面ファスナーで固定されているが、拡大したい時には面ファスナーを外し、下側に広げればいいだけなのである。下に伸びた状態でも、歩行中にポケットが足に当たることもなく、とても使い勝手がよい。登山地図なども小さく折りたたまずに入れることができ、ワイドサイズのスマートフォンも余裕で収まる大きさだ。これだけ大きさがあれば、サコッシュやウエストポーチなどを併用して、小物を収容する必要がなくなる。

左が通常の状態で、右が拡大した時のポケット。倍とまではいかないが、1.5〜1.7倍程度の大きさにはなり、小型のボトルも入るようになる

拡大できる左側のポケットに対し、右側は一般的な形状。しかし、裏側に面ファスナーがあり、ハーネスから引きはがすことができる。そのために少々大きいものやいびつな形状のものも入れやすい

拡大できるポケットは左側だけである。これだけ便利なのだから、右側も拡張できるほうがよいのではないだろうか。このあたりの作り分けの理由は定かではないが、個人的には左右ともに大きくできるポケットのほうがうれしく思う。

ポケット以外にも「マウント シャスタ 55+10」にはおもしろい収納術が隠されている。たとえば、サイドに取り付けられたトレッキングポールホルダーだ。2つのバンジーコードを連動させるシンプルな構造ながら、しっかりとポールを固定できるのがよく、非常に便利。とはいえ、このホルダーが使いやすいのは、ポールを折りたたんだり、短くした時のみ。長いままだと先端がうしろに突き出し、後続の人に迷惑をかける。これ自体はありがたい工夫だが、ポールを長いまま安全に保持できるような仕組みもあるとうれしい。

ショルダーハーネスとバックパック本体の底部サイドに取り付けられたバンジーコード。どちらもコードロックが装着されており、すぐに引き絞ることができる

ポールを長いまま固定すると、このような感じに。先端がじゃまになるが、ポールを折りたたんでから固定すれば問題ないこともイメージできるだろう

大型バックパックの中には、リッド(雨蓋)部分を取り外し、小型バッグなどに利用するものが増えている。「マウント シャスタ 55+10」もそのようなタイプで、裏側に太めのベルトが付属。バックルで連結するとウエストバッグのような状態になり、腰に巻き付けたり、肩にかけたりといった使い方もできる。サブパックを持つ必要がなくなり、なかなか有用だ。

リッドの左右にはバックル付きのベルト。ストラップはかなり長いので、肩から脇の下にまわすようなスタイルでも使用できる

本来はリッドをバックパック本体につなぐためのバックル部分は、裏側で連結して引き絞ることも可能。ウエストバッグ化したリッドが引き絞られ、使いやすくなる。細かな点だが、こういう部分も大切だ

リッドをウエストに巻き付けた様子。腹部はいくらか圧迫されるが、重心が低くなるので歩行中も荷物が安定する

僕は、リッドをウエストバッグ代わりにして山中を半日ほど歩いた。レインウェアとヘッドライト、行動食や水などを入れると内部はいっぱいになったが、なんとか収まる程度の容量があり、温暖な季節であれば十分にサブバッグの代わりを果たしてくれる。次に、リッドのベルトを肩から脇の下にまわし、ワンショルダー型のバッグとしても使ってみたところ、日帰り登山の装備に近いほどある荷物は重く、肩に食い込んで疲れてしまった。そのような使い方ができるのは、荷物が軽い時のみだろう。それなりに荷物の重量がある際は、今回の写真のようにウエストに巻き付ける方法のほうが適している。

最後に紹介するディテールは、ショルダーハーネスにつけられたストラップである。以前からミレーのバックパックには取り付けられているものが多い、同社らしさあふれるパーツだ。ここに指をかけて歩くと体が安定する、もしくはバックパックの重量バランスがよくなる……というものらしい。歩行中に腕を組んでいると体の軸がぶれず、歩きやすくなるということと効果が似ているのかもしれない。しかし、個人的にはここに指をかけて歩いても、特に効果があるようには感じられなかった。ストラップの長さの調整もできないので自分の好きな位置で指をかけることもできないのである。だが、効果があまりないと思うのは僕だけなのかもしれない。実際この仕様には根強いファンもいるようなので、購入した方は試してみるとよいだろう。

ショルダーのストラップに指をかけるとバックパックの荷重を背中に受けて前傾でき、往年のヒップハーネスがなかったころのバックパックのような背負い心地になる。年配の方にファンが多いのは、そのためだろうか

山行を終えて

「マウント シャスタ 55+10」は、どのような人に適したバックパックなのか? 第1に言えるのは、収納性を重視する人だ。ポケット数が多いだけではなく、拡張できるポケットやポールホルダーなど、これだけ収納性にこだわったバックパックはめずらしい。バッグに変身するリッドもうれしい工夫だ。

背負い心地も上々である。背面のパッドはやわらかく、ハーネス類も体になじむ。ただし、前述のようにヒップハーネスのサイズ感だけは疑問が残る。もう少し小さめの設計でなければ、欧米人ほど体が大きくない日本人には合わない人も多いだろう。大小のサイズ展開があるとよさそうである。

個人的に気になったのは、歩行中にバックパックがギシギシと音を立てることだ。どうやら内部の金属フレームとバックパック本体の生地がこすれるためのようで、荷物が重いほど大きな音を立てる傾向がある。慣れれば気にならなくなるが、そうでない人は……。山中での静粛を求める人は、ほかのモデルを選んだほうがよい。

荷物を効率よく収納し、必要なものをすぐに取り出せるという点で、「マウント シャスタ 55+10」はとてもよくできたバックパックであった。ハーネス類のサイズ感に問題がないようであれば、テント泊用の大型モデルとして選択肢のひとつに入れる価値はありそうである。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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