実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
2つめ以降に使ってみてほしい。使い方を考えるのも楽しい調理器具

液体を入れて持ち運べ、調理もできる“ひと味違う”バーゴのクッカー「チタニウムボット700」


日増しに温かくなってくるこれからの季節、春霞の景色に期待して山へ出かける方も多いことだろう。山頂でゆっくりと温かな食事をとるのも楽しみのひとつだ。その際に必要となるのが、軽量な調理器具「クッカー」である。

ボトルにもポットにもなるクッカー

山道具のなかでも特にシンプルな構造のクッカーは、形状のバリエーションも少なく、一部には四角いものもあるが、円柱状のものが中心だ。もちろん、ハンドルなどのディテールや素材表面の加工といった部分で差はあるものの、明確な構造上の違いがある製品はわずかしかない。

そんなクッカーにおいて、今回紹介するバーゴ「チタニウムボット700」は、明らかにほかのクッカーとは異なる変わり種である。一見ではわかりにくいかもしれないが、フタは、なんとスクリュー式。ボトルのように密閉できるのである。一般的な山岳用クッカーならば、フタはただ上に乗せるだけか、せいぜいクリップ的なもので軽く固定できる程度だ。

左がフタで、右が本体。フタのサイドにはらせん状の溝があり、スクリュー式の構造であることがわかる

左がフタで、右が本体。フタのサイドにはらせん状の溝があり、スクリュー式の構造であることがわかる

少し考えればわかることだが、スクリュー式のフタを持つクッカーは取り扱いが難しい。なぜなら、きっちり密閉されたクッカーに水を入れて火にかければ、時間とともに内部の圧力が極度に高まり、いずれ爆発してしまうからだ。だから、わざわざ開発しようするメーカーはなかったのだと思われる。そもそも危険過ぎて、スクリュー式という発想すら浮かばなかったかもしれない。

そこをあえて製作したのが、アメリカのバーゴという会社だ。ちなみに、チタニウムボット700の「ボット」とは「ボトル」+「ポット」の造語。つまり、飲み物や食品などを内部に入れてボトルのように持ち運ぶことができ、それらを温めるポットのような機能をあわせ持つ製品なのである。

もともとバーゴには、シンプルな筒状の「チタニウムボット」(容量1L)という製品があり、チタニウムボットにハンドルを装備し、容量を700mlに小型化したのがチタニウムボット700だ。今期から、少しサイズを大きくした1Lモデル「チタニウムボットHD」も登場している。

フタを外した状態。本体のサイドには折りたたみ可能なハンドルが付けられている

フタを外した状態。本体のサイドには折りたたみ可能なハンドルが付けられている

スクリュー式のフタにはシリコンのパッキンが付けられており、「ボトル」として使用する際は密封されるため、水漏れの心配はない。しかし、フタを閉めたまま加熱すると内部の圧が抜けずに爆発しかねないので、決してフタをねじ込んだ状態で加熱してはいけない。

半透明のリング状のパッキンは、簡単に取り外して洗うことが可能。また、口の部分はフチでケガをしにくいよう、チタンがJ字型に内側へ曲げられている

製品名のとおり、チタニウムボット700の素材は軽量な金属で知られるチタン。サイズは105(直径)×122(高さ)mmで、容量700ml、重量138gと、アウトドア用クッカーとしてはかなり軽量だ。バーゴはチタン製品を主にしたメーカーであり、まさに得意分野の製品なのである。

チタニウムボット700を火にかける前に知っておいてほしいこと

チタニウムボット700を「ポット」として使用する際には、ストーブなどの火器が必要となる。今回は、チタニウムボット700と相性のよい同社製の「チタニウムトライアドマルチフューエルストーブ」を選んだ。チタニウムトライアドマルチフューエルストーブには折りたたみ式のゴトクが付いており、天地をひっくり返すことで、アルコールと固形燃料を使い分けることができる。つまり、固形燃料系ストーブとアルコールストーブがひとつになった製品なのだ。

固形燃料を使う場合は、凹部を上にする。3本のゴトクはストーブの足も兼ねる

固形燃料を使う場合は、凹部を上にする。3本のゴトクはストーブの足も兼ねる

チタニウムボット700を載せてみると底面がぴったり収まり、安定性は非常にいい

チタニウムボット700を載せてみると底面がぴったり収まり、安定性は非常にいい

チタニウムトライアドマルチフューエルストーブもチタン製で、重量30gと超軽量。しかも、固形燃料にせよ、アルコールにせよ、燃料は必要な分だけ持参すればいいので、一般的なガスカートリッジタイプのストーブのようなムダがない。ガスほどの高火力は期待してはいけないが、その圧倒的な軽量性に惹かれるアウトドアファンは多い。

着火すると固形燃料は次第に小さくなっていく。右上に向かって炎が揺らいでいるのが、わかるだろうか?

着火すると固形燃料は次第に小さくなっていく。右上に向かって炎が揺らいでいるのが、わかるだろうか?

火力は、固形燃料よりもアルコールを使うほうが高く、無風状態であれば500ccの水は5〜6分で沸かせる。しかし、この手のストーブは風に弱く、クッカーの底に炎がうまく当たらないとなかなかお湯が沸かないので、風防を別途利用したほうがいい。

アルコールを使う場合は、小さな孔が円状に並んだ面を上にする

アルコールを使う場合は、小さな孔が円状に並んだ面を上にする

固形燃料に比べ、アルコールの火力はなかなかのもの。理想的な燃焼時に見せる炎の青さは、実にキレイだ。ちなみに、アルコールをフルに入れて使った場合の燃焼時間は約20分

さて、チタニウムボット700を火にかける際には、前述のように危険なのでフタで密封はできない。しかし、フタをしなければ熱が逃げ、沸騰までの時間が極端に長くなる。では、どのように使えばいいのか?

実は、フタにヒミツがある。よく見ると、上部に段差がついており、ひっくり返して本体に置けばぴったりとハマるのだ。すると、蒸気を適度に逃がしつつ、内部の温度をキープできるようになり、熱効率が上がる。よく考えられた工夫だ。

フタと本体の色が一体化していてわかりにくいが、ひっくり返したフタを本体の上に置いた状態。スクリューの溝とパッキンが外側に露出している

チタンは軽量であること以外に、熱伝導性が低いことも特徴だ。火が当たっている部分が強く加熱されても、そこからほかの場所へ熱が伝達しにくいため、火が直接当たっていない部分はそれほど熱くならない。クッカーの一部だけが熱くなるということは、その部分は焦げやすいということでもある。そのため、熱伝導性が高いアルミ製に比べ、チタン製クッカーは調理が少し難しい。だが、アルミ製のクッカーは火から下ろしても長い時間、口をつけられないほど熱いが、チタンはすぐに口をつけられるようになる。これはチタン製クッカーすべてに共通する特徴である。

チタン素材は熱が均等にまわりにくいため、火が当たっている場所から沸騰が始まる

チタン素材は熱が均等にまわりにくいため、火が当たっている場所から沸騰が始まる

チタニウムボット700で調理してみよう

ここからは、チタニウムボット700を実際に使っていく。まずは、「ポット」としての機能を確かめるべく、山では大定番の棒ラーメンを作ってみた。容量700mmといっても、調理を考えると実際の有効容量は500mm程度。ラーメンにはちょうどよいサイズ感である。

ラーメン1人分なら、チタニウムボット700にはまだ余裕がある。具を入れることも十分できそうだ

ラーメン1人分なら、チタニウムボット700にはまだ余裕がある。具を入れることも十分できそうだ

チタン製のクッカーは焦げ付きやすいが、ラーメンならば茹で汁がクッカー内でしっかりと対流するので、細かいことを気にせず調理しても焦げ付きはなく、おいしく作ることができた。

余談だが、チタニウムボット700の口径と高さは、日清カップヌードルをはじめとする縦長のカップラーメンがぴったり収まるサイズとなっている。まるで合わせて設計したのではないかと思うほどだ。クッカーに入れて持ち運べば荷物のパッキング時にもつぶれないので、ちょっとうれしい。

チタニウムボット700の本体とカップヌードルは、サイズ感の相性がバツグン。ただ、このままでは口の部分に余裕がなく、フタが閉まらない……

カップヌードルの天地をひっくり返して入れれば口の部分に隙間ができ、スクリュー式のフタが閉められるようになる!

使用していない時のクッカーは、内部に無駄なスペースが生まれる。登山では、この空間に小物を収納して利用するのが鉄則だ。チタニウムボット700の場合、パッキンで密封されるので、当然ながら「ボトル」として飲料水などを入れてもよい。しかし、一般的なクッカーと同様、小物を入れるのにもちょうどよいサイズである。

下の写真は、底部に110サイズのガスカートリッジを収納し、その上にガスストーブの本体(バーナーヘッド)とライターを入れた様子だ。今回は、より小型のチタニウムトライアドマルチフューエルストーブを使ったが、この写真のように一般的なガスストーブと組み合わせても収納性は十分である。

最下部にあるグレーのものが、110サイズのガスカートリッジ。カートリッジだけなら、縦に2つ重ねて収納できる高さがある

ラーメンとは別の機会に、もう少し手間がかかる料理も作ってみた。自宅を出る時にチタニウムボット700に余ったゴハンを入れておき、山に到着してから水と具を加えて煮込んだ雑炊だ。

自宅から持ってきたゴハン。気温が高い時期は、保管中に傷みやすいので注意が必要だ

自宅から持ってきたゴハン。気温が高い時期は、保管中に傷みやすいので注意が必要だ

米粒の表面が煮崩れる前に火を止め、汁気が多い雑炊が完成

米粒の表面が煮崩れる前に火を止め、汁気が多い雑炊が完成

雑炊はラーメンと違い、粘り気がある固形分が多く、クッカー内部での対流は限定的である。そのため、チタン製クッカーには不得意な料理で、よほど注意しないと底面が焦げてしまう。今回はテストとしての調理であり、焦げても当たり前と思って読み進めていただきたい。

雑炊の完成後、実際に食べる前に「ボトル」としての実力を改めて確認してみた。雑炊を入れたままフタをして横に倒し、さらには少し振ってみたのである。グチャっという音が鳴り、内部で雑炊がかくはんされている感覚が伝わってきたが、水分は1滴も漏れ出てこなかった。さすがはスクリュー式のフタである。雑炊を食べ残したとしても、フタさえすれば安心して持ち歩けるのは便利だ。「ボトル」でもあり「ポット」でもある製品だが、一種の「フードジャー」としても活躍してくれそうだ。

チタニウムボット700のフタを閉め、横倒しに。雑炊が入ったままだが、まったく水分は漏れず、シリコンのパッキンがよい働きをしているのがわかる

その後、再びフタを開け、雑炊を食べていく。屋外での温かい食事はやはりうれしいものだ。だが、ひとつめんどうなことに気付いた。フタに付着した雑炊が、非常にやっかいなのだ。チタニウムボット700のフタはスクリュー式のうえ、加熱時にはひっくり返して使えるように、少し複雑な形状になっている。サイドの凹凸は深く、特に、チタンをJ字型に加工した口の部分は溝が狭い。そのため、フタの裏側に米粒などが入り込むと非常に取れにくいのである。なんとか食べ終わっても、汚れは付着したままだった。

再びフタを開けた状態。雑炊がフタにくっついてしまい、キレイに食べるのは難しかった

再びフタを開けた状態。雑炊がフタにくっついてしまい、キレイに食べるのは難しかった

多くの場合、山中ではクッカーを水で洗うことができず、汚れをペーパーで拭き取るだけの処理になる。その際、チタニウムボット700のフタはペーパーでは完璧に拭き取れない。J字型に丸く加工された口の部分は特に難しく、汚れが残ってしまうだろう。僕のような鈍感な人間はあまり気にならないが、キレイ好きの人はがまんできないかもしれない。

また、予想どおり、底面には焦げが見受けられた。熱伝導性が低いチタン製クッカーで粘性の高い雑炊を作ったのだから、想定内のことだ。もう少しゆっくりと煮込めば焦げ付かなかったかもしれないが、今回は、アルコールを燃料にして調理したため、火力調整がしにくく、焦げは避けられなかった。焦げの可能性を減らしたいなら、火力調整ができるガスストーブを使ったほうがいい。

底面にはチタン製クッカーの宿命ともいえる焦げ。だが、この程度なら自宅で洗い落とせる

底面にはチタン製クッカーの宿命ともいえる焦げ。だが、この程度なら自宅で洗い落とせる

雑炊のような半固形/半液体のような食品の調理は、どのようなクッカーも不得意とするところだ。今回はテストのためにあえて選んだ料理だが、初めに作ったラーメンのように焦げ付きにくいメニューはいくらでもある。チタン製クッカーに合わせた料理を考えるのも楽しそうだ。

山行を終えて

ほかにほとんど例を見ない、スクリュー式のフタを持つチタニウムボット700。本体だけを見ればシンプルなチタン製クッカーに過ぎないが、特殊なフタの力で実に個性的なモデルに仕上がっている。

個人的には、もう少しフタの凹凸を抑え、簡単に拭き取れる形状だとうれしいが、機能性と軽量性をあわせ持たせるためには仕方ないのだろう。チタンは加工が非常に難しい金属でもあり、すべての問題をクリアにする形状に作り上げるのは難易度が高く、実現したとしても驚くほどの価格になるかもしれない。そもそもこのチタニウムボット700自体、メーカー希望小売価格16,800円(税別)と、クッカーとしてはかなりの高額商品なのである。

チタニウムボット700は、初めて購入するクッカーとしてはすすめにくい。比較的軽くて焦げ付きにくく、値段も手ごろなアルミ製のほうが扱いやすいからだ。形状もできるだけシンプルなもののほうが、汚れを拭き取りやすくて衛生的である。

しかし、山での調理に慣れたころ、チタニウムボット700は2つ目以降のクッカーを選ぶ際のおもしろい選択肢になる。ボトルとして飲料水を運びつつ、到着後にポットとしてパスタなどを調理したり、家で調理したシチューを入れておき、到着後にそのまま再加熱したり、使い方はアイデア次第。一般的なクッカーではできない独自の利用方法を考えてみるだけでも、きっと楽しめるに違いない。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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