実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
5,000円台で購入できるリーズナブルさも魅力のガスストーブ

7年ぶりの新作!シンプルながら必要な機能を備えたプリムス「エッセンシャルトレイルストーブ」

アウトドア用品は毎年新しい製品が続々と開発されているが、1年も経たずにショップなどからひっそりと消えていくものはかなり多い。しかし、アウトドア用のストーブ(バーナー)は少々異なる。「定番品」となるモデルがめずらしくなく、モノによってはわずかな改良を施す程度で数十年もほぼ変わらない姿で売れ続けるものもあるほどだ。その代わり、新製品はあまり生まれてこない。

今回紹介するプリムス「エッセンシャルトレイルストーブ」は、山で使えるシングルバーナーとして日本国内で発売される同社7年ぶりの新製品。カートリッジに封入されたガスを燃料に使うガスストーブだ。プリムスはアウトドア用ストーブのトップメーカーだが、そのようなメーカーでもそれだけの年月、新しい製品が登場してこないのだから意外である。

必要最小限の機能に徹したシンプルなガスストーブ

久しぶりの新製品だからといって、「エッセンシャルトレイルストーブ」はメーカーが満を持して送り出してきた“画期的製品”というわけではない。むしろ初心者でも気軽に扱える、シンプルに徹したデザインと構造を持つストーブで、重量は113g。特別軽いわけでもないが、非常に手ごろな価格帯に位置している。

上から見ると、三角と丸を組み合わせたオニギリのような形状で、かわいらしい

上から見ると、三角と丸を組み合わせたオニギリのような形状で、かわいらしい

エッセンシャルトレイルストーブのサイズは9.5(幅)×9(奥行)×7.1(高さ)cm。現代のストーブの多くは、ゴトクが折りたためたり、混合管(ガスと空気を混ぜて火口に送り込む中央の管)が取り外せたりと、収納時はコンパクトになる。しかし、エッセンシャルトレイルストーブは収納する際に火力を調整するつまみが折れるだけで、あとはそのまま。正直なところ、コンパクトとは言いがたい。これは構造をシンプルにすることで価格を抑え、同時に故障しにくくしようとした結果であろう。

バーナーヘッドの火口の上には風貌を兼ねたゴトクを装備。だが、直に接しているわけではなく、4mmほど隙間を空けてある

バーナーヘッドの火口の上には風貌を兼ねたゴトクを装備。だが、直に接しているわけではなく、4mmほど隙間を空けてある

裏側の様子。類を見ないほどシンプルな構造で、凹凸もわずかだ

裏側の様子。類を見ないほどシンプルな構造で、凹凸もわずかだ

火力調整用のツマミを折りたたむと、わずかながら小さくなる

火力調整用のツマミを折りたたむと、わずかながら小さくなる

コンパクトにはならない形状ではあるが、メリットもある。バーナーヘッドの表面、裏面ともに凹凸が少ないので、クッカーなどを載せて調理している際に汁が吹きこぼれても簡単に拭き取ることができるのだ。折りたたみ個所が多い複雑な構造のストーブの場合、吹きこぼれた汁などの塩気がどこかに残ってしまい、次第に錆びついてくることもある。その点、エッセンシャルトレイルストーブは掃除やメンテナンスが容易なモデルと言えるだろう。

とはいえ、収納時の大きさを気にする人にはやはり扱いにくい。ガスカートリッジとともにバーナーヘッドをクッカー内部に収納するのはパッキングの基本テクニックだが、エッセンシャルトレイルストーブは、このような収納方法にはどうしても不向きなのである。

2〜3人用のクッカーにガスカートリッジとエッセンシャルトレイルストーブを収納してみると、完全に出っ張ってしまう

2〜3人用のクッカーにガスカートリッジとエッセンシャルトレイルストーブを収納してみると、完全に出っ張ってしまう

ガスカートリッジを省けば、クッカー内に収納可能。あまった場所にカトラリーやナイフ、ライター程度は入れられる

ガスカートリッジを省けば、クッカー内に収納可能。あまった場所にカトラリーやナイフ、ライター程度は入れられる

ストーブのような金属製品をバックパックへパッキングする際、硬い出っ張り部分はほかのモノを傷つけることもあるため、どうしてもじゃまになる。だからこそ、クッカー内に収納したくなるのだが、シンプルに徹したエッセンシャルトレイルストーブではその点は割り切るしかない。

持ち運びの際に使用できる収納袋も付属している。しかし、素材がナイロンというのが気になる。ナイロン製の収納袋は熱に非常に弱く、薄手ですぐに破れてしまいそうだ。もう少しだけ耐熱性が高く、丈夫な生地を使ってもらえれば安心して使えそうである。

付属の収納袋は過不足ない大きさで、シンプルなデザインだ

付属の収納袋は過不足ない大きさで、シンプルなデザインだ

火力や使い勝手をテスト

ここからは、エッセンシャルトレイルストーブの火力や使い勝手を確かめていく。ガスカートリッジに接続し、上に水を入れたクッカーを置いてみた。重量がかかってもグラつくかないのは、口径が広いゴトクに安定感があるのと同時に、「ラミナー・フロー・バーナー」という新開発の構造(燃焼力を妨げずに中央の混合管をできるだけ短くする技術)を用いて、ストーブの重心を下げているからだ。シンプルで低価格のモデルながらも、さすがは新製品。さりげない技術が採用されているのであった。

一般的に4本ゴトクに比べ、3本ゴトクは不安定になりやすいが、エッセンシャルトレイルストーブのゴトクは直径が11pと比較的大きいため、安定感がある

一般的に4本ゴトクに比べ、3本ゴトクは不安定になりやすいが、エッセンシャルトレイルストーブのゴトクは直径が11pと比較的大きいため、安定感がある

エッセンシャルトレイルストーブのゴトクにはクッカーと接する部分に微細なギザギザが付けられている。クッカーのすべりを抑える効果があり、価格を抑えたモデルとはいえ、重要な部分には手を抜いていないことがわかる。

ゴトクは外に向かって少しずつ高くなっていく設計。3点でクッカーを支える

ゴトクは外に向かって少しずつ高くなっていく設計。3点でクッカーを支える

エッセンシャルトレイルストーブの“シンプルな構造で低価格”を実現している背景には、必要最低限の機能に絞り込もうとする設計思想があるようだ。たとえば、圧電点火装置(ガスに向かって火花を飛ばす装置)は現代のストーブでは“付いていて当たり前”だが、エッセンシャルトレイルストーブからはそぎ落とされている。そのため、都度、ライターやマッチを使って着火しなければならない。

だが、山中でガスストーブを使ったことがある人の多くが経験しているように、山岳地帯の気象条件では圧電点火装置はうまく機能しないことが多く、故障も多い。そのため、ライターは必ず持参しないと、お湯すら沸かせないというトラブルに陥る。しかし、ライターというものは喫煙者でもない限り、どうしても持っていくのを忘れやすいのだ。

その点、あらかじめ圧電点火装置を持たないエッセンシャルトレイルストーブならば、常にライターとともに収納するクセを付けられる……と言えなくもない。本当のところは、やはり圧電点火装置は付いていたほうが便利だと思うが、価格を抑え、故障しにくくするためだと考えると理解できる。

エッセンシャルトレイルストーブには、ライターやマッチが必需品

エッセンシャルトレイルストーブには、ライターやマッチが必需品

エッセンシャルトレイルストーブの火力は2.6㎾/2200kcal/hだ。プリムスをはじめとするストーブメーカーの各種ラインアップの中では平均的、もしくは少々低いほうだが、一般的な調理には十分な火力である。また、ガスの消費量は183g/h。単純計算ならば、同社の250サイズのガスカートリッジで連続75分も燃焼させられるスペックだ。

そして、炎は火口から上へと高く吹き上がる。小型のクッカー、特に口径が小さいソロ用と相性がよいだけでなく、周囲に張り出したバーナーヘッドの金属部分の輻射熱により、大きめのクッカーでも熱が伝わりやすい。

火口のサイズそのままの直径(約3.5cm)で立ち上がる炎。火力は十分だ

火口のサイズそのままの直径(約3.5cm)で立ち上がる炎。火力は十分だ

当然ながら、燃焼音は火力を強くするほど大きくなる。だが、火力をほどほどに抑えれば、かなり静かな状態で使える。早朝のテント場や山小屋で使っても、周囲に迷惑をかけないで済むだろう。

それほど強火にしなくても、風さえ強くなければお湯は沸く。熱の伝導性が高いクッカーを使いたい

それほど強火にしなくても、風さえ強くなければお湯は沸く。熱の伝導性が高いクッカーを使いたい

テスト時は沸かしたお湯で雑炊風のごはんを作り、インスタントの味噌汁を合わせた

テスト時は沸かしたお湯で雑炊風のごはんを作り、インスタントの味噌汁を合わせた

最大火力は高いものの、微妙な火力調整がしにくいストーブも多い中、エッセンシャルトレイルストーブは弱火も得意だ。以下の写真は火がついていないように見えるかもしれないが、実際はきちんと炎が揺らめいている。長時間の煮込み料理でも失敗が少ないはずだ。

ゴトクが赤くなっているのが、かなりの弱火でもしっかり燃焼している証拠

ゴトクが赤くなっているのが、かなりの弱火でもしっかり燃焼している証拠

もちろん、火力を弱くすれば風によって火が消えやすくなるのは否めない。しかし、エッセンシャルトレイルストーブのゴトクは風貌を兼ねたY字型。上から見ると火口が3分割されており、どこかの区画が風で消火してしまっても、残りの区画に火が残っていれば、次の瞬間に火口全体に炎が復活する。だから、そう簡単には火が消えにくい。シンプルな構造ながら、こういう部分もよくできていると感心させられた。

左側から強い風が吹くと左側の1区画の火は消えるが、残りの2区画は炎が継続。これがY字型ゴトクの効果である

左側から強い風が吹くと左側の1区画の火は消えるが、残りの2区画は炎が継続。これがY字型ゴトクの効果である

山行を終えて

エッセンシャルトレイルストーブは、特別に画期的な製品ではないかもしれない。輻射熱を利用できるバーナーヘッドや、重心を低く抑えられるラミナー・フロー・バーナーなど工夫された光る技術はあるものの、先鋭的とまでは言いにくいのが現実だ。

しかし、10,000円近くする製品がめずらしくなく、10,000円を超えるモデルさえ目立つストーブの中にあって、メーカー価格4,800円(税別)という価格設定は大きな魅力である。高スペックモデルに対して、価格は半分以下であっても機能的には半分以下というわけではなく、いくぶん下回る程度だ。大半の登山者は温かい食事を作ったり、屋外でコーヒーを淹れたりと、十分に使えることだろう。もう少しコンパクトに収納できればうれしいが、必要十分な機能を備えた、実にリーズナブルなストーブであり、これからの「新しい定番」になっていくに違いない。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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