最近、街中で見かけることの多い極太のタイヤを履いたe-Bike。2021年3月にリリースされたデンマークのe-Bikeブランド「MATE.BIKE」の「MATE X 250」が発表と同時に多くの注目を集めたことからも、今人気のあるスタイルと言える。そんなルックスのe-Bikeに新顔が登場。イタリアのブランド「FANTIC(ファンティック)」の「ISSIMO(イッシモ)」を紹介しよう。
FANTICは、イタリアのオフロードバイクメーカー。近年はe-Bikeの開発にも力をいれており、特に、e-MTB(マウンテンバイクタイプの電動アシスト自転車)の走行性能に定評がある。ただ、残念ながら同ブランドのe-MTBは日本国内の規格に対応していないため、走行できるシーンが限られていた。そうした中、日本での型式認証を取得し、公道でも乗れるモデルとして登場したのがISSIMOだ。20×4インチの極太タイヤを履いているが、フレーム形状はまたぎやすいように低く湾曲しており、街乗りに適している。そして、フレームを横から見ると、三角形を基本に組まれたトラス構造となっているのが特徴。その独創的なスタイルのISSIMOは、ヨーロッパ最大の自転車展示会「ユーロバイク」にて、革新性にすぐれたデザイン性のバイクに贈られる「ユーロバイク・アワード2019」を受賞している。
なお、ISSIMOには、スリックタイプのタイヤを履き、リアキャリアが装備された「URBAM」と、ミニマムなフェンダーにオフロード向けのトレッドパターンのタイヤを履いた「FUN」の2タイプがラインアップ。URBAMとFUNともに、メーカー希望小売価格は396,000円(税込)だ。
今回は、URBAMタイプに試乗する。サイズは1735(全長)×800(全幅)×980(全高)mmで、重量(URBAN/ FUN)は33.5kg/ 32.4kg。ホワイト、ブラック、レッド、シルバーの4色がカラーバリエーションで用意されている
ISSIMOの特徴ともなっているフレームは、またぎやすい形状。トラス構造を採用し、ほかにはないルックスに仕上げられている
ホイール径は20インチだが、タイヤ幅が4インチもあるので、エンジンを搭載したバイクに近い迫力を感じる
フロントには80mmストロークのサスペンションを装備。フェンダーは大柄だ
リアタイヤもフロントと同じく20×4インチ
街乗りモデルとしては幅の広いハンドルを装備
サドルも幅が広めで、座りやすい
サイドスタンドも標準装備されているので、買い物などに使用するのに便利
同社のe-MTBと同様の630Whという大容量バッテリーを搭載し、ドライブユニットには、最大トルク値80Nmのバーファン製「M500」を採用。ハイエンドなe-MTBに搭載されているドライブユニットでも最大トルクは75〜85Nm程度が一般的なので、街乗り向けのISSIMOにはオーバースペックと言えるほどパワフルだ。ただ、日本国内の規格では、発揮できるトルクは人がペダルを踏んだ力の2倍までとされているため、誰もが最大トルクをフルに引き出せるわけではない。しかし、このパワフルさは大きな魅力だ。
シート下にバッテリーを搭載。アシスト可能な最大距離は120kmで、バッテリー残量ゼロの状態からフル充電するのに約5時間かかる
車体中央に搭載するタイプのバーファン製ドライブユニットを採用。e-MTBなどに搭載されることが多く、軽量コンパクトで大きなトルクを発揮する
ディスプレイはコンパクトだが、視認性は上々。アシストモードやバッテリー残量、速度などが表示される。なお、アシストモードは「1」〜「5」の5段階で切り替え可能
アシストモードの切り替えは右手側のボタンで行う。ギアの変速はグリップ部分を回転させて行うタイプだ
ライトは、バッテリーから給電するタイプ。このライトも、ISSIMOがエンジンを搭載したバイクっぽく見える要因のひとつだ
URBAMタイプに装備されているリアキャリアには、バックライトが埋め込まれている
リアキャリアは収納できるようになっている。施錠もできるので、使い勝手はいいだろう。予備のバッテリーを入れられるほどのサイズだが、バッテリーを収めるとフタは閉まらない
変速ギアはシマノ製で、内装5速のネクサスを採用。停止中でも変速ができるため、街乗りに向いている。そして、ブレーキは油圧式のディスク。重さがあり、パワフルなモーターを搭載する車体でも十分な制動力を確保できるセレクトだ。
変速ギアは内装式なので、外観はシンプル。変速段数は5段
車軸(ハブ)と一体となったタイプのギアは重量が増すが、アシスト機能を備えたe-Bikeなら、その点はあまりマイナスには感じないだろう
ブレーキは前後とも信頼性の高いシマノ製の油圧式ディスクを採用
乗り降りしやすそうな形状だが剛性の高そうなフレームに20×4インチの極太タイヤを履き、フロントサスペンションやパワフルなドライブユニットを搭載した車体構成は、ほかにはなかなかない。ゆえに、実際に乗ってみなければ乗り味はわからなそうだ。ということで、街中から未舗装路まで走ってみようと車体にまたがった瞬間に、ISSIMOの独自性が感じられた。着座位置がやや後ろめなのに対しペダルが前側にあるので、クルーザータイプのバイクのような乗車姿勢となるのだ。
横から見ると椅子に腰かけているようなライディングポジション。腰の下にペダルが位置するスポーツタイプの自転車に乗り慣れた人には、違和感があるかもしれない
ハンドル幅が広いので車体は押さえやすい。ただ、このハンドル幅は、歩道走行の認められる普通自転車の枠には収まらない
ペダルを漕ぎやすいライディングポジションとは言えないものの、アシスト機能が搭載されているので漕ぎ出しはあまり苦にならない。ただ、アシストの立ち上がり方は独特で、漕ぎ出しのアシストがあまり強くない印象。e-Bikeによく採用されている制御だが、タイヤが太く車体重量もあるISSIMOは、重いギアに入れっぱなしだと発進時の踏み込みに力が必要となる。ペダルが一回転したあたりから本格的にアシストが立ち上がるような設定だ。ペダルが回りだすとアシストは強力で、タイヤの太さや車重は気にならないほどスイスイと進んで行く。
アシストがパワフルなので、その気になれば時速20km以上での巡航も可能だが、スピードを出すよりもペダルを回していれば勝手に進んでいくような時速15kmくらいで流すのが快適。その速度域まで達すると、車体の重さも太いタイヤの抵抗も気にならなくなる。
速度が乗って風を切って巡航するような走り方が最高に気持ちいい。走り出してしまえば、ライディングポジションもまったく気にならなくなった
今回試乗した車体はタイヤの空気圧が低めだったが、極太のタイヤは簡単に凹むくらいの空気圧のほうが凸凹を吸収してくれるので乗り心地がいい。アシスト機能がないとかなり体力を消耗しそうだが、強力なドライブユニットを装備しているので、快適さだけを味わうことができた。
砂利道も走ってみたが、太めのタイヤがしっかりと路面を捉えてくれるので不安感はゼロ。凹凸を踏み潰しながら進んでいくような独特の感覚だ
コーナーリングも、なかなか個性的なフィーリング。タイヤが太く、剛性が高いフレームなので、車体を寝かして曲がって行く感覚はエンジンを搭載したバイクに近い。ただ、ライディングポジションがクルーザータイプのバイクっぽいため、バンクさせて曲がるよりも、カーブでは速度を落としてハンドルの切れ角を利用して曲がり、アシストを生かして加速するような乗り方が向いている。
スピードをかなり出して曲がってみても、フレームがねじれるような感覚はまったくなかった。この形状のフレームで、これほどの剛性感はすごい!
坂道も走行してみたが、トルク値が最大80Nmもあるため、スルスルと進む。重いはずの車体も、重量を感じないほど軽快だ。下りも、幅の広いハンドルと、強力な油圧ディスクブレーキで安心感はバツグン。e-MTBに乗っているような安心感だった。
デザインのアクセントにもなっているフレームのトラス構造は、剛性の向上にも寄与している。本来、フレームは直線的なほうが剛性は上げやすいが、ISSIMOは湾曲したフレームデザインながら、コーナーを高速で曲がってもまったく問題ない安心感があり、剛性の高さに感心させられた。また、構造だけでなく、乗車姿勢も独特だとお伝えしたが、慣れれば気にならなくなる。サドルにどっしりと重心をかけるため長距離ツーリングには向かないが、そもそもISSIMOは街中を流す使い方に向くモデル。石畳の残るヨーロッパ生まれの自転車らしく、路面の凸凹を太いタイヤが吸収してくれるので、段差もそれほど気にせず快適に普段使いできるだろう。インパクトのある見た目のe-Bikeが好みなら、ISSIMOは間違いなく推せる1台だ。
●メインカット、走行写真撮影:松川忍
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。