アディダスの厚底シューズと言えば、「ADIZERO PRIME X(アディゼロ プライム X)」だ。このレーシングシューズは、WA(世界陸連)の厚さ規定「40mm」を超えた「50mm」のミッドソールを有しており、2021年に話題となったのが記憶に新しい。
そして、今回紹介する「ADISTAR(アディスター)」は、「アディゼロ プライム X」と同じ厚底モデルながら、エコな素材を使用し、サポート力にもすぐれたランニングシューズ。滑らかな走りと推進力を提供する、ゆりかご状の「ロッカージオメトリ」のソールユニットを使用しており、一般ランナーが無理なく着実に走行距離を伸ばすことができる1足だ。
アディダス「アディスター(ADISTAR)」(品番:GX3000)の「ブルーラッシュ/ターボ/レガシーインディゴ」。公式サイト価格は、15,000円(税込)
アディダスの「アディスター」は、目標を高く設定し、計画を最後まで遂行することを目指すランナーのために誕生したプロダクト。滑らかな走りと推進力をうながす、ゆりかご形状のソールユニット「ロッカージオメトリ」や、内側にサポート力を持たせることで足とシューズの摩擦を抑制する、ソフトなエンジニアードメッシュアッパーなど、走行距離を着実に延ばすためのスペックがいくつも結集されている。
また、アウトソールには、グリップ性能にすぐれた「コンチネンタルラバー」を使用し、効率のよい走行を追求。さらに、アッパーに使用されている糸の50%以上を「パーレイ・オーシャン・プラスチック」製、そして残りの50%をリサイクルポリエステル製とするなど、地球環境に配慮したアディダスらしい素材使いとなっている。
部位によって編み方を変更することで、通気性とフィット性を兼ね備えたエンジニアードメッシュアッパー。中足部の内側には、サポートケージを配しており、足とのフィット性を高めてくれる。ちなみに、素材の50%以上を、海岸や海沿いの地域において、海に流入する前に回収されたプラスチック廃棄物をアップサイクルして生まれた素材「パーレイ・オーシャン・プラスチック」製に、残りの50%をリサイクルポリエステル製とするなど、機能性の追求だけでなく、地球環境にも配慮している
アウトソールには、グリップ性にすぐれた「コンチネンタルラバー」のコンパウンドを使用
ミッドソール後部のブルーの素材は、中央部の白い部分と比較すると硬度が高く、ソールユニットの転がりを促進
厚底のミッドソールではあるが、ワイド設計なので着地時の安定性は高い
実際に履いて走ってみた!
アディダスから「アディゼロ プライムX」のようなエリートランナー向けではなく、一般ランナー向けの厚底ランニングシューズがリリースされるというニュースを聞いた時、「アディダスもホカ オネオネのような厚底タイプに参入するんだ……」と思ったが、さにあらず。
実際に足を入れてみると、ホカ オネオネの厚底シューズとは、まったく異なる構造であることがわかった。立っている状態では、ミッドソール後部が硬く、素材の沈み込みがまったくと言ってよいほどない。さらに、このパーツの硬度が高いことから、走行時、前方への体重移動がスムーズになることが想像できた。
実際に走り始めると、その予想は見事に的中。従来のゆりかご形状のソールユニットを搭載したランニングシューズ以上の転がりを足裏に感じた。着地から蹴り出しまでが、まさにオートマチック。自然に足が前方へと移動する。なお、ソールユニットは幅広なので、厚底だが着地安定性に不安はなかった。反対に、ホカ オネオネの「ボンダイ」や「クリフトン」のようなフワフワした感触は期待しないほうがよい。
ヒール後端で着地するほうが転がりを最大限に利用できたが、コツコツした感覚を敬遠するランナーも多いかもしれない。個人的には、硬いミッドソール部分の中央部を目安に着地すると、衝撃吸収と転がりのほどよいミックスが得られると思った。
始めは、6分30秒/kmほどで走り始めたが、アディダスが「ロッカージオメトリ」と呼ぶゆりかご状のソールユニットは、他ブランドを上回るスムーズな加速を実現。重量は296g(US8/26.0cm)とそれほど軽くないものの、最終的に4分50秒/kmまでペースを上げることができたように、その加速感は秀逸だった。
「コンチネンタルラバー」を使用したアウトソールは、フラットな形状なので、コンクリートやアスファルトといった舗装路で高いグリップ性を発揮。耐摩耗性にもすぐれてはいるが、公園などの土の路面では若干スリッピーであった。
以上のように、アディダス「アディスター」は、既存の厚底シューズと異なった走行感を持ち、ランニングシューズに対し、「走りの効率のよさ」を求めるランナーに最適な1足。脚力をセーブして走り続けることができるので、いつもより長い距離を走ってみたくなるだろう。
いっぽうで、厚底シューズにフワフワした感覚や心地よさを求めるランナーには、このシューズはあまりおすすめできない。1度でも履いて走ってみればわかるが、ソールには柔軟な感触はなく、逆にこの硬さが比類なき転がり感を生んでいるんだと感じた。たとえるなら、電車の車輪のような感じで、ロスを最小限に脚力を路面に伝えてくれるようだ。
今回トライしたのは、ブルー系のカラーリングでスポーティーな印象だが、「ブラック×ホワイト」などのカラーリングもラインアップされており、こちらはオン/オフ問わず活躍してくれそうなので、1足でランニングシーンもカジュアルシーンを対応させたいと考えているユーザーにも最適だ。
今回取り上げた「ブルーラッシュ/ターボ/レガシーインディゴ」(左上)を含め、「コアブラック/フットウェアホワイト/グレーファイブ」(右上)、「フットウェアホワイト/コアブラック/クリスタルホワイト」(左下)、「グレーシックス/シルバーメタリック/ターボ」(右下)の全4色をラインアップ
ランニングギアの雑誌・ウェブメディア「Runners Pulse」の編集長。「Running Style」などの他媒体にも寄稿する。「楽しく走る!」をモットーにほぼ毎日走るファンランナー。フルマラソンのベストタイムは3時間50分50秒。