今回は、2022年3月に発売されたばかりのヤマハのe-Bike「WABASH(ワバッシュ)RT」をピックアップ。2022年1月に開催された発表会で軽く試乗はできたものの、わずか5m程度のスペースでは走行性能を語ることができないうえ、本モデルは未舗装路も走れるグラベルロードタイプなので、オフロードでも試乗する必要もある。そこで、WABASH RTをトレイルに持ち出し、じっくり実力を確かめてきた。
ヤマハのe-Bikeライン「YPJ」シリーズに属するものの「YPJ」の付かない車種として登場したWABASH RTは、イメージを一新するとともに、新しいフレームやドライブユニット(モーターやセンサー、ケースなどを含むもの)を採用した。新設計のアルミフレームにバッテリーを内蔵することでシンプルなフォルムを実現し、ダウンチューブの内部をツインチューブ構造にすることにより剛性を確保。e-Bikeの心臓部であるドライブユニットには、日本国内では初となる「PWseries ST」を採用している。
サイズはS、M、Lの3種類。全幅は3サイズとも580mmで、全長(S/M/L)は1,780/1,790/1,815mm。重量(S/M/L)は21.1/21.2/21.3kgとなっている。メーカー希望小売価格は438,900円(税込)
バッテリーはフレームに内蔵されるインチューブ式となり、シンプルなシルエットに。バッテリー容量は36V/13.1Ahで、アシスト可能な距離は最長200km
ダウンチューブ内部は半月状になっており、バッテリーを両側からチューブで挟むツインチューブ構造となっている。エンジン付きのバイクで培った、高い剛性を確保するためのヤマハ独自の設計だ
充電は、専用の充電器を接続して行う。バッテリー残量ゼロの状態から満充電まで約3.5時間かかる
ちなみに、バッテリーを取り外して充電することもできる
新採用のドライブユニット「PWseries ST」は、従来の「PWseries SE」より100g軽く、高いケイデンス(ペダルの回転数)に対応している
ロードバイクをベースに太いタイヤを履かせ、グラベル(未舗装路)を走れるようにした、近年、人気の高い「グラベルロード」に仕上げられたWABASH RTは、45mm幅の未舗装路の走行にも対応した太いタイヤを装着。このほか、通常のロードバイクと比べ、フレームは安定志向の設計とされ、ハンドルもオフロードでも抑えの効きやすい形状になっているのもポイントだ。また、コンポーネント(変速ギアやブレーキなどのパーツをまとめた総称)にも、シマノのグラベルロード向け「GRX」が採用されている。
装着されるタイヤは700×45Cと太めで、グラベルに対応したノブ付きのタイプ
太めのタイヤを履くために、フレームとのクリアランスも大きめになっているのがグラベルロードの特徴
ハンドルは下側に向かって広がったフレアタイプ。オフロードで走行しやすいように幅も580mmと広めになっている
変速ギアはリアのみの11速で、コンポーネントはシマノ製「GRX」。リアの最大歯数は42と大きく、激しい登りにも対応する
制動力とコントロール性にすぐれた油圧ディスクブレーキを前後に採用。グラベルロードでは一般的な装備だ
ブレーキとシフト操作の両方に対応するレバーもシマノ製「GRX」
また、シートポストも特徴的。自転車に乗ったまま手元のレバーでサドルの高さを調整できる「ドロッパーポスト」が装備されているので、オフロード走行の際、平坦な道や登りではペダリングしやすい位置に、下りなどで腰を引きたい時にはじゃまにならない位置に下げるというように使用できる。街乗りでも、信号待ちなどでサッとサドル位置を下げられる便利な装備だ。さらに、このシートポストにはサスペンション機構が内蔵されているのもポイントで、砂利道などでサドルに伝わるショックを吸収してくれる。
ドロッパーポストの可動域はSサイズで40mm、M/Lサイズは60mm。これに加え、サスペンション分で約40mm上下に動く
ドロッパーポストのレバーはハンドルの右手側に装備。グローブを装着していても操作しやすい
<関連記事>「WABASH RT」の詳しい構造は発表会レポートでチェック!
ここからは、舗装路と未舗装路で走行した所感をお伝えしよう。
ブルーとブラックのツートンカラーとされたデザインの効果もあり、電動アシスト自転車には見えないスマートな印象
まず、舗装路からスタート。太めのノブ付きのタイヤを履いているにもかかわらず、軽快によく進む。筆者はこれまでグラベルロードタイプのe-Bike(グラベルe-Bike)に何度も試乗しているが、WABASH RTの軽快感はかなり高い。ロードバイクと同じ700Cの大径タイヤなので、速度の維持がしやすいのだろう。また、アシストのフィーリングも素晴らしく、強く踏み込めばパワフルなアシストを、逆に弱めにペダルを踏んだ場合にはそれに応じてアシストが取り出せる。ヤマハのe-Bikeはもともとアシストの自然なフィーリングに定評があるが、さらに磨き上げられた印象だ。
舗装路では太いタイヤによる抵抗を感じることなく軽快に走れる。また、コーナーを曲がる際のフィーリングもロードバイクらしいキレは維持しつつ安定感が高いので、初心者でも安心して走れそう
平坦な道を進んでいくと、登り坂に遭遇。アシスト機能が搭載されているとはいえ、脚にかかる負担は増すだろうと思っていたが、実際は、それほど違いを感じないほど軽々と登れてしまった。一般的に、電動アシスト自転車やe-Bikeで坂道を登る場合、より強力なアシストが得られる走行モードに切り替えるが、この試乗ではスタート時から「オートマチックアシスト」モードから変えてない。オートマチックアシストモードとは、ペダルを軽く踏んでいるシーンでは消費電力を抑えた「ECO」モードと同様のアシストとなり、強くペダルを踏み込んだ際には「HIGH」モードと同じ力強さでアシストしてくれるというもの。登り坂に差しかかっても走行モードを切り替えることなく、ペダルを踏み込む強さを変えるだけで済むのは非常にありがたい。
結構激しい登り坂だったが、走行モードを切り替えることなく楽々クリア!
路面が砂利の坂も登ってみたが、グイグイ踏み込んでもリアタイヤがすべることもなく登れた
ちなみに、走行モードの切り替えは、ハンドル左側にあるコントローラーで行える。搭載されている走行モードは「HIGH」「STD」「ECO」「+ECO」「オートマチックアシス」の4種類
そして、もっとも驚いたのが未舗装路での安定性だ。舗装路で軽快に走るグラベルロードは、逆に、荒れた路面での安定感は劣る場合が多いのだが、WABASH RTはアシストを生かしてグイグイ走っても、路面のギャップや砂利などにハンドルを取られるような挙動を示すことがない。シートポストにサスペンション機構が組み込まれているので、お尻に振動が伝わってこないことは想定内だったが、ハンドルにもあまり振動を感じないことは予想外だった。大きめの砂利が敷き詰められた道を走ってみても、安定感の高さは変わらず。しかも、アシストがパワフルなので、抵抗の多いオフロードでも疲れを感じずに走り続けられる。あまりに快適なので、予定していた距離をオーバーしても走り続けてしまったくらいだった。
アシストが強力なので砂利道でも結構なスピードが出せるが、その領域でも安定している。ただ、調子に乗って大きめの木の根を超えてみたら、それなりに大きな衝撃が伝わってきた。フロントにはサスペンションがないので、その点は注意したい
グラベルe-Bikeは、「グラベルロード」というカテゴリー自体が世界的に人気ということもあり、海外の大手メーカーからも多くの車種がリリースされている。そうしたモデルと比較しても、WABASH RTの快適性は勝るとも劣らない。日本国内で乗る場合、グラベルロードといっても大半は舗装路を走ることになるが、WABASH RTなら、そうしたシーンでの速度維持もしやすく、舗装路のみのツーリングに使用したとしてもネガティブな印象を持つことは少ないはず。それでいて、未舗装路での安定感と振動を吸収してくれる快適性はグラベルe-Bikeの中でもかなり高いレベルだ。海外製のグラベルe-Bikeは50万円オーバーの価格が当たり前で、円安の影響もあってさらに値上がりの傾向。そんな中にあって、438,900円(税込)というWABASH RTはかなりお買い得だと断言できる。
林道を飛ばすような使い方だけでなく、のんびり走ってもアシストのコントロール性が高いので気持ちいい
●メインカット、走行シーン撮影:松川忍
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。