ブルックスの「グリセリン」シリーズは、同ブランドのラインアップにおいて、その脚へのやさしい走行感により、長きに渡って高い評価を得てきたプレミアムなシリーズである。そんなロングセラーの第20弾として今シーズンリリースされたのが、「グリセリン20」だ。
ミッドソールには、ブルックス独自のクッショニングマテリアル「DNALOFT」に液化窒素ガスを混ぜて臨界発泡させた素材「DNALOFTV3」を採用。クッション性、反発性、耐久性のバランスにすぐれたクッションが、快適なランニングをサポートしてくれる。
ブルックスの「グリセリン20(Glycerin20)」 の「ネイビー」。公式サイト価格は、18,150円 (税込)
ブルックスの「グリセリン」シリーズは、足とシューズのすぐれたフィッティングと、ソフトなクッショニングを組み合わせることで、日々のランを快適に走りたいと考えるランナーをサポートしてきた。そのスムーズな走行感は、本国アメリカでは絶大な人気を誇っており、ブランド内のセールスランキングや、ランニング専門店の同価格帯における売り上げにおいても上位に入るプロダクトで、そのラグジュアリーな走り心地により、体格の大きなランナーが多い欧州やオセアニアでも評価が高い。
そんなシリーズの新作「グリセリン20」は、実は前作「グリセリン19」からフルモデルチェンジ。アッパーとミッドソール、そしてアウトソールのすべてを刷新している。
たとえば、柔軟なエンジニアードメッシュのアッパーはフィット性が高く、ミッドソールは同社独自のクッション素材「DNALOFT」に液化窒素ガスを混合して臨界発泡させた素材「DNALOFTV3」を採用。前作からクッション性、反発性、耐久性が向上しており、これまで以上にトータルバランスにすぐれた、快適な走り心地の1足に仕上がっているという。
アッパーには、すぐれたフィット性と通気性を両立するエンジニアードメッシュを採用
ミッドソールには、「DNALOFT」に液化窒素ガスを混合して臨界発泡させた素材「DNALOFTV3」をボリュームたっぷりに採用。軽量で高い反発性がありながら、ソフトなクッショニングも兼ね備えている
「DNALOFTV3」は、同社の「オーロラ」に初搭載されたミッドソール素材で、着地時の沈み込みは最小限かつ反発がクイックなので、まさに宙に浮いているような浮遊感をランナーに提供してくれる
アウトソールは、アスファルトやコンクリートといった舗装路において、最高のグリップ性を発揮するパターンを採用しているが、刻みもあつ程度深いので、土のサーフェスにも十分対応してくれる
筆者のマイサイズ(US8、26.0cm)を計測してみると、280g。同種のクッショニングに注力したランニングシューズと比較すると、かなり軽い部類に入る
「グリセリン20」を実際に履いてみた!
筆者が初めてブルックスの「グリセリン」シリーズを履いたのは、2013年発売の「グリセリン11」である。メタリックブルーのアッパーを採用した同プロダクトは、クッション性が高く、自動車にたとえるならば、“サスペンションのやわらかいアメリカ車”のような感じ。当時は、オーバープロネーション抑制機能の付いたサポートタイプを着用することが多かったが、「グリセリン11」は着地から蹴り出しまでの安定感も高く、「フルマラソンを走らなければ、サポートタイプじゃなくても大丈夫かな?」と思うほど、そのすぐれた走行性能に魅せられた。
それ以降、「グリセリン16」なども履いたが、個人的にはブルックスのプロダクトにおいては「グリセリン」シリーズ以外を履くことが多かった。その理由は重量にあった。「グリセリン11」は335gほどあり、これは日本のランナーにとっては、かなり重い部類に入るからだ。しかしながら、今回の「グリセリン20」は、手に持った段階で、「あれ、本当に『グリセリン』シリーズなの?」と思うほど軽い。公式サイトによると、サイズUS9で286g、マイサイズのUS8を計測すると280gだったので、同種のクッション性にすぐれたランニングシューズのなかでは、確実に軽い部類に入る。昔からブルックスというブランドを知っているランナーには、「グリセリン」や「ビースト」といったプロダクトは「日本のランナーには少し重い」という印象があったと思うので、これはうれしい誤算だった。
まず足を入れてみると、エンジニアードメッシュのアッパーは足へのフィット感がよく、縦寸と幅のバランスも問題なかった。実際に走り始めてみると、2021年に発売された「オーロラ」で初採用された「DNALOFTV3」ミッドソールのソフトな走行感が心地よい。ミッドソールの変形はそこまで大きくないので、着地時の沈み込みは最小限かつ反発がクイックなので、まさに宙に浮いているような浮遊感。とにかく快適で、「ゆっくりペースならいつまでも走っていられそう……」と思ったほど。4分50秒〜6分30秒/kmまで、さまざまなペースで走ってみたが、どのペースでも走りやすさをキープ。以前よりも軽くなったことから、体重が軽めのランナーが履いても扱いやすい1足だと思う。
いっぽう、本モデルはニュートラルタイプなので、オーバープロネーション抑制機能は付随していないが、着地から蹴り出しまで十分な安定性を確保しているのはありがたかった。また、アウトソールは刻みがある程度ついているので、公園の土の路面でも最低限のグリップは発揮してくれた。
以上のように、ブルックスの「グリセリン20」は、「DNALOFTV3」ミッドソールの採用により、独特の浮遊感と比類なき快適な走行感を提供することに成功。同素材を初搭載した「オーロラ」よりも買いやすいプライス設定や、ベーシックなデザインを採用している点もうれしい。以前の同シリーズと比較して大幅な軽量化に成功したことで、これまで以上に日本のランニングマーケットで受け入れられる1足に仕上がっていると思う。
従来、日本においては、「グリセリン」シリーズは、その高めの価格帯もあって、「ゴースト」シリーズの人気に隠れていたが、「グリセリン20」の登場によって、アイテム別シェアを大きく伸ばしそうな気がする。今回の「グリセリン」は、それほど完成度が高い。実際、今夏の正式リリース以降、「グリセリン20」は日本のマーケットにおいても良好なセールスを記録しているという。
ランニングギアの雑誌・ウェブメディア「Runners Pulse」の編集長。「Running Style」などの他媒体にも寄稿する。「楽しく走る!」をモットーにほぼ毎日走るファンランナー。フルマラソンのベストタイムは3時間52分00秒。