アディダスのランニングカテゴリーにおいて、安定した人気を誇るのが「ADIZERO BOSTON(アディゼロ ボストン)」シリーズだ。ファンランナーからトップアスリートまで、幅広いレベルのランナーに対応するランニングシューズシリーズで、いつの時代も数多くのランナーに愛されていた。
そんなシリーズから今シーズン、フルモデルチェンジされ「ADIZERO BOSTON 12(アディゼロ ボストン12)」が登場。各所のスペックを見直すことで、前作から大幅な走行性能の向上に成功しているという。
アディダス「アディゼロ ボストン 12」(「フットウェアホワイト/コアブラック/ルシッドレモン」/品番:HP9705)。公式サイト価格は18,700円(税込)
アディダスランニングにおいて、「ボストン」の名は脈々と受け継がれてきた。その名を冠したプロダクトがランニングカテゴリーにおけるヒットアイテムになったからだけではなく、同社が6大マラソンのひとつ「ボストンマラソン」のオフィシャルサプライヤーを長らく務めてきたことも関わっているのだろう。
2023年6月にリリースされた「アディゼロ ボストン 12」は、中距離から長距離のランニングに対応するように設計されたシューズ。ちなみに、前作「アディゼロ ボストン 11」から、より高速走行に向くスペックに変えられている。
グラスファイバーを用いた5本骨状のバー「ENERGYRODS 2.0」が生み出す推進力は、レース当日のような走りの感覚をトレーニングにもたらし、足裏のエネルギーロスを軽減。スピードはもちろん、耐久性にも妥協は一切なく、ミッドソールではきわめて軽量な素材「LIGHTSTRIKE PRO」と、耐久性にすぐれた素材「LIGHTSTRIKE 2.0」を組み合わせている。
ミッドソールに内蔵された「ENERGYRODS 2.0」は、グラスファイバー素材を用いた5本骨状バー。このフルレングスロッドシステムが、かかとからつま先まですぐれた重心移動を実現する。トレーニング用途や一般ランナー向けに硬さが調整されており、安定性と推進力をバランスよく発揮する
ミッドソール上層部には、クッション性、反発性、弾力性、軽量性など、すべてをハイレベルで実現した低密度高反発素材「LIGHTSTRIKE PRO」を採用。 十分な軽量性を保ちながら、蹴り出し時の爆発的推進力を発揮する。下層部には、圧倒的な軽量性と耐久性、安定性を併せ持ったEVA素材「LIGHTSTRIKE 2.0」を配置。安定した着地からスムーズな蹴り出しまで一連のモーションを支える
アッパーにおいては、「アディゼロ ボストン 11」からアップデートされたアイステイ(シューレースを通す部分)構造が、適度で安定感のあるミッドフットのホールド感を実現。また、軽量性やフィット性、通気性の高いメッシュ素材を採用している
アウトソール前足部は、自動車用タイヤでも有名なコンチネンタル社のラバーコンパウンド「コンチネンタルラバー」を使用。すぐれたグリップ性と耐摩耗性を兼ね備えており、特にアスファルトやコンクリートといった舗装路で、最高のトラクション性能を発揮する
「アディゼロ ボストン 12」を実際に履いて走ってみた!
まず足を入れてみると、足長と足囲のバランスが取れており、足とのフィット感は高レベルにあることがわかる。独自のアイステイ構造により前作よりも中足部のフィット感が向上したことも確認できた。立っている状態でもミッドソール素材「LIGHTSTRIKE PRO」の反発性と独自の浮遊感を感じることができ、足裏をしっかりと押し返してくる。
実際に走り始めてみると、自然とペースアップでき、あっという間に5分20秒/kmほどのペースに。ほかのシューズであれば6分/kmほどの力の入れ具合だから、このシューズの推進力の高さを序盤から体感できたわけだ。推進力の高いシューズはペースコントロールが難しいタイプもあるが、このシューズの場合はその心配はなさそうだ。
徐々にペースを上げ、5分/kmをしばらくキープして走ったが、自分にとっては速めのペースながら、無理なく走ることができた。この走り心地は2022年夏にリリースされた同社の「アディゼロ アディオス プロ 3」に似ており、レース本番でこのシューズを履くランナーの日々のトレーニング用に「アディゼロ ボストン 12」は最適だし、サブ3.5〜4を目指すランナーのレース用にもピッタリだと思った。
ちなみに、「アディゼロ アディオス プロ 3」と「アディゼロ ボストン 12」のポジショニングは、ナイキで言えば、「ナイキ ヴェイパーフライ」および「ナイキ アルファフライ」と「ナイキ ズームフライ」、アシックスで言えば、「メタスピード」および「メタスピード+」と「マジックスピード」の関係に似ていると思う。
ひとつ気になったのは、初回は6km、2度目はハーフマラソンの距離を走ってみたが、かかと部分のラバーの刻みがかなり減っていたので、この部分のラバーの耐摩耗性がもう少し高いとありがたいと思った。ちなみに、コンチネンタルラバーを使用している前足部のほうの耐摩耗性は問題なかった。
自分が初めて履いた「アディゼロ ボストン」は、2010年リリースの「アディゼロ ボストン KYOSO」。このシューズを履いてグアムで開催された「ココロードレース(Ko'Ko' Road Race)」で駅伝のアンカーを走ったが、推進力よりも「3Dフォーモーションユニット」という機能をかかと部分に搭載した安定性重視の1足で、280gという重量もあって、正直言うと5kmという短い距離を速めのペースで走るには重すぎてペースを上げづらかった。いっぽうで、今回トライした「アディゼロ ボストン 12」であれば、km当たり30秒は速く走れただろう。このように、「アディゼロ ボストン」シリーズは、同じネーミングを冠しながら、初代の発売から13年でシューズの特性や走行性能は大きく変化しているのだ。
先述のとおり、「アディゼロ ボストン 12」は、中級以上のランナーの日々のトレーニング用に最適なうえ、サブ3.5〜4を目指すランナーのレース用にもピッタリだ。脚部をしっかりと保護しつつ、速めのペースで走りたいランナーにはぜひとも履いてほしい1足である。
ランニングギアの雑誌・ウェブメディア「Runners Pulse」の編集長。「Running Style」などの他媒体にも寄稿する。「楽しく走る!」をモットーにほぼ毎日走るファンランナー。フルマラソンのベストタイムは3時間50分50秒。