コースレイアウトや飛距離の把握、スコア管理などができるゴルフ用GPSナビが人気です。なかでも、GPS製品の雄ガーミンの「Approach」シリーズの人気が高く、コースで使用しているユーザーをよく見かけます。
同シリーズのフラッグシップモデル「Approach S70」(以下、「S70」)が2023年5月に登場し、それをコースで試用する機会があったので、使用感などをレビューしていきます。筆者は従来モデル「Approach S62」(以下、「S62」)を使い続けておりますので、2つの違いなども含めて詳しくお伝えします。
ガーミンのゴルフウォッチ「Approach S70」。発売直後から大人気なのだとか
今さら説明するまでもないですが、同社について一応おさらい。ガーミンという会社は1989年に設立され(ファウンダーであるGaryさんとMinさんの名前を合わせて社名をGarminとしたのだそう)、航空業界で最先端のGPSナビゲーションをリリースしたことでその名が知られるようになりました。その後、海洋や自動車用のGPS製品を続々と開発し、そこで培った高い技術をカスタマー向けGPS製品に生かしています。
本製品「S70」は、「S62」の後継モデルとして登場した、同社のゴルフ用GPSウォッチの最上位機種です。ではどこが変わったのか、ざっと見ていきます。
最大の進化ポイントはディスプレイ。従来モデル「S62」は半透過型MIPですが、「S70」にはAMOLED(有機EL)ディスプレイが搭載されています。これが、とにもかくにも、見やすい! 「S62」ユーザーの筆者は、「S62」が見にくいとは特に思ったことはなかったのですが、「S70」を見てしまうと……彼我(ひが)の差の大きさを感じずにはいられません。
左が「S62」で右が「S70」。同一条件下で撮影してみました。有機ELディスプレイのキレイさが伝わるでしょうか……?
画面サイズは、「S62」が直径33mmに対して「S70」は35.4mmと少し大型化しました。しかし、ここで注意点があります。「S70」は、ケースサイズが異なる下記3種類の製品をラインアップしているのです。
・Approach S70 47mm ブラック
・Approach S70 42mm ホワイト
・Approach S70 42mm グレー
42mmの2モデルも有機ELディスプレイを採用していますが、稼働時間が少し短くなっています。47mmがゴルフモード約20時間/時計モード約16日間に対し、42mmはゴルフモード約15時間/時計モード約10日間。ちなみに「S62」は、ゴルフモード約20時間/時計モード約14日間とされています(すべてメーカー発表値)。
「S70」の42mmモデル。手首の細い人や、あまり大きな時計を好まない人によさそうです
コースレイアウトの表示が、より詳細で立体的になりました。ホールを囲む林が表示され、従来モデルの表示よりも雰囲気が出ているように思います。
新しい立体的なコース表示により、マネジメントがよりしやすくなったような気もします
従来モデルよりもマップの操作がスムーズになりました。画面を直感的に操作して、ハザードやターゲットまでの距離を知ることができます。百聞は一見にしかず、下記動画でご覧ください。
マルチGNSS対応によって、従来モデルよりも対応する測位衛星の種類が増えました。さらに47mmモデルはGNSSマルチバンド対応により、2周波数帯の受信が可能(L1およびL5信号)。建物や高い樹木など信号を遮断する障害物の近くでも、高精度で素早い測位を実現しました。
GPSの精度が向上し、測位にかかる時間が圧倒的に短くなりました。詳しくは後述
ボールのある地点からターゲットまで、打つべき推奨距離表示「PlaysLike」の精度がアップ。標高差だけでなく、「Garmin Golf アプリ」と接続しておけば、風速や風向き、空気密度までをも考慮した推奨距離を表示してくれます。
+4は勾配を加味して水平距離より4ヤード長いことを意味し、その下の青い矢印は風速と風向き(このときはなぜか機能していませんでした……スマホとの接続が外れていたようです)、その下の+0は空気密度を表わします。以上3つを勘案して、ボール地点からグリーンまで“推奨距離”表示は146ヤード(ちなみに、メートル表記の設定も可能)
「Garmin Golf アプリ」とペアリングし、5ラウンド以上のデータ蓄積を条件とし、過去のデータと風速や風向きを考慮して最適なクラブを教えてくれる「バーチャルキャディ」に、ショットの着弾地点予想範囲表示が追加されました。
ガーミンのゴルフウォッチユーザーならご存じだと思いますが、結構便利な機能なんですよね、これ。
DとPWは、2打目までのクラブの提案。ティーショットからグリーンまで、クラブの組み合わせまで提案してくれるとは! 「>」をタップすれば別のクラブの提案も表示されます
7番アイアンで打つと、過去のデータから大体この範囲に着弾するだろう、という予想が白い四角形で表示されます
上記のとおり、著しい進化を遂げた「S70」を着けて、コースを回ってきました。コースに着いたらゴルフモードを立ち上げ、GPS測位で今いるコースを選択します。ゴルフコースは広大であり、衛星の電波を遮るものも多くないので、測位にかかる時間は「S62」と比べて大幅に改善したと言えるほどではありませんでした。「S62」の測位時間もそれほど長くないので、「S70」の時間短縮が強く体感できるほどのものではなかったのかもしれません。
スタート前に、表示されているコースがインかアウトか(コースに9ホールが3つ以上ある場合は当該コース)を確認するところは従来どおり。ティーイングエリアが隣接している場合、ごく稀に、表示されるホールがプレーするホールと異なる場合があるので(1番と10番など)きちんと確認しておきましょう。もし異なっていても、画面をタッチしてぐりぐり回せば正しいホールに簡単に移動できます。
プレーするホールを確認したら、ティーショット。筆者は「Garmin Golf アプリ」に過去5ラウンド以上のデータ蓄積があったので、「バーチャルキャディ」が問題なく作動しました。推奨クラブを使うかどうかは最終的にはプレイヤー次第ですが、クラブ選びの参考にはなります。
ショットを打ち終えると、今打ったクラブをウォッチが尋ねてくるのですが、このスピードや精度が「S70」でグンと向上しました! ブルッという振動とともに、今打った番手の候補が表示され、それを選ぶことでデータが蓄積されていきます。「S62」使用時はウォッチからの問いかけがないこともたまにあって、入力を忘れてしまうことがあったのですが、「S70」ではそれがかなり少なくなったように感じました。
「S70」はショット直後に「今何番で打った?」と聞いてきてくれます。これなら入力しやすい!
残り距離表示もリファインされました。315がグリーンバックエッジまで、300が同センターまで、274が同フロントエッジまでの距離です。数字の左の三角形は「高低差表示ON」の意。「トーナメントモード」にすれば高低差表示はなくなりますが、競技で使う際はルールをよく確認してください
ここからグリーンまでおおよそ230ヤード。直接狙えないから(飛距離とか、樹木とかあって……)8番アイアンでのレイアップを推奨してくれました。6番でも7番でもいいのですが、おそらく筆者の8番アイアンの平均飛距離と残り距離を鑑みて推奨してくれたものと思われます。そして、8番で打つと白い四角のエリアに止まるだろうという予想も。賢い!
「S62」も十分使いやすかったのですが、フラッグシップモデルの新型を使ってしまうと、正直「S62」には戻れません。画面はきれいだし、各種情報の表示も改善されているし、アプリとの連携で情報の精度も向上しています。
新し物好き、ガジェット好きのゴルファーなら、買わない手はないでしょう。「バーチャルキャディ」の推奨クラブが好みに合わないとか、暫定球を打った場合のショットデータの登録が面倒とか、重箱の隅を突く的改善要望点はいくつかありますが、そんなものが雲散霧消するほどの進化を「S70」は遂げていました。
「Garmin Golf アプリ」と連携すれば、スコアカードはもちろん、ショットマップの表示も可能
有料サブスクリプションサービスに加入すれば、「グリーンコンツアー」というグリーンの傾斜情報を表示できます。月間プランで1,180円/月、年間プランで11,800円/年
かように便利な「S70」ですが、ガーミンのスマートウォッチとしての機能も豊富に搭載しています。正直、ゴルフのときだけ着用するのではもったいない。せっかくなので日頃から着用し、搭載された便利機能をすべてではなくとも使い倒したいところです。
実にさまざまな機能が搭載されています。ゴルフ以外でも使いたくなりませんか?
ということで、筆者はウォーキングと睡眠計測を使ってみました。
まずはウォーキングです。「S62」使用時から、ウォーキングというかランニングというか、そういう運動をするときに使っていました。アプリと連携することで運動したルートを地図表示できるのですが、その際に必要なのがGPSの測位です。「S62」のときは結構時間がかかり、筆者の住まう集合住宅を出て準備運動を行ってもなお測位中だったのですが、「S70」ではそれが驚異的なまでに改善されていました。
外に出て測位を始めて、ちょっとストレッチしていると、あっという間に測位が終わります。従来モデルのユーザーさんにしか通じないと思うのですが、“爆速”ですよ、マジで。
およそ40秒で測位完了! GNSSマルチバンド、恐るべし!! 体感的には、あっという間にスタートできる感じです。「S62」使用時は測位の時間がかかるので、スタート前にベランダの物干しに吊して測位を待っていたのですが、「S70」の測位は爆速です。ゴルフコースの測位よりも、街中での使用時のほうが測位時間が短縮されたことを実感できました。
ウォークモード時の表示。心拍数を測るセンサーも新しくなったそうです
続いて、睡眠計測。この機能を使うには下記の条件を満たす必要があるのですが、せっかくなので使ってみました。入眠2時間前から装着するのはちょっと難しい日もあるかも知れませんが……。
・デバイスが最新バージョンであること
・「Garmin Connect アプリ」が最新バージョンであること
・少なくとも入眠2時間前からデバイスを装着する
・睡眠中に光学式心拍計を有効にする
この日の睡眠はあまりいいものではなかったようです……
ゴルフにはもちろん、交通系ICカード「Suica」を設定しておけば電車やバスに乗れるし、音楽も聴けるし、各種運動のログも取れると、いいこと尽くめの「S70」。もしあなたがゴルフ用GPS機器の購入を考えているのなら、検討する価値は大いにあると思います。「S62」のユーザーの人は、すぐに買いましょう。
80台で回ったかと思えば、突然100打ったりするゴルフ部員。得意なクラブは強いて言えばミドルアイアン。苦手なドライバーとパッティングを安定させるべく、練習器具を漁る日々です。