オグさんです。今回は、2024年に発売されたドライバーの中から、「10K」を名乗る話題の2モデルを比較しながら解説します。
左はテーラーメイド「Qi10 MAX ドライバー」、右はピン「G430 MAX 10K ドライバー」
「10K」とは、ヘッドの上下左右の慣性モーメントを合計した数値が、10,000(10K)を超えていることを意味する表現です。ちなみに、ゴルフクラブにおいて慣性モーメントが果たす役割は、簡単に表現すると“ボールの曲がりにくさ”です。
つまり、慣性モーメントの数値が大きいほど、芯を外したときにヘッドがブレにくく、ボール初速が落ちにくく、スピン軸が傾きにくく、スピン量も安定しやすくなります。半面、フェアウェイウッド以下のクラブとの振り心地の差が大きくなりやすかったり、全体的なスピン量が増えやすかったりするデメリットもあります。
2024年は、テーラーメイドとピンが同じタイミングで「10K」を達成したドライバーを発表しました。これが偶然なのか、両社が示し合わせたものなのかはわかりませんが、結果として大きな話題を呼んだことは確かです。
ドライバーの慣性モーメント値が、最初に注目されたのは2000年後半のこと。慣性モーメント値を高めるため、ナイキが四角いドライバーヘッドを作り、それは当時大きな衝撃とともにゴルファーに受け入れられました。20年近くも前から「慣性モーメントを高めると曲がらない」という考え方は存在していたわけです。
当時はヘッドの左右慣性モーメントだけがクローズアップされていましたが、2008年に施行されたルールでは、このヘッド左右慣性モーメントの値に「5900g・cm2まで」という上限が設けられました。今回の「10K」は、左右慣性モーメントが5900を超えない範囲の数値と、上下の数値を足して10,000を超えたということです。
「Qi10」発表時にテーラーメイドが示した、同社製ドライバーの慣性モーメントの変遷
2024年に改めて慣性モーメントを高めたモデルを発表してきた理由は、アマチュアゴルファーのニーズが大きく影響しているのだと思います。ルールによってフェースの反発力が制限されている現代では、極端な飛距離性能を有するドライバーは作りにくくなっています。それをアマチュアゴルファーも理解しており、「1発の飛びよりも曲がらないほうがよい」「いつも安定して飛ばせるドライバーが欲しい」という声が大きくなっているのでしょう。その性能をわかりやすく表現できるのが慣性モーメントの数値であり、今年の「10K」対決につながった要因だと思います。
どちらのモデルも、発売されて1か月ほど経ちますが、業界内、ユーザーともに評判は上々です。やはり、曲がらない、安定するといった声を多く耳にしますね。それは同感です。ほかのドライバーと比べて、どちらの「10K」からも曲がらない性能を強く感じます。今回の2モデルは、同じ曲がらない「10K」でもそれぞれ異なった個性を持っていると評価していますので、そのあたりを解説していきます。
2024年2月に発売された「Qi10 MAX ドライバー」
テーラーメイドは、2020年に発表した「SIM」シリーズにおいて、慣性モーメントを大々的にアピールしました。それまでは、どちらかというとアマチュア向けのやさしいクラブに使われていた慣性モーメントという用語を、アスリートモデルにも使えるように昇華させたのがテーラーメイド、そんな印象があります。
「10K」を冠するドライバーは、「Qi10」シリーズの「Qi10 MAX」というモデル。クラブの特性や詳細はレビューをアップしていますので、そちらをご覧ください。
「Qi10 MAX ドライバー」は、ひと言でいえば、振り心地のデメリットを大幅に軽減した大型ヘッドのドライバーです。ブレにくいはずの大型ヘッドを使うと、かえって弾道がバラついてしまう、右方向へのミスが多いといったゴルファーにぜひ試してもらいたいモデルです。
2024年2月に、「G430」シリーズに追加された「G430 MAX 10K ドライバー」
ピンは、早くから慣性モーメントに着目し、それによって自社クラブの性能を強くアピールしてきたメーカー。同社は「難しいクラブを作らない」というポリシーを持つだけに、慣性モーメントはクラブのやさしさをアピールするのにピッタリなのでしょう。
ピンで「10K」を冠するクラブは、「G430 MAX 10K ドライバー」。こちらも詳細なレビューをアップしていますので、ぜひご覧ください。
「G430 MAX 10K ドライバー」は、高慣性モーメントのドライバーにつきものの、スピンが増えやすいデメリットを克服してきたモデル。曲がりにくく高い安定性を持ち合わせながら、飛距離性能も高めています。
今回の「10K」の2モデルは、どちらも従来の常識や定説を覆してきたクラブです。「Qi10 MAX」は大慣性モーメントを持ちながら、一般的なドライバーと変わらぬ振り心地を実現していますし、「G430 MAX 10K」は“低スピンモデル”とさえ呼べるほどの安定したスピン量を実現しています。20年近く前から注目されていた慣性モーメントが定着しなかったのは、そのデメリットを解消しきれなかったから。この2モデルは、それぞれ異なるデメリットをほぼ解消してきています。
今まで大型ヘッドを使っても結果につながらなかったゴルファーは「Qi10 MAX」を、飛距離性能が高く、かつ曲がらないモデルが欲しいゴルファーは「G430 MAX 10K」を試してみてください。それぞれが異なる魅力を持つ“曲がらないドライバー”に仕上がっています。
もしこの2モデルでも結果につながらないなら、慣性モーメントの高いモデル自体が合わない可能性があります。そういったゴルファーは、慣性モーメントがあまり高くない、小ぶりなヘッドのモデルを試してみるのがよいでしょう!
写真:野村知也